外科

Volume 69, Issue 5, 2007
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特集【肝細胞癌切除後の長期成績向上を目指して】
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I.術前治療:1.術前肝動脈塞栓術(TAE)
69巻5号(2007);View Description
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肝細胞癌のさらなる治療成績向上のためには,肉眼的治癒切除後の肝内再発制御がきわめて重要である.これら肝内再発の原因の一つである術前・術中の微小転移を制御する目的で,術前肝動脈(化学)塞栓術(transcatheter arterial chemoembolization:TAE/TACE)が試みられてきたが,予後延長効果を認めるとの報告や肝機能に対する影響などにより有害であるとする報告などさまざまであり,一定の見解は得られていない.本稿では,術前TAE の現況と当科における治療成績について報告する.
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I.術前治療
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2.術前肝動脈塞栓術(TAE)+門脈塞栓術(PVE)
69巻5号(2007);View Description
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大型肝細胞癌(HCC)に対する切除適応拡大のため,肝切除に先行し肝動脈化学塞栓術(TACE)と門脈塞栓術(PVE)をsequential に行った.PVE は,1.残存予定肝の肥大,2.門脈圧上昇に対するtoleranceの獲得を目的とするが,TACE の付加により,3.待機期間中の腫瘍進展の抑制,4.PVE の効率化が期待できる.これまで40 例のHCC 症例にTACE+PVE の術前治療を行った結果,39 例で肝切除が可能となり,術前治療を要さなかった症例と同等の予後成績が得られた.Sequential TACE and PVE は肝切除適応拡大,ひいては患者の予後改善のため有用な前治療であり,大いに活用すべきものであると考える.
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II.初発病巣の治療
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1.系統的切除—その適応と成績
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肝細胞癌に対する肝切除の目的は肝内転移再発をいかにして制御するかにある.この観点から,担癌門脈領域を解剖学的に切除する系統的切除は合理的な術式である.自験例の検討でも系統的切除により術後の早期再発が抑制され,長期予後の改善が得られた.長期成績を向上しうる術式として,肝機能が許す範囲内で本術式を選択することが望ましい.
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II.初発病巣の治療
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2.門脈腫瘍栓に対する肝切除
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門脈腫瘍栓は肝細胞癌のもっとも重要な予後因子であり,非治療例の予後はきわめて不良である.われわれはこれまで門脈第一次分枝または門脈本幹に腫瘍栓を合併した高度進行肝細胞癌に対し積極的に外科治療を行ってきた.2001 年までの肝切除症例における5 年生存率はVp3:12%,Vp4:7%であり,腹水,プロトロンビン活性値,腫瘍径が独立した予後因子であった.2001 年以降は肝切除後の補助療法として肝動脈注入化学療法を導入し,著明な予後の改善が得られている. -
3.胆管腫瘍栓合併例の肝切除
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胆管腫瘍栓を伴う肝細胞癌の頻度は,外科切除例では1.7%程度で比較的まれである.外科切除を行うには区域切除以上の肝切除が必要なため,黄疸例には確実な減黄処置が必要である.さらにほとんどの症例では障害肝であるため残肝予備能の評価を行い,必要な場合は門脈塞栓術を行う.切除例の長期成績は比較的良好で,自験例の検討では術後5 年生存率は50%であった.重要な予後規定因子は治癒切除をなしえること,肝内転移が認められないことであった.術後再発に対し,非手術治療を安全に行うことを考慮すれば,組織学的に胆管浸潤がなければ肝外胆管切除は可及的に避けるべきである. -
4.門脈腫瘍栓に対する放射線療法
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診断,治療計画,照射機器の格段の進歩により,近年,放射線を局所に集中して照射することが可能になり,肝癌に対する放射線治療の報告も多くみられるようになった.これと並行して,とくに門脈腫瘍栓に対する放射線治療への期待の声を耳にする機会も増えた.本稿では,門脈腫瘍栓に対する放射線療法に関して,もっとも報告の多いX 線治療についてレビューし,次いで粒子線治療(陽子線および重粒子線治療)にも言及した.
