外科

Volume 70, Issue 2, 2008
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特集【腫瘍栓のすべて】
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I.病理~腫瘍マーカー~画像:1.肝細胞癌——腫瘍栓の病理
70巻2号(2008);View Description
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肝細胞癌(肝癌)では門脈枝が肝癌の血液流出路となっていることから,比較的早期の段階から高頻度にみられ,肝内転移の主因となるほか門脈圧亢進やAV シャントを増悪させる.肝静脈内進展では,下大静脈から右心房への進展は剖検例の約10%とまれでなく,右心房腫瘍栓が遊離すると三尖弁口を塞ぐことにより急死の原因となることがある.また,胆管内発育では剖検例の約5%にみられる肝管あるいは総胆管腫瘍栓が臨床的に問題となり,進行性閉塞性黄疸により予後を増悪させる.
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I.病理,腫瘍マーカー,画像
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2.胆管細胞癌—— 腫瘍栓の病理
70巻2号(2008);View Description
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胆管細胞癌(胆管癌)は肝内あるいは肝外胆管系に発生する悪性腫瘍である.ほとんどが豊富な間質を伴って浸潤性増殖を示す腺癌である.胆管癌の血管侵襲は主に血管壁への浸潤による血管の狭窄・閉塞の様式を示す.肝細胞癌と異なり,画像で検出される太いレベルの門脈腫瘍栓,肝静脈腫瘍栓の形成は比較的頻度が低い.しかし,胆管癌でも血管侵襲は予後不良因子であり,特に門脈侵襲は再発や予後予測のうえで重要な所見である. -
3.大腸癌肝転移—— 腫瘍栓の病理
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大腸癌肝転移巣はGlisson 系脈管に対する親和性が比較的高い.なかでも,胆管浸潤は微視的には約40%,肉眼的にも約10%程度にみられる.肉眼的胆管侵襲は胆管内を“腫瘍栓”様に発育する特徴があり,本特徴を有する症例は切除後予後が有意に良好である.腫瘍辺縁から10 数mm 進展していることもあるので,切除断端が陽性にならないように注意する必要がある. -
4.肝細胞癌と腫瘍マーカー
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肝細胞癌治療後の患者は,再発リスクが高く,画像診断ではとらえにくい再発も少なくないため,定期的な腫瘍マーカー測定は,CT,MRI などの画像診断を行う時期を決定するうえで手助けとなり有用である.肝細胞癌の腫瘍マーカーであるAFP,AFP-L3,PIVKA-II は,それぞれにやや異なる生物学的特性を示すため,それらを組み合わせて測定することが重要である.しかし,これらすべてが陰性の肝細胞癌も存在するため,今後さらなる進歩が必要である. -
5.腫瘍栓の画像診断
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腫瘍栓の画像所見は,腫瘍栓自体を描出する直接的所見と腫瘍栓に付随する肝や血行動態の変化である間接的所見に分類される.直接的所見としてはfilling defect,thread and streaks sign があり,間接的所見としてはcavernous transformation,下大静脈(IVC)側副路発達,静脈径の拡大,肝楔状区域変化,T1 リング,コロナの乱れがある.また経皮経肝門脈造影,経皮経肝ないしは超音波内視鏡下生検などの侵襲的検査の診断能は高いとされる.
