Abstract
背景:近年,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新規治療法により,がん治療の成績が飛躍的に向上している一方で,がん治療関連心筋障害(CTRCD)という病態が顕在化している.がん治療における心機能評価では,心エコ-図検査が重要な役割を担っている.スペックルトラッキング(STE)法を用いたgloballongitudinal strain(GLS:%)は,高感度かつ再現性の高い心機能障害の指標としてCTRCDの評価に強く推奨されている.HER2阻害薬(トラスツズマブ)は,用量非依存性であり,休薬により可逆性があるとされているが,改善がみられない報告もある.本研究では,トラスツズマブ投与後にCTRCD を発症し,休薬となった症例を検討した. 方法:対象は,乳がんに対しHER2 阻害薬(トラスツズマブ)投与開始後に心機能障害により中止に至った5 例である.これらの症例について,投与開始前,中止時,およびフォロ-アップ時におけるSTE 法を用いた局所のstrain を観結果:5 例のうち3 例は,トラスツズマブ中止後に心機能が改善したが,2 例は改善がみられなかった.心機能が改善した3 例では,中止時のSTE 法において心尖部のstrain が保たれていたのに対し,改善がみられなかった2 例では心尖部のstrain が低下していた. 結語:本研究は少数例の観察であるが,トラスツズマブによるCTRCD において,その中止による心機能改善の有無には局所的な特徴がみられた.CTRCD の心機能改善の評価は重要であり,局所の壁運動評価について今後さらに検討が必要である.