外科

Volume 65, Issue 1, 2003
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特集 肝静脈再建をめぐる諸問題 1.肝鋳型標本による肝静脈の解剖
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1.とくに肝静脈の相互吻合について
65巻1号(2003);View Description
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今回の肝静脈の検討には,通常より末梢まで樹脂を注入した7個の標本を対象とした.その結果,肝静脈吻合を①毛細血管レベルでの吻合,②それらが後天的に発達した吻合,③先天的に存在する吻合(異型的吻合)と三つのタイプに分類された.この分類を用いると,臨床的意義も明らかとなり,有用と考えられるとの結論を得た.
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特集 肝静脈再建をめぐる諸問題 2.肝静脈再建の適応と意義
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1.うっ血肝は萎縮するか
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肝静脈合併切除を伴う肝切除を行う場合に,静脈還流障害を生じた肝実質領域の肝静脈枝を再建すべきか否かという問題については,最近まで明確な結論が出ていなかった.肝静脈の中枢側が遮断された場合,その静脈還流障害領域をドレナージするような肝静脈間の相互吻合の有無が問題となるが,手術直後から機能する静脈間吻合枝は存在しないことが多い.また,肝の静脈還流障害領域では門脈が逆行性に流れて動脈血の流出路となっており,このような領域には正常な肝再生は期待できない.われわれの検討でも,中肝静脈を合併切除する左肝切除を行った場合,中肝静脈のドレナージ領域を含む肝右前区域の肝容積再生は損なわれ,とくに中肝静脈による還流域であった前区域腹側領域はCT 上萎縮する.また,静脈還流障害領域は門脈血流に乏しいため,この領域が術後正常な代謝能をはたすとは考えられず,拡大肝切除や生体部分肝移植を行うさい,このようなことを認識したうえで,肝静脈再建の必要性の有無を症例ごとに検討する必要があると思われる. -
2.肝切除における肝静脈再建の適応
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主肝静脈根部に浸潤した肝癌切除に対する肝静脈再建の必要性は徐々に認識されつつあるが,肝静脈再建の適応基準が明確に定まっていないため一般化された術式にはいたっていない.われわれは術前の肝静脈間の交通の程度の評価,機能的残肝volume 測定および術中肝静脈遮断による肝うっ血の有無を指標として肝静脈再建を行ってきた.従来の肝静脈造影に加え,最近では3D — CT やカラードプラによる血行動態の評価が行われている.肝静脈再建の適応決定は,肝静脈ばかりでなく,肝動脈と門脈の血行動態も十分把握したうえで行う必要がある.われわれが残肝機能温存のため肝切除術に導入した肝静脈再建が肝移植の分野で注目されてきており,今後,肝静脈再建の適応と意義はさらに明確になるものと思われる. -
3.肝移植における再建の適応
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生体肝移植ドナー89 例を対象として切離肝静脈還流領域における血行動態の変化を調べ,右肝グラフトの中肝静脈(枝)再建の適応を検討した.14 例(16%)において術中超音波ドプラ法にて肝内吻合枝を同定しえた.しかし,残り75 例(84%)では肝内吻合枝を同定しえず,切離肝静脈内に血流なくその領域の門脈枝は逆流していた.さらに,肝動脈一時遮断により肝表に著明な色調変化をきたし,組織酸素飽和度は25%まで低下した.その血流動態異常は57%の症例において術後7 病日後もみられた.よって,上記のような術中所見がみられる場合,変色領域から算出した残肝容積が十分でない場合,中肝静脈再建が必要となる. -
4.術後のfollow-upからみた移植肝における再建の適応
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生体部分肝移植でとくに右肝をグラフトにした場合,中肝静脈(MHV)を含むか否かやV5,V8 の再建の必要性については議論がある.肝静脈の肝内吻合は解剖学的存在とその機能に解離がある.超音波パルスドプラで術中・術後の肝静脈血流とそのドレナージ領域の門脈血流を観察した.術中,MHV をテストクランプしV5,V8 が逆流するかto &fro movement を示す例は,術後1 週間以内にMHV とRHV で肝内吻合が形成され再建の必要はないが,V5,V8 にDoppler signal がなく門脈右前区域枝が逆流する例は再建を要すると考えられる. -
5.肝移植における副肝静脈再建の適応
65巻1号(2003);View Description
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生体肝移植において肝静脈再建は重要な手技の一つである.Outflow block は致死的な合併症の一つであるが,症例に応じてグラフト肝およびレシピエント側肝静脈を選択・形成し,注意深い吻合を心がけることで回避できる.尾状葉付き左葉グラフトにおける短肝静脈や,右葉グラフトにおける右下肝静脈などの5 mm 以上の大きな副肝静脈は原則としてすべて再建する.右葉グラフトにおける中肝静脈分枝の再建は,間置グラフトを要し手技が複雑になるため,個々の症例でうっ血領域の広さとグラフト肝の大きさとのバランスを熟慮し,柔軟に対応する必要がある.
