CORE Journal 循環器
Volume 3, Issue 4, 2014
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目次
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Perspective
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残余リスクと生涯リスク
4号(2014);View Description Hide Description20 世紀の医療上の功績のひとつとして,心血管イベントの抑制につながる治療のエビデンスを確立したことがあげられる。1994 年に発表された4S 試験(スタチンによるLDL-コレステロール(LDL-C)低下療法が心血管イベントを約40%抑制し,結果として全死亡も約30%抑制した)を筆頭に,エビデンスが続々と発表され,実践的医学を大きく飛躍させ,それに伴いEBM という重要な概念が確立した。 EBM という概念が確立し,21 世紀になると,ではいったいどこまで心血管イベントを抑制できるのか?ということが話題になってきた。つまり,LDL-C や高血圧・糖尿病の治療は必須としても,どの程度すべきなのかということが問われるようになってきた。その過程で出てきた概念が,「residual risk(残余リスク)」と「life-time risk(生涯リスク)」である。
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CQ&CORE
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- 動脈硬化
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CQ1 心血管イベント抑制にホルモン補充療法は有効か?
4号(2014);View Description Hide Description女性の平均寿命の延伸とともに,健康寿命との差が大きくなっていることが問題となっている。欧米では高齢女性の健康上の問題に心血管イベントが関わっていることが重視され,とくに超高齢化の進むわが国おいては医療費の観点からも大きな問題となっている。これに対し,欧米では,心血管イベント抑制を目的に多くのホルモン補充療法(HRT)による大規模試験が行われてきた。しかし,1998 年に発表されたHERS 試験(Hulley S, et al. JAMA. 1998; 280: 605-13.)では,エストロゲン・プロゲスチン併用による冠動脈疾患二次予防効果は認められなかった。その後2002 年には,HRT が心血管イベントリスクを増加させる可能性,さらには発がん性の問題(Rossouw JE, et al. JAMA. 2002; 288: 321-33.)によりWHI 試験が早期終了となり,社会的問題にまで発展した。WHI 試験の結果はHRT の心血管イベント抑制に対する期待を大きく裏切ることとなり,ほぼ,否定的な結論となっている。しかし,最近,HRT の選択,治療開始時期の考慮などといった地道な研究が報告され,日本産婦人科学会もHRT の適切な実施を推奨している。 ではいったい,HRT はどのような患者に,どのような治療法を用いることが適切なのか,そして,それが,発がん性,死亡といった予後まで含めた形で推奨できるレベルなのか? LDL-C 低下療法などを行ってもなお存在する残余リスクに対し,HRT は有用といえるのだろうか? -
CQ2 糖尿病患者の心血管リスクを減少させる食事療法とは?
4号(2014);View Description Hide Description2 型糖尿病患者は,心血管疾患のために寿命が数年以上短縮するといわれている。合併症予防のための糖尿病治療の基本は食事療法と運動療法であるが,前者に関しては,インスリン抵抗性を助長する肥満の改善や動物レベルでの寿命延長効果のエビデンスなどから,カロリー制限がわが国でも国際的にも主流である。 近年,血糖値や脂質パラメータあるいは体重などを指標にして,カロリー制限食と,糖質制限食や地中海食を比較する臨床試験や疫学研究も盛んになってきている。しかし,心血管イベントの予防に関する効果については,サンプルサイズや観察期間・経費などが膨大となることから十分には検証されてこなかった。最近になって,心血管イベントの抑制効果をエンドポイントとして,食事療法の効果を検証する大規模臨床試験が発表されてきている。 食事療法は,個人や民族・地域の食文化や伝統を勘案しなければ継続性が望めないものであるし,個人あるいは民族間での遺伝子レベルあるいはエピジェネティックスな要素もその効果に影響を与える可能性もある。多面的な考察が必要とされる食事療法について,われわれ医師は現時点でどのような方針をとるべきなのか。 -
CQ3 尿酸低下は心血管イベントを抑制するか?
4号(2014);View Description Hide Description高尿酸血症は高血圧の発症リスクと相関することが示されている。また,RCT にて11 ~ 17 歳の高血圧を有する小児に対するアロプリノール投与は,コントロールに比して有意に血圧を低下させたことが報告されている(Feig DI, et al. JAMA. 2008; 300: 924-32.)。さらに,高尿酸血症が慢性腎臓病(CKD)のリスクであることも報告されている。メタ解析では,高尿酸血症と心血管リスクの相関が示されているものの(Kim SY, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2010;62: 170-80.),尿酸値の変動と心血管イベント発症は関連しないとの報告もある(Savarese G, et al.Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2013; 23: 707-14.)。高尿酸血症が高血圧やCKD のリスクなら,心血管病のリスクでもあることが予想され,尿酸値低下が心血管イベントを抑制するはずであるが,現時点ではそのような結果は得られていない。実地臨床における尿酸値への治療介入をどのように考え,また,現時点で臨床家はどのような方向性の治療を目指すべきだろうか。 - 虚血性疾患
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CQ4 急性冠症候群後の二次予防に経口抗凝固療法は有用か?
