エマージェンシー・ケア
Volume 20, Issue 2, 2007
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特集
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- プレホスピタルにおける薬剤投与 −これですべてがわかる!−
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1 もう一度確認 プレホスピタルにおける薬剤投与のプロトコール
20巻2号(2007);View Description Hide Description2003年4月には医師の包括的指示下に除細動が,2006 年4 月には具体的指示下に薬剤投与(アドレナリン静注)が,救急救命士により実施されるようになった.2005年11 月,ILCOR(International LiaisonCommittee on Resuscitation)により心肺蘇生に対するCoSTR(International Consensus onCPR and ECC Science with TreatmentRecommendation)1)が,アメリカ・ヨーロッパよりガイドライン2,3)が発表された.日本でもガイドラインが策定され,日本救急医療財団のホームページ4,5)でその骨子を手にすることができるが,“救急救命士が具体的に何をすべきか”というところまで踏み込んだものではない.詳細は各地域のメディカルコントロール協議会に委ねられているのが現状である.愛知県救急業務高度化推進協議会は薬剤投与導入に際して,2005年の欧米のコンセンサス・ガイドライン(G2005)と日本版ガイドラインの骨子に従い,さらに愛知県の消防・救急の実情,医療の実態を踏まえて新たな心肺蘇生プロトコール6)を作成した.本稿では,愛知県のプロトコールと薬剤投与講習を中心に記す. -
2 図と写真でみる 薬剤投与の実際
20巻2号(2007);View Description Hide Description救急救命士法に定められる静脈路確保や薬剤投与は心肺停止(CPA)傷病者に対する蘇生処置の一環としてのみ認められており,病院内での緊急時に行われる体液補充を目的としたものとは本質的に異なる. -
3 “アドレナリン”ってどんな薬?
20巻2号(2007);View Description Hide Description救急救命士法が日本に誕生してはや15 年が経過した.これまでに電気的除細動が医師の包括的指示下で実施可能となり,2004年4月には器具による気道確保の一つに気管挿管が加わった.そして2006年4月より救急救命士によるアドレナリン1剤の薬剤投与が可能となった.これらの救急救命士法の発展に伴い,救急救命士自身にもレベルアップが求められ,そのための教育が必須となっている.今回の薬剤投与に関しても,これまでと同様に厚生労働省より220時限(1時限50分)の追加講習が提示されている.その内容は循環器の解剖生理から始まり,薬理学,薬剤投与プロトコールやリスクマネジメントなどの講義が110時限,薬剤投与の準備から実施までのパーシャルタスクトレーニングと人形を用いて行う薬剤投与のシミュレーション実習を60 時限,さらに実際に病院内での静脈路確保から薬剤投与までを行う実習を50 時限と決められている.このように薬剤投与における講習時間のほとんどが心肺停止傷病者を目の前にした段階での準備から投与,効果判定などに注がれている.もちろんミスなく薬剤投与を行うことはとても大切である.しかしさらに言うと,実は薬剤投与を間違いなく行うことは日ごろの薬剤管理から始まっている.薬は「ナマモノ」であり,保管方法が悪ければ傷むため,使用期限が設定されている.傷んで悪くなった薬剤,つまり薬効の減少・変化を起こした薬剤を心肺停止傷病者に投与しても心拍が再開する可能性は低いということを知るべきである.本稿では「アドレナリンとはどのような薬なのか?」,さらに「アドレナリン製剤をどのように保管すればいいのか?」といった内容について言及する. -
4 この傷病者,投与しますか?(1)
20巻2号(2007);View Description Hide Description救急救命士が行う薬剤の投与は,所管官庁やメディカルコントロール(MC)協議会などの通知によりその適応が厳密に規定され,投与が可能な薬剤もアドレナリン1剤に限定されている.さらにMC 体制の下で教育や訓練を行い,薬剤投与を実施できる救急救命士として認定されるとともに実施した救急救命処置の検証を受ける.救急救命士が単独で薬剤投与の適応を判断し実施することは許されず,必ず無線や電話を通じて直接,指示医師に傷病者の容態や薬剤投与の適否について報告する.その上で,最終的には指示医師による薬剤投与実施許可の指示で初めて薬剤の投与が許可され,実施が可能となる.万一,救急救命士が薬剤投与の適応を判断する上で不明な点があれば,指示医師に連絡し判断を仰ぐことになる. -
5 この傷病者,投与しますか?(2)
20巻2号(2007);View Description Hide Description救急救命士法に定められる救急救命士による静脈路確保,乳酸リンゲル液・アドレナリンの投与は心肺停止傷病者に対する蘇生処置の一環としてのみ認められ,病院内での脱水やショックに対する治療手段として行う緊急時の体液補充などとは異なる.アドレナリンは心血管系に作動する最も強力なカテコールアミンであり,心肺停止時には第一選択薬として使用されている.アドレナリンの副作用は「肺水腫,呼吸困難,心停止」であり,過量投与による影響には「心室細動,脳出血,腎機能停止,代謝性アシドーシス」がある1).また,アドレナリンは血管外へ漏出すると組織周辺の血管を攣縮させるので,血流が低下し壊死を招くことがある. -
6 薬剤投与をめぐる法律問題
