サーキュレーション・アップ・トゥ・デート
Volume 4, Issue 4, 2009
Volumes & issues:
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第1部特集
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- これからの不整脈治療 −考え方と薬物療法・非薬物療法の実際−
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薬物におけるこれからの不整脈治療の考え方
4巻4号(2009);View Description Hide Description不整脈に対する薬物療法が最初に行われたのは,1914 年のWenckebach による心房細動に対するキニジンの使用といわれている.この歴史的な抗不整脈薬であるキニジンが使用されていた当時から「キニジン失神」という負の部分も知られていた.これは,目の前に存在する不整脈を抑制するための治療が,より強い反作用(副作用)として現れる代表的なものである(キニジンはそのK チャネル抑制作用によってQT 延長作用を持ち,しばしば多形性心室頻拍を引き起こす.これが「キニジン失神」の原因とされる).時を隔てて1989 年に発表されたCardiac ArrhythmiaSuppression Trial(CAST)1)の結果が報告されるに至って,機械的でかつ安易な抗不整脈薬の使用に大きな警鐘が鳴らされ,不整脈に対する薬物治療は従来の経験的アプローチを改め,より論理的かつ病態生理学的なアプローチが推奨されるようになった. また,いわゆる抗不整脈薬以外にもβ遮断薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI),アンジオテンシン㈼受容体阻害薬(ARB)などの薬剤も直接的・間接的に不整脈患者の予後に重要な役割を担っていることも認識されてきた.一方,カテーテルアブレーションの確立により,いくつかの頻拍は根治できるようになった. 本項では不整脈の薬物治療が,現在どのような考え方で行われ,また将来どのような展望が持たれているかということについて,心室性不整脈,心房細動に焦点を当てて述べる. -
心房細動におけるダウンストリーム治療・アップストリーム治療
4巻4号(2009);View Description Hide Description心房細動は,心房期外収縮や心室期外収縮と並び,日常診療で最も頻繁に遭遇する不整脈の1 つである.心房細動が「古くて新しい不整脈」として注目を集めてからすでに10 年余が経過したが,その契機となったのは,心房細動による心房のリモデリングという概念の出現であった.すなわち,心房細動の存在自体が,心房筋の性質を変化させ,心房細動を維持させやすくしてしまうという考え方であり,具体的には,心房興奮伝導速度の低下や心房不応期の短縮などがそれにあたる1).リモデリングの研究を糸口として,心房細動の発症因子が明らかになるとともに,大規模臨床研究の結果も蓄積され,治療方法や使用する薬剤の選択が,論理的かつEBM に則したものに変わってきている. -
心臓ペースメーカーにおける最近の進歩(生理的ペーシング)
4巻4号(2009);View Description Hide Description不整脈に対する植込みデバイスのはじまりはいうまでもなくペースメーカーである.1958 年に世界初のペースメーカーの植込みが行われ,はや50 年が経過した.当初のペースメーカーは一定のリズムで心臓を刺激するだけの機能(AOO やVOO ペースメーカー)しか有さなかったが,その後自己心拍を認識し,必要時のみ刺激するデマンド型ペースメーカー(AAI やVVI ペースメーカー)が登場した.さらに,房室ブロックの存在下でも心房と心室の同調性を保つことのできるペースメーカー(DDD ペースメーカーやVDD ペースメーカー)へと進化した.また,体動を感知したり交感神経活動を予測することで自動的にペーシング心拍数を変化させるレートレスポンスの機能が付加されるようになった.さらなる技術の進歩により,より小型,かつ長寿命なペースメーカーが開発され進歩を続けている.徐脈疾患の治療法として,あたかも完成された治療のように思われるペースメーカー治療であるが,近年新しい知見が報告され注目されている. -
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高周波カテーテルアブレーション
4巻4号(2009);View Description Hide Description頻拍性不整脈に対する高周波カテーテルアブレーション(radiofrequency catheter ablation:RF)治療は最近20 年間で急速な進歩を遂げた.WPW症候群,房室結節回帰性頻拍等の発作性上室性頻拍や特定の心室頻拍等のリエントリー性不整脈の多くがRF で根治が可能となっている.さらに,マッピングシステムの開発により,従来は心内心電図から推測することしかできなかった心筋の電気の流れや,心筋の電位が可視的に表わされるようになり,電気刺激で誘発困難で,持続しないことも多い自動能亢進やtriggered activity を機序とする頻拍性不整脈に対してもRF が可能となってきた.現在,ここ数年の不整脈,RF 関係の学会や講演で多く取りあげられるのは心房細動に対するRF と心室頻拍・心室細動に対するRF に関することと思われる.これらのRF の方法は確立されたものではなく,現在でも方法論が試行錯誤されていることでも共通している. -
