別冊整形外科

整形外科領域における今日的なテーマを企画、公募によるオリジナル論文を掲載
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骨・関節感染症の治療戦略
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- Ⅲ.検査・診断
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4.新しい手法による診断:プレセプシンの術後感染症診断における有用性
41, 81(2022);View Description
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インプラントを用いることが多い整形外科手術では,手術部位感染(SSI)の早期診断が重要である1~5).しかし,手術侵襲後には感染を合併しなくても全身性炎症反応が生じるため,SSI の早期診断はむずかしい1,4).従来,白血球数・分画2),C 反応性蛋白(CRP)3,5),赤血球沈降速度5)などがSSI 診断マーカーとして用いられてきたが,感染を伴わない手術侵襲後にも変動,あるいは感染の軽快後も異常値が持続するため,SSI 診断における特異度は低く,必ずしも診療上有益な情報を得ることができなかった1,4). 近年,新しい敗血症診断マーカーとしてプレセプシン(PSEP)が発見され6),敗血症の早期診断ばかりでなく重症度・予後予測にも有用であるとの報告がある6~9).そこでわれわれは2012 年9 月以降,東北大学病院整形外科脊椎診療班における全身麻酔下予定手術例を対象として,PSEP と従来のマーカーを経時的に測定してきた.本稿ではPSEP の術後非感染例と感染例における周術期動態,術後創傷感染症早期診断における有用性について述べる. -
4.新しい手法による診断:新たな人工関節周囲感染診断マーカーとしてのミエロペルオキシダーゼ
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人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)は,人工関節置換術の1~2%で発生し,もっとも重大な術後合併症の一つである1,2).PJI の術後2 年以内の死亡率は25.8%と報告されている3).PJI の診断は臨床所見と血液や関節液の各種バイオマーカー,細菌培養検査,組織学的検査の組み合わせで行われており4),現在のところ,PJI を完璧に診断することができる単独のバイオマーカーは存在しない.血液中の炎症マーカーは特異性が低いという特徴があり,また細菌培養検査は原因菌同定のゴールドスタンダードであるが感度が低く,またコンタミネーションによる偽陽性の頻度も高いのが特徴である.PJI の診断は依然として課題であり,正確で迅速なバイオマーカーの開発が期待されている. 近年,PJI のバイオマーカーとして,いくつかの物質が報告されている.関節液中の白血球数,多核白血球分画,白血球エステラーゼ,IL—6,IL—8,αディフェンシ(CRP)と並び,αディフェンシンがもっとも研究されている関節液中のバイオマーカーであり,αディフェンシンは,International Consensus Meeting 2018(ICM2018)のPJI 診断基準の小基準にも含まれている4).しかし,αディフェンシン検査はわが国では研究用に限られ,かつ検査キットが高価であるため一般の病院で使用することはむずかしいのが現状である.われわれはαディフェンシンにかわるバイオマーカーの検索を行ってきた. ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は,好中球のアズール顆粒に含まれ,次亜塩素酸の生成を触媒することで病原微生物に対して殺菌的に作用する酵素である.近年,病原微生物に対し好中球が放出する好中球細胞外トラップ(NETs)という構造物が注目されており7),NETs 放出と同時に細胞内のMPO が放出されることがわかってきた8).これらの動態から,われわれはMPO にPJI の新規バイオマーカーとしての可能性を模索するにいたった.これまでに,PJI 診断におけるMPO 検査の診断精度を評価し,MPO がPJI 診断のための優れたバイオマーカーとなることを報告した9).本稿では,さらにαディフェンシンの測定を加え,関節液中のMPO とαディフェンシンを比較した. - Ⅳ.治療総論
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1.抗菌薬含有骨セメント,モールドスペーサー:セメントビーズ作製器の骨・関節感染症治療への使用経験
41, 81(2022);View Description
