CORE Journal 循環器
Volume 4, Issue 5, 2015
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目次
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Perspective
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CQ&CORE
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- 動脈硬化
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CQ1 LDL-Cの治療目標は目標値の絶対値か,低下率か?
5号(2015);View Description Hide Description2013 年秋にACC/AHA ガイドラインが発表され,大きな議論をよんでいる。その一つが,LDL-C の治療目標の決定のしかたである。LDL-C を低下させることが心血管病予防に有効であることは,多くのエビデンスによって示され,メタ解析でも磐石のエビデンスを築いているといってよいであろう。治療目標については,“the lower, the better”という定性的な議論があり,リスクに応じて治療目標を定めてきたのがこれまでの欧米のガイドラインであり,日本でも同様の基本理念のもとにガイドラインが作成されている。たとえば二次予防であれば,100mg/dL 未満という絶対値としての目標値を設定してきた。わが国のガイドラインでも,同様の絶対値を提示している。しかし,このような絶対値とともに,これまでのエビデンスをもとに,20 ~ 30%の低下率を求めるという文言も含んでいる。 2013 年のACC/AHA ガイドラインでは,このような絶対値によるエビデンスは存在しないと言い切ったうえで,絶対値による目標を明記しないという大きな方針転換がなされた。はたして,絶対値による治療目標を支持するエビデンスは,本当に皆無なのだろうか? また,低下率自体を治療目標とする磐石なエビデンスはあるのだろうか? -
CQ2 糖尿病患者の厳格血圧管理は健康寿命の延伸に有効か?
5号(2015);View Description Hide Description2013 年,米国糖尿病学会(ADA)は,糖尿病患者の降圧目標を収縮期血圧130mmHg 未満から140mmHg 未満に緩和した。ACCORD-BP をはじめとした臨床試験で,収縮期血圧をより厳格にコントロールすることによる心血管イベントの抑制効果は明らかでなく,むしろ血圧とイベントとの関係はJ カーブを描くという解析もみられるためと考えられる。一方で,わが国では高血圧治療ガイドライン2014 においても糖尿病患者の降圧目標は従来通り収縮期血圧130mmHg 未満としている。これは端野・壮瞥町研究などのデータに基づいて,わが国で動脈硬化性疾患として未だに優位である脳卒中について,収縮期血圧が低下するほど抑制が認められるためであるとされている。確かにUKPDS 38 試験(UK ProspectiveDiabetes Study Group: BMJ. 1998. 12; 317: 703-13.)でも,収縮期血圧が低下するほど,大血管症・細小血管症の発症リスクは低下している。 では腎症の発症予防なども勘案したうえで,はたしてわが国の糖尿病患者の健康寿命延伸のためには,血圧管理をどの程度にすればよいのだろうか? 実際にガイドラインの作成にあたられた先生に,その考え方とエビデンスについて概説いただく。 -
CQ3 肥満症に対する外科治療の効果は?
5号(2015);View Description Hide Description近年,肥満に対する外科治療(bariatric surgery)が米国で盛んに実施され,わが国においても2014 年4 月から,高度肥満の症例に対する袖状胃切除術(sleeve gastrectomy)が保険収載された。難治性肥満症例に対する有用性が期待される一方,適応症例の選別や術前・術後の管理体制などに慎重を要する必要性が指摘されている。 本稿では,肥満外科治療の有効性を1)体重減少効果,2)糖尿病改善効果,3)長期成績(有効性と安全性),4)日本人に対する効果(期待)について専門家に検証いただくとともに,実施上の注意点(マイナス面が危惧される場合など)についても触れていただく。 - 虚血性疾患
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CQ4 急性心筋梗塞における再灌流傷害を防ぐことは可能か?
