医学のあゆみ
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- 細菌学・ウイルス学
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- 臨床医のための微生物学講座 7
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黄色ブドウ球菌
288, 12(2024);View Description Hide Description◎グラム陽性球菌である黄色ブドウ球菌は,Panton-Valentine leukocidin(PVL)やToxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)などの毒素を産生し,皮膚軟部組織感染症から,肺炎や菌血症などのさまざまな感染症を引き起こす.1961 年に半合成ペニシリンのメチシリンに耐性を獲得した黄色ブドウ球菌はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)と命名され,その後,各種抗菌薬に耐性を獲得した多剤耐性菌となった.1980 年代のMRSA は院内感染菌の実に80%を占めており,最近でも高頻度に検出される耐性菌である.近年では,市中感染のMRSA が増えており,かつPVL 産生株やPVLとTSST-1 の両毒素産生株の出現など,MRSA の多様化には注意が必要である. - 緩和医療のアップデート 2
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わが国の緩和ケアがユニバーサル・ヘルス・カバレッジに組み込まれるための今後の課題
288, 12(2024);View Description Hide Description◎ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)は,持続可能な開発目標(SDGs)の目標のひとつとされ,「すべての人が適切な予防,治療,リハビリ等の保健医療サービスを,支払い可能な費用で受けられる状態」を指す.世界のホスピス・緩和ケアの普及・啓発に取り組むWorldwide Hospice Palliative Care Alliance(WHPCA)は,UHC には,①すべての人が,健康増進,予防,治療,リハビリテーション,緩和を含むあらゆる医療サービスを基本的で必要不可欠な医療サービスとして利用できること,②人々が医療を受ける際に経済的リスクから守られること,を重要としている.わが国の緩和ケアがUHC に組み込まれるためには,生命を脅かす病に対して緩和ケア・アプローチを提供することも,緩和ケア・サービスのひとつであることを国民,医療従事者が理解したうえで,医療従事者に対する緩和ケア・アプローチの普及・啓発と,緩和ケア・アプローチの実践に対する診療報酬制度も含めた医療制度としての仕組みが必要である.
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- 世界の食生活 16
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- 死を看取る ─ 死因究明の場にて 8
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脳死③
288, 12(2024);View Description Hide Description死とは生命の終焉であり,誰もが最後には必ず経験するものである.この過程で起こる身体上の変化と,死に関わる社会制度について,長年日常業務として人体解剖を行ってきた著者が法医学の立場から説明する.
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特集 GLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1受容体作動薬─ 非臨床・臨床のエビデンスと実臨床における注意点
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インクレチン研究のあゆみと新たな展開
288, 12(2024);View Description Hide Description腸管の栄養素を感知してインスリン分泌を促進するホルモンである“インクレチン”の発見からは50 年が過ぎようとしている.血糖依存性にインスリン分泌が惹起されるインクレチンシグナルは,糖尿病治療薬のターゲットとして早期から注目されており,今日の糖尿病治療において広く使われるようになった.さらに,インクレチンが全身の臓器に作用し,多様な生体機能を担うホルモンであることが明らかになり,その多様な作用も臨床的に重要であることが認識されてきた.本稿では,インクレチンの概念が提唱されてから,インクレチンシグナルの全体像が明らかになり臨床応用されるまでの歴史を振り返り,近年,さらに進展をみせるインクレチン研究について触れたい. -
受容体作動薬の分類と血糖改善・体重減少効果のメカニズム
288, 12(2024);View Description Hide Descriptionインクレチン関連薬のなかでも,GLP-1(glucagon-like peptide-1)受容体作動薬は,血糖依存性にインスリン分泌を増強かつグルカゴン分泌を抑制し,単剤で低血糖を起こしにくく,強い血糖降下作用を有する2型糖尿病治療薬である.また,食欲抑制作用を有し,体重減少作用もみられ,最近,わが国で約30 年ぶりの肥満症治療薬としてGLP-1 受容体作動薬が新たに承認された.一方で,GIP(glucose-dependent insulinotropic poly-peptide)/GLP-1 受容体作動薬が最近新たな2 型糖尿病治療薬として登場し,注目を浴びている.GIP はこれまで生理的には高脂肪食による肥満を誘導するインクレチンと考えられてきたが,薬理的レベルでGIP とGLP-1 の両受容体を刺激するGIP/GLP-1 受容体作動薬は,GLP-1 受容体作動薬と比べてより強い血糖降下作用と体重減少作用が認められる.GIP/GLP-1 受容体作動薬の作用メカニズムについては不明な点が多く,今後の研究の進展が期待される. -
心血管疾患に対するGLP-1受容体作動薬の効果
288, 12(2024);View Description Hide Description糖尿病は心血管疾患の重要な危険因子のひとつであり,糖尿病患者は非糖尿病患者と比較して心血管疾患の頻度が約2~4 倍も高いとされている.血糖値を低下させることは糖尿病治療の基本であるが,血糖コントロールのみで糖尿病患者の心血管イベントを完全に抑制することは困難であることから,心血管系に対する保護作用を持つ血糖降下薬を選択し,“どのような薬剤を使用して血糖値を下げるのか”を考慮する重要性が増している.GLP-1(glucagon-like peptide-1)受容体作動薬は心血管疾患の既往がある,あるいは複数の心血管疾患のリスク因子を持つ2 型糖尿病患者の主要心血管イベント(MACE:心血管死亡,心筋梗塞,脳卒中)を減少させることが複数の大規模臨床試験において確認されている.心不全患者への適応についてはさらなる検討が必要であるが,特に動脈硬化性疾患を有する2 型糖尿病患者に対しての積極的な使用が各国のガイドラインでも推奨されている. -
糖尿病関連腎臓病におけるGLP-1受容体作動薬とGIP/GLP-1受容体作動薬の腎保護作用に関する非臨床・臨床からのエビデンス
288, 12(2024);View Description Hide Description血糖依存的に膵β細胞からのインスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるインクレチンの主要な構成因子glucagon-like peptide-1(GLP-1)と,gastric inhibitory polypeptide またはglucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)の受容体は,腎臓を含むさまざまな臓器において発現しており,それぞれの臓器で多彩な膵外作用を発揮していることが報告されている.GLP-1 受容体作動薬は薬理学的濃度まで血中GLP-1 濃度を上昇させることが可能であり,GLP-1 受容体作動薬投与により腎臓内GLP-1 受容体シグナルを顕著に増加させることで抗酸化作用が発揮され,慢性の高血糖状態下で腎臓内に増加した酸化ストレスの軽減を通じて糖尿病腎の保護に寄与することが基礎研究から明らかとなってきている.臨床研究においてもGLP-1 受容体作動薬ならびにデュアルGIP/GLP-1 受容体作動薬は,2 型糖尿病患者での腎関連複合アウトカムのリスクを低下させることを示す複数のエビデンスが集積してきている.こうしたエビデンスを背景に,これらの2 型糖尿病治療薬が今後,さらに増加が懸念される糖尿病関連腎臓病を合併した2 型糖尿病患者に対する治療戦略として貢献することが期待されるところである.
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