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抗菌薬含有セメントビーズは骨・関節感染症の局所制御ツールの一つである.しかし,同質で手頃なサイズのビーズを一度に大量に作製することは困難である.われわれはイソメディカルシステムズ社(東京)とセメントビーズ作製器(パールメーカー)を共同開発し2014 年10 月から使用している1~3).その使用経験とこれまでに骨・関節感染症に対して用いた17例の経過をあわせて報告する. -
2.iSAP,iMAPによる感染症治療:膝骨・軟部感染症に対するintra-soft tissue antibiotics perfusion,intra-medullary antibiotics perfusionによる治療の1例
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骨・軟部組織感染症において,抗菌薬の組織移行性や細菌のバイオフィルム形成の問題から治療に難渋することがある.通常の抗菌薬の経静脈投与で感染コントロールが不良な難治性骨・軟部組織感染症に対して,圓尾らはcontinuous local antibiotics perfusion(CLAP)を提唱している.これは抗菌薬の局所投与により感染巣に高濃度の抗菌薬を分布させることを目的としており,骨組織感染症に対するintra-medullary antibiotics perfusion(iMAP),軟部組織感染症に対するintra-soft tissue antibioticsperfusion(iSAP)が含まれる1~4). 本稿では,骨髄炎に化膿性膝関節炎を併発した症例に対してiMAP,iSAP を併用し,感染の鎮静化が得られた症例を経験したので報告する. - Ⅰ.疫学・病態
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2.開放骨折に関する疫学調査:下肢長管骨開放骨折例のlower extremity functional scaleによる患者立脚型機能評価―個別項目の検討
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下肢開放骨折の治療成績の検討は主として,骨癒合時期や感染発生率について骨折部位,軟部組織再建の時期,方法,内固定材の種類などを変数として行われており,機能評価は跛行や関節可動域制限の有無に限られたものが多く,患者立脚型でのdisability の報告はこれまで少ない.そこで本研究では,当院で加療し,日本骨折治療学会開放骨折登録(Database of OrthopaedicTrauma:DOTJ)に登録した下肢長管骨開放骨折の治療成績を,DOTJ で使用されているlower extremity functionalscale(LEFS)[表1]を用いて後方視的に検討した.特にこのLEFS の各項目のなかで,どのような動作が困難となったかを検討した. - Ⅳ.治療総論
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3.抗菌薬による治療:骨感染症における抗菌薬の適正使用
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骨感染症は,現在においても治療に難渋することが多い.近年,骨感染症に対する抗菌薬の使用法が変化してきた.本稿では骨感染症における抗菌薬の使用法について解説する. - Ⅴ.治療各論
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1.化膿性関節炎の治療:血行性化膿性脊椎炎に対する骨破壊機序の解明と抗receptor activator of nuclear factor—κB ligand(RANKL)抗体の骨破壊抑制―第1報
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近年,化膿性脊椎炎は国内外において増加傾向にあり,しかも診断が遅延あるいは誤診しがちな疾患として注目を浴びている.欧米では10 万人あたり5~10 人の発生頻度であり,国内においても10 万人あたり2007 年は5.3 人であったが,2010 年には7.4 人に増加した1).2011年にYoshimoto らは国内における化膿性脊椎炎の103 例のうち65 歳以上の高齢患者の割合が43.7%で,時代とともにその割合は37.5%(1988~1993 年),44.4%(1994~1999 年),55.5%(2000~2005 年)と増加傾向にあったと報告している2).この理由には,MRI による画像診断の進歩と化膿性脊椎炎という概念の普及があげられる.さらに,インプラントを用いた脊椎手術の普及,抗菌薬の乱用による耐性菌の増加,人口の高齢化およびこれに伴う易感染性宿主の増加など医療環境の変化が考えられる. 