不整脈治療に有効な検査 3Dマッピングシステム
4巻4号(2009);View Description Hide Description最近の不整脈治療におけるカテーテルアブレーションの発展にはめざましいものがある.特に,コンピューターシステムを用いた3D マッピング法の導入により,詳細な頻拍回路の同定が可能となった.心室頻拍においては,頻拍の誘発なしに洞調律時電位マッピングによる不整脈器質の同定から頻拍回路をアブレーションする方法が報告され1),良好な成績が収められている.また心房細動の肺静脈電気的隔離術においては,従来の方法では,熟練したカテーテル操作が必要であったが,CT 像を取り込むことで解剖学的なアプローチが可能となり,比較的経験の少ない術者においても治療が行えるようになった.3D マッピングを理解することは,高いアブレーション成功率が得られるのみならず,不整脈のメカニズムを解明する上においても大きな武器となり得る.現在,日本ではカルトシステムとエンサイトシステムの2 つが用いられているが,これらについて概説する.
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連載
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- CIRCULATION GRAPHICUS
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- 私の心がけていること —心臓病に関するインフォームド・コンセント—
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- 専門医に求められる最新の知識
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- CIRCULATION COLUMN
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- My Challenge 心臓血管外科
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- 症例から学ぶ循環器の薬剤治療ピットフォール
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β遮断薬
4巻4号(2009);View Description Hide Description頻脈性心房細動の患者でレートコントロールを行う場合,以前はジギタリス製剤や非ジヒドロピリジン系Ca 拮抗薬(ベラパミルなど)を使用することが多かったが,近年ではβ遮断薬を選択することが多くなっている1).特に, 心機能が低下した患者で生じた頻脈性心房細動では, ガイドラインは生命予後あるいは心機能を温存するうえでもβ遮断薬の使用を推奨している2,3). 本稿では,まず心不全合併の頻脈性心房細動症例のレートコントロールにおいて,選択された薬剤により病態の悪化を招いた症例を呈示し,次にβ遮断薬を不整脈,特に心房細動治療において使用する場合のポイントについて解説する.
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第2部特集
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- 臨床医が知っておきたいTissue Engineering の知識
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Tissue Engineering による心筋再生 −細胞シート工学の発展−
4巻4号(2009);View Description Hide Description近年,循環器領域における再生医学の発展はめざましく,虚血性心疾患や拡張型心筋症に対する再生医療が現実のものとなっている.重症心不全に対する細胞を用いた再生医療としては, ① 細胞浮遊液を不全心筋組織内に注入することにより血管あるいは心筋組織を再生させる方法, ② ティッシュエンジニアリングにより細胞を組織として効率的に移植することにより不全組織を再生させる方法, ③ 心筋細胞を用いたティッシュエンジニアリングにより収縮弛緩する機能的な心筋組織あるいは臓器そのものを再生させる試みがある(図1). 近年,ティッシュエンジニアリングにおけるキーテクノロジーとして日本発世界初である「細胞シート工学」の有用性が示されており,本稿ではこの「細胞シート工学」を用いた心筋再生について概説する. -
Tissue Engineering による心臓弁
