癌と化学療法

癌と化学療法は本誌編集委員会により厳重に審査された、 日本のがん研究に関するトップクラスの論文を掲載。
Volumes & issues:
Latest Articles
-
投稿規定
-
-
-
総説
-
-
腫瘍循環器学の夜明け
48, 1(2021);View Description
Hide Description
がんの治療成績の向上に伴って,薬物療法や放射線治療による心血管合併症が生命予後やQOL を左右する大きな要因となってきている。がん治療による心血管系への影響は多岐にわたっており,循環器医の専門的な対応を必要とするケースが増えている。このような状況のなか新しい臨床研究分野としての腫瘍循環器学が立ち上がり,わが国でも腫瘍循環器学への関心は高まりつつある。また,2017 年には日本腫瘍循環器学会が設立され,この領域における様々な課題を克服するための活動が始まっている。がん診療科と循環器科との間の連携が,診療や研究,教育へと今後さらに拡がることが期待される。
-
-
特別寄稿
-
- 第42 回 日本癌局所療法研究会
-
胃GIST 術後肝転移化学療法中に発症し,早期に治療し得た内ヘルニアの1 例
48, 1(2021);View Description
Hide Description
症例は71 歳,男性。2017 年10 月に胃GIST にて胃全摘術,Roux-en-Y 再建が施行された。2019 年6 月に肝転移が判明し,₇ 月よりイマチニブによる化学療法が開始された。2019 年12 月未明より上腹部痛,背部痛が出現し当科を受診した。腹部造影CT 検査で十二指腸断端部からそれに連続する十二指腸および空腸が拡張し,空腸壁の造影効果が不良で周囲に腹水も認められた。絞扼性腸閉塞を疑い,直ちに緊急手術を行った。Petersenʼs defect と呼ばれる間隙に輸入脚が陥入した内ヘルニアであった。発症から手術までの時間が約1₀ 時間と比較的短かったこともあり,嵌頓した腸管は壊死に陥っておらず,ヘルニアの整復およびヘルニア門の閉鎖で手術は終了し,術後経過も良好であった。胃切除後の内ヘルニアの発生頻度は比較的低いが,発症すると重篤になる危険性がある。手術時に内ヘルニアの原因を作らないよう注意を払うことや,急な腹痛の発現時には本疾患を念頭に置く必要がある。 -
高齢者大腸癌に対する腹腔鏡手術の検討
48, 1(2021);View Description
Hide Description
高齢者および大腸癌患者の増加に伴い,高齢者大腸癌患者への腹腔鏡を用いた大腸癌手術は増加傾向にあると考えられる。大腸癌に対し腹腔鏡手術を受けた456 人を対象とし,高齢者大腸癌患者への腹腔鏡手術が非高齢者と同等に施行可能かを比較検討した。術前のASA‒PS は高齢者でやや不良であった。pStage には有意な差は認めなかった。5 年全生存率は高齢者で低かったが,出血量,手術時間,術後在院日数,Clavien‒Dindo 分類grade 3 以上の合併症の発生率に有意な差を認めなかった。高齢者大腸癌患者に対する腹腔鏡手術は非高齢者と比較しても安全に施行可能であると考えられた。 -
膵癌術後再発症例に対するNab‒Paclitaxel plus Gemcitabine 療法有効症例の検討
48, 1(2021);View Description
Hide Description
目的: 膵癌の手術後再発症例に対するnab‒paclitaxel plus gemcitabine(GnP)療法の有効症例の傾向を明らかにする。方法: 当院で膵切除術後再発に対して一次治療でGnP を使用した症例を有効群,無効群に分けて比較検討した。また,高分化型腺癌と中分化型腺癌の比較検討,再発時期による比較検討を行った。結果: 高分化型腺癌のdisease control rate は93.6%,無増悪生存期間が8.6 か月であったのに対して,中分化型腺癌は57.1%,4.4 か月と有意差を認めた。また,術後7 か月以降に再発した晩期再発症例は,6 か月以内に再発した早期再発症例に比べ有効であった。結論: GnP 療法は,高分化型腺癌と晩期再発症例に有効である可能性が示唆された。 -
食道癌化学放射線療法後の後腹膜リンパ節再発による十二指腸狭窄に対して腹腔鏡下胃空腸バイパス術を行った1 例
48, 1(2021);View Description
Hide Description
