外科
Volume 67, Issue 9, 2005
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特集【腹部救急疾患—— 診断と治療のながれ】
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I.総論:1.腹部急性疾患の初期対応
67巻9号(2005);View Description Hide Description腹部急性疾患の初期対応では,生理学的徴候に基づき,緊急度を的確に判断することが重要となる.まず第一に,急性腹症の鑑別とショック状態か否かの判別である.蘇生術を施行しても,ショックから離脱できなければ緊急手術を考慮しなければならない.バイタルサインが安定していれば次のステップにすすむ.血液検査,血液ガス分析や画像診断(胸腹部単純X 線,腹部超音波検査,腹部CT 検査)を組み合せて診断にいたる.ただし,確定診断をくだすことに主眼を置くのではなく,手術を含めたなんらかの処置を行うまでの時間的猶予を考慮した判断を中心にすえる必要がある.
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I.総論
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2.腹膜炎
67巻9号(2005);View Description Hide Description本稿では腹腔の解剖,生理について顧みることから始め,腹膜炎の診断と治療のながれについて概説を試みる.診断では病歴と理学的所見がもっとも重要である.腹膜刺激症状を認める場合は腹膜炎と診断し,画像診断により原因疾患を追求して治療方針を検討する.しかし,質的診断よりも常に呼吸循環動態の安定を優先し,迅速に診断から治療へとすすめることが求められる.腹膜炎手術では重症敗血症の治療,すなわち感染症と多臓器不全への対策が求められる. -
3.Abdominal compartment syndrome(ACS)
67巻9号(2005);View Description Hide DescriptionAbdominal compartment syndrome(ACS)とは,腹腔内容積が増加し腹腔内圧が25〜 30 mmHg 以上に上昇し,門脈系の圧迫による腹腔内臓器の灌流障害,下大静脈系の圧迫による後腹膜臓器の灌流障害,横隔膜を介した胸腔内臓器の灌流障害や呼吸運動障害,さらに胸腔内圧を介した頭部の灌流障害をきたす病態である.診断には,膀胱内圧測定や胃内圧測定が推奨されており,治療は緊急の開腹減圧である.
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II.胃・小腸・大腸
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1.胃・十二指腸潰瘍穿孔
67巻9号(2005);View Description Hide Description胃・十二指腸潰瘍穿孔症例では外科治療が主体であるが,症状の改善を認める場合は保存的加療も考慮される.保存療法を行う場合は経時的に血液生化学データや理学所見,画像所見をチェックし,所見の増悪を認めた場合は速やかに外科治療へ移行すべきである.外科治療の第一選択は穿孔部を問わず腹腔鏡下・開腹下の大網充填術と考える.ただし,広範なドレナージを要する場合や狭窄・多発潰瘍・術後の維持療法が期待できない症例に対しては,胃切除術を考慮しなければならない場合もある. -
2.イレウス
67巻9号(2005);View Description Hide Descriptionイレウスは腹部救急疾患の中ではもっとも頻繁に遭遇する疾患である.イレウスの治療にあたって,外科的治療が早急に必要な絞扼性イレウスの診断と単純性イレウスにおける手術に踏み切るタイミングが重要である.外科的治療が必要な絞扼性イレウスは,身体所見や検査所見のみで手術適応を決めるのは困難で,患者の経時的な診察や超音波検査を行うことが大切である.当教室では絞扼性イレウスの診断を目的とした判別式を作成しこれを利用しているが,治療方針決定において有用である.単純性イレウスはイレウス管を挿入し腸管内の減圧を行い,イレウス管からの小腸造影像の閉塞・狭窄所見に基づいてその後の治療方針を決定している.イレウス管による減圧を4 日間行い,排ガスがみられずにイレウス管からの排液が1 日500 ml 以上の症例や臨床症状の増悪する症例を手術適応として良好な成績を得ている. -
3.急性虫垂炎
67巻9号(2005);View Description Hide Description急性虫垂炎の診断のすすめ方を中心に,手術適応と手術までの過程を述べた.典型的な症例では,症状と身体所見,および炎症を示す血液検査所見からは容易に診断できる.しかし,近年普及した超音波検査とCT 検査は診断に有用な情報を与えるようになり,診断精度は向上した.治療は早期に虫垂切除術を施行することであるが,診断に迷うような症例では入院させ,再度検査のうえ手術適応を判断する. -
4.潰瘍性大腸炎
67巻9号(2005);View Description Hide Description潰瘍性大腸炎は患者数が増加し,緊急手術症例が多くなっている.緊急手術の適応は,症状の急性増悪および重篤な急性合併症(大腸穿孔・急性腹膜炎,中毒性巨大結腸症,大量出血)である.時期を逸することなく正しい術式選択がポイントとなる.そのため時間軸を正しくおさえた臨床経過の情報が診断にきわめて有用である.また,術式では大腸全摘が基本となるが,非専門施設での術式選択では回腸嚢肛門管機械吻合は十分考慮に値する術式であると考えられる.術後管理では早期の血液浄化療法の併用が有用である. -
5.膿瘍合併Crohn 病
67巻9号(2005);View Description Hide DescriptionCrohn 病膿瘍合併例ではしばしば治療に難渋する.当科でのCrohn 病手術181 回のうち膿瘍が手術適応であったものは13 例(7.2%)であった.膿瘍の診断には造影CT がもっとも有効であり,待機可能であるか否かの判断が重要である.右側結腸までが原因腸管の場合,保存的治療に対する反応は良好であったが,腸腰筋内膿瘍と骨盤内膿瘍症例では保存的治療が無効であった.治療は,早期に膿瘍のドレナージを行い,病変腸管の切除を行うことを原則とする.状況によっては早期に手術を施行して1 期的にドレナージおよび原因腸管の切除を施行する.
