外科
Volume 69, Issue 8, 2007
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特集【膵頭十二指腸切除術(PD)をめぐる諸問題】
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I.総説:膵頭十二指腸切除のエビデンス—— RCT を中心に
69巻8号(2007);View Description Hide Description膵頭十二指腸切除術(PD)のエビデンスを明らかにするべく,1996 年以降のPD に関するRCT を中心にレビューした.対象RCT 論文は37 篇で,術後早期合併症対策や再建法,拡大手術,幽門輪温存PD(PPPD)との比較などにつき,多くの新たなエビデンスが報告された.とくに広範囲リンパ節郭清を含む拡大手術の意義が否定されたことは画期的であり,今後は膵臓外科においても質の高いRCT から得られたエビデンスに基づく臨床,すなわちEBM の実践が求められよう.
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II.拡大切除の適応と結果
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1.血管合切再建の適応と予後
69巻8号(2007);View Description Hide Description膵頭部癌は門脈系血管への浸潤を伴う場合が多く,根治性を追求するためには安全な合併切除と再建が要求される.われわれはpDPM の陰性化の可否を各種術前画像診断により判断しているが,最終的には術中の門脈血管内超音波検査(IVUS)を施行して決定している.pDPM の陰性化が可能と判断できれば,門脈カテーテルバイパス法を用いたnon-touch isolation technique による門脈合併膵頭十二指腸切除術を積極的に施行している. -
2.上腸間膜動脈(SMA)合切再建の適応と短期・長期成績
69巻8号(2007);View Description Hide Description2002 年から,上腸間膜動脈(SMA)周囲のリンパ系・神経系を,膵頭と一括切除する“augmented regional pancreatoduodenectomy(ARPD)”を16 例に行ってきた.この手術は,膵頭下部前面からのリンパ経路である十二指腸水平脚下縁レベルまでの小腸間膜根部を切除する点と,膵頭をin situで遊離し,循環遮断下で摘出するno- touch isolationである点に特徴がある.術後30 ヵ月以上生存例は4 例,うち1例は5 年以上生存している.これまではかなりの進行例に行ってきたが,今後は,術前画像診断や術中病理検査などで,“癌浸潤が明らかにSMA 外膜近傍にまで及んでいる症例”や,“リンパ節転移が大動脈周囲など3 群にまで及んでいる症例”を適応から外すことで,さらに治療成績の向上が期待できる.術前にMDCT を中心とした画像を放射線科医と十分に検討し,癌の膵外進展を正確に把握したうえで,慎重に適応症例を決定していくことが大切である. -
3.膵頭部癌に対する拡大郭清により生存率は向上するか
69巻8号(2007);View Description Hide Description膵癌は他の消化器癌に比べその治療成績はきわめて不良である.この難治性癌に対し,本邦の外科医は広範囲リンパ節郭清,神経叢郭清を伴う拡大手術が予後の向上を得られると考え,数多くの報告を発信してきたが,それらはすべて症例集積研究であり,ランダム化比較試験(RCT)による科学的証明ではなかった.膵頭部癌に対する拡大手術と標準手術のRCT は欧米から3 報告があり,いずれも拡大郭清の意義はないという結果になったが,拡大郭清の方法・結果に多少の疑問が残った.2000 年から始まった本邦のRCT は,欧米のそれとは異なり,日本式の徹底した拡大郭清と標準手術とを比較し,結果としては両者の生存率に有意差はなく,術後QOL も拡大手術のほうが不良であった.この結果から,膵頭部癌に対する広範囲リンパ節郭清や神経叢郭清を伴う拡大手術の意義はないと結論づけることができる.しかし,根治を期待しうる治療法は依然として外科的切除であることは間違いなく,今後は確実な局所切除と,術後可及的速やかなadjuvant chemotherapy を行うことが肝要と考える. -
4.中下部胆管癌に対するPD の予後因子~至適手術
69巻8号(2007);View Description Hide Description中下部胆管癌に対する標準的な外科治療は膵頭十二指腸切除術(PD)である.胆管癌は胆管の長軸方向に沿って進展する性質があるため,肝臓側の胆管切離断端が陽性となる場合があるが,胆管断端の意義や取扱いについては一定の見解は得られていない.1998 〜 2005 年に当科で施行した中下部胆管癌に対するPD 37 例の在院死亡率は0%,5年生存率は55%と良好であった.胆管断端以外の剥離断端陽性例は明らかに予後不良であったが,胆管断端陽性例は陰性例と同等の予後を維持し,多変量解析では剥離断端と分化度が独立した予後因子であった.腫瘍近傍の剥離断端が明らかに陽性と考えられる場合は,遠位の肝臓側胆管を執拗に追求することの臨床的意義は認められないと考えられる.
