Abstract
妊産婦の精神科薬物療法においては,母体および児のリスク・ベネフィットを十分考慮する必要がある.薬剤の胎児への影響を慎重に考慮する必要がある反面,十分な薬物療法を行わないことにより生じ得る精神症状の悪化は,妊娠期のセルフケア低下,睡眠障害や不適切な栄養による母体環境の悪化,産科的合併症,胎児の発育不全を引き起こす可能性がある.精神疾患の重症度,各精神疾患の治療における薬物療法の位置付け,各代替療法のリスク・ベネフィット,過去の病歴や治療反応性を考慮して薬物療法を行うか否か,行う場合はどの薬剤を選択するか慎重に判断する必要がある.薬剤の胎児や母乳への影響について服薬のリスクだけでなく,服薬中断のリスクについても十分な情報提供を行い,妊産婦と家族が適切な判断の下,治療選択ができるよう意思決定支援を行うことが重要である.妊産婦に関わる医療保健従事者間で薬物療法,治療方針,母乳育児に関して情報を共有し統一した支援を行うことが望ましい. 臨床精神薬理 27:817-824, 2024Key words : psychotropic treatment, pregnancy, lactation, shared decision-making