別冊整形外科
整形外科領域における今日的なテーマを企画、公募によるオリジナル論文を掲載
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バイオ時代におけるリウマチ性疾患の診療
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- Ⅰ.関節リウマチの病態
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1.疫学:関節リウマチ患者における骨粗鬆症―IORRAコホート研究の結果から
42, 84(2023);View Description Hide Description関節リウマチ(RA)は近年治療薬の発展により,多くの患者で寛解または低疾患活動性を得ることができるようになった1).またRA は続発性骨粗鬆症の原因疾患として知られており,同時にRA 患者の合併症で頻度が高いのが骨粗鬆症である2).またRA 患者における新規骨折は患者の日常生活動作(ADL)をさらに大きく低下させるため,骨折防止対策が非常に重要であり,骨粗鬆症への治療介入は必須といえる.筆者らは東京女子医科大学において実施されているIORRA コホートをもとに,RA 患者と骨粗鬆症の関係についてこれまで多くの研究結果を報告してきた.本稿ではこれらの研究結果をもとに,RA 患者における骨粗鬆症の現状,および骨折の発生頻度やその関連因子,治療薬などについて述べる. - Ⅳ.手術的治療
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1.上肢:Monitored anesthesia careと超音波ガイド下選択的知覚神経ブロック併用麻酔での関節リウマチ伸筋腱皮下断裂再建術の治療経験
42, 84(2023);View Description Hide Description関節リウマチ(RA)薬物治療の進歩とともに整形外科における大関節手術件数は減少しているが,手指・手関節といった小関節の手術は一定の割合で行われていることが報告されている1).RA では手関節の罹患頻度が高く2),遠位橈尺関節障害に伴う伸筋腱皮下断裂は日常診療において経験することが多い.RA 患者における伸筋腱断裂再建時の問題点として動的腱固定を確認することが困難であること,また多数腱断裂が少なくないことがあげられる.伸筋腱断裂再建時における腱縫合の緊張度決定は術者の経験に委ねられている. 現在,手外科領域においてwide awake local anesthesia no tourniquet(WALANT)が注目されている.本法は2007 年Bezuhly らによって提唱された方法である3).10 万倍希釈のアドレナリン入りリドカイン塩酸塩を局所麻酔薬として用いて,鎮静や空気止血帯を利用することなく手の手術を実施することである.WALANT の利点は,術中に筋収縮と関節可動域(ROM)を術者が直視可能であることである.しかし問題点としては前腕骨など深部操作への効果が不確実であること,さらに術後早期に鎮痛効果が消失することがあげられる4). -
1.上肢:リウマチ手に対する手術戦略最前線
42, 84(2023);View Description Hide Description関節リウマチ(RA)は21 世紀になって診断と治療の技術が急速に進歩し,早期診断と強力な薬物治療により炎症をコントロールできるようになってきた.ところがRA の手術的治療の件数を検証すると,整形外科医が担う機能再建に対する需要は決して減少していないことがわかる1).生物学的製剤登場以前は荷重関節に対する日常生活動作(ADL)向上を目的とした手術がほとんどであったが,現在では非荷重関節におけるinstrumental ADL(IADL)向上をめざした人工関節や,手足の小関節に対する生活の質(QOL)向上をめざした手術が施行されるようになってきた2).RA は小関節,特に手指もしくは手関節から発症することが多く,罹患期間が長期になりやすいため,上肢の症状が進行しやすい1).