サーキュレーション・アップ・トゥ・デート
Volume 5, Issue 5, 2010
Volumes & issues:
-
目次
-
-
-
特集
-
- 拡張期心不全の治療におけるEBM -現状と今後の展望-
-
-
特集1 拡張機能と収縮機能
5巻5号(2010);View Description Hide Description心臓は収縮と拡張を繰り返す臓器である.例えば,左室は1 回の収縮により約70mL の血液を大動脈に駆出し,心拍数を70/ 分と仮定すると1 日で7,200L,1 年で2,628t,80 歳まで生きると仮定すれば一生で約21 万t もの血液を拍出することになる.一方,左室が収縮期に十分な血液量を駆出するためには,拡張期においてそれに見合った血液量を肺静脈・左房から受容する必要がある(Frank-Starling 機序). このように考えると,左室の収縮と拡張は本質的には1:1 で対応する(counterpart)はずである.しかしながら,近年,いかなる心疾患においても,あるいは正常例でさえ加齢に伴い,拡張機能異常が収縮機能異常に先行すること1),また左室ポンプ機能が低下していない心不全が全体の30 ~ 40%を占めること2),などの報告が相次ぎ,ややもすると収縮と拡張のcounterpart としての関係が否定される風潮がみられる. 本稿では,心エコー・ドプラ法から得られる血流情報と壁運動情報を用い,左室の収縮と拡張の力学(mechanics)に関する最近の知見を紹介しながら,収縮機能と拡張機能の役割および両者の関連性について概説してみたい. -
特集2 拡張期心不全の疫学的特徴
5巻5号(2010);View Description Hide Description近年,明らかな心不全の症状を呈しているにもかかわらず左室駆出率(ejection fraction:EF)が保持された症例(heart failure with preserved ejection fraction:HFPEF)が,心不全全体の約30 ~ 50%を占めることが報告されている.このような心不全患者では,左室収縮不全に伴う心不全患者と同様に,最大酸素摂取量の低下,脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide:BNP)やノルエピネフリンといった神経体液性因子の上昇が認められる1).さらに,このような心不全は,左室拡張機能障害が原因とされ,「拡張期心不全(diastolic heart failure)」と呼ばれる.しかしながら,拡張期心不全の診断については,拡張機能の評価が容易ではなく,単一の簡便で信頼性の高い指標がないという問題点がある.そこでVasan らは,収縮期心不全がないこと,つまりEF50%以上を拡張期心不全の定義として提唱している2).この定義は,拡張機能障害の非侵襲的な評価法が確立していない現時点において,多数の心不全患者を対象とし,詳細な心臓超音波検査が現実的に困難な疫学研究で適用されている. 心不全に対するガイドラインの構築に寄与しているエビデンスの多くは,左室収縮能が低下した収縮期心不全患者を対象としており,拡張期心不全の実態や薬物治療の効果に関するエビデンスはまだ十分とはいえない.本稿では,日本における多施設前向き登録観察研究Japanese Cardiac Registry of CHF in Cardiology(JCARE-CARD)の結果3,4)も含めた,国内外での疫学研究の結果から,拡張期心不全の特徴を概観する. -
特集3 拡張期心不全において心筋の拡張不全を示すエビデンス
5巻5号(2010);View Description Hide Description左室駆出率が保持されている,あるいは軽度の低下にもかかわらず心不全を発症する病態である「拡張期心不全(diastolic heart failure)」の主な機序として,左室拡張障害が考えられている.しかしながら,「拡張障害」は大きな概念であり,その形成には多くの因子が関与する.今日まで多くの研究者により「拡張不全」のメカニズム解明のためさまざまな研究がなされてきた.本稿ではそれらのエビデンスを参照しながら,拡張期心不全のメカニズムについて解説したい. -
特集4 拡張期心不全に対する心臓外因子の関与
