Pharma Medica
臨床医・薬剤師を対象に,各種疾患治療に関する最先端の臨床学の学術的トピックスを解説。医学・薬学の中間領域を目指す学術月刊誌。医師の薬学に対する理解を深め,薬剤師にも臨床の啓蒙となる雑誌を基本方針として,近年注目されている臨床薬理学分野からも 高い評価を受けている。
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特集【移植医療の最前線】
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造血幹細胞移植
40, 3(2023);View Description Hide Description同種造血幹細胞移植は白血病などに対し年間約3,700例実施されている。少子化により、骨髄バンク、臍帯血バンクを介した非血縁者間移植がその3分の2を占める。最近、移植後大量シクロホスファミド法による血縁者間ヒト白血球抗体(human leukocyte antigen:HLA)半合致移植が開発され、より多くの患者に移植を提供できる体制となった。移植後の移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)や感染症などの合併症対策にも新規治療法が導入され、移植関連死亡率の低下、QOLの向上がみられている。白血病の移植後再発には免疫逃避が関連しており、免疫系を賦活させる治療法や維持療法が開発されつつある。一方、ドナーに対する利便性の向上も図られている。近年は、血液がんに対する新規治療薬の開発が相次ぎ、移植を含めた集学的治療によって、難治性血液疾患の治療成績向上が期待される。 -
肺移植
40, 3(2023);View Description Hide Description日本の肺移植は1998年に始まり、2022年末までに累計1,036例が行われてきた。改正臓器移植法の施行後、脳死ドナーの提供数は増加傾向ではあるが、依然としてドナー不足は深刻で肺移植待機患者の平均待機期間は2年半、待機中の死亡率は40% である。 臓器提供が少ない現状のなか、日本では肺移植において世界とは異なる独自の取り組みが行われてきた。生体肺移植、ドナー肺利用率の向上、片肺移植がその特徴であり海外と比較しても遜色のない肺移植後生存率である。 しかしこのような取り組みだけではドナープールのわずかな増加にしか貢献せず、近年増加する肺移植登録患者を救うことができない。 より現実的に有望な新しいドナーソースとして、心臓死後のドナー提供が考えられる。心停止ドナー肺移植はすでに一部の欧米諸国で盛んに行われ、各国のドナー数の増加に寄与している。国際的なデータによれば、心停止ドナー肺移植の生存率は脳死肺ドナーと同等である。 また他臓器を含めた心停止ドナー移植の導入には、腹部臓器常温局所灌流装置などの技術が寄与し、これによって臓器利用率が向上する可能性がある。今後、日本における心停止ドナー移植の導入には倫理的な課題は山積みであり、慎重な検討が必要である。 -
小腸移植
40, 3(2023);View Description Hide Description短腸症候群や、腸管蠕動不全といった小腸機能不全に対して、中心静脈ルートの枯渇や、長期の経静脈栄養による肝障害など、他臓器に障害が起きている場合、ひいては全身の恒常性が保てない状態に陥った場合には、小腸移植が適応となる。本邦においては、1996年5月に第1例目の生体ドナーからの小腸移植が実施され、その後2002年に初めての脳死下臓器提供による小腸移植が行なわれた。2010年の臓器移植法改正以降、現在はほとんどの症例において脳死ドナーからの臓器提供により小腸移植が施行されている。免疫抑制療法プロトコールや周術期管理の改良に伴い、その術後成績は年々向上しており、さらに昨年本邦にて初めて施行された同一脳死ドナーからの肝小腸同時移植の経験は、この領域の進歩に更なる知見をもたらしている。 -
移植医学と腫瘍学の融合:Transplant oncologyに基づきがんの治療と研究を再定義する
40, 3(2023);View Description Hide Description移植医学と腫瘍学の融合:Transplant oncologyとは何か? がんの治療と研究を再定義し、飛躍的に発展させる概念・試みとして2014年に初めて日本から提唱された。Transplant oncology は「がん患者の予後および生活の質(Quality of Life)の改善を目的としたあらゆる移植医学および移植外科手術の応用」と定義され、次の4つの柱(fourE’s)で構成される。 ⅰ. Evolution:がんに対する切除として移植を組み込むことによる集学的治療の進化 ⅱ. Extension:移植手技の応用による従来のがん手術の切除限界の拡大 ⅲ. Elucidation:腫瘍免疫と移植免疫の架け橋による自己・非自己認識システムの解明 ⅳ. Exploration:ゲノミクス解析による発がん・浸潤・転移機構の探究 本稿ではtransplant oncology に基づき、特に生命維持に不可欠な肝臓に発生する肝・胆道がんの治療体系に肝移植およびその手技が統合されることで、いかに患者の未来を拓くかについて述べる。 -
心停止後臓器提供
40, 3(2023);View Description Hide Description心停止後臓器提供(donation after circulatory death:DCD)はマーストリヒト分類で5つのカテゴリーに分類されるが、本邦のDCD は、この分類に当てはまらないケースが多い。本邦では心停止後臓器移植は肝移植2例、膵移植17例、腎移植6,179例が行われている。献腎移植は、改正臓器移植法施行後の脳死ドナーの増加に伴い、脳死下臓器提供(donation after brain death:DBD)での腎移植が多くなっている。成績はDBD 群で良好であるが、年齢50歳未満、冷阻血時間(cold ischemic time:CIT)12時間未満の心停止ドナーでは、DBD と同等の成績であった。本邦のDCDの問題点として、人工呼吸器の中止がまれであり、長い死戦期のため臓器機能障害が発生することである。現状では、人工呼吸器の中止による治療撤退が難しく、摘出時~摘出後の臓器機能温存対策が必要である。灌流保存を行い、機能の温存・改善を図る方法やVA-ECMO を用いて、心停止後も臓器の血流を維持し、機能温存を図る方法が試みられている。
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学会レポート
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連載
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- Medical Scope
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多職種によるライフステージに応じた関節リウマチ患者支援
40, 3(2023);View Description Hide Description関節リウマチ治療(rheumatoid arthritis:RA)の進歩は著しいが、患者への支援に関しては十分とは言い難く、小児期から成人期への移行診療体制、職場や学校での生活や妊娠・出産に対する支援体制、高齢化が進むなかでの合併症対策など、ライフステージに応じたさまざまな課題への対処が求められている(平成30年11月厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ等対策委員会報告書)。RA患者の支援内容は多岐にわたるため、その充実を図るには、さまざまなメディカルスタッフの関与や連携が必要だと考えられている。本稿では、厚生労働科学研究研究班の活動を紹介し、メディカルスタッフによるライフステージに応じたRA患者支援の実態と今後の課題について考えてみる。 -
糖尿病における包括的な認知症予防対策(J-MIND-Diabetes研究)
40, 3(2023);View Description Hide Description糖尿病は、認知症の発症リスクを約2倍に高める。糖尿病に認知症が合併すると服薬や食事・運動療法のアドヒアランスが低下し治療が困難となるため、認知症の予防は重要な課題である。認知症の予防に向けて、個々の生活習慣病の管理や、運動や栄養介入の効果が検討されているが、結果は一定していない。各々のリスクに個別に介入しても効果は限られており、これらの多因子に同時に介入することで大きな認知症予防効果が得られることが期待されている。本稿では、わが国で2019年より開始された、「高齢者2型糖尿病における認知症予防のための多因子介入(Japan-Multidomain InterventionTrial for Prevention of Dementia in Older Adults with Diabetes:J-MIND-Diabetes)研究」の概要と成果について紹介する。