4巻4号(2009);View Description Hide Descriptionわが国では年間約1 万件の心臓弁置換術が施行されており,代用弁としてパイロライトカーボンを用いた機械弁あるいはブタ由来の生体弁が使用される.機械弁は抗凝固が必要であり,生体弁はグルタルアルデヒドで細胞および細胞間マトリックスを架橋処理することによって抗原性を減弱しているものの,残存している細胞片や異種抗原が石灰化を誘発すると考えられている1).機械弁はもとより,生体弁も前述の架橋処理によってレシピエントの生体反応による分解を阻止しているため,いずれも“ 非生体” であり,レシピエントの組織に置換されることはない. 一方,わが国では極めて数少ないものの,世界的には凍結保存同種弁(ホモグラフト)も数多く使用されている.ホモグラフトは他家組織であるが架橋等の化学処理は行われておらず,部分的にはレシピエント組織の浸潤が期待される.しかし,抗原性や凍結保存時の組織損傷による劣化や石灰化が指摘されており2),長期的な成績では生体弁より少し良い程度ではないかと思われる.これらに対し,Tissue Engineering による心臓弁(TE弁)では,レシピエント細胞の浸潤によるリモデリングと再生を経て,いずれ組織全体が完全に自己化されることを目論んでいる(図1).折しも本年2 月には,米国CryoLifeR 社のCryoValveRSG がTE 弁として初めて米国食品医薬品局(foodand drug administration:FDA)の認可を受けた. 本稿では,最近のTE 弁の状況ならびに国立循環器病センターと共同でわれわれが開発しているTE 弁について述べる.なお,筆者は工学者であり,工学的視点からの記載となることに理解を得たい. -
Tissue Engineering による肺動脈形成
4巻4号(2009);View Description Hide Description培養細胞を利用して使用可能な組織を作成するTissue Engineering という概念が最初に発表されたのは1980 年代の後半,ハーバード大学のVacanti とマサチューセッツ工科大学(MIT)のLangerによってである1).Tissue Engineeringは,自己の細胞を生体吸収性材料に播種して,生体内で組織形成を促すため, ㈰拒絶反応の可能性が排除できる. ㈪ドナーを考慮する必要性がない. ㈫ 生きた組織のためより長い耐久性,成長性が期待できる等の利点がある. Tissue Engineering の心血管系への応用は,1993 年にMayer とVacanti らによって,始められ,われわれも既存の人工医用材料の問題点を克服すべく,再生血管の開発,臨床応用を目指し,基礎実験を継続してきた2~6). 本稿では,これらの基礎実験に基づいて,東京女子医大で施行された肺循環系への臨床応用例の経過について考察し,今後の展望を述べる.
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連載
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- 心血管インターベンションのコツとピットフォール 一流術者のココが知りた
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PCI のコツ− A best angiographer is a best Angioplaster
4巻4号(2009);View Description Hide Description基本は冠動脈造影だと考えている.いかに確実で安全な造影ができるかがポイントである.冠動脈造影を考えながら論理的にやるということは非常に大切なことで,必ず経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:PCI) の術者になった時に生きてくるものと確信している.実際,朝一番にカテラボに来て日帰りカテを,2,3 例こなしてから病棟の仕事をこなすということを繰り返していた医師が,PCI の術者になった時に瞬くうちに上達した.そして信頼されるオペレーターになり急性心筋梗塞症(acute myocardialinfarction:AMI)の当番オペレーターとなった.冠動脈造影のうまい医師はPCI もうまいといっても過言ではないと思う. なぜこのように考えるかを記してみた.冠動脈造影の各ステップを思い浮かべて読んでいただければ幸いである. -
手技困難なRotablator 症例に対する工夫
4巻4号(2009);View Description Hide DescriptionRotablator を初めて手にしてからすでに15 年の歳月が経過しようとしている.この間約5,000例の自験例を経験し,その中には幾多の治療困難な症例があった.その一つ一つが,今までも筆者の脳裏に鮮明に浮かび上がっている.その中で,Rotablator 術者が遭遇すると思われるであろう,手技困難な状況につき,その解決法を解説したい. - 心臓血管手術のコツとピットフォール 一流術者のココが知りたい
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僧帽弁形成術における良好な術野展開法
4巻4号(2009);View Description Hide Description僧帽弁形成術の術式を語るには,まず,良好な手術視野を獲得することの重要性に言及しなければならない.諸先輩方の考案された優れた形成術式を,熟知したつもりでも,実際の術野で再現することが容易ではない経験は過去に何度もあった.術式に行き詰る中,筆者らは,平成20 年11 月に,神戸市立医療センター中央市民病院副院長 岡田行功先生のStandard な僧帽弁形成術を見学する機会を得て,基本的な術野確保の重要性を御教授いただいた.以後,心膜切開法を含めて展開法を大きく変更し,岡田行功先生の術式をもとに試行錯誤の結果,現在の方法に至った.私たちの僧帽弁展開法を紹介する.