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II.腫瘍栓の外科治療—切除のコツと予後からみた適応
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1.門脈内腫瘍栓(1)
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門脈腫瘍栓合併肝細胞癌では,門脈第一次分枝までの腫瘍栓は定型的肝葉切除で切除可能であるが,門脈本幹や対側門脈に腫瘍栓が進展した場合には門脈本幹の血行遮断下に腫瘍栓を摘出しなければならない.われわれはこれまでこのような高度進行肝細胞癌に対し外科的治療を積極的に行ってきた.2002 年までのVp3 およびVp4 肝細胞癌切除例の5 年生存率は10.9%であり,腹水・プロトロンビン活性値・腫瘍径が独立した予後因子であった.2001 年以降は肝切除と肝動注療法を併用するようになり,治療成績の改善が得られている. -
2.門脈内腫瘍栓(2)—— 肝細胞癌門脈腫瘍栓症例に対する肝機能に応じた手術戦略
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門脈腫瘍栓(PVTT)を有する肝細胞癌(HCC)に対しては,外科切除が唯一根治を期待できる手段であるが,手術侵襲が大きくなりやすく,術後合併症率,術関連死率は通常の肝切除より高い.筆者らの施設ではPVTT 合併HCC の肝切除の適応,切除範囲は術前の肝予備能と主病巣の進展範囲から決定する.PVTT に対しては,門脈壁をできるだけ温存しつつ肉眼的根治を目指す方針としており,PVTT の進展度に応じて三つの処理法を工夫し使い分けている.この治療方針により,通常の肝切除と同等の安全性と,比較的良好な長期成績を両立することができる. -
3.門脈内腫瘍栓(3)—— 切除および経皮的肝灌流療法
70巻2号(2008);View Description
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肝細胞癌(HCC)において門脈腫瘍栓(PVTT)は転移,再発のリスク因子であることに加えて,門脈本幹および対側門脈にまで伸展すると,難治性腹水,食道・胃静脈瘤出血などの合併症を誘発し,治療を阻む.PVTT を伴うHCC でも減量肝切除・PVTT 摘出と経皮的肝灌流(PIHP)を併用する2 段階療法(dual treatment)で,中・長期生存が可能になることを報告してきた.Vp4 以上のPVTT 摘出に際して,筆者らはback flow perfusion(BFP)法を用いており,技術的な要点を概説するとともに治療成績を述べる. -
4.肝静脈内腫瘍栓
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肝静脈腫瘍栓は門脈腫瘍栓とともに進行肝細胞癌に特徴的な脈管侵襲様式であり,主腫瘍の局在や肝機能とともに切除術式を規定する重要な因子となる.Vv1 では肝静脈本幹の温存が可能であるが,Vv2 では,併存するVp に応じた区域切除や葉切除に加えて,腫瘍栓の存在する静脈本幹の合併切除が必要となる.Vv3 症例では全肝血行遮断(THVE)が必要となり,Pringle 法に加え,下大静脈の尾側を腎静脈合流直上で,頭側は腫瘍栓の進展度に応じて横隔膜下や心嚢内で遮断する.THVE の遮断時間の安全域はおおむね60 分以内であるが,障害肝では肝不全などの術後合併症の危険性が高まる.血管侵襲を有する肝細胞癌の予後は不良で,切除例の5 年生存率は20%以下にとどまる.Vv1・Vv2 や術前TAE・TAI により腫瘍栓の縮小が得られたVv3 症例に対しては積極的な切除が望まれ,腫瘍栓が右房に達するような症例では慎重な症例選択が必要となる. -
5.下大静脈心房内腫瘍栓
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下大静脈(IVC)あるいは右心房内に進展する腫瘍栓を有する肝癌に対する肝切除に際しては,腫瘍栓先端の位置と,IVC の切除再建に要する時間を考慮して術式を選択する必要がある.すなわち,腫瘍栓先端がIVC 内にとどまり,IVC 遮断時間が60分以内であれば,単純全肝血流遮断(THVE)でのIVC 切除再建が可能であるが,60分を超える遮断時間を要したり,IVC のテストクランプにて血圧が維持できない場合は体外循環の適応となる.さらに腫瘍栓先端が右心房内にあれば,通常人工心肺の適応である.これらの術式による肝癌の長期予後は不明であり,さらなる症例の蓄積を要する. -
6.肝転移
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大腸癌の肝転移は膨張性の発育をきたし,胆管侵襲はまれと思われがちであるが,切除例の約40%で組織学的な胆管侵襲(腫瘍栓を含む)を認め,術前の画像で診断しうる胆管侵襲も10%以上と高頻度である.胆管侵襲を認める肝転移症例は認めない症例よりも予後が良好であったと報告されている.大腸癌の肝転移症例では,胆管侵襲を伴う場合が少なくないため,正確な術前画像の評価に基づき,腫瘍を露出させない解剖学的な肝切除が必要となることがある. -
7.胃癌の腫瘍栓の経験—— 長期無再発生存例
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胃癌で門脈腫瘍栓を伴う場合,進行した状態であり,治療は姑息的な手術にとどまることが多い.今回,根治的切除が可能であり,長期生存を得た症例を経験したので報告する.