化膿性脊椎炎は,早期に診断し適切な対応をとれば保存的治療で十分に治癒可能であるが,時に診断が遅れ,結果として感染の重篤化や遷延化,すなわち麻痺の発現や敗血症を惹起し治療に難渋することがある.化膿性脊椎炎の早期画像診断法としてMRI の有用性が確立されているが,発症後,超早期には感染を示唆する所見に乏しく,また信号変化が認められても特異性が低いうえ,罹患椎体の骨微細構造の変化をとらえることも不可能である.筆者らは骨微細構造画像が得られる多列器CT(multi-detecter row CT:MDCT)を用いて化膿性脊椎炎の初期から抗菌薬投与後治癒までの椎体の病態解析を行い,その有用性を報告している3). 化膿性脊椎炎の治療は局所の安静と感受性のある抗菌薬治療の保存的治療が原則であるが,中には局所の骨破壊が進行し神経麻痺の発症により手術になる.局所の骨破壊が進行増大すると,脊柱変形や麻痺を併発するため診療上大きな問題となる.骨破壊の実行役として破骨細胞は不可欠であり,破骨細胞が欠損したreceptor activatorof nuclear factor—κB ligand(RANKL)knockoutmouse では,炎症を伴うも骨破壊は起こらないことが知られている4).最近,骨粗鬆症のみならず関節リウマチ,転移性骨腫瘍の骨破壊はRANKL により分化・活性化した破骨細胞の関与が指摘され,抗RANKL 抗体治療が実践されている5).しかし,化膿性脊椎炎における骨破壊の機序はいまだ解明されていない.そこで,本研究では血行性化膿性脊椎炎に対する骨破壊機序をMDCT で解明し,抗RANKL 抗体の骨破壊抑制効果を検証する. -
1.化膿性関節炎の治療:化膿性膝関節炎に対する広範囲関節鏡視下デブリドマンと後方留置オープンドレナージの有用性
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化膿性膝関節炎は短期間に関節軟骨などを破壊し,膝関節機能を著しく低下させる病態であり,緊急に適切な対処が迫られる.治療としては,適切な抗菌薬の使用に加え,十分な滑膜切除と確実なドレナージが必須である.滑膜切除は従来,関節切開により行われたが,システマティックレビューでは関節鏡視下のほうが,関節切開よりもリスクが少なく,再手術率も少ないと報告され1),近年では関節鏡視下に行われることが多い.しかし,後方関節腔を含めた滑膜切除は,神経血管損傷の危険性もあり比較的困難な処置と考えられている2~5).加えて,排液のために関節腔に挿入するドレナージは通常,関節腔の前方部分に挿入されるため,重力のために後方に貯留しやすい関節液の排液には不利である6,7).また,前方のドレナージは膝蓋大腿関節や大腿脛骨関節に挾まれやすいために可動域訓練や歩行訓練は困難である場合もあり,関節拘縮の発生も危惧される. われわれは,通常の膝蓋下外側・内側ポータルに加え,近位内側,後内側,後外側ポータルを加えた5 ポータルより後方関節腔を含めた広範囲関節鏡視下デブリドマン(広範囲AS デブリ)を行い,後内側ポータルから後方中隔を貫通して後外側ポータルに連続する後方留置オープンドレナージ(後方ドレナージ)を行うことで効果的な排液が可能となり,ドレーン留置中も歩行可能で,かつ良好な成績を得ることができたので報告する. -
2.化膿性脊椎炎の治療:化膿性脊椎炎の最新の知見―診断学から手術的治療まで
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近年,高齢化および糖尿病や透析患者,ステロイドおよび免疫抑制剤使用患者の増加に伴い,化膿性脊椎炎は増加している1).このため,罹患者はcompromised hostが必然的に増加し,治療に難渋することが多い.治療としては抗菌薬に加えて安静が基本であるが,麻痺や不安定性を認めた場合では手術が必要となる.また,感染治癒後に脊柱変形や機能障害を呈することもあり,適切な治療が必要である.本稿では近年の文献をふまえ,化膿性脊椎炎に関して治療を中心に解説をしていく. -
2.化膿性脊椎炎の治療:化膿性脊椎炎の保存的治療と手術適応
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化膿性脊椎炎の治療の基本は,抗菌薬による保存的治療である.保存的治療の指針に関する十分な研究がなされたとはいえないものの,Infectious Disease Society ofAmerica(IDSA)からガイドラインが示され1),その後も質の高い報告が続き,推奨される治療が確立されつつある.一方,適切な保存的治療には手術適応の理解も重要である.本稿の目的は,化膿性脊椎炎の保存的治療と手術適応に関して,近年の報告をレビューし,自験例の研究結果と合わせて,わが国における適切な化膿性脊椎炎の保存的治療を検討することである.