症例は83 歳,男性。3 年6 か月前に胸部下部食道癌に対して化学放射線療法を施行されていた。来院前日より嘔吐を繰り返し,当科へ緊急入院となった。精査の結果,腹腔リンパ節再発による十二指腸下行脚の高度狭窄と診断された。治療として消化管ステントは逸脱の可能性が高いと判断し,腹腔鏡下胃空腸バイパス術を行った。術後は経過良好であり,化学療法を行うために術後21 日目に当院腫瘍内科へ転科となった。悪性腫瘍による十二指腸狭窄は比較的多く経験される病態であり,胃空腸バイパス術や消化管ステント留置術などが広く行われている。消化管ステント留置術のほうがより低侵襲ではあるが,外方性圧排による病変ではステント逸脱を起こす可能性が高いため,バイパス手術を行ったほうがより安全な場合がある。食道癌化学放射線療法後の十二指腸狭窄に対して腹腔鏡下胃空腸バイパス術を施行し,術後早期に化学療法を再開できた1 例を経験したため報告する。 -
パクリタキセル+ラムシルマブ併用療法が著効した胃癌術後腹膜播種の1 例
48, 1(2021);View Description
Hide Description
症例は68 歳,男性。上部消化管内視鏡検査にて,幽門狭窄を来す潰瘍性病変から中分化管状腺癌の診断を得た。手術目的に入院し,幽門側胃切除,D2 郭清を行った。病理組織学的所見はtub2,pT4apN1M0,CY0,Stage ⅢA,HER2 score0 であった。術後S-1 療法を施行したが,術後₄ か月目に腹膜播種がみられたため,カペシタビン+オキサリプラチン併用療法を開始した。しかし術後5 か月でprogressive disease となり,パクリタキセル(PTX)+ラムシルマブ(RAM)併用療法へ変更した。Grade 2 の蛋白尿や下肢浮腫,Grade4₄ の好中球減少を認めたが,PTX の減量や休薬を図りながら治療を継続し,1 年6 か月の無増悪生存を得た。胃癌治療ガイドラインでは,切除不能進行・再発胃癌に対する二次治療としてPTX+RAM 併用療法が推奨されている。今回われわれは,胃癌術後腹膜播種に対しPTX+RAM 併用療法が著効した1 例を経験したので報告する。 -
薬物療法が有効であった大腸癌肝転移の1 例
48, 1(2021);View Description
Hide Description
症例は68 歳,男性。肝右葉に最大9.5 cm の多発転移巣を伴う下行結腸癌に対し,腹腔鏡下結腸切除を行った。術後mFOLFOX6+bevacizumab(Bmab)を行ったがSD で,3 か月後FOLFIRI+panitumumab(Pmab)に変更すると腫瘍は著明に縮小した。開腹するも肝転移は下大静脈に浸潤して切除不能であった。術後肝動注ポート5-FU ia+Pmab iv,再度のFOLFIRI+Pmab を行うも肝転移巣は増大悪化した。その後SOX+Bmab に変更したところ,再び縮小した。1 年以上外来通院を続け,3 年8 か月で原癌死した。休薬期間後同じ薬物療法を繰り返し用いて症状をコントロールできた大腸癌肝転移の1 例を経験したので報告する。 -
医原性膵管損傷による膵炎併発膵頭部癌に対して術前補助療法後に切除した1 例
48, 1(2021);View Description
Hide Description
症例は64 歳,女性。前医で膵頭部癌に対する内視鏡的逆行性胆道膵管造影施行時にガイドワイヤーが膵鉤部膵管から膵外に穿通した。膵鉤部からSMA 周囲に炎症が波及し,加療目的に当院に転院した。CT では膵頭部に28 mm の腫瘤性病変を認め,超音波内視鏡下穿刺吸引法で組織学的に腺癌と診断された。膵炎の波及でSMA 周囲に肥厚した軟部陰影と液体貯留を認めた。手術時のSMA 損傷のリスクも考慮し術前治療を行いながら炎症の消退を待つ方針とし,gemcitabine+S-1併用療法を2 コース施行した。治療後のCT では腫瘍径はわずかに縮小し,SMA 周囲の炎症所見は著明な改善が得られ,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。SMA からの剝離に難渋することなく切除可能であり,R0 切除が施行された。術後は特に合併症なく第18 病日に退院した。病勢の制御と時間経過による炎症消退に術前治療が有用であった症例を経験した。
-
特集
-
- わが国におけるがん遺伝子パネル検査の実践と多職種連携
-
がん遺伝子パネル検査後の患者申出療養
48, 1(2021);View Description
Hide Description
がん遺伝子パネル検査結果に基づき,遺伝子異常に合った抗がん剤が候補になる患者は10% 程度と限られており,医薬品へのアクセス改善が課題とされてきた。このような現状のなか,がん遺伝子パネル検査の結果に基づいた医薬品の治療機会として,治験や先進医療B などの臨床試験がないまたは対象とならない患者を対象に,患者申出療養の枠組みのなかで適応外薬を投与する臨床研究(通称受け皿試験)が実施中であり,すでに40 例以上に投与されている。本稿では,この受け皿試験の現状と多職種連携における課題,将来展望について論じる。