5巻5号(2010);View Description Hide Description拡張期心不全症例では左室拡張機能障害を有し(表1)1),これが病態の主因と考えられることから日本語では拡張不全,拡張期心不全,拡張性心不全などと呼ばれる.しかしながら,現在の診断が「左室駆出率が保持されている心不全」にとどまるため,かつて使用されていたdiastolic heart failure という英語の呼称は使用されない傾向にあり,heart failure with preserved (normal) ejection fraction と呼ばれている.本稿では,heart failure with preserved( normal) ejection fractionの日本語訳として拡張期心不全を用いる. 現在,非侵襲的な拡張機能評価が困難であるがゆえに,この表現型の心不全の病態への理解に混乱を招いている.2007 年に欧州心臓病学会から拡張期心不全の診断フォローチャートが提示された2).これは臨床的に心不全を疑う所見に,現在使用されているいくつかの拡張機能障害を示す検査データを伴っていれば拡張期心不全と診断する,というものである.しかし,診断フォローチャート内の非侵襲的診断プロセスのみに着目すると,臨床上は心不全と診断せざるを得ない左室駆出率は保持されている患者において,このチャートでは拡張期心不全には該当しないというケースがある一方で,かなり疑わしいがフローチャートに従うと拡張期心不全と診断せざるを得ないケースもある.このような臨床経験から「拡張期心不全は本当に拡張機能障害が原因の病態であろうか?」という疑問がくすぶっている.しかし問題は逆である.Penicka らは少数例ながら左心カテーテルを行い,左室拡張末期圧が上昇している患者の25%しか欧州心臓病学会から出された拡張期心不全の非侵襲的診断基準に合致しない上に,コントロール群の20%の症例までが基準に合致してしまうことを示した3).まずは「拡張期心不全に拡張機能障害は本当に関連があるのか」という疑問を持つ前に「われわれが日常診療で拡張機能障害を正しく診断できているのか」という疑問を持たなければならない. -
特集5 拡張期心不全の治療(急性期)
5巻5号(2010);View Description Hide Description拡張期心不全での急性期治療は,血圧・体液量・心拍数という3 つのコントロールを基本とする.血行動態に基づく対処であり,基本的に収縮期心不全と何ら変わらない.拡張期心不全では拡張機能という心要因のみに目が奪われがちであるが,心外因に影響される「全身病」との側面が強い.腎機能の悪化など心外要因の調査が,重要なポイントとなる. -
特集6 拡張期心不全の治療(慢性期)エビデンス不足が意味するもの 大規模試験の結果をふまえて
5巻5号(2010);View Description Hide Description近年,心不全患者の中にも左室駆出率が保持されている症例が比較的多く存在することが数多く報告されており,このような症例は拡張期心不全とも拡張不全とも言われている.しかし,拡張障害は決してこれらの症例に固有のものではなく,左室駆出率が低下した心不全患者においても認められる現象であり,最近では拡張期心不全(拡張不全)でなく左室駆出率が保持された心不全(Heart Failure with Preserved Ejection Fraction)とも左室駆出率が正常の心不全(Heart Failure with Normal Ejection Fraction)とも呼ばれている.しかし,本稿では臨床現場での用語の普及率や文面の読みやすさも考慮し,拡張期心不全の用語を用いることにする. 心不全の治療に関して,左室駆出率が低下した心不全ではβ遮断薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)の登場により成績は飛躍的に進歩してきている.しかし,拡張期心不全は比較的概念が新しいこともあり大規模研究の数が少なく,さらに病態の特異性もあり,いまだに予後改善に決定的な治療は確立されていない.本稿では拡張期心不全の治療戦略に対する現在のエビデンスに関して述べる.
-
Lecture
-
- 重篤な合併症をどう回避するか?
-
インターベンション治療の重篤な合併症をどう回避するか?
5巻5号(2010);View Description Hide Descriptionこの項では経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI) を始めてまだ症例数のあまり多くない読者を対象として,PCI にはどのような合併症があるかを知ること,および回避法について概説する. -
心臓血管外科治療の重篤な合併症をどう回避するか?