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III.縮小術式の比較・検討
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1.再建法による幽門輪温存PD 後胃排出遅延の有無—— 運動生理学的エビデンスより
69巻8号(2007);View Description Hide Description幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)は,長期的に体重減少が少ないことに加え通常の膵頭十二指腸切除(PD)と比較しても遠隔成績に有意差がないことより,近年,膵頭部領域癌でも広く行われるようになってきている.しかしながら,合併症として術後早期の胃排出遅延がしばしば認められる.今回われわれは,PPPD における再建法として十二指腸空腸吻合を結腸前で行うことによる胃排出遅延の防止効果を,灌流カテーテルを用いた胃内圧測定により生理学的に検証した. -
2.幽門輪温存PD 結腸前後再建術の比較(RCT)
69巻8号(2007);View Description Hide Description消化吸収の観点から全胃温存の幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)が臨床応用されているが,迷走神経支配のない幽門輪の意義が疑問視され,かつ運動能を消失した幽門輪のために胃内容排出遅延(DGE)が問題になっている.PPPD で問題になるDGE は,われわれの前向きランダム化比較臨床試験(RCT)により,十二指腸球部と空腸の吻合を結腸間膜前で行うことで予防できることが証明されたので,適応症例においてはPPPD を選択すべきである. -
3.亜全胃温存PD と幽門輪温存PD の比較・検討
69巻8号(2007);View Description Hide Description膵頭部の浸潤性膵管癌の外科治療にあたっては,臓器の可及的な温存,剥離面の確実な陰性化を図るために亜全胃温存膵頭十二指腸切除(SSPPD)の選択を原則としている.従来の広い胃切を伴う標準的PD に対し,SSPPD では胃切離線は幽門輪より2 〜 3 cm 口側に設定することで,確実な幽門周囲郭清と術後の経口摂取量の維持が可能と考えられるからである.術後経口摂取の状況,消化管ホルモン分泌反応などについては幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)と同等の結果であった.本来ならば前向き臨床研究による検証が必要と考えている.現時点では,膵頭部浸潤性膵管癌の外科治療として考慮すべき縮小術式の一つであると思われる. -
4.腹腔鏡下PD の展望
69巻8号(2007);View Description Hide Description腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術(腹腔鏡下PD)に対しては賛否両論がある.限られた施設における,限られた外科医による,限られた症例に対する腹腔鏡下PD のシリーズでは比較的良好な成績を得たという報告がある一方で,腹腔鏡下PD 後に膵液瘻などの重篤な合併症も経験されており,安易に行うべき手術ではない.将来,腹腔鏡下PD を膵頭部病変に対する低侵襲手術として確立するためには,さらなる技術革新と,臨床試験による検証が必要である.