5号(2015);View Description Hide Description急性心筋梗塞に対する再灌流療法により,急性期の死亡率は急激に減少した。しかし,急性期の死亡率の減少とともに,その後に慢性心不全を発症する人口が増加している。 これは,再灌流は急性期の予後改善をもたらすが,梗塞サイズ縮小が十分なされていないために,リモデリングをきたして心機能悪化へのプロセスが予防できていないことによると考えられる。長期的な予後改善には,急性期に再灌流による梗塞の進展防止だけでなく,さらなる心筋救済を目指した治療が望まれる。これまで動物実験では,再灌流によるさまざまな機序で,救済されるべき心筋が逆に壊死に至る,いわゆる再灌流傷害が示されていたが,臨床的には疑問視されてきた。しかし現在,ステントにより確実に再灌流が可能になったことで,再灌流傷害を防ぐことにより梗塞サイズは縮小が可能なのか否かについて注目されるようになってきた。 本稿では,再灌流傷害抑制に有効とされる薬剤のエビデンスについて検証していただくとともに,今後の「再灌流傷害の予防」の可能性について言及していただく。 -
CQ5 糖尿病合併脳梗塞で慢性期の厳格な血糖管理は再発抑制に有効か?どの程度管理すべきか?
5号(2015);View Description Hide Description糖尿病は,高血圧や脂質異常とともに脳梗塞発症の危険因子の一つであるが,糖尿病予備軍とされる耐糖能異常(Impaired Glucose Tolerance:IGT)の段階においても脳梗塞発症リスクは高いとされている。さらに,糖尿病を合併する脳梗塞は,非合併例に比較して有意に再発率が高いことは知られている。以上のことからも糖尿病は診断された時点ではすでに全身の動脈硬化が進行している可能性が高く,IGT を含む糖代謝異常の早期診断と早期の治療介入が重要と考えられる。 わが国における脳卒中治療ガイドラインでは,脳梗塞発症および再発抑制に関する糖尿病管理について,血糖コントロールは推奨されるが十分な科学的根拠がないと述べられている。さらに,脳梗塞慢性期の血糖コントロールにおける,管理目標値などの具体的な数値は明記されていない。われわれは脳梗塞の再発抑制に向けて,どこまで厳格に血糖値を管理すべきであろうか? さらに血糖管理において低血糖は極力避けたい合併症だが,どのような薬剤を選択していくべきであろうか? -
CQ6 動脈硬化性腎動脈狭窄症にステント治療は有効か?
5号(2015);View Description Hide Description動脈硬化性腎動脈狭窄症は難治性高血圧,進行性腎機能低下,反復性心不全を生じ,予後不良な疾患である。この病態に対して腎動脈ステント術が行われ,症状の改善が報告されるとともに,ガイドラインにも記載されている。 一方で,STAR 試験(Bax L, et al. Ann Intern Med. 2009; 150: 840-8.),ASTRAL 試験(ASTRAL Investigators; N Engl J Med. 2009; 361: 1953-62.),最近報告されたCORAL試験(Cooper CJ, et al. N Engl J Med. 2014; 370: 13-22.)など,降圧療法単独と比較したランダム化比較試験では,腎動脈ステントの有効性は証明されていない。動脈硬化性腎動脈狭窄症に対するステント治療の位置づけを明らかとしたい。 - 心不全
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CQ7 心不全に合併する安定した冠動脈疾患の治療は必要か?
5号(2015);View Description Hide Description急性心不全に急性心筋梗塞,不安定狭心症などの急性冠症候群が合併した場合は,冠動脈形成術を行うことにより,致死的イベントが回避できると考えられ,これは左冠動脈主幹部病変の合併も同様と考えられる。一方で,慢性心不全に合併する安定狭心症については意見の一致をみていない。たとえば生命予後に影響を及ぼさない安定した冠動脈疾患に対して,抗血小板薬,スタチンを含む十分な薬物投与を行った後インターベンションを行った場合は,有害事象が生じる分だけ,心不全患者の予後は悪化する可能性もある。実際,STICH 試験(Velazquez EJ, et al. N Engl J Med. 2011; 364: 1607-16.)では,CABG+薬剤vs. 薬剤の効果が検討され,心血管死ではCABG の有効性が示されたが,全死亡ではCABG の合併症もあり,CABG の明らかな有効性は示されなかった。 疫学的にも安定した冠動脈疾患が心不全に合併していた場合,フォロー中に心筋梗塞を生じる可能性は低いと考えられている。また,患者背景因子まで補正した場合,冠動脈疾患合併の有無は全死亡に影響を与えないとの報告もある(EVEREST サブ解析; Mentz RJ, et al.Eur J Heart Fail. 2013; 15: 61-8.)。 ESC の急性・慢性心不全ガイドライン2012 では,狭心症状および残存した心筋のない場合,血行再建術の意義は不明と記載されている。われわれは,心不全に合併する安定した冠動脈疾患に対して治療をすべきだろうか。 -
CQ8 頻脈性心房細動を合併した急性心不全をどう治療するか?
