Abstract
高齢者では,若年者と異なった薬物体内動態を示すだけでなく,神経伝達機能に加齢性変化を生じ,脳内の薬物反応性に影響が生じうる。一般身体疾患の併存も増加し,使用されている治療薬も多様となる。このような加齢に伴う変化は,個人差が大きく,個々の背景病態,身体機能,併存身体疾患,併用内服薬などを考慮し,個別性を持った薬物量の設定が必要となる。さらに高齢者では,認知機能障害を伴う場合も多く,Kiossesらは,高齢者の自殺に至るプロセスの中で情動と認知機能が関わる点に注目している。すなわち,加齢による脳器質的変化を伴うことで認知機能低下,特に衝動性の制御や判断力に影響が生じ,自殺に至るのではないかという仮説である。背景となる脳器質的疾患を的確に臨床診断することは,神経伝達機能の変化を把握することに役立つばかりでなく,向精神薬の投与による認知機能低下を含む有害事象を最小限に留めるためにも重要である。本稿では,高齢者の自殺に対する薬物療法のリスク・ベネフィットを考慮する上で,認知機能障害に配慮する重要性について述べた。 Key words : cognitive impairment, neurodegeneration, judgement, impulse control disorder