外科

Volume 70, Issue 5, 2008
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第108 回日本外科学会記念号:特集【膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の最新知見】
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1.IPMN をめぐる諸問題
70巻5号(2008);View Description
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膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は分枝型と主膵管型に大別される.分枝型の進行型と思われる混合型の定義は明確でなく主膵管型に準じて治療してよいのかどうか,切除適応を腺腫と腺癌のどちらにおくのか,主膵管型のIPMN の切除線をどう決めるか,IPMN 併存膵癌にどう注意するのかなどが今の課題である.とくに分枝型についての非切除例の経過,切除例の標本,切除後経過を綿密に観察・検索し集積する必要がある. -
2.膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)~膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)および浸潤性膵管癌(IDC)の組織発生
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膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と浸潤性膵管癌(IDC)は組織発生上の類似性がうかがわれるものの,完成された病変における臨床病理学的特徴には大きな相違がある.IDC の前駆病変と考えられている膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)とIPMN の高異型度病変との分子レベルの違いは,SMAD4,MUC1,MUC2 などにみられるが,低異型度病変では必ずしもその区別は明確ではない.それぞれの組織発生に関する知見を集積し,分子レベルでの両者の異同を明確にすることが,今後の新たな治療戦略につながるものと考えられる. -
3.ムチン発現とその臨床的意義
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第11 回国際膵臓学会(2004 年)でのコンセンサスミーティングにおいて,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)がgastric type,intestinal type,pancreatobiliary type,oncocytic type の4 つの組織亜型に分類されたが,頻度が高いのはgastric type とintestinal type である.「IPMN/MCN 国際診療ガイドライン(2006 年)」に述べられているIPMN の「主膵管型」の多くがIPMN — intestinal type(大腸絨毛腺腫に類似した組織像を呈し,MUC1 陰性・MUC2 陽性)であり,「分枝膵管型」の多くはIPMN — gastric type(胃腺窩上皮に似た円柱状細胞の増殖像を呈し,MUC1 陰性・MUC2 陰性)である.ムチン発現様式を加味したIPMN の組織分類は,上記ガイドラインに記載されている「主膵管型は悪性化をきたすことが多いので手術的切除の適応となるが,分枝膵管型は嚢胞径や壁在結節の有無ならびに症状の有無で切除か経過観察かを選択する」という治療方針にも密接に関連する. -
4.病理からみた混合型IPMN のmalignant potential
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混合型膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の取扱いや,分枝膵管型IPMN の治療方針においては,残されている問題も多い.サブタイプ別にみると,主膵管型は65%,混合型は60%と,分枝型の29%より有意に腺癌が多くみられた.混合型IPMN のmalignant potential は,主膵管型IPMN とほぼ同等であり,混合型IPMN は原則的に手術適応とされている.またIPMN 分類では,欧米と本邦では組織分類・診断基準に若干の相違がみられ,用語の国際的統一が必要とされる. -
5.IPMN の悪性度診断:a) 各種画像診断法による悪性度診断
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膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は,病理組織学的には膵管上皮のわずかに異型を伴う腺腫から境界病変,非浸潤癌,微小浸潤癌,浸潤癌まで多彩な病変を含み,手術適応とすべき症例と経過観察が可能な症例が存在する.そのためIPMN の診断には,各種画像診断法を用いて悪性度の評価を行うことが重要である.現時点では,主膵管型は全例手術適応とされ,分枝型は悪性度の判定因子として,主膵管拡張の程度,嚢胞(拡張分枝)の大きさ,壁在結節の隆起の高さなどを重視することが多い.また,経過観察例においては病変の経時的な変化や通常型膵癌の合併に注目すべきである.個々の症例に応じて適切な画像診断法を用いて悪性度を評価し,適切な治療法を選択することが重要である. -
5.IPMN の悪性度診断:b) 分子生物学的診断