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III.肝・胆・膵・門脈
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1.肝外傷
67巻9号(2005);View Description Hide Description近年,シートベルトやエアバッグなどの装着義務および飲酒運転などの厳しい罰則などにより,交通事故による重症外傷が減少しつつある.しかし,腹部外傷における重症肝損傷はいまだに死亡率も高く,外傷初期診療がきわめて重要になってくる.その初期診療の研修コースであるJapan Advanced Trauma Evaluation and Care(JATEC)に準拠して,それに引き続くdefinitive care(根本治療)を含めて,肝外傷の診断と治療を述べる. -
2.肝細胞癌破裂
67巻9号(2005);View Description Hide Description肝細胞癌破裂は予後不良疾患であり,腹腔内出血と急性肝不全に対する初期治療とともに腫瘍に対する治療が必要である.初期治療においては救急疾患としての迅速な診断とともに全身管理が必要となる.止血法は,interventional radiology の進歩した現在,肝動脈塞栓術が第一選択となる.止血成功例においては,適切な腫瘍の進展度診断とともに肝予備能を考慮した2 期的根治手術を施行することによって非破裂肝細胞癌と同等の予後の改善が見込まれる. -
3.急性胆嚢炎・急性胆管炎
67巻9号(2005);View Description Hide Description急性胆嚢炎は,まず抗生物質を含む保存的治療を行い,早期胆摘術施行を考慮する.High risk や施設の事情などで早期手術が行えない場合は経皮経肝胆嚢ドレナージを施行する.急性胆管炎は保存的治療を行いつつ早期の胆道ドレナージ施行〔内視鏡的あるいは経皮経肝的胆道ドレナージ(PTBD)〕を考慮する.重症胆管炎は緊急ドレナージが必要である.内視鏡的ドレナージ(経鼻ドレナージあるいはステント留置)は低侵襲で安全で有効な方法である. -
4.重症急性膵炎
67巻9号(2005);View Description Hide Description重症急性膵炎の治療成績は,近年,向上してはいるもののなお不良である.1996 年日本腹部救急医学会がガイドライン作成の対象疾患として急性膵炎を選択し,2003 年7 月に同学会とともに日本膵臓学会,厚生労働省特定疾患対策事業難治性膵疾患に関する調査研究班とともにガイドラインを公表した.当ガイドラインにおいて特筆できることは,「エビデンスに基づいて推奨を示したこと,重症度分類を指定しその判定を要するとしたこと,重症度が一定条件以上にある場合には専門系医療施設へ搬送すべきこと」などを提案している点にある. -
5.膵外傷
67巻9号(2005);View Description Hide Description膵の外傷は交通事故によるシートベルト・ハンドル外傷が大部分である.膵外傷では膵が単独で損傷を受ける場合は少なく,多くは合併損傷を伴っている.臨床症状や重症度は膵の損傷だけでなく合併損傷の程度によってさまざまである.診断には理学的所見,腹部単純X 線像,血液検査,腹部超音波検査,腹部CT 検査,内視鏡的逆行性膵管造影(ERCP),MRI,核磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)などによって総合的に行う.しかし合併損傷により開腹が必要となり術中に膵外傷の程度を判断しなくてはならない症例も多い.治療は膵浮腫に対しては保存的に経過を観察する.また,膵挫傷でも明らかな膵管損傷がなければ保存的治療が可能である.膵管分枝の損傷や高度の挫滅が明らかな場合にはドレナージ術が基本となる.体尾部で主膵管が断裂している場合には膵尾側切除術が行われる.膵頭部では膵頭十二指腸切除術のような侵襲の強い手術より,2 期的手術を念頭に置いたドレナージ手術を考慮する必要がある. -
6.門脈血栓症
67巻9号(2005);View Description Hide Description門脈血栓症はさまざまな基礎疾患を背景に起る.血栓の発達が急速で上腸間膜静脈まで血栓が拡大した場合には,腸管のうっ血や壊死をきたすことより緊急手術を要することもあるが,反対に血栓の発育が緩徐である場合には数ヵ月以内に側副血行路が形成され肝外門脈閉塞症(EHO)となる.門脈血栓に対する治療としてはurokinase やt - PA を用いる血栓溶解療法,heparin やwarfarin を用いる抗凝固療法の投与が投与経路に関係なく有用であるが,腸管の循環障害をきたす場合,血栓摘除術が行われることもある.EHO による門脈圧亢進症に対しては食道静脈瘤を制御することが治療の主体となる.生体肝移植においては,術前に門脈の血栓の有無を評価することが重要である.
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連載/外科医のための輸血医学講座 (16)
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