癌と化学療法
癌と化学療法は本誌編集委員会により厳重に審査された、 日本のがん研究に関するトップクラスの論文を掲載。
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総説
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一般住民に対する遺伝性腫瘍の生殖細胞系列変異の情報開示
51, 3(2024);View Description Hide Description研究目的で収集した一般住民のゲノム情報は,研究参加者(参加者)に返却している事例が世界的にも十分ではなく,諸外国の実施例も社会的背景が異なることなどから本邦に直ちに取り入れるのが難しい。個別化ゲノム医療の基盤構築を企図して2012 年に開始した東北メディカル・メガバンク計画では,同意取得時に将来ゲノム情報を返却する可能性があることを参加者に説明した。その後,疾患との関連が明確で,医療上の対策がある生殖細胞系列の病的変異について参加者に返却(回付)する方法について検討を重ね,2022 年度に5 万人の全ゲノム解析情報から遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)とリンチ症候群(LS)の病的変異保有者111 人にゲノム情報を回付した。未発症者を含む医療機関受診前のゲノム情報回付であることを踏まえて,参加者の知らないでいる権利に配慮し,病的であることが明らかな変異を対象とし,ゲノム情報の正確性を担保するため新たに採血してシングルサイト検査を実施した。結果説明時には医療機関受診を勧奨し,医療上の対策について説明した。参加者は30~40 代が最も多く,HBOC 78 人,LS 33 人であった。このうち,LS の12 人が全ゲノム解析での難読領域に位置する変異などの理由で,確認検査で病的変異を保有していないことが判明した。癌罹患歴がある人は28人(HBOC 20 人,LS 8 人)で,HBOC のうち乳癌罹患歴のある6 人はすでに遺伝学的に診断され予防的手術を受けていた。自費診療の継続や通院の負担を理由に,18 人の参加者が医療機関受診を希望しなかった。ゲノム情報の提供者に生殖細胞系列の病的変異情報を返却し,医療上の対策が受けられるように支援をすることはゲノム医療法の基本的施策にも記載されており,個別化ゲノム医療の基盤を広げるためにさらに推進すべき課題である。
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特集
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- 切除不能進行・再発がんの治療成績の向上
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切除不能進行・再発肺癌の治療成績の向上
51, 3(2024);View Description Hide Description細胞障害性抗がん剤はAACR において古典的化学療法であると定義され,永らくがん治療の主要な柱である。これらの治療薬の多くは,自然界の物質のスクリーニングにより開発された。非小細胞肺癌に対するこれらの薬の有効性は,1995年のメタ解析によってシスプラチンによって生存期間の延長がみられた。多くの治療薬が開発されたが,カルボプラチンとパクリタキセルやシスプラチンとゲムシタビンの組み合わせが標準治療であった。分子標的治療薬の開発は肺癌治療における大きな進歩であり,EGFR 阻害薬は日本で初めて承認された。治療効果予測因子はEGFR 遺伝子の特定の異常であることが判明し,ゲートキーパー部における二次変異への耐性が発生すること,遺伝子異常への特異性が高まると治療薬の有効性は向上することなどがわかった。その後は,複数のがんの原因となる遺伝子異常が同定され治療薬が開発された。免疫療法は,免疫チェックポイント阻害薬が唯一有効である。肺癌ではPD1/PDL1阻害薬による治療効果が早期に示された。現在は,免疫療法が効きやすい患者群に対しては初回治療から,そうでない患者でも化学療法との併用が標準治療となっている。さらに根治的治療の補助療法として,分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせによって生存期間が延長する。これは複合的なアプローチが患者の予後に有益である。 -
切除不能進行・再発食道がんにおける薬物療法の歴史と展望