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特集 肝静脈再建をめぐる諸問題 3.肝静脈再建のテクニック
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1.VCSクリップを用いた右肝静脈再建
65巻1号(2003);View Description
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1996 年8 月以降,11 例の肝腫瘍に対してVCS クリップ(M)を用いた右肝静脈(RHV)再建を行ってきた.術式はすべて肝S7/8 切除兼RHV 合併切除,右外腸骨静脈グラフを用いたRHV 再建である.対象は原発性肝癌9 例,転移性肝癌2 例で,術前画像にて瘍がRHV を圧排あるいは浸潤が疑われたため本術式を選択した.手術時間は平均291 分,出血量は平均1,421 m l,グラフト長は2 〜 4(平均3.2)cm,再建時間は19 〜 40(平均28.1)分であった.術後合併症は胃潰瘍出血,胆汁漏,肝性脳症を各1 例に認めたが保存的に軽快した.グラフト開存率は術後早期は100%で,1 例は術後57 ヵ月残肝再発時に閉塞,1 例は術後4 ヵ月で多発肝転移で死亡したが不明,他の9 例は5 〜 65 ヵ月の観察期間で開存している.VCS クリップを用いたグラフト再建は手技的に容易で,開存性にも問題なく肝静脈再建には有用な方法と思われる. -
2.肝切除時の肝静脈再建に用いる静脈片
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肝静脈合併切除後の再建には,静脈をsegment として必要とする場合とパッチ修復で十分な場合がある.前者の場合,自家静脈として,外(内,総)腸骨静脈,大伏在静脈,浅大腿静脈,腎静脈などが,また切除肝の病変から離れた肝静脈,門脈も使用可能である.一方,パッチ修復には上記の静脈のほか,卵巣静脈も使用可能である.合併切除後の静脈の状況に応じて適切な径,長さの静脈片を選択して再建することが肝要である. -
3.左肝グラフトの肝静脈再建
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左葉をグラフトとする生体肝移植の肝静脈再建について記述した.再建における留意点は,静脈径の著しい差や肝再生に伴うねじれによって生じうるoutflow block をいかに回避するかである.まず,バックテーブルで必要に応じたグラフトの静脈形成を行う.一方,その静脈径に見合った肝静脈をレシピエント側で準備する.吻合には,術後における肝静脈吻合部狭窄を防ぐために,結節縫合と連続縫合を併用している.また静脈系の血流は,閉腹時のグラフトの位置や相対的に大きなグラフトを移植したさいの腹腔内での圧迫による影響を受けやすいため,カラードプラ超音波検査によって閉腹時に血流を確認することも重要である. -
4.尾状葉肝静脈再建
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成人間生体肝移植において左肝を用いる場合には,われわれは尾状葉を付加した全左肝をグラフトにしている.この術式を施行した47 例における尾状葉容積は30 ± 9 m lで,左肝のみの場合と比較して7 ± 2%のグラフト容積の増大が得られた.移植にさいしては左肝・尾状葉に関連するすべての脈管を再建したが,40 例で尾状葉静脈を,14例で尾状葉胆管を再建した.レシピエントの2 例を呼吸器合併症と血栓症で失ったが,他の45 例は健存中である. -
5.右および下右肝静脈再建の右肝グラフト—適応と関連術式
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右肝グラフトを用いた生体肝移植は,過小グラフトに伴う諸問題を緩和するための標準的術式となりつつある.しかし,中肝静脈を含めない右肝グラフトでは前区域の肝うっ血の可能性が重要視されるようになってきている.標準術式とされる中肝静脈を含めない右肝グラフトを中心に,その適応と関連術式,静脈再建と肝うっ血の問題について概説する. -
6.凍結保存静脈による右肝グラフト静脈再建
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肝静脈再建は,肝移植において重要な手技の一つである.中肝静脈本幹を含まない右葉グラフトでは中肝静脈の分枝の再建を検討する必要がある.すなわち,ドナー手術における中肝静脈の遮断テストで,中肝静脈と右肝静脈とのあいだに十分な交通枝がないことが確認され,右前区域のうっ血領域が大きければ,分枝を再建する.分枝再建には,オートグラフトが使用不可能な場合にはホモグラフトすなわち凍結保存同種静脈を使用する. -
7.死体全肝移植における肝静脈再建
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脳死全肝移植において当初より用いられてきたグラフト肝のドレナージ方法は腎上部下大静脈を置換する下大静脈置換法であったが,1990 年以降はレシピエントの腎上部下大静脈を温存したままドナーの下大静脈をドレナージするピギーバック法が盛んとなり,次第に多くの施設でとり入れられるようになった.ピギーバック法の利点として,静—静脈バイパスを省略できること,手術時間・温阻血時間が短縮でき,しかも輸血量の減少・循環動態の安定につながること,結果として早期抜管が可能となり,術後再開腹の頻度の減少につながることがあげられ,今後,全肝移植の場合は悪性腫瘍など特殊なケースを除き多様なピギーバック法の中から術式が選択されていくものと考えられる.
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座談会
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連載/外科医が知っておくべき麻酔管理の基礎知識(7)
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書評
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連載/EBMに基づく外科治療(4)
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英語論文にみる高齢者大腸癌外科治療のエビデンス
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高齢者大腸癌外科治療に関する英語論文のエビデンスを解析し,以下の治療法が考えられた.①高齢者大腸癌では,麻酔のリスク(ASA class)が高い症例やperformancestatus(PS)のわるい症例は術後死亡率が高いため,侵襲度を考慮して手術を行うべきである.②根治可能であれば根治術をめざすべきである.③腹腔鏡補助下大腸切除は,高齢者においても低侵襲で術後の回復も早いため,高齢者に対しても適用可能と考える.しかし,本邦から高い水準のエビデンスが得られていない現時点では,英語論文のみから治療指針を導き出すことはむずかしいと思われる.
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