エマージェンシー・ケア
Volume 21, Issue 9, 2008
Volumes & issues:
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特集
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- 救急医療現場における苦情・クレームの実際と対応のコツ
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(1)救急活動における傷病者・家族からのクレームとその対応
21巻9号(2008);View Description Hide Description救急隊の活動は,傷病者を観察して現在の状態を把握し,その傷病状態に対応した救急処置を施し,速やかに症状に適した最も近い医療機関を選定しなければならない. しかしながら,すべての救急活動が現場から病院へ何の問題もなく搬送できるとは限らず,病院選定や救急隊の言動・行動など,種々の問題からクレームとなることがある. また,現場においてクレームを通り越し,救急隊員に危害を加えるなどの妨害行為へと発展することがあり,救急隊も暴行,傷害によって受傷しないよう身の安全を図る必要がある. 本稿では,クレームとなるような事例とその対応要領や妨害行為の未然防止策,発生時の対応などについて述べる. -
(2)重症救急患者・家族からの苦情・クレームとその対応(1) 医師の立場から
21巻9号(2008);View Description Hide Descriptionクレームとは,“ 要求” や“ 要求の正当性”を主張することである.よって患者・家族の持つ“ 要求” や“ 要求の正当性” の程度によりクレームの内容は異なる.しかし一般に患者・家族は,『病院に行けば病気は治る』という希望ないし過度の期待を持っているものである.この希望・期待がいつしか“ 要求” や“ 要求の正当性” にすり替わるのが問題である. 救命救急センターに搬送される三次対応症例は急性疾患であり,かつ重症であることが多い.生死にかかわる問題を,唐突に患者・家族は受け入れることを強いられる.加えて,希望・期待通りの結果になることの方がはるかに少ない.これらが患者・家族を混乱させることとなり,希望・期待と“ 要求” や“ 要求の正当性”の違いが判断困難となり,医療側に対し苦情・クレームを持つことは仕方がないことと思われる.これに対し医療側は,『病院に行けば病気は治る』わけではなく,病状,治療法,予後を繰り返し説明し,現状を理解してもらうことに努めることが必要となるのである.しかし,病院が患者を「患者様」と呼ぶようになり,マスコミで医療事故が大きく扱われ,患者の権利が声高に叫ばれる風潮の中,クレームが多くなることがあっても減ることはないであろう.以下に患者・家族の持つ具体的な“ 要求”,すなわち苦情・クレームを挙げていく. -
(3)重症救急患者・家族からの苦情・クレームとその対応(2) 看護師の立場から
21巻9号(2008);View Description Hide Description救命救急センターに搬送される患者は,生命の危機的状態にあり,われわれ医療従事者はその生命危機を回避するために必要な医療を提供している.しかし,生命の危機的状態に陥る経緯があまりに突然で,家族が駆け付けたときには意識がなく,患者と話すこともできない状態や,第3 者が関与する事件・事故など,その背景はさまざまで家族が冷静に判断,対処できない事態である場合も少なくない.そのため,家族はその対処しきれない怒りや動揺をそのまま医療者に向けることもある.それはあくまでもストレス対処行動であるが,医療従事者の受け止め方によっては,苦情・クレームとなり,かえって家族との信頼関係を構築できない原因ともなり得る.また,生命危機回避のために全力を尽くしている医療従事者にとっては,苦情・クレームはモチベーションを下げる原因になるなど,救急医療に携わる医療従事者に影響を及ぼしていることが考えられる. また,来院したときには意識がなく,意思確認を取ることができなかった患者に,生命危機回避に最も必要な処置,検査を実施したにもかかわらず,患者が意識を取り戻した後に起きるさまざまな苦情やクレームも多い. そういった苦情やクレームをどのように考え対処すると患者・家族,そして医療者にとって不利益なく,医療を継続できるのかについて考えてみたい. -
(4)時間外外来における患者・家族の苦情・クレームとその対応
21巻9号(2008);View Description Hide Description当院は二次および三次救急医療機関である.2006 年より救急外来を「時間外外来」と名称変更し,二次および三次救急医療を担っている.時間外外来を利用する患者の数は,2006 年度の統計で年間3 万人前後であり,1 日平均では90 人前後が利用している.この中で三次救急の患者は年間600 人弱である. 本稿では,当院の時間外外来診療における患者・家族の苦情・クレームとその対応について述べる. -
