エマージェンシー・ケア
Volume 22, Issue 9, 2009
Volumes & issues:
-
特集
-
- 患者・家族の不安に応える 救急疾患説明マニュアル
-
-
(1)脳卒中
22巻9号(2009);View Description Hide Description脳卒中とは,さまざまな原因により脳血管に破綻を来して,突然,意識障害や片麻痺などの神経学的異常を来した状態を指し,大きく脳出血と脳梗塞とに分けられます(図1).脳出血は文字通り脳血管からなんらかの原因により出血しているのに対して,脳梗塞は脳血管の内腔がなんらかの原因により詰まってしまい,脳へ酸素がいかなくなる状態をいいます. -
(2)ショック
22巻9号(2009);View Description Hide Descriptionたとえをあげてみます.「水路=血管」「田んぼ=末梢臓器組織」「ポンプ=心臓」と置き換えて考えてみましょう.上水路からきれいな水が流れて,田んぼと稲を潤します.稲を潤した後に水は下水路に流れて,ポンプへといきつきます.ポンプは水を再び上水路へと汲み上げて,きれいな水となってまた田んぼへと流していきます.この水の流れのどこかに異常が生じると,きれいな水が田んぼに行き渡らず,稲が立ち枯れしてしまうのです.それがショックという状態です. -
(3)肺梗塞(肺動脈血栓塞栓症)
22巻9号(2009);View Description Hide Description正確には肺動脈血栓塞栓症という病気です.ただし,一般的には肺を流れる動脈に血のかたまり(血栓)が詰まってしまう病気であることから,心筋梗塞,脳梗塞のように,肺の血管が詰まるという意味で肺梗塞と呼ばれることがあります.肺梗塞は肺組織が致命的なダメージを受けた状態を指すので,厳密には肺動脈血栓塞栓症とは異なります.肺の血管が詰まると,酸素を取り込むことができなくなったり,血のめぐりが滞ったりします.その結果,呼吸困難や動悸,胸が苦しくなる,意識がなくなるなどの症状が出ます.ほとんど症状がないこともあれば,急速に死に至ることもあります. -
(4)気胸・血気胸
22巻9号(2009);View Description Hide Descriptionまず,胸の仕組みについてお話ししましょう.胸(胸郭)は,両側は肋骨,後は背骨,前は胸骨で構成され,その上を筋肉と皮膚が覆っています,その胸の内部は両側に胸腔という空間があり,肺があります.胸の真ん中には心臓と大血管があります.胸腔と肺の壁は胸膜という膜で覆われています.肺の中には無数の肺胞(血管に酸素を移し,血管から二酸化炭素を取り除く)と枝状の細かい気管支があります.そこから,空気が流れる道(気管・気管支)が喉の奥(喉頭)に通じています. -
(5)有機リン中毒
22巻9号(2009);View Description Hide Description人が思ったとおりに動けるのは,脳が上手にバランス良く運動神経を通じて筋肉をコントロールしているからです.また,無意識に心臓や腸が動いているのも,脳が自律神経という神経を通じてコントロールしているためです.この脳によるコントロール(命令)には,神経のほかに,その命令を各臓器に伝える役割を担っている物質が必要です.その一つがアセチルコリンという物質です.脳からの命令があると,このアセチルコリンが神経から放出され,各臓器(筋肉,心臓など)にある鍵穴にくっついて,脳からの命令を伝えます.一方で,その命令を止める役目をする物質も存在し,この物質をアセチルコリンエステラーゼと言います.筋肉への命令が続き,直立不動でいると人間は疲れてしまいますので,休めの信号を出す必要がありますが,この手助けするのがアセチルコリンエステラーゼです.アセチルコリンエステラーゼは,アセチルコリンが鍵穴に付く前に壊してその作用を止め,休めの信号を伝えます.有機リン系の農薬は,このアセチルコリンエステラーゼの働きを邪魔することで,殺虫剤として働きます.つまりアセチルコリンによる命令が止まらなくなり,体のコントロールが効かない状況になります.この作用は,虫だけでなく動物である人間にも作用します.また,アセチルコリンは脳内でも命令を伝える役割を担っていますので,興奮や錯乱,痙攣などの症状も出ます.有機リンを服毒すればこれらの作用により,いろいろと不都合な症状が出て人体は障害されてしまいます.最近では中国製の冷凍餃子にメタミドホスという有機リンが混入し,その餃子を食べた人が中毒症状を示したことは記憶に新しいことと思います.また,オウム事件で使用されたサリンガスも同じような性質を持っています. -