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IV.膵空腸吻合
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1.膵空腸吻合no stent 法の適応と結果
69巻8号(2007);View Description Hide Description膵空腸吻合no stent 法は,膵被膜実質と空腸漿膜筋層(外層),膵実質を含む膵管と空腸全層(内層)との2 層縫合である.内層の縫合では細い(6-0,5-0)無傷針吸収性モノフィラメント糸で確実に縫合する,外層の縫合では膵被膜を確実に拾う,膵断端血流障害を最小限に抑え膵実質損傷を避けるため両者が密着する程度に縫合する,などが本法の要点である.膵液瘻を含めた術後早期合併症の頻度はstent 法と差がなく,膵空腸吻合no stent 法は膵頭十二指腸切除術後における有用な膵消化管再建法である. -
2.正常膵に対する膵空腸吻合法update
69巻8号(2007);View Description Hide Description膵機能が保たれている正常膵での膵空腸吻合の縫合不全はいったん起ると致命的となることがあるため,安全かつ確実な吻合が要求される.動物実験では膵空腸粘膜吻合法が創傷治癒および膵管の開存性でもっとも優れており,嵌入法から膵管空腸粘膜吻合法に主流が移りかわってきた.近年,Kakita らにより独自の膵空腸吻合法が考案され,膵空腸貫通密着吻合法あるいは柿田式吻合として普及しつつある.各施設独自で,内層は膵管空腸粘膜吻合法で行い,外層を柿田式の膵実質—空腸漿膜筋層密着縫合法を採用し膵空腸吻合を行っている施設もある.万一,膵液瘻が生じた場合でも仮性動脈瘤が発生しない工夫として,大網や肝円索を用いた肝動脈および胃十二指腸動脈断端の被覆が最近行われている.
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V.血管合併症のある患者に対するPD 時の工夫
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1.肝動脈~上腸間膜動脈~門脈同時切除を伴う膵切除の工夫
69巻8号(2007);View Description Hide Description2005 年1 月〜 2007 年5 月に,局所進行膵臓癌に対して肝動脈,上腸間膜動脈(SMA)合併切除を含む膵切除を15 例に行った.切除した動脈(重複あり)は,肝動脈が11 例(左右肝動脈を含む),SMA が9 例であった.手術直接死亡例は,肝動脈切除,門脈合併切除を行い,肝臓の完全血流遮断時間が120 分となり,術後肝梗塞,肝不全となり死亡した1 例であり,operative mortality rate 6.6%であった.15 例での手術時間は696±143 分,術中出血量は7,516±6,284 ml であった.肝動脈切除再建による遮断時間は( n=11),50.5±30.4 分,SMA 遮断時間は( n=9),79.9±64.5 分であった.肝動脈切除例における術後ASTの最高値は1,752±2,114 IU/l,ALT は1,194±1,012 IU/l,LDH は1,843±1,703 IU/l であった.肝動脈切除を伴わないものでは,すなわちSMA 切除例では,術後AST の最高値は1,629±1,826 IU/l,ALT は1,260±1,597 IU/l,LDH は2,211±2,498 IU/l であった.予後は,50%生存率は12ヵ月で,最高生存例は術後32 ヵ月を過ぎている. -
2.食道・胃手術後患者に対するPD 時の工夫—— 右胃大網動静脈の温存
69巻8号(2007);View Description Hide Description噴門側胃切除後・食道癌胃管再建後の患者に,膵頭十二指腸切除術を要した.前回手術の記録を詳細に検討し,消化機能の温存と手術侵襲を軽減する目的で,前回の消化管吻合を生かす方針とした.残胃・胃管血行の流入出路である右胃大網動静脈を温存して,消化管壊死やうっ血などの重大な合併症なく手術しえた.この方法は丁寧な手技が求められ適応も限られるが,今後同様の症例を経験する可能性があり,安全な方法といえよう.
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連載/術中写真撮影入門—おもに肝胆膵外科(8)
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連載/最新 癌の化学療法マニュアル(8)
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臨床と研究
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十二指腸原発gastrointestinal stromal tumor との鑑別に苦慮した退形成性膵管癌の1 例
69巻8号(2007);View Description Hide Description
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書評
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