4号(2014);View Description Hide Description近年,非弁膜性心房細動による血栓塞栓症の予防薬としてワルファリンに代わる新規経口抗凝固薬が登場し,抗凝固療法の臨床的な制限が少なくなりつつある。最近は,急性冠症候群(ACS)後の症例に対し,新規抗凝固薬の有用性を検討した臨床試験も行われるようになってきた。 以前から,抗血小板薬へのワルファリンの追加が,心血管イベントの減少や予後改善をもたらすことは示されていたが,ワルファリンのコントロールが困難であることがその効果を低下させ,さらには出血性合併症のリスクも危惧されるなど,投与の妥当性が疑問視される面があった。さらに,ステントの登場によって心血管イベント発症が大きく減少し,焦点がステント血栓症の予防に移り変わると,抗凝固療法ではなく2 剤の抗血小板薬を用いることが「規定」とされるようになり,抗凝固療法は忘れ去られた感もあった。 しかし新規経口抗凝固薬が登場し,これらによって凝固活性を容易にコントロールできることが明らかにされたことで,抗凝固療法のACS 後の二次予防としての役割にも注目が集まるようになっている。これまでの抗凝固療法のエビデンスを整理すると,今後,ACS 後の二次予防に向けどのような薬物治療を行うべきなのだろうか。 -
CQ5 急性期脳梗塞に対し機械的血栓回収療法による脳血管内治療はt-PA静注より有用か?
4号(2014);View Description Hide Description超急性期脳梗塞に対するt-PA(アルテプラーゼ)静注療法は,わが国では2005 年以降,発症後3 時間以内の脳梗塞患者の血栓溶解療法として保険診療が可能となっている。その後2012 年8 月には,欧米での大規模臨床研究の結果を受け,治療可能時間が4.5 時間以内まで延長された。しかし,t-PA 静注療法には厳格な適応制限があるため,現状では脳梗塞全体の5%程度にしか投与されていない。このようななかで,発症後8 時間以内でのt-PA 静注療法の無効例や非適応例に限り,脳血管内治療で用いる機械的血栓回収デバイスが承認されている。われわれ専門医は脳血管内治療に大きな期待を寄せているものの,2013 年に入り,機械的血栓回収療法を含む脳血管内治療は,t-PA 静注による血栓溶解より優越性がないという臨床試験結果が立て続けに報告されている。 急性期脳血管内治療は,本当にt-PA 静注療法単独よりも有効性が低い治療法なのだろうか? われわれはこれらの臨床試験の結果をどう解釈し,日常診療へ結び付けていくべきであろうか? -
CQ6 浅大腿動脈のTASC D病変には外科的バイパス手術か,血管内治療か?
4号(2014);View Description Hide Description2007 年に世界17 学会が策定した末梢動脈疾患診療のガイドラインTrans-Atlantic Inter-SocietyConsensus (TASC)Ⅱでは,浅大腿動脈の20cm 以上にわたる閉塞などのD 病変に対する第一選択は外科的バイパス手術であるが,症例によっては血管内治療が行われることもあると記載された。TASC Ⅱガイドライン発表から6 年が経過し,慢性完全閉塞病変(CTO)専用デバイスの開発,逆行性アプローチなどの技術の進化,さらには再狭窄を抑制する薬剤溶出ステント(DES)や薬剤溶出バルーン(DEB)の開発・臨床応用,血管内治療後のシロスタゾール投与による再狭窄抑制のエビデンスの確立など,さまざまなイノベーションがあった。2014 年にガイドラインは改訂され,TASCⅢが報告される予定である。現時点において,短期および長期予後の観点から,TASC D 病変の第一選択をどのように考えるべきだろうか。 - 心不全
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CQ7 携帯型呼吸補助装置ASVは心不全に対する治療となりうるか?
4号(2014);View Description Hide Description高血圧,不整脈,虚血性心疾患などさまざまな循環器疾患における睡眠呼吸障害の意義がクローズアップされるようになって久しい。そのなかでも,心不全患者の約半数に何らかの睡眠呼吸障害が合併し,その約8 割が中枢性無呼吸症候群であることが分かった。睡眠呼吸障害の存在は心不全患者の臨床転帰の悪化につながることも明らかにされた。在宅酸素投与や持続陽圧呼吸療法などの治療法が開発されてきたが,その効果の限界も指摘されている。 ASV(adaptive servo ventilation: 順応性自動制御換気)は新しく開発された携帯型呼吸補助装置であり,従来型に比べてより生理的な補助が可能である。睡眠呼吸障害を有する症例に有効なのは当然であるが,最近このような呼吸障害の有無にかかわらず有効との意見も散見される。ASV は心不全一般の非薬物治療へと発展する可能性はあるのであろうか? -
CQ8 心不全におけるナトリウム摂取をどう考えるべきか?