20巻2号(2007);View Description Hide Description救急救命士による薬剤投与をめぐる法律問題に関しては,大きく二つの場面に分けて論ずる必要がある.すなわち,病院実習での薬剤投与の場面をめぐる問題と救急業務中に実施される薬剤投与の場面をめぐる問題の二つである.後者の救急業務中の問題については,オンラインメディカルコントロール体制下における救急業務従事者相互の法律関係と関係者の法的責任にも言及して論じなければならないが,紙幅の関係からこの点に関しては拙著「病院前救護をめぐる法律問題」1)を参照していただくことにして,ここでは割愛させていただく.本稿では病院実習をめぐる問題,救急業務実施中における問題について順次考察する. -
COLUMN 薬剤投与のこれから
20巻2号(2007);View Description Hide Description2002 年に行われた「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」への答申結果を受け,メディカルコントロール(MC)体制の確保を前提に救急救命士によるアドレナリン1剤の投与が決まり,2006年4月から実施されています.今回認められた薬剤はアドレナリン1剤ですが,薬剤投与実施のための厚生労働省ワーキンググループの議論の過程においては,投与の医学的な有効性が確認されながらもプロトコール実施の困難性から使用が先送りとなったほかの薬剤(硫酸アトロピン,塩酸リドカイン),また静脈内投与以外の薬剤の投与方法(気管散布など)について,今後検討の上,必要であれば使用を決めていくことになっています.そのためには,投与のトレーニング方法やトレーニング量の確保とともにエビデンスの集積が必要です.著者は海外,特にアメリカ合衆国を含む欧州諸国において薬剤投与がどのように実施されているのかを調査し(表1),その結果から今後,日本のMCの仕組みや薬剤を扱う救急救命士の再教育体制の改善が必要であると考えます.そこで本コラムでは,アメリカ合衆国での現況を詳しく紹介しつつ,日本における救急救命士の近未来像を含め,今後の薬剤投与のあり方について述べていきます.
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連載
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- 救急医療の横顔 〜For Emergency Members
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医療法人河野外科医院 河野朗久
20巻2号(2007);View Description Hide Description2000 年に制定された児童虐待防止法は2004年の法改正により,子どもの福祉に職務上関係のあるものだけではなく,病院などの業務上関係ある団体・機関も児童虐待の早期発見に責任を負うことが明確にされた.しかし,虐待についての報告は依然減ってはいない(表).今回は監察医として,法医学の視点から虐待問題に取り組んでいる河野朗久先生に話を聞いた. - Re-Birth
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未だに癒えぬ傷跡
20巻2号(2007);View Description Hide Description「地震で娘2人亡くしたことが忘れられない.よく眠れないし,たくさん食べることができない.小さなことでも怒ってしまう.月に2〜3回以上,夢で地震の場面を繰り返し見る.例えば,私は山の上に立っていて,突然の地震が起きて下へ転落するという夢.最近は1週間前に見た.忘れるためにはもう少し時間が必要だと思います」.パキスタン大地震からちょうど1年を迎えた被災地で,主婦のメハル・フズーンさん(38)はこう漏らした. - シーン別 救急現場のホントにOK?Returns
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PCPS装着患者
20巻2号(2007);View Description Hide Description蘇生の一手段としてPCPS(percutaneous cardio-pulmonary support;経皮的心肺補助装置)を使用し,蘇生に成功.その後,経皮的冠動脈形成術を行い,徐々にバイタルサインは落ち着いてきているところです.あなたは今からこの患者さんの受け持ちです.「特に問題なく経過」と申し送りをされましたが……ほんとにOK? - From ExpertNurse 救急看護認定看護師からのメッセージ
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自分のためだけではなく
20巻2号(2007);View Description Hide Description私の勤務する病院は全国でも数少ない独立型の高度救命救急センターであり,三次救急医療施設です.私は学校を卒業後,この病院にそのまま就職しました.特に救急看護をやりたいと思い就職したわけではなく,卒後教育が充実していると聞き就職を決めました.そして10年以上が経過し,いつの間にか救急看護にやりがいと充実感を見出していました. - 家族
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最期の瞬間に立ち会う看護者として
20巻2号(2007);View Description Hide Description死の瞬間はわれわれの力が及ぶものではないと知りつつも,数多くの出会いの中で子どもの看取りほど看護者自身の心が揺さぶられ,ご家族への思いがあふれるものはなく,そのような思いにつぶされそうになりながらも看護者として,立ち会う者として,私たちはご家族のそばに寄り添っている.当センターの初療では,年間140例近くのCPAOA患者さんとご家族にかかわっている.初療での患者さんとのかかわりは,約2時間という短いスパンに限られるため,治療と看護が同時進行する中でいかにしてご家族へケアを行うか,救急看護者には専門的なスキルが求められる.3年前,私たち救急看護者にとって,家族看護について改めて考える原点ともなったAちゃんのご家族との出会いがあった. - 誌上で検証 プレホスピタルでの患者のみかた
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高齢者低エネルギー外傷