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III.切除以外の治療
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1.インターフェロンの併用動注療法(1)
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門脈内腫瘍栓を伴う難治性進行肝細胞癌は,既存治療による抗腫瘍効果については,期待すべきものが皆無であるという現状であったが,インターフェロンと抗癌薬との併用療法により,最近では諸家の報告と合わせ,有意な抗腫瘍効果と生存率の改善を認めることが明らかになってきている.さらには,肝切除術との併用など集学的治療による治療成績の向上も明らかである.また,その作用機序としては,p27 Kip1 による細胞周期調節, I F N A R からのシグナル伝達の関与,TRAIL/TRAIL-receptor pathway やFas-FasL などの免疫学的機序や抗血管新生作用などの関与が推察されている. -
2.インターフェロンの併用動注療法(2)
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われわれは門脈腫瘍栓を伴った肝細胞癌374 例に,インターフェロン(IFN)併用5-FU 動注化学療法を行った.治療効果予測因子,予後予測因子を解析した.全体の生存率は0.5 年50%,1 年29%,2年13%,3 年8%であった.治療効果は奏効率44%,完全寛解率14%であった.予後因子は奏効,転移なし,腹水なし,PIVKA-II(DCP)<1,635 mAU/ml,門脈腫瘍栓Vp3 が条件であった.奏効予測因子は,腹水なしとPLT<12.4×10 4/μl であることが判明した. -
3.肝動脈化学塞栓療法(TACE)~肝動脈化学療法(TAI)による腫瘍栓を有する肝腫瘍の治療
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腫瘍栓は肝腫瘍最大の予後不良決定因子である.この腫瘍栓を有する症例に対する経動脈性治療,特に肝動脈化学塞栓療法(TACE)について述べた.エビデンスレベルの高い論文は皆無で,経験談を述べるにとどまった.しかしながら,肝炎ウイルスおよび腫瘍部の,より効果的な治療の開発,改良により長期生存可能症例が増加しつつあることも事実である. -
4.肝細胞癌腫瘍栓に対する放射線療法
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門脈腫瘍栓を有する肝細胞癌は,施行可能な治療法が限られており非常に予後不良であるため門脈腫瘍栓への放射線照射が行われてきた.最近では,三次元位置情報から肝臓の耐用線量に比べてはるかに高い線量を小照射野に絞って照射ができる3D-CRT が開発され,TACEや術前照射として切除と組み合わせることにより,その予後は改善されているため門脈腫瘍栓を有する肝細胞癌に対する有望な治療法であると思われる. -
5.腫瘍栓と移植
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肝細胞癌移植後の再発は腫瘍細胞の全身循環への散布によるものであり,その機序には腫瘍栓が直接に関与していると考えられ,事実腫瘍栓は肝移植後の強い独立した予後不良因子である.しかしこれは病理学的な因子であり,術前の画像で認められるものを除き摘出肝の検索ではじめてわかるものである.移植の適応基準としてはミラノ基準などがあるが,いずれも数と大きさを構成因子としており,これらは腫瘍栓に対する代替因子であると考えられる.移植摘出肝あるいは肝切除標本での検索でも,これらの因子と腫瘍栓との相関が認められている.
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臨床経験
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症例
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