51, 3(2024);View Description Hide Description切除不能進行・再発食道がんは予後不良な疾患の一つである。CF(シスプラチン+5FU)療法およびタキサン系薬剤はランダム化比較試験が行われたわけではないが,第Ⅱ相試験の結果をもって再発食道がんの一次治療および二次治療として標準治療とみなされた。その後,頭頸部がんや大腸がんで有効性を示していた抗EGFR 阻害薬の開発が進んだが,一次治療および二次治療のいずれでも生存期間を延長するには至らなかった。免疫チェックポイント阻害薬は様々ながん腫において単剤もしくは化学療法との併用で有効性を示しており,食道がんにおいても有効性を示してきた。KEYNOTE181試験およびATTRACTION3試験で,それぞれペムブロリズマブとニボルマブ単剤療法が化学療法に対して生存期間を延長した。また,KEYNOTE590試験とCheckMate 648 試験では未治療の切除不能進行・再発食道がんにおいてペムブロリズマブとCF 療法の併用がCF 療法に,ニボルマブとCF 療法の併用とニボルマブとイピリムマブの併用療法がCF 療法に対して優越性を示し,進行食道がんの一次治療の標準治療となった。免疫チェックポイント阻害薬の登場により生存期間は延長されたがまだ十分に満足のいく結果ではなく,CF 療法に免疫チェックポイント阻害薬および新規薬剤を組み合わせた治療法が研究されている。本稿では,進行・再発食道がんにおけるこれまでの薬物療法の歴史をたどっていくとともに,今後の展望についても触れていく。 -
切除不能進行・再発大腸癌の治療成績の向上
51, 3(2024);View Description Hide Description切除不能進行・再発大腸癌は根治が難しく,腫瘍の進行を遅延させ,生存期間を延長することを目的に薬物療法による治療が行われる。殺細胞性抗癌薬や分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療開発が行われ,切除不能進行・再発大腸癌における生存期間の延長が得られてきている。本稿ではこれまでの報告を基に,切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法の変遷や標準治療の最近の進歩,今後の展望について述べる。近年は特定の遺伝子異常に対する個別化をめざした治療開発も進められており,今後のさらなる治療の発展が期待される。 -
進行・再発乳癌に対する治療成績の向上について
51, 3(2024);View Description Hide Description診断時に遠隔転移を有するⅣ期進行乳癌や根治的治療後に時間を経てから遠隔転移などで診断される再発乳癌は,その治療目的は生存期間の延長とその期間内におけるquality of life(QOL)の向上・維持となる。治療の主体は全身の病変をコントロールすることであり,この目的において年代ごとの新規薬物療法の導入は予後改善に寄与しているはずである。しかし,たとえば2008~2016 年の診断年代別の進行再発乳癌におけるフランスのコホートデータでは,HER2 陽性乳癌でのみ年代を経ての生存期間の改善がみられ,それ以外のサブタイプでは認められなかった。これは生存期間の明確な延長をもたらす抗HER2 療法薬の導入タイミング前後で変化しており,年代別の予後の改善には明確な全生存期間の延長を示すことのできる薬剤の導入が必須のようである。他のサブタイプにおいても2017 年以降に大きな影響をもつ薬剤が導入されており,今後のデータをみていくことでそれらの反映を確認できるかもしれない。もちろん薬剤開発のみならず,がん/ホストのゲノム解析や分子診断の発展により,より適確な治療選択と治療変更が可能になりつつある。手術や放射線治療といった局所治療を含めた治療戦略の向上も重要な課題である。
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Current Organ Topics:Musculoskeletal Tumor 骨・軟部腫瘍 明日の骨・軟部腫瘍医療を変える基礎研究の最先端
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原著
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肥満症例に対する十分な郭清度・安全性を担保した腹腔鏡下直腸切除術のコツと成績
51, 3(2024);View Description Hide Descriptionはじめに: 今回,肥満症例に対する腹腔鏡下直腸切除術の当科の手術手技・工夫,短期成績を報告する。対象と方法:2013~2018 年に当科で施行した腹腔鏡下直腸切除術194 例を対象とし,非肥満群161 例と肥満群33 例に分けて短期成績を比較検討した。結果: 肥満群で手術時間が長かったが(225 vs 266 分,p=0.003),両群とも開腹移行はなく,出血量(1 vs5 mL,p=0.582),郭清リンパ節個数(20 vs 17 個,p=0.356),術後合併症発症率(9.3 vs 6.1%,p=0.547)に差はなかった。おわりに: 視野展開の工夫,メルクマールの明確化,手術手順の定型化により,肥満症例でも郭清度を担保した安全な腹腔鏡下手術が可能である。
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