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膵嚢胞性腫瘍の多くを占める粘液産生膵腫瘍は主に mucinous cystic neoplasm (MCN)と膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)に相当し,WHO や『膵癌取扱い規約(第5版)』の発表でその診断基準が一応明らかとなった.IPMN の特徴となるムチンについて,MU1,MUC2(腸型),MUC5AC(胃型)などによりそれぞれの性格づけがなされている.膵癌における多段階発癌説のようにIPMN において過形成,軽度異型,中等度異型,高度異型,非浸潤癌,浸潤癌などの各段階での癌遺伝子,癌抑制遺伝子,細胞周期因子,アポトーシス関連因子などの関与が解析されてきた.膵液を用いたK-ras, p53,テロメラーゼ活性などの分子生物学的診断が試みられている.新たな知見を分子生物学的研究を中心に総括的に紹介した. -
6.IPMN に対する外科治療指針の今
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膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の病態についてはさまざまな未解決の問題点があるが,これはIPMN 由来浸潤癌が通常型膵癌と比較してどの程度悪性か,という問題でもある.われわれの経験では,IPMN切除60 例のうち14 例がIPMN 由来浸潤癌で,その5 年生存率は約40%であった.IPMN が浸潤しはじめてからも臨床的にslow growingであることを示唆する所見であるが,IPMN 非浸潤癌症例の5年生存率100%に比較すれば決して満足すべき数字ではない.したがって,IPMN はこれまで思われていたより悪性の疾患であることを考慮して治療にあたるべきである.さまざまな縮小手術が試みられているが,「縮小手術をしたことによって宿主(患者)を再発死させてはならない」という腫瘍外科手術の大前提を念頭におきながら,機能温存によっていかなる恩恵を受けたかを客観的に示していくことが重要である.適応は厳密にすべきである. -
7.IPMN の術中迅速病理診断の意義と問題点
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膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)における術中迅速病理診断は膵管内進展を組織学的に評価でき,施行する意義はきわめて高いと考えられる.しかし,多発例やskip lesion 例の存在,IPMN の異型度の判断は主観的である,アーチファクトや膵管上皮の脱落により判定困難なこともある,などの問題点もあげられる.今後,診断精度をより向上させるための膵液細胞診の併用も考慮しながら,外科医と病理医,さらには検査技師も含めた協力体制を整え,術中迅速病理診断をより有意義なものにしていくことが必要である. -
8.IPMN に対する術式選択:a) 膵全摘術の位置づけ
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筆者らが経験した膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)切除例80 例を臨床病理学的に検討した.膵全摘術18 例中9 例は連続性に全領域に癌病変が広がり,3 例では主病変が2 領域にみられ,skip lesion が他領域に存在していた.6 例は結果として膵を一部残存させることが可能であった.膵全摘術を受けた患者の1 年後・2 年後のHbA1c はそれぞれ7.0±1.7%,7.0±2.6%で,2 例を低血糖発作で失った.IPMN に対しては,術前に良悪性の鑑別と腫瘍の進展範囲を正確に診断し,腫瘍(癌)に対する根治性とQOL とのバランスを考慮した術式を選択することが大切である.QOL の面からも可能な限り膵全摘術を避ける必要がある. -
8.IPMN に対する術式選択:b) 多発分枝型IPMN
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分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は浸潤傾向に乏しく,予後良好であり,膵機能温存手術のよい適応である.一方,分枝型IPMNは多中心性に発生することがあり,その術式選択に苦慮する場合がある.多発分枝型IPMN の治療に際しては,分枝型IPMN の生物学的特徴を念頭におき,個々の症例に応じたbalanced surgery を行うことが肝要と思われる. -
9.ハムスターIPMN 誘発モデル
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膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は新しい疾患概念として注目され,その認識の高まりとともに報告例が著しく増加してきている.現在,IPMN の臨床研究は多岐にわたり進行しているが,病態の解明には多角的な研究が必要であり,動物実験はその一助として有用と思われる.われわれは,ハムスターを用いてヒトIPMN と類似した病理組織学的特徴をもつ膵管内乳頭状腫瘍の実験的誘発に成功した.本稿では,ハムスターIPMN 誘発モデルを紹介し,臨床との接点および応用について述べた.
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連載/外科医のための臨床研究講座(1)
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