(5)苦情・クレームが起きる背景と対応のコツ,およびクレームを発生させない環境とは
21巻9号(2008);View Description Hide Description数年前から病院の利用者(多くは患者・家族)より病院や職員に対する苦情・クレームおよび暴力(身体的暴力,恫喝,暴言などの精神的暴力)行為が増加し,その対応が大きな問題となっている. クレームとは「不当または不利益を受けた当事者が,その正当性を主張し損害に対する補償を要求する行動」であり,苦情とは「他者から受けた損害や不利益に対して不満や不平を表す行動」であるが,この2 つは同義語として使用されている.最近では,「クレーマー」,「モンスターペイシェント」などという言葉が台頭しており,これは理不尽で不当な要求,執拗で過剰な要求,ごり押しなど,利用者の苦情・クレームの質の変化(悪質化,過激化)を示す言葉として使用されている. 正当な理由なく,昼夜を問わず執拗にクレームを言う人や,大声を出し自分の要求が通らないと「医療ミスだ.新聞社に,マスコミに訴える」と騒ぐ人がここ数年で増加し,医療現場ではその対応に膨大な時間を費やしているという現実がある. なぜこのような状況が発生しているのか,どのように対応することがベストなのかなどについて医療安全管理の視点から考えてみたい. -
(6)アンケートに見る 救命救急センターにおける患者・家族の苦情・クレームの実際
21巻9号(2008);View Description Hide Description医療現場で受ける苦情・クレームには,もちろん妥当なものもあるが,最近は度を超えた苦情・クレームを受けることも珍しくなくなってきた.そこで今回,編集室では全国の救命救急センターへアンケートを行った.対象は全国の救命救急センター209 施設(2008 年2 月1 日現在).期間は2008 年6 月6 日〜 30 日.112 施設から回答を得た.以下にその結果を紹介する.
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連載
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連携
21巻9号(2008);View Description Hide Description私の好きな言葉は,「連携」です.これは各個人,各組織などとの“ 仲間意識を持った”という意味の連携です.1999 年以来の当教室運営は4 つの柱,すなわち救急医学,集中治療医学,災害医学,移植医療の連携を目指しました. - スペシャリストに聞く! 救急現場のME機器
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体外式心臓ペースメーカー
21巻9号(2008);View Description Hide Description心臓ペースメーカーは,病気により刺激伝導系に障害のある心臓や,薬剤などで徐脈になった心臓に対して,心臓以外から電気的な刺激を与える治療用ME 機器です. 周知の通り,ER では徐脈の心臓に対して緊急的に内頸静脈や鎖骨下静脈から右心室にペーシングカテーテルを挿入し,体外式のペースメーカーを用いて,一時的に(短期間に限り)心臓の補助を行います.恒久的な治療が必要な場合には,次号で紹介する植込み式ペースメーカーを体内に留置します. - From ExpertNurse 救急看護認定看護師からのメッセージ
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「振り返れば,認定が……」
21巻9号(2008);View Description Hide Description高校を卒業して,深い考えもなく,何となく進んだ道が看護師でした.入職当時は,誰もが心配する出来の悪い看護師で,当時の看護師長には「5 年計画で行きましょう」なんてことも言われておりました.現在までの14 年間,救命救急センターでしか働いたことはなく,何をどう間違えたのか今では救急看護認定看護師になってしまいました. - 家族
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家族を理解するということ
21巻9号(2008);View Description Hide Description家族看護について学び始めてから,“家族を看護の対象としてケアする”という視点からのかかわりは,私にとって看護実践を行う上で最も重要な課題でした.看護師になり,今までに重症患者,救急患者の入院やケアに携わり,たくさんの家族に出会いました.「その家族に対するケアが,家族にとって最善のものであったか?」と振り返って考えると,必ずしもそうでなかったケースもあったと思います.救急で入院をする患者,またその家族にとっては,医療者を選ぶ余地なく治療が開始される状況下にあるため,「自分がその患者や家族にとって最善のケアを提供できたら」と思います. - めざせ! 救急看護認定看護師 EMERGENCY QUIZ