(6)熱傷
22巻9号(2009);View Description Hide Description体の表面を覆っている皮膚には,体の内部を守る防御壁としての役割だけでなく,免疫,体温,水分の保持や温度,痛さを感じるといった重要な役割があります.熱傷とは,さまざまな原因で皮膚や粘膜が損傷を受け,これらの機能障害が起こっている状態です.原因としては,火焔や熱湯など高温の気体,液体,固体に触れて生じることが多いですが,低温でも作用時間が長くなると皮膚・粘膜の損傷が起こります.また,特殊な原因として,電気・化学物質・放射線によるものもあります. 皮膚や粘膜が障害を受けると,水分や電解質,タンパク質などが血管外へ漏れてしまうため,水疱(水ぶくれ)ができたり,やけどをした部位がむくんだりします.体表面積の30%以上を超える熱傷を広範囲熱傷といいますが,広範囲熱傷では,やけどをしていない部分も含めて全身の血管から水分やタンパク質が漏れてしまうため,全身がむくむ一方,血管の中の水分は不足して,熱傷性ショックに陥ります. -
-
連載
-
- E Word 私を鼓舞する言葉
-
- 救急医療のススメ 現状を生き抜くための12の格言
-
- 迷画を明画に! Let's challenge 画像読解Q&A
-
画像読解Q&A
22巻9号(2009);View Description Hide DescriptionER に腹痛を訴えて来院する患者さんは,かなり多くいらっしゃるのではないでしょうか.読者の皆さんにもたくさんの経験があるのではないかと思います.腹痛を来す疾患は数多くあり,その診断には詳細な問診,身体所見の観察,採血データの分析などが重要であることは言うまでもありませんが,画像による診断も重要なウエイトを占めています.今月は腹痛の症例を取り上げてみました.一緒に画像診断のポイントについて勉強し,今後の診療に生かしてください. - From ExpertNurse 救急看護認定看護師からのメッセージ
-
- 家族
-
- 自傷行為ー自殺者3万人の時代に,救急医療ができること
-
救急医療における精神科医の取り組み
22巻9号(2009);View Description Hide Description自ら身体を傷つける行為であるという点で,自傷と自殺企図は同様に自己破壊的な行為であるが,「死にたい」という意図があったか否かによって,二つは分けて考えられることが多く,それらの鑑別が重要であるとする立場もある.しかし,救急医療の場面において,明確な自殺の意図を医療者に伝える患者は一部で,実際には自らの行為の意図をはっきり語れない,表現できない患者も多い.また,自傷を繰り返す患者が後に自殺に至ることは精神科の臨床では珍しいことではない. 自傷と自殺企図は「死にたい」という意図の強さにおいて違いがあるものの,同じスペクトラム(連続体)の中に位置しているとの考え方に立ち,ここでは特に「死にたいという意図がはっきりしない」,もしくは「死にたいという意図がない」患者を対象とした精神科的な対応を中心に述べたい. - OSAKA発! 救急看護認定看護師を目指すナースの研修ライフ/民間救急救命士のホスピタルDays
-
- “しょうがない”でおわらせない! 救急現場のマイナー&メンタルトラブル解決法
-
- 誌上で検証 プレホスピタルでの患者のみかた
-
- Emergency Case
-
救急外来における他職種・他機関との連携〜気管支喘息大発作により救急外来を受診した児と,その家族の看護から〜
22巻9号(2009);View Description Hide Description小児における気管支喘息患児の割合は年々増加傾向にあり1),気管支喘息児への支援の必要性は一層高まっているといえる.気管支喘息は気道の慢性炎症性疾患で,発作予防のための日々の体調管理への援助が重要である.しかし気管支喘息の体調管理は,薬物療法や生活環境の調整などを長期にわたって継続していく必要があるため,児やその家族は実生活の中で継続に困難を感じ,問題を抱えている場合がある. 今回,定期的な治療が継続されていなかったため気管支喘息大発作により救急外来を受診した児と,その家族の看護を経験した.救急外来でのかかわりの中で家庭での不安定な養育基盤が露呈し,病院内他職種と,さらに地域の他機関との連携が必要となった事例である.ここでは,病院内他職種・地域の他機関,それぞれの連携の中での救急外来看護師の役割や支援のあり方について述べる.