外科

Volume 65, Issue 5, 2003
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特集 食道胃接合部病変—今,何が問題か 1.食道アカラシア
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1.病理学的問題点
65巻5号(2003);View Description
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食道アカラシア,2 次性アカラシアの病理組織学的所見を詳細に記述し,アカラシア食道に発生した癌について総説した.アカラシア症例のAuerbach 神経叢はT 細胞と好酸球の浸潤を認めるが,高度でない場合も多く,その終末像としては神経節細胞と神経線維は消失し,微細な膠原線維とごく少数のリンパ球浸潤により置換される.アカラシアに発生する癌は,扁平上皮癌と術後のBarrett 食道に続発した腺癌が大部分で,その他の組織型は報告の数から,症例報告する意味があることを記述した. -
2.診断と内科的治療の成績
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アカラシアはLES 弛緩不全により,食物の通過障害を呈する疾患である.LES 弛緩不全に伴う症状を有する症例では,アカラシアの存在を念頭に置き,食道X 線造影,内視鏡検査を施行する必要がある.しかしながら,症状が存在するものの,上記検査所見が軽微である場合には,アカラシアの病態の本質であるLES 弛緩を評価することが重要である.アカラシア治療に関しては,拡張療法が第一選択であり,拡張療法の有効性に関しては,年齢,LES 弛緩残圧が影響していると思われる. -
3.外科的治療の変遷
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食道アカラシアの外科的治療はバルーン拡張術に抵抗するものの,拡張度IIb 〜 III 度のもの,Sigmoid 型のものである.Heller 法以来,種々の術式が行われたが,Heller 法+胃底部縫着術が主流となっていて,腹腔鏡下に施行されるようになった.術後の成績はいずれも良好であるが,長期経過後の逆流性食道炎と癌発生が問題である.外科的治療適応時期,術式の微調整,腹腔鏡下手術の訓練などが問題である.三富法も万能で,どの症例にも適応でき,推奨される術式である.
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特集 食道胃接合部病変—今,何が問題か 2.逆流性食道炎
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1.総説—今日の問題点
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食道内酸逆流によって起る逆流性食道炎およびGERD は,その急激な増加ゆえに世界的に注目されている疾患・病態である.数多くの検討が重ねられるにしたがって,その病態の複雑さが浮き彫りにされ,診断と治療のアプローチにも多様な方法が出現してきた.また,合併症としてもBarrett 食道,さらには食道腺癌についての関心も高まってきたが,まだ明確な病態の解明にはいたっていない. -
2.基礎的問題点
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逆流性食道炎(RE)における生検診断の現状と問題点について解説した.RE の組織像として,1, 好中球浸潤,2,びらん(上皮の欠損),3, 間質の線維化などの所見が重要と考えられた.好中球浸潤はRE の重症度と相関した.一方で,RE の組織像は疾患特異性に乏しく,生検像のみでは確定診断が得られにくいことが示唆された.したがって,REの生検診断のさいには内視鏡診断を参考にすることが重要であると思われた.また,近年広く使用されているロサンゼルス分類内視鏡基準は,内視鏡所見と組織所見が一致せず,分類の改訂が必要と思われた.RE はHelicobacter pylori除菌後の合併症として注目されており,それに伴ってBarrett 食道の発症が問題となっている.RE の増加に伴い,わが国でも今後Barrett 食道が増加する可能性があり,治療後に十分な経過観察が必要である. -
3.診断と内科的標準治療
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逆流性食道炎によるびらんや潰瘍性変化は食道胃接合部から口側へ長軸に広がり,下部食道の粘膜変化がもっとも強く,口側に向かって軽微になる.炎症範囲は,ロサンゼルス分類や食道疾患研究会の食道炎分類案で分類し,治癒経過や治癒効果判定にはステージ分類を使用する.逆流性食道炎の内科的治療には,日常生活や食事の指導と薬物治療(PPI,H2-blocker など)がある.内視鏡所見を認める場合や自覚症状が強いときはPPI を選択し,以後H2-blocker に変更するstep down therapyを行い,自覚症状や内視鏡所見が軽微な場合はH2-blocker から投与し,効果がなければPPI に変更するstep up therapy を行う. -
4.外科的標準治療
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逆流性食道炎に対する外科的標準治療は腹腔鏡下噴門形成術である.術式としては全周型噴門形成術であるNissen 法と,腹部食道後壁側にwrapping を行う非全周型噴門形成術であるToupet 法が広く活用されており,現在における標準的手技といえる.前者では術後の「つかえ感(dysphagia)」とgas bloat syndrome が重篤な合併症であり,これを回避するために術中に56 〜 60Fr 程度の食道ブジーを挿入した状態でwrapping を行うfloppy Nissen 法が用いられる.後者では逆流防止効果自体に若干の問題が残るが,長期的な成績は今後明らかにされていくものと考えられる.