5巻5号(2010);View Description Hide Description心大血管手術成績の向上と症例数の増加に伴い,周術期管理も日々進歩しており合併症を回避するためのさまざまな工夫が紹介されている.些細な合併症から重篤化重症化する場合もあり一概に“ 重篤な合併症” を定義することはできないが,特に重要と思われる合併症の回避に関し述べたい. -
-
- CIRCULATION コラム
-
- My Challenge 循環器内科
-
- My Challenge 心臓血管外科
-
-
連載
-
- New Topic 循環器内科専門医に求められる知識
-
心臓再同期療法
5巻5号(2010);View Description Hide Description心室内伝導障害,左脚ブロックを認める例に対し,左室dyssynchrony を改善するCRT が開始されて約15 年が経過しようとしている.これまでにCRT の効果に関して多くの臨床試験が実施され,その有効性は確立されたといっても過言ではない.一方,左室収縮能低下を伴う心不全例はすべて致死的心室性不整脈による突然死のリスクを有するため,CRT が適用される例ではICD の適応も考慮しなければならない.本稿ではCRT(ペーシング機能のみの場合をCRT-P,ICD 機能を有する場合をCRT-D と定義)の有効性に関する臨床試験の結果を概説し,今後の課題,方向性について考えたい. - New Topic 心臓血管外科専門医に求められる知識
-
心臓外科のハイブリット療法
5巻5号(2010);View Description Hide Description心臓外科のハイブリッド療法とは,同一疾患に対して異なる手段を組み合わせてより高い治療効果を期待するものである.これには,冠動脈バイパス術とレーザー治療,あるいは冠動脈バイパス術と組織再生治療との組み合わせなども考えられるが,ここでは心臓血管外科手術とカテーテル治療の組み合わせに限って述べる.心臓血管外科手術とカテーテル治療を相補的に組み合わせて,より低い侵襲性とより高い治療効果を期待する試みはこれまでにもなされてきた.しかし,より高度で繊細なカテーテル治療を心臓血管手術と同時に施行するためには,血管撮影室並みの高出力のX線透視装置を備えた手術室が必要とされる.本稿では,ハイブリッド手術室の概要とその建設にあたっての留意点,ハイブリッド手術室で実際にどのような手術が実施可能かについて述べたい. - Case 私の治療戦略 循環器内科編 この症例のときにどのような心血管インタ-ベンションを行ったか
-
ロータブレーターが使用しにくい状況にある高度石灰化を伴う高度屈曲右冠動脈病変に対する冠動脈インターベンション
5巻5号(2010);View Description Hide Description薬剤溶出性ステントは再狭窄を低減させた.第2 世代が登場してからは複雑病変への留置も容易となってきた.石灰化病変においてはロータブレーターの併用が効果的であることはいうまでもない.しかし,その使用には制約があるのも事実である.今回はロータブレーターが使用しにくい状況にある高度石灰化を伴う高度屈曲右冠動脈病変に対して冠動脈インターベンションを施行した症例を紹介したい. - Case 私の治療戦略 心臓血管外科編 この症例のときにどのような心臓血管外科手術を行ったか
-
A型急性大動脈解離に対する私の治療戦略
5巻5号(2010);View Description Hide DescriptionA 型急性大動脈解離は緊急手術を必要とする死亡率の高い疾患である.2002 年以来,啓蒙活動,チームワークの強化および迅速確実で定型的な手術術式の確立に取り組んできた.手術では,上行大動脈真腔内送血,中等度低体温脳分離体外循環,GRFglue の使用と外叛吻合,大動脈弁吊り上げおよびSTJ での近位側吻合を一貫して行った.その結果,連続137 例において死亡率8%となり,最近2 年では3%まで改善した.その詳細について報告する. - 一流術者のココが知りたい 心臓血管手術のコツとピットフォール
-
僧帽弁形成術を成功させるために-基本概念と完成度を高めるための付加手技-
5巻5号(2010);View Description Hide Description僧帽弁形成術は人工弁置換術に対する優位性が認められ大いに普及したが,実施率は今なお60%程度に過ぎない.術者の経験に応じてほぼ100%成功するが,通常の形成手技のみで上手くいくことはおおむね80%で,残りは逆流が残ってしまい,追加手技を必要とする.また,弁病変にもバリエーションがあり,それぞれに応じてどの形成手技がよいか,自分なりの概念を完成させていくとよい. 本稿では,逸脱による僧帽弁閉鎖不全症に対する形成術について,基本的な概念を整理し,術前イメージの作り方,作戦の立て方を解説する.さらに遺残逆流の評価法と原因の推定,付加手技を紹介し,形成を完成させるノウハウについて解説する. - 講座 最新の大規模臨床試験をひも解く
-
- 症例から学ぶ循環器の薬剤治療ピットフォール
-
強心薬
5巻5号(2010);View Description Hide Description強心薬は心不全患者の血行動態を最も有効に改善する薬剤で,特に急性心不全の治療には不可欠な薬剤である.しかし,最近,心不全急性期の強心薬の使用が必ずしも予後の改善には結びつかないとする報告も見られ,その適応は厳格に判断される必要がある. 強心薬の主な適応は心原性ショック,臓器低灌流を伴う心不全などである.