Abstract
認知症,特にアルツハイマー病の中核症状は記憶障害であるが,この病態を理解するための神経化学的基盤としては,神経伝達物質の変化が重要である。アルツハイマー病脳ではアセチルコリン作動性神経が減少しているが,そのことに基づいてアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は開発されたが,この薬剤は記憶低下の進行を抑制することに貢献している。また,アルツハイマー病には,アミロイドβおよびタウ蛋白といったものが脳内に異常に蓄積することが知られている。これらの神経病理学的変化を理解することは,認知症の進行を根本的に抑制するdisease modifying therapyの開発においてきわめて重要であり,アミロイドをターゲットとする治療法(免疫療法,セクレターゼ阻害剤,アミロイド凝集阻害剤)と,タウ蛋白をターゲットとする治療法(リン酸化阻害剤,タウ重合阻害剤,免疫療法)とが検討されている。認知症の分子レベルでの理解が進み,多くのdisease modifying therapyが完成されることが期待されている。 Key words :dementia, Alzheimer disease, acetylcholine, amyloid, tau protein