外科
Volume 69, Issue 6, 2007
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特集【鏡視下手術におけるcontroversy】
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1.胸部食道癌に対する胸腔鏡下手術—積極的な立場
69巻6号(2007);View Description Hide Description胸部食道癌に対する胸腔鏡下手術を積極的に推進する立場から,現状について考察した.おもな利点として,胸腔鏡下手術では胸壁の変形や呼吸筋の障害が少ないので,呼吸機能が温存できること,胸壁破壊が小さいので出血量が少ないこと,内視鏡を用いることによる拡大視効果と共同視効果である.一方,手術適応,手術時間,手技の習得,合併症の発生率,予後など,ランダム化比較試験を含めた検討が今後必要である. -
2.胸部食道癌に対する胸腔鏡下手術—慎重な立場
69巻6号(2007);View Description Hide Descriptionわれわれは鏡視下手術に対して消極的なわけではなく,手術の技術革新としてその有効性を高く認めている.胸腔鏡下食道癌手術はリンパ節郭清手技の向上に努め一部施設では開胸手術に匹敵する手術内容を達成している.残された問題は手術自体の安全性であるが,現時点では開胸直視下手術のほうが安全性に優れると考えている.胸腔鏡下手術が開胸手術に勝る大きなメリットが示されていない今日,標準手術は開胸直視下手術であると考えている.
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II.胃癌に対する腹腔鏡(補助)下幽門側胃切除術
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1.積極的な立場
69巻6号(2007);View Description Hide Description腹腔鏡下胃癌手術は2002(平成14)年度の社会保険診療報酬に収載され,有望な縮小手術法として積極的に行う施設が増加しているが,いまだ普遍的な治療法とはいえず,胃癌治療ガイドラインにおいても日常診療ではなく,臨床研究の一つとして推奨されている状況にある.1例目の手術が1991 年に行われ,まだ10 年あまりという浅い歴史のために,エビデンスレベルの高い臨床成績がまだ十分には蓄積されていないことの反映である.そこで,ピアレビュー論文を主体にしたこれまでの代表的関連論文をもとに,腹腔鏡下胃癌手術の安全性,低侵襲性,腫瘍学的意義,術後転帰,予後などをとくに腹腔鏡下幽門側胃切除術に焦点を当てて記述した.多くの報告は,一定の手術技能のもとに行われる本手術は安全で,今後の普及と発展が期待されることを示しており,そのためにも,従来型の開腹手術とのあいだで多施設共同による第III相比較臨床試験の早期の開始が望まれている. -
2.慎重な立場
69巻6号(2007);View Description Hide Description腹腔鏡下手術は少しずつ歴史を重ね,確実にその安全性と有用性が証明されつつある.しかし,胃切除においては「適応」が早期癌であり,安全性はわかっても,有用性において,比較するときのエンドポイントに限界がある.一方で,技術認定が決められ,先進的な面ももっている.「誰でもできる一般的な手術」よりも,高度な技術をもつ外科医集団によって,「癌がよりよく治療でき,なおる」展開を示してほしい.
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III.結腸癌に対する結腸切除術
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1.積極的な立場
69巻6号(2007);View Description Hide Description手術手技と短期成績の点から腹腔鏡下結腸切除術の妥当性について述べた.手術手技の点ではリンパ節郭清,結腸間膜授動ともに開腹手術に劣らないものとなり,逆に腹腔鏡に有利な点もあって進行癌でも十分適応となる.また術後在院日数や続発症発生からみた短期成績は腹腔鏡下手術で良好であり,今後腹腔鏡下手術は標準手術となりうる手術法である.しかしまだ歴史の浅い手術方法であり教育を踏まえた安全な普及が望まれる. -
2.慎重な立場
69巻6号(2007);View Description Hide Description腹腔鏡下手術が進行大腸癌に対しても保険適用が認められ,現在では多くの進行癌に対しても本術式が施行されている.しかし,本邦の大腸癌治療ガイドラインでは腹腔鏡下手術の適応はstage 0 およびstage I 結腸癌とされている.これ以上に適応を広げる場合でも,横行結腸癌,漿膜浸潤を認める癌は除き,肥満,開腹既往歴,狭窄などの因子が認められる場合,あるいは疑われる場合には適応から除外するとするのが,現在の段階での“慎重な立場”での腹腔鏡下手術適応と考えられる.
