Abstract
身体的・精神的虐待や,両親との死別,貧困,いじめなどの幼少期ストレスは, 様々な精神疾患の発症を高めるとされるが,統合失調症との関連について,我が国では十 分に注目されているとは言い難い。幼少期ストレスが統合失調症の発症,罹患後の症状や 経過に与える悪影響が報告されており,そのメカニズムとして心理学的には認知・行動特 性の観点から,生物学的にはストレス応答の異常や遺伝子との相互作用の観点から研究が 行われている。これまでの研究を考慮すると,幼少期ストレスの既往を把握し,その患者 への影響を評価して経過観察に役立てることは,臨床上有用である。さらに,幼少期スト レスが現在の病状に影響を与えている症例については,幼少期ストレスに関する記憶や認 知,帰属をとり扱うことが治療的に有用である。忙しい診療の中,生活史を聞くことがお ろそかになりがちであるが,生活史を十分に聴取する姿勢が統合失調症の診療に不可欠で ある。 臨床精神薬理 21:465-472, 2018 Key words :: childhood trauma, psychosis, PTSD, cognitive-behavioral therapy, antipsychotics