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Therapeutic Research
- Author: 笠巻祐二1
Abstract
POCT(Point of care testing)とは,被検者の傍らで,あるいは被検者自らが行う検査であり,検査時間の短縮および被検者に見えるという利点を活かし,迅速かつ適切な診療,看護,疾病の予防,健康増進等に寄与し,医療の質,被検者のQOLに資する検査である。循環器領域においては,心電図,心臓超音波検査などの生体検査もPOCTの一部である。本講演では,発展著しい携帯型心電図の臨床と多様な応用について自験例を中心に概説する。携帯型心電計とは,心電計の機能を時空間上に拡大し,いつでも,どこでも,誰でも,簡単に利用できる携帯に便利なポケットサイズの心電計である。機種によりそれぞれ特徴があるが,心電図記録モードには,イベントボタンを押す前後の波形を記録するものと押した後の波形のみを記録するものに大別される。記録法には,使い捨て電極を体に貼りコードを介して携帯型心電計本体と接続するタイプと固定電極(本体内蔵電極)を直接体表に接して記録するタイプがある。従来の24 時間ホルター心電図が24 時間の長時間にわたり電極を装着する煩わしさがあること,またホルター心電図の記録中に患者の訴える症状,心電図変化が出現・記録されるとは限らないこと,多くの心電図情報を得られる一方,その解析に要する時間的,経済的負担も少なくないことを考慮すると,本法は簡便性および診断の効率性,即時性といった点においてホルター心電図を補完する新たな方法として臨床的意義が大きい。携帯型心電計の臨床的有用性としては,1)症状に対応して心電図所見が明確に得られること,とくにまれにしか出現しない症状の把握には常時携帯することで発作時の記録が可能となる,2) 記録された心電図を電話等の手段を用いて伝送し,それによる早期対処が可能である,3)外来患者の非連続的心電図モニターとして有用である。たとえば,抗不整脈薬を新たに投与した場合に,催不整脈作用による新たな不整脈の出現やQT延長をチェックできること,突然死の原因疾患として注目されているBrugada症候群の心電図モニターが可能であること,あるいは発作性心房細動では,症状の有無にかかわらず定期的な記録をすることで無症候性心房細動の存在が診断可能である。4) ホルター心電図と異なり,はるかに長期間にわたり被検者が常時携帯することで,任意の場所,および時間に心電図を記録して,ただちにそのデータを伝送し,解析することが可能である,などがある。また,臨床以外の携帯型心電計の多様な応用例には僻地巡回診療での利用,疫学調査への応用,学校心臓検診・生徒の健康管理,市民マラソンでの簡易心電図検診などがある。今後,携帯型心電計は,通常の外来で患者の症状の評価を行うとともに,簡便な心電図記録と電話伝送を利用した健康管理システム,ペースメーカークリニックなどのネットワークを拡大することによりさらに普及していくことが期待される。また,家庭用心電計の普及による心疾患の早期治療,早期予防が重要であり,そのためにはさらなる自動計測化の促進,予防効果の確認,経済効果(医療費減少効果)の検証も必要であろう。今後,さらなる小型軽量化,持ち運びやすさ,簡便な操作性,他の生体情報も併せた記録・通信が可能な機器の開発も望まれる。心電図検査の今後の発展を考えたとき,どのような進歩が予想できるだろう?現在行っている心電図検査の問題点の一つは身体に直接電極を装着する必要があることである。したがって,皮膚のかぶれの問題はいつも留意しなければならない。おそらく将来的には身体に直接電極を装着しなくても心電信号が記録できるようになることが期待される。一方,得られた心電情報の機序,原因が細胞レベルで明確に解明されるようになれば,さらに正確な病態の把握が可能となり,診断治療に役立つと考えられる。この分野のますますの発展を期待したい。
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