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III.術後補助療法
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1.インターフェロン
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肝細胞癌(肝癌)の多くがB 型肝炎ウイルス(HBV)やC 型肝炎ウイルス(HCV)に起因するため,その治療成績は併存する肝炎病態に影響される.HCV 関連肝癌における切除後インターフェロン(IFN)投与のRCT を行った結果,IFN 投与例の無再発および累積生存率は有意に高値であった.IFN 奏効例の治療成績は良好で,肝臓関連死亡が減少した.HBV 関連肝癌においても術後IFN 治療によって術後成績が向上したことが示されている. -
2.養子免疫療法
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肝癌補助療法として養子免疫療法の有益性をランダム化比較試験で検証した.1992 〜 1995 年に施行した肝癌治癒切除155 例を免疫群(76 例)と対照群(74 例)割り付けた(不適格5 例).免疫群には5 回の自己活性化T リンパ球の投与を行った(移入細胞数平均7.1×10の10乗 個/例).観察期間4.4 年の時点で,免疫群と対照群の3 年,5 年無再発生存はそれぞれ48%対33%,38%対22%と有意差を認めた(p=0.008).免疫群の対照群に対する再発相対リスクは0.59(95% CI 0.40 〜 0.88,p=0.01)であり,再発のリスクが41%低下した.養子免疫療法により肝癌術後再発が抑制できる. -
3.抗癌薬治療(補助化学療法)
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肝細胞癌に対する補助化学療法はいまだに有効なレジメンが見出されていない.薬剤によってはむしろ長期予後を悪化させる可能性があり,根拠がないまま,安易に抗癌治療を付加するのは危険である.ランダム化比較試験によって,有効性が期待されるレジメンの効果を一つひとつ厳密に評価していくべきである. -
4.非抗癌薬治療
69巻5号(2007);View Description
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肝細胞癌はたとえ治癒切除が得られたとしても,その背景にある肝障害や肝細胞癌自体の生物学的特性から再発をきたしやすい癌腫の一つである.その中で,ウイルス排除以外の見地からの術後補助療法がある.それは非環式レチノイド,ビタミンK2,分岐鎖アミノ酸,COX-2 阻害薬などであるが,現在では十分なEBM はとれていないのが現状である.今後は肝細胞癌術後成績向上のためにも,これら非抗癌薬治療の臨床介入試験の結果が待たれるところである. -
5.血管新生抑制薬の可能性
69巻5号(2007);View Description
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肝臓は,肝動脈と門脈という構造的にも機能的にもまったく異なる二つの血管系から血流を受けている.肝細胞癌は血流に富んだ腫瘍で,腫瘍の大きさ,性質により門脈血流から動脈血流支配へと変化を生じる.その過程でvascular endothelial growth factor(VEGF),basic fibroblast growth factor,angiopoietins などの血管新生因子が大きな役割を演じる.とくにVEGF は強力な血管新生因子であり,肝細胞癌に対しても抗VEGF 抗体やVEGF 受容体阻害薬が臨床応用されている.
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IV.再発に対する治療
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1.肝動脈塞栓療法(TACE)
69巻5号(2007);View Description
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肝切除術後,残肝に出現した肝細胞癌(r-HCC)に対して肝動脈化学塞栓療法(TACE)治療を行った42 例を検討した.r-HCC の約半数は術後3 年以降に発見されており,(異時性)多中心性発生新病巣の存在が示唆された.TACE 治療はr-HCC の予後向上に寄与できるものの,同法治療のみでは永久治癒は不可能と考えられた.肝外側副血行路がr-HCC を高頻度(73.8%)に栄養し,肝両葉の末梢側に無数の小結節が出現する再発形態(23.8%)もr-HCC の特徴の一つであった. -
2.再肝切除
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肝細胞癌治癒切除例の5 年生存率は50%程度であるが,その生存例の中でも20 〜 30%は再発生存である.再発肝細胞癌に対する治療のオプションはさまざまであるが,局所療法に比べ再肝切除の治療成績が優れるというのが現在のコンセンサスであり,肝予備能,再発部位を考慮し,可能であれば積極的に再肝切除を行うことが望ましい.本稿では,再肝切除の要点,また再肝切除後の再々発例に対する,いわゆる salvage liver transplantation のタイミングについて概説する. -
3.ラジオ波焼灼療法(RFA)
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低侵襲性で比較的安全なラジオ波焼灼療法(RFA)は高い局所制御能から外科的治療とともに根治性の高い治療法である.しかし,その効果を最大限に引き出すには術前・術後の画像評価が欠かせず,術者はRFA に関する知識のみならず画像所見を読み取る目を養う必要もある.RFA の適応については一般的に「3cm かつ3 個以下」が目安であるが,内科・外科・放射線科など各科の意見交換から症例に合った治療方針を築くことが大切である.
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V.肝移植
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長期成績を得るためにはどのような肝移植が必要か
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1996 年Mazzaferro らが,脈管浸潤・遠隔転移がなく,単発5cm以内,多発3cm,3個以内といういわゆるミラノ基準を報告して以来,Child B,C といった重度肝硬変を合併した肝癌症例においてこの基準を満たした肝癌は肝移植のよい適応となった.その後,現在までUCSF 基準など,適応拡大への検討もなされている.他方,ミラノ基準を満たすChild A 症例に対してはsalvage transplantation の可能性が模索されている.わが国における肝癌症例は移植前になんらかの治療が施されている場合がほとんどであるが,初回治療から肝臓内科医,放射線医,外科医の連携した治療体系が必要である.
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連載/術中写真撮影入門—おもに肝胆膵外科(5)
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連載/最新 癌の化学療法マニュアル(5)
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臨床と研究
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症例
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