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IV.直腸癌に対する低位前方切除術
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1.積極的な立場
69巻6号(2007);View Description Hide Description直腸癌に対する腹腔鏡下直腸低位前方切除術は徐々に普及しつつあるが,いまだコンセンサスの得られた治療とはいいがたい.術野展開,とくに2 次元画面からの立体解剖の再構築や,肛門側の切離・吻合の困難性など問題点も多々ある.しかし,手技・器具の進歩に伴い,適応も徐々に拡大されている.腹腔鏡下手術の拡大視効果の良好な視認性は,低侵襲性とともに骨盤外科における大きなメリットである.今後は,安全性を検証しつつ,手技を定型化し,施設の技量に合せた適応拡大が望まれる. -
2.慎重な立場
69巻6号(2007);View Description Hide Description直腸癌に対する低位前方切除術について,開腹手術と腹腔鏡下手術とを比較・検討した.術後早期のQOL は,開腹手術の在院日数の短縮に伴い,差は認めなくなった.リンパ節転移は,腹腔鏡下手術の適応症例でも開腹手術と同等に認めた.直腸癌に対する腹腔鏡下手術では,側方郭清も含め開腹手術と同等のリンパ節郭清が必要で,SE/A 以深症例では腫瘍近くの操作は困難である.直腸癌に対し腹腔鏡下手術の適応を拡大するには相応の治療成績と手技の工夫,器械の改良が必要と思われた.
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V.肝癌に対する肝切除術
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1.積極的な立場
69巻6号(2007);View Description Hide Description腹腔鏡(補助)下肝切除術は,まだ普及するにはいたっていない.しかし,開腹手術と比較して腹腔鏡下での肝切除は明らかに体壁の破壊が少なく,患者の肉体的負担を軽減する術式である.開腹肝切除術との相違点とその対策を理解し,適応症例に対し安全かつ確実に行うことが重要であるが,今後の普及が期待される有用な術式と考えている. -
2.慎重な立場
69巻6号(2007);View Description Hide Description腹腔鏡下外科手術はその適応が徐々に広がってきており,最近は肝切除にも導入されるようになってきている.患者にとっては,傷が小さい,術後の痛みが軽い,などは大きな利点でありたいへん喜ばれる.しかし,そればかりが強調されて,肝心の安全性,根治性が損なわれてはならない.一般的には,表面や肝外に突出している腫瘍,外側区域の腫瘍などがよい適応とされているが,最近は葉切除やドナー肝切除も行われ始めている.十分議論をし,腹腔鏡下肝切除の安全性と根治性についてのエビデンスに基づいて適応を拡大していくことが望ましいと考える.
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VI.膵腫瘍に対する膵体尾部切除術
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1.積極的な立場
69巻6号(2007);View Description Hide Description膵腫瘍のうちもっとも腹腔鏡手術の適応があると考えられるインスリノーマを中心に,手術術式の要点と報告例をまとめて概説した.開腹手術の場合と同様に腹腔鏡下手術でも腫瘍核出術と尾側膵切除術があるが,主膵管から離れた部位にある良性腫瘍は腫瘍摘出術の適応である.良性腫瘍でも主膵管に近接しているものは腫瘍摘出術よりも尾側膵切除術の適応である. -
2.慎重な立場
69巻6号(2007);View Description Hide Description腹腔鏡下尾側膵切除術は膵体尾部に限局した膵嚢胞性腫瘍,膵内分泌腫瘍に対して適用されている.ただし,悪性腫瘍の可能性が否定できない腫瘍への適用は,腫瘍学的見地から意見が分かれる.通常型膵癌では後腹膜組織・リンパ節の十分な郭清が手技的に困難である.先駆的な施設からの初期成績はおおむね良好で許容できるものであるが,長期予後の評価や安定した手術手技の提供など課題も多い.
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連載/術中写真撮影入門—おもに肝胆膵外科(6)
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連載/最新 癌の化学療法マニュアル(6)
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