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殺虫剤服用により意識障害を来した患者のフィジカルアセスメント
21巻9号(2008);View Description Hide Description事例 救急隊から「50 歳代男性,殺虫剤服用による意識障害で,意識レベルはJCS Ⅲ - 200, 瞳孔径左右1.0mm で対光反射なし. 血圧102/48mmHg,脈拍42 回/min.自発呼吸が弱くバッグ・バルブ・マスク(BVM)で補助換気中,SpO2 96%.多量の唾液と発汗を認め,嘔吐があった.男性の姿が見えなくなり心配した妻が発見した.姿が見えなくなってから約30 分が経過しており,男性のそばに『マラソン』(有機リン系殺虫剤)と記載された空き瓶が落ちていた」と情報が入った. - からだのしくみで覚える 見のがさない検査値の異常
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血糖値
21巻9号(2008);View Description Hide Description糖質は生体のエネルギー源となり,その中心はブドウ糖(グルコース)です.一般的に血糖値と呼ばれるものは血液中のグルコース濃度を測定したものであり,以下に血糖値と記載するものは血漿グルコース濃度を指します.正常の場合,血糖値は空腹時では70 〜110mg/dL であり,食後でも160mg/dL までにしか上昇せず,食後2 時間後には前値まで低下します. 血糖値の調節には,腸管からの吸収,肝臓での代謝,筋肉や脂肪組織の利用,腎臓からの排泄などさまざまな臓器や組織が関与しています.さらに血糖値を低下させるホルモンであるインスリンと,血糖値を上昇させるホルモンであるグルカゴン,コルチゾール,甲状腺ホルモンやカテコラミンとの協調作用によって,血糖値は狭い範囲内に厳格にコントロールされています. 血糖検査は主に糖尿病の診断や治療に用いられますが,救急患者や集中治療中の重症患者では感染,手術,外傷などの侵襲が加わることにより耐糖能障害を合併している場合が多く,血糖値のモニターが必要です. - 誌上で検証 プレホスピタルでの患者のみかた
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「ハチに刺された!」
21巻9号(2008);View Description Hide Description通報内容:ハチに刺され,嘔気を訴えている.症例:59 歳男性.現病歴:寺院の屋根を掃除していて,首を中心に4 〜 5 カ所ハチに刺された.ハチに刺されたのは2回目.一時意識を失っていたようであり,仲間が119 番通報した.現場到着時の状況:患者は意識があり,嘔気と呼吸困難を訴えていた. - Emergency Case
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受傷後,低栄養状態が遷延した患者の看護〜救急病棟転入から退院までの看護を振り返る〜
21巻9号(2008);View Description Hide Description今回,外傷による侵襲を受け,胸管損傷のために低栄養状態が続き,回復過程において出血性胃潰瘍からショックに陥り,異化亢進状態が遷延した患者の看護を経験した.Moore の分類1)でいう侵襲からの回復過程では,障害期,転換期,同化期・筋力回復期,脂肪蓄積期と移行するが,病態からその回復過程がスムーズに行かずにこの過程を繰り返すこととなり入院期間は長期となった.病態整理の把握はもちろん,患者の予後を左右する栄養状態も十分アセスメントした上で,障害の程度が最小限で早期回復できる看護が必要であった.その経過を振り返り報告する.
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武蔵野赤十字病院救命救急センター
21巻9号(2008);View Description Hide Description武蔵野赤十字病院救命救急センターは,全国で最も早く指定を受けた東京都内3 カ所の救急医療センターの一つであり,現在,東京・多摩地域の救急医療の中核を担う救命救急センターの一つである.2006 年には,「患者・家族主体の医療」を目指し,建物を移転してハード面を一新した.
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