上肢の関節破壊と変形がすすむと日常生活に支障をきたすことから,適切な時期に適切な治療を施すことが重要であるが,ガイドラインに沿った診断や治療を行っても上肢の変形や機能障害は経時的に悪化することがわかってきた3). RA による手指の変形はリウマチ手といわれ,母指変形とスワンネック変形やボタン穴変形といった手指変形,尺側偏位に分けられる.骨・関節・筋・靱帯・腱・皮膚など多彩な組織の障害が混在するため,評価と治療がむずかしい.非常に複雑な病態をもつリウマチ手変形を,機能に応じて評価することが重要である.そのためにはまず手の変形と機能の評価を適切かつ正確に行う必要がある. さらにつまみ,握り,書字や洗顔といったさまざまなADL の機能障害が生じるリウマチ手の手術は成績が安定せず,かつては外科医にとっても自信をもってすすめられる治療ではなかった.これはRA によって変形が生じる機序の理解が不十分で,変形の矯正が解剖学的あるいは合理的に行われていなかったことが原因と考えられる.RA による関節障害の評価と変形の機序を今一度見直し,それらに基づいた変形矯正を行って治療成績を改善する必要がある4).適切な手術的治療を行うためには,上肢の解剖学的構造や変形の機序に精通し,状態に応じた最適な術式を選択する必要がある.本稿では,RA による関節障害に対する手術的治療,特に関節温存手術など,脚光を浴びているリウマチ手に対する新しい手術戦略について解説する. -
2.下肢:新たな人工足関節置換術の使用経験
42, 84(2023);View Description Hide Description足関節破壊に対する手術選択肢としては,人工足関節全置換術(TAA),関節固定術,骨切り術(関節温存術)などがある.変形性関節症に比して日常生活の活動性が低い関節リウマチ(RA)はTAA のよい適応であると考えられてきたが,長期成績を考慮して固定術が選択されることも少なくなかった.数年前まで本邦で主に使用されてきた人工足関節は1990年代に発売開始された第3世代TNK Ankle(京セラ社)[TNK]と2000 年代初頭に発売開始されたFINE Total Ankle System(帝人ナカシマメディカル社)[FINE]の国産2 機種のみであり,両方とも前方進入型で,TNK が2 コンポーネント型でセメントレス固定(セメント固定にも対応可能),FINE は3コンポーネント型(モバイル型)でセメント固定という違いがある.この2 機種の本邦での使用実績は変形性足関節症も含め210~240 例/年ほどでしかなかったが,近年新たな機種が登場したことにより,TAA の症例数が急速に増加している.一つはオーダーメイドで作成する人工距骨とTNK の脛骨コンポーネントとの併用(京セラ社)[cTAA]であり,もう一つはTrabecular Metal Total Ankle(Zimmer Biommet 社)[TMA]である.TMA は前述2 機種と異なり,腓骨をいったん骨切りして外側から進入する外側進入型であり,2 コンポーネント型で主にセメントレス固定(セメント固定にも対応可能)で使用する. 本稿では最新機種であるcTAA とTMA の適応,術前計画,手術手技,後療法について,症例を示しながら概説する. -
2.下肢:関節リウマチの前足部変形に対する関節温存手術
42, 84(2023);View Description Hide Description足部は関節リウマチ(RA)でもっとも障害されやすい部位の一つで,手部よりも早期に障害されることが多い.30~50 歳代の女性に好発し,原因不明の足部痛には,高頻度でRA が含まれていることに留意する必要がある.進行期のRA では特徴ある変形を呈するが,生物学的製剤といった治療薬の発展により足部のRA の病態も変化してきている.典型的な前足部変形としては外反母趾,内反小趾,槌趾変形,外側趾中足趾節(MTP)関節背側脱臼,足底胼胝などを生じ,扁平三角状変形を呈するようになる.近年のRA の薬物治療の発展により,大関節の手術は減少傾向にある. その一方で,日常生活動作(ADL)の改善をめざす足部手術はむしろ増加傾向にある1).足部変形は歩行などの移動に関して著しくADL を低下させるため,手術になることが多い.手術的治療としては,外反母趾を伴う前足部変形に対しては母趾MTP 関節固定術や切除形成術が行われてきた.しかし,近年生物学的製剤などのRA 治療が進化したことで関節炎のコントロールが良好になり,骨状態がわるい症例や関節の破壊例が少なくなっていることや,関節固定術や切除形成術の術後機能障害や再発といった理由から,関節温存手術が広く行われるようになってきている2,3).以下に,RA の前足部変形に対する関節温存の実際について述べる. -