4号(2014);View Description Hide Description心不全において,水分制限と塩分制限はセットで患者指導されることが多いが,そのエビデンスはほとんどない。国内外のガイドラインでもその記述は一定していないうえに,末期心不全では減塩を厳しくすると食欲がさらに減退し,低栄養を助長する可能性がある。したがって実臨床では末期に塩分制限を緩和することも行われる。 また末期心不全患者では低ナトリウム血症が認められるようになり,これは予後不良因子となる。体液貯留により希釈性の低ナトリウム血症が生じたと考えられるため,やはり教科書的には水分貯留の原因となる塩分の経口摂取を制限することが奨められている。その一方で,最近フロセミド+高張食塩水の静脈投与がフロセミド単独よりも利尿効果に優れるという報告も散見される。高張食塩水を追加すると血管内の浸透圧が上昇するために血管外の水分が血管内へ移動するという機序が考えられるが,高張食塩水を静脈投与することにより腎機能が保持され,血中ナトリウムも正常化するのではないかと考察されている。さらに現在臨床使用されているバソプレシンV2 受容体拮抗薬(AVP 受容体拮抗薬)トルバプタンは,利尿作用を発揮しつつ低ナトリウム血症を是正するという特徴をもつ。現時点において,心不全患者におけるナトリウム摂取をどのように考え,どのように実臨床に反映すべきなのだろうか。 -
CQ9 CKDを合併する心不全をどう治療するか?
4号(2014);View Description Hide Description心不全患者の約2/3 は,推算糸球体ろ過量(eGFR)が60mL/分/1.73m2 未満の慢性腎臓病(CKD)を合併することが知られている。eGFR 低値は,心不全患者の最も強力な予後規定因子であるといわれる。したがって,慢性心不全患者の治療を考えるうえで,CKD の存在を避けて通ることはできない。慢性心不全患者において必須の治療ツールであるレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬,β遮断薬,抗アルドステロン薬のいずれも,腎機能を悪化させる危険性をはらんでいる。CKD を合併する場合,これらの治療薬は両刃の剣となりうる。急性増悪期においても腎機能の推移は心不全の行末を占ううえで重要である。急性期の利尿薬により腎機能が悪化を来たした心不全例の院内転帰は不良である。 このように心不全のさまざまな局面においてCKD の存在意義は極めて重要であるにもかかわらず,その治療法はほとんど確立されていない。CKD を合併する心不全に対し,治療標的分子となり得るものは何か,また,われわれはどのような治療戦略を構築すべきなのだろうか。 - 不整脈
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CQ10 心停止/心室細動の既往のないブルガダ症候群に対するICDの適応は?
4号(2014);View Description Hide Descriptionブルガダ症候群は器質的心疾患のない壮年期男性の突然死の原因として重要で,典型的には夜間就寝中に多形性心室頻拍(VT)/心室細動(VF)を発症し,自然停止する場合もあるが,蘇生されなければ死に至る。心停止蘇生例やVT/VF 既往例には植込み型除細動器(ICD)が適応となるが,心停止/VF の既往のない,いわゆる無症候性ブルガダ症候群に対するICD 植込みの適応判定は苦慮することが多い。 ガイドラインではType 1(1 型)のブルガダ心電図(coved type)を有し,①失神,②家族歴,③電気生理検査によるVT/VF 誘発のうち2 項目以上を認めれば,クラスIIa でICD の適応となる。失神については,ブルガダ症候群には神経調節性失神の合併が比較的に多いことも指摘され,その診断には注意を要する。家族歴については,典型的ブルガダ症候群の突然死で,さらに心電図で1 型であることが証明されていれば明確であるが,そうでない場合も少なくない。電気生理検査によるVT/VF誘発の特異度(陽性的中率)は必ずしも高くない。以上のように,クラスIIa 適応とはいえど,実際にはICD 植込みが適切かどうか判断に迷うケースが多い。一方で,国立循環器病研究センターおよび特発性心室細動研究会の報告では,無症候性ブルガダ症候群の生命予後は良好とされている。 では,心停止/VF 既往のないブルガダ症候群のICD 適応は,生命予後の観点でどのように考えるべきだろうか。
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榊原カンファレンス
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今回の症例:心房細動に対する抗凝固療法―脳梗塞を発症した3例から学ぶこと
4号(2014);View Description Hide Description心房細動は循環器診療において,最も頻度の高い不整脈の一つです。その治療の大きな柱に,血栓塞栓症の予防があります。ワルファリンによる抗凝固療法の有用性は広く知られています。ワルファリンはわが国では1962 年から使用されていますが,最近まで唯一の経口抗凝固薬でした。直接トロンビン阻害薬であるダビガトランが2011 年から,第Xa 因子阻害薬であるリバーロキサバンが2012 年から,アピキサバンが2013 年から使用可能となりました。これらの新規抗凝固薬の登場により,心房細動症例における脳梗塞の予防は非常に注目されています。 今回のカンファレンスでは,『心房細動に対する抗凝固療法』を取り上げます。3 例の症例提示,薬剤科から抗凝固療法の注意点,最後に抗凝固療法のまとめという内容で話をすすめます。
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付録
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