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特集 食道胃接合部病変—今,何が問題か 3.食道胃接合部癌
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1.総説—今日の問題点
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食道胃接合部癌については食道癌および胃癌取扱い規約を含め,繰り返し議論が重ねられてきた.しかし,基盤となる食道胃接合部の定義が明確になっていないこと,腫瘍長径の設定に関する根拠が乏しいことから基礎,臨床(診断・治療)の分野でも統一した見解が得られていなかった経緯がある.今後,共通の定義に基づき食道胃接合部癌をprospective に解析して,食道癌取扱い規約と胃癌取扱い規約の整合性と治療指針を確立することが課題である. -
2.食道胃接合部の構造と接合部癌の病理所見
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接合部癌を論ずるにあたって,食道胃接合部の正常な組織構築を理解する必要がある.食道癌手術例の解析結果から,接合部は胃噴門腺ならびに食道扁平上皮下に存在する食道噴門腺からなり,その範囲は20 mm 前後である.また,食道噴門腺はBarrett 上皮(とくにSSBE)ではそれを有さないものに比べて有意に長く存在する.さらにこの食道噴門腺は,ときに円柱上皮島として食道表面に露出し,細胞増殖活性を示す.SSBE では腸上皮化生を示さない噴門腺粘膜からなるものが多く(70%),従来から示唆されてきた特殊円柱上皮(不完全型腸上皮化生)は必ずしもBarrett 上皮の指標とはならない.そのうえで,接合部に発生する癌には胃噴門腺粘膜,Barrett 上皮から発生するものがあるが,その他にBarrett 上皮化を伴わずに食道噴門腺から発生する癌もある.これら接合部癌はdistal stomach に発生する通常型の腺癌とは大きく異なる. -
3.診断
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食道胃接合部の臨床的同定には,内視鏡下に下部食道に存在する柵状血管を観察し,その下端をもって食道の下端とする.この近辺の領域に発生する癌は扁平上皮癌はもとより,腺癌も発生することが特徴的である.腺癌の発生母地としては,Barrett 粘膜,食道噴門腺,食道腺,異所性胃粘膜そして固有食道腺がある.固有食道腺由来の腺癌は粘膜下腫瘍の所見を呈するため,早期の診断が困難であるが,その他の腺癌の早期発見は可能である.食道胃接合部癌の早期診断によってこの領域に発生する癌の組織発生がより正確に評価できるはずである. -
4.治療
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欧米ではBarrett 腺癌を含む食道腺癌の増加が著しく,それに伴い食道胃接合部癌も増加している,本邦においての詳細な報告はまだないが,今後増加する可能性がある.切除には,解剖学的特徴から食道癌と胃癌の治療を兼ね備えた手術術式が必要とされる.進行癌では,横隔膜合併切除および大動脈周囲リンパ節郭清を含む根治性のある術式が望まれ,食道への浸潤度とリンパ節転移に応じて開胸開腹術,経食道裂孔切除または非開胸経腹経路による切除術が施行される.早期癌においては,quality を考慮した腹部食道胃上部切除および迷走神経温存空腸間置術や,m 癌であればEMR も可能である.化学療法や放射線療法では根治性は期待できず,姑息的治療となる.今後は患者個性に応じた手術療法が望まれるが,病変の広がりの正確な判断と腫瘍の特性の把握が不可欠である.
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特集 食道胃接合部病変—今,何が問題か 4.Barrett食道と腺癌
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1.基礎的話題
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Barrett 食道はGERD の結果,本来の食道重層扁平上皮が全周性に3 cm 以上にわたり円柱上皮に置換されている状態と定義されていた.3 cm 以下のものはshort segment Barrett’s esophagus(SSBE)と呼ばれている.これらを背景として発生するBarrett 腺癌が注目され,近年,本邦において内視鏡切除の対象となった初期病変も報告されるようになった.本稿ではBarrett 上皮・腺癌の基礎的事項を述べるとともに,早期癌の定義,および組織型・肉眼型の問題点について論じた. -
2.診断と治療上の問題点
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食道粘膜が円柱上皮に置きかわった状態を示すのに,今日ではBarrett 食道あるいはBarrett 上皮の言葉が一般的に使われている.本病態が問題視される原因の一つはその生物学的特性にある.すなわち,癌発生の高頻度な背景粘膜として認識されている点である.また,その診断・定義・病態についてはいまだ議論のあるところである.混迷の多くの原因はBarrett 食道の発生の成り立ちと,本来の食道胃接合部から食道粘膜の円柱上皮化が3 cm 未満のshort segment Barrett’s esophagus(SSBE)と3 cm 以上のlong segment Barrett’s esophagus(LSBE)の臨床的な差が存在するか否かである.本稿では,筆者らの経験からこれらの問題点について考察した.
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連載/外科医が知っておくべき麻酔管理の基礎知識(11)
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