2.下肢:関節リウマチによる外反母趾変形に対する人工母趾中足趾節間関節置換術の臨床成績
42, 84(2023);View Description Hide Description関節リウマチ(RA)の足部変形は80%ほどの割合で生じる1).60%以上の割合で外反母趾変形を合併することが多い1).外反母趾に対する手術術式としては,関節が温存される場合はMitchell 法などの中足骨遠位骨切り術2),関節温存が困難と判断されるような場合は人工足趾関節置換術3~5)または中足趾節間(MTP)関節固定術を用いる6).当科としては外反母趾角40°を目安とし,40°以上であれば人工関節置換術を行っている.MTP 関節置換術について,当科では古くよりSwanson 人工足趾関節置換術を行ってきた4). 本研究の目的は,RA に伴う外反母趾変形を含む高度前足部変形に対する人工母趾MTP 関節置換術の臨床成績を検討することである. -
2.下肢:アルゴリズムに基づくリウマチ前足部手術
42, 84(2023);View Description Hide Description関節リウマチ(RA)における手術的治療において2000年代に入ってもっとも劇的な革新を遂げた分野は前足部手術であるといっても過言ではない.かつては中足骨頭を切除して中足趾節(MTP)関節脱臼を矯正する切除関節形成術が一般的であったが,薬物治療の進歩にうながされるように,関節を温存する術式へと劇的に変化してきた.2010 年に発表された中足骨近位短縮組み合わせ手術を端緒に1),この分野の発展においては本邦が世界をリードし続けている2~5).現在,用いられている骨切り法は大きく分けて遠位骨切り(皮切が小さい),近位骨切り(矯正力が大きい),骨幹部骨切り(水平骨切り,短縮量の術中調整が容易)があるが,リウマチ足は多数趾障害をきたしていることが一般的であり,トータルバランスを考慮して前足部の変形を矯正する必要がある. 当科では現在リウマチ足の多数趾障害に対してアルゴリズム(図1)を用いた術式選択を行っており,人工関節や固定術も含めてさまざまな手法の中から患者の状態に適した手術方法が容易に選択できるようになっている.本稿ではそのアルゴリズムを示すとともに,当科で比較的選択されることが多い,第1 中足骨に対する閉鎖式ならびに開大式近位回旋骨切り術,第2~4中足骨に対する遠位短縮斜め骨切り術,第5 中足骨に対する水平骨切り術などについて術前計画から手術手技,後療法について概説する. -
3.脊椎:リウマチ頚椎手術の変遷
42, 84(2023);View Description Hide Description関節リウマチ(RA)は滑膜の炎症と炎症性サイトカインの放出を特徴とする慢性炎症性免疫疾患であり,最終的に関節破壊と障害をもたらす.RA による頚椎障害は43~88%の頻度で発症し,7~36%で神経障害を呈することが報告されている1).その特徴として上位頚椎病変が多く,環軸関節亜脱臼,垂直性亜脱臼,軸椎下亜脱臼の頻度で発症する複合病変である2~4).これらの変形は脊髄病症状だけでなく,椎骨脳底動脈圧迫による脳梗塞や脳幹の圧迫による急性呼吸不全で突然死を引き起こすことがある.過去の研究において,RA 頚椎障害の未治療例のうち,脊髄障害を有する例は4 年以内に全例死亡5)し,76%で神経障害が悪化し7 年以内に全例死亡6)したと報告されており,生命予後のわるい病態である.2003 年以降,RA に対する生物学的製剤導入により一定の対象の患者において寛解という治療目標を達成可能となったが,頚椎障害の自然経過に対して生物学的製剤が与える影響に関する報告は少ない.本研究の目的は当大学における生物学的製剤導入以降のRA 頚椎後方固定術数と術式の推移を調査することにより,生物学的製剤がRA頚椎障害の治療に与える影響を検討することである.
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