20巻2号(2007);View Description Hide Description通報内容:高齢の男性が転倒し顔面を打撲し出血している.症例:70歳男性.主訴:顔面の痛み,および両上肢のしびれ・痛み既往歴:高血圧,糖尿病で内服治療中現病歴:2006年○月×日16時ごろ,商店街の歩道を歩行中に転倒し,店先の看板で左騁部〜前額部を打撲した.打撲部より出血があり,通行人が救急車を要請した.現場到着時の状況:傷病者は通報者,店員に支えられ歩いて店のいすに座っていた.出血部位にはタオルが巻かれており,血がにじんでいた.左騁の痛みと両上肢のしびれ・痛みを訴えていた. - Q&Aで学ぶ 救急現場の精神症状
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自殺企図の場合(1)
20巻2号(2007);View Description Hide Description皆さんは勤務中に「自殺企図の患者さんが搬入されます!」という連絡が入ると,どこか複雑な気持ちにならないでしょうか? やり切れない思いが生じて,普段通りに高いモチベーションで看護ができないといった経験はないでしょうか? このような感情がわき上がるとすれば,その原因として「自殺」に対する偏った考え方があるのかもしれません.自殺企図の患者さんに十分な対応をするためには,まず「自殺」について正しい知識を持つことが重要です.一方,2005年度の自殺による死亡者数は約3万2,000人1)で,1998年度以降は3万人を超えた状態が続いています.この数字は1年間の全死亡者数の約3%を占め,同じ年の交通事故による死亡者数約6,900人2)の5倍弱に相当します.例えるなら東京都で毎日9人ほどが自殺で死亡している計算になり,いかにその数が多いかを実感できます.さらに自殺未遂者に至っては,その10倍も存在するといわれています.自殺企図患者の多くが救急医療施設に搬送されることから,救急医療スタッフの皆さんは自殺問題の最前線に立っているといえるでしょう.そこで今回は「自殺」について総論的なことを述べ,次回は具体的な対処方法について触れていきたいと思います. - めざせ! 救急看護認定看護師 EMERGENCY QUIZ
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- 一目でわかる! 救急患者のプロトコル
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脳卒中
20巻2号(2007);View Description Hide Description安藤さん.68歳,男性.高脂血症,高血圧,糖尿病にて近医通院(内服治療中).7時に起床.状態は普段と変わらなかったが,8時の朝食中,箸をうまく使えずに,食事を取りこぼす.会話も少し聞き取りにくくなる.妻が「調子が悪いのでは」と問うが,本人は症状を否定.9時症状改善せず,気になった妻は当院へ連絡してきた. - EMERGENCY TOPIC
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全国初! 大規模災害対応救急隊「ブルーキャット」創設
20巻2号(2007);View Description Hide Description近年,国内外では地震,ビル火災や車両の多重衝突事故など大規模な事故・災害が起きており,その都度,現場に駆けつけた災害対応機関(消防・救急,医療,警察など)はそれぞれのマニュアルなどに基づいて活動を行っている.2005年4月25日9時18分ごろに起き,死傷者600名を超える大惨事となった兵庫県尼崎市のJR 福知山線脱線事故でも,多数の災害対応機関が現場に駆けつけ,それぞれのマニュアルなどに従って多数の死傷者の救助,救命活動を行った(図1).この事故に神戸市消防局からも救助,救急部隊などが応援協定に基づき出動し,車両に閉じ込められた乗員乗客の救出活動に加え,現場に駆けつけた医師や救急救命士で作る医療チームと一体となって救命活動を行った.この結果,防ぎ得る外傷死(Preventable Trauma Deaths)はなかったといわれている.本稿では,大規模事故時に駆けつけた医療チームと消防機関との連携および活動調整を行う専門の救急隊(ブルーキャット)創設のきっかけとなったこの事故の救護活動内容を紹介し,その上でブルーキャットの編成や活動内容を紹介したい.
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独立行政法人国立病院機構大阪医療センター救命救急センター
20巻2号(2007);View Description Hide Description独立行政法人国立病院機構大阪医療センターは,大阪市のほぼ中心地,大阪城からほど近くに位置する.阪神高速道法円坂出口に近接し,遠方からの交通の便もよい.そのため三次救急患者を対象とする当院の救命救急センターには,大阪府以外の近隣府県からも多くの重症患者が搬送される.「救急看護師の役割は,まずは患者様の命を医師とともに救うこと,次に合併症を防ぐこと,そして患者様が何を望んでいるのかを知り援助することです.また患者様が重症であるほどご家族の動揺は大きいので,スタッフには家族ケアを大事にしてほしい」と当センター看護師長の宮地由紀子さんは話す.
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災害看護メッセージ〜備え〜
20巻2号(2007);View Description Hide Description日本災害看護学会は,阪神・淡路大震災を一つの契機とし,災害看護の実践と災害看護学の発展を目指して1998年12月に発足しました.学会の社会活動として,災害看護への認識をいっそう高めていただくことを目的に,今年もまた「災害看護メッセージ〜備え〜」をお届けいたします.読者の皆様には,ぜひ12年前の「あのとき」と,そして「これからの災害看護」に思いをはせていただく機会になればと思います..
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