5号(2015);View Description Hide Description急性心不全はしばしば頻脈性心房細動を伴う。この場合,血行動態が不安定な場合は電気的除細動が優先されることは言うまでもないが,心拍数コントロール目的での抗不整脈薬の選択については,定説がない。古くはジギタリス薬が使われたが,即効性はなく,中毒の危険性もある。ベラパミルやジルチアゼムなどの非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は,即効性はあるが,陰性変力作用という欠点がある。 近年,静注用アミオダロンが使用可能となった。プロプラノロール静注も使われた時代があるが,やはり心機能抑制が問題となる。一方で,ランジオロールという短時間作用型β遮断薬も使用可能となった。このように,静注薬の選択肢が格段に増えた現状を踏まえて,頻脈性心房細動を伴った急性心不全の治療についてエビデンスを踏まえて再考したい。 - 不整脈
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CQ9 リスクを有する非弁膜症性心房細動に対する抗凝固療法は,新規抗凝固薬か,ワルファリンか?
5号(2015);View Description Hide Description心房細動の管理において,心原性脳梗塞の予防がもっとも重要であることはいうまでもない。この目的のために,血栓塞栓症リスクを有する例には抗凝固療法が推奨され,長くワルファリンのみに依存してきた。しかしながら,2011 年のダビガトラン,2012 年のリバーロキサバン,2013 年のアピキサバン,そして2014 年のエドキサバンの発売(または効能追加)により,治療方法は大きく見直されつつある。ダビガトランのRE-LY 試験,リバーロキサバンのROCKET AF 試験(J-ROCKET AF 試験),アピキサバンのARISTOTLE 試験,エドキサバンのENGAGE AF-TIMI 48 試験の結果を受け,各国のガイドラインは新規(非ビタミンK拮抗性)経口抗凝固薬(NOAC)を最適または処方すべき薬剤として位置付けている。わが国の「心房細動治療(薬物)ガイドライン2013 年改訂版」にも,同等の適応を有する場合NOAC がワルファリンよりも望ましいと記載されている。 ではその根拠は何であろうか。抗凝固療法では,血栓塞栓症予防とともに出血性合併症を可能な限り回避することが求められる。すなわち抗凝固と出血予防という,相反する命題に挑まなければならないのである。このジレンマに対してNOACとワルファリンを比較し,ガイドラインの拠り所となるエビデンスに基づいて,専門家に見解を述べていただく。
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榊原カンファレンス
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命を救う医療から人生を救う医療へ─左室自由壁破裂から社会復帰を果たした1例
5号(2015);View Description Hide Description64 歳男性,開業医。深夜に背部痛を自覚し,翌日自ら心電図をとり心筋梗塞と診断,昼ごろ榊原記念病院に救急搬送された。ER 到着後3 分で意識喪失,心タンポナーデを来し,左室自由壁破裂と診断。左冠動脈#6 の完全閉塞を含めた3 枝病変によるものと判明した。直ちに左室自由壁の修復術,並行して冠動脈バイパス術が行われ,患者は一命を取り留める。左室自由壁破裂のなかでも本症例のような急性型(blow- out 型)は,破裂後,数秒から数分で循環停止に至り,救命率はきわめて低い。本症例は,手術成功のみならず,術後半年弱で社会復帰を遂げた。心臓リハビリテーションを中心とした複合的ケアが,社会復帰の鍵となったケースである。そのとき,リハビリテーションスタッフ,看護師,臨床心理士は何を診てきたか。ここでは,とくに術後のコメディカルスタッフの連携に焦点をあて,社会復帰までの経過をたどる。
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付録
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