Abstract
導入:慢性腎臓病(CKD)患者において,CKD ステ-ジが進行するにつれて腎性貧血の有病率は高くなり1),赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis‒stimulating agent:ESA),鉄剤,輸血により管理されてきた.低酸素誘導因子‒プロリン水酸化酵素(HIF‒PH)阻害薬が登場してからは,ESA にかわる治療薬として注目されている.透析導入期にESA,HIF‒PH 阻害薬による腎性貧血管理をした際の違いに関してはいまだ不明な点があり,透析導入期までHIF‒PH 阻害薬を使用した症例はあまり多くない.そこで今回,透析導入期における両薬剤による違いを評価した. 方法:2021 年1 月から2023 年9 月までの期間に当院で透析導入した患者183 人のうち,除外基準を設け,86 人を解析対象とし,ESA で治療した群(以下,ESA 群)とHIF‒PH 阻害薬で治療した群(以下,HIF 群)の2 群に分けて透析導入期(透析導入1 ヵ月前から透析導入1 ヵ月後)のHb 値の経時的な経過などを評価した. 結果:ESA 群では透析導入1 ヵ月前から透析導入時にかけて有意な貧血の進行を認め,透析導入1 ヵ月後に有意な貧血改善を認めた.HIF群では,透析導入1 ヵ月前から透析導入時に貧血の進行を認めず,透析導入1 ヵ月後のHb 値に有意差を認めなかった.透析導入理由別でみると,尿毒症が原因で透析導入となった患者はHIF 群で有意に透析導入時のHb 値が高値であった(p<0.05). 結論:透析導入時は一時的な貧血の進行(ヘモグロビンディップ)を認めることが報告されており,当院の症例でもESA 群において同様の結果であった.一方,HIF 群においてはヘモグロビンディップを認めず,むしろ導入時のHb値上昇を認め,トランスフェリン飽和度(transferrin saturation:TSAT)はESA 群より優位に低い(p<0.05)ことから,HIF‒PH 阻害薬は鉄動態の改善に寄与した可能性がある. 尿毒症環境下においてもHIF‒PH 阻害薬は影響を受けにくく,透析導入後も継続投与することでHb 値を安定化させることができる可能性が示された.