外科

Volume 71, Issue 5, 2009
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特集【最新癌治療—エビデンスで示す治療効果とコスト】
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I.総論:医療経済効果を考えた癌治療
71巻5号(2009);View Description
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医療費の抑制策が強行された結果,医療制度の崩壊が始まり,医療のコストの妥当性と,その経済効果を明らかにすることが求められるようになった.本稿ではわが国の診療報酬制度を概説するとともに,近年導入された診断群分類(DPC)による包括医療制度の影響,そして今後われわれが行うべきことについて考えるところを述べる.
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II.各論
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1.乳癌
71巻5号(2009);View Description
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乳房温存療法と乳房切除術および術後補助療法の効果とコストについて述べた.乳房切除術は乳房温存療法より高額な医療費が必要である.医療費の削減には,早期発見による乳房温存療法が必要である.一方,乳癌手術の診療報酬は低く,化学療法は高過ぎる.また,入院患者に適用される包括医療評価は,調整係数により従来の出来高払いの診療報酬を確保してきた.2010 年に調整係数が廃止されるが,新たに設定される医療機関係数が適正なものでなければ医療機関の崩壊につながる. -
2.早期食道癌
71巻5号(2009);View Description
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早期食道癌に対する第一選択の治療法は内視鏡的切除である.術後狭窄が問題となる全周性や広範囲切除となる病巣,またT1a-MMでリンパ節転移が強く疑われる症例では外科切除が適応となる.熟達者が行う鏡視下手術のメリットは多い.しかし,コストの観点からは,使用医材の多くが保険請求できないことが問題である.内視鏡的切除では食道癌の内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)も保険収載され普及してきた.しかし,医療経済面からは病巣により内視鏡的粘膜切除術(EMR)とESD を使い分けることで効率的な治療が可能と思われる. -
3.進行食道癌
71巻5号(2009);View Description
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進行食道癌に対する治療は手術,放射線治療,化学療法が3 本柱であり,これらを組み合わせることにより治療成績は向上してきた.根治的化学放射線療法は治療効果が高いものの食道を温存できるものは約3 割であり,合併症も多い.局所再発や癌遺残に対してはサルベージ手術が必要であり,これにより根治が得られなければ予後を改善できない.サルベージ手術は通常手術に比べ術後合併症と手術死亡が激増する.術前化学療法は術後治療に比べ完遂率が高く,優れた治療成績が期待されている. -
4.早期胃癌
71巻5号(2009);View Description
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早期胃癌に対しては治療効果と術後生活の質(QOL)のバランスを考慮し,低侵襲で機能温存を重視した治療法が導入されている.その結果として入院療養期間の短縮が実現し,大きな医療経済効果が期待されるが,現時点ではそれらの治療法に十分な診療報酬が与えられているとはいいがたい.質の高い医療を提供するためには教育システムの整備・確立が急務であると同時に,技術の高さを正当に評価した技術料を認めることが重要である. -
5.進行胃癌—— 費用対効果に基づいた治療戦略
71巻5号(2009);View Description
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進行胃癌の治療は手術療法や化学療法が主体であるが,これまで「1 日でも予後を改善できる治療法」という観点でエビデンスが創出されてきた.一方で,生活の質(QOL)や特にコスト面はあまり重視されてこなかった.昨今の医療を取り巻くさまざまな背景により,質と効率に優れた医療の提供が求められている.臨床技術の費用対効果を評価するために臨床経済学の手法が応用されるが,胃癌領域に関する検討は十分とはいえない.経口抗癌薬であるS-1 療法による術後補助化学療法は増分費用効果比が低値で費用対効果に優れていると報告された.また,進行再発胃癌におけるS-1 療法は既存化学療法と比較して,費用効果分析において1 ヵ月あたりの医療費が低値であったという報告がある.今後,胃癌治療領域においても分子標的治療薬などの高額治療の出現が予想され,費用対効果について検討が必要である. -
6.結腸癌手術—— 腹腔鏡手術と開腹手術の比較・検討
71巻5号(2009);View Description
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腹腔鏡下結腸癌手術は低侵襲性で,美容的にも良好である.欧米のランダム化試験(RCT)にて,遠隔成績において腹腔鏡手術は開腹手術と同等であることが報告された.しかし,手術時間が長い,高価なディスポーザブル機器を使用するなどの医療経済上の問題がある.機材費の病院持ち出し分,手術時間が長いことによる経費支出などにより,純益は不良と考えられた.経済効率向上のためには,機材費の圧縮,手術時間の短縮などが必要と思われた. -
7.進行直腸癌
71巻5号(2009);View Description
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進行直腸癌に対しては手術療法のほか,放射線療法や化学療法も有効である.これらの治療成績は近年飛躍的に向上したが,コストも高額になってきた.標準的なコストを単純に比較した場合,手術は約50 万円,術前化学放射線治療,切除不能時の化学療法は各々5 倍,10 倍の費用がかかる計算である.したがって,切除可能であるならば,物理的に癌を取り除くという確実性の面のみならず,医療経済的にも手術療法はもっとも優れた方法といえる. -
8.原発性肝癌
71巻5号(2009);View Description
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科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドラインでは,肝細胞癌の治療を肝障害度,腫瘍数,腫瘍径の3 因子によって図1 のように設定している.したがって,大多数の症例は第一に選択すべき治療法が一つに決定される.しかし,すべての症例において適応されるとは限らない.本稿では,肝障害度がAで,腫瘍数が4 個,最大腫瘍径が3 cm 以上の症例で,肝切除,ラジオ波焼灼術(RFA),肝動脈塞栓療法(TAE),化学療法を行った場合のコストを,当院で行ったそれぞれの治療法の保険点数を参考に解析した.1 入院あたりの平均保険点数を比べると,肝切除はほかの治療法のおよそ2 倍の費用がかかっている.しかし,1 回のTAE で肝細胞癌が完全寛解することはまれで,多くの場合繰り返しTAE を行わなければならない.また,化学療法も4 週間ごとに繰り返す必要がある.また,この腫瘍条件では,最大径の肝細胞癌に対して,1 回のRFA で完全に治療するのは困難である.したがって,肝切除以外の治療法を選択した場合には2 回以上の入院治療が必要となり,肝切除以上の費用がかかることになる.肝切除の高い無再発生存率を考慮すると,ほかの治療法に比べコストの面でも低く抑えられると考える. -
9.膵癌の治療成績と診療別コスト—— 両者の関係を考える時期はいつか
71巻5号(2009);View Description
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膵癌の治療後成績は他癌のそれに比しきわめて不良なことから,欧州では一時期において外科治療自体を避けてもよいのではないかと考える向きもあった.しかしながら,化学あるいは化学放射線療法と外科治療法の比較で後者が生命予後を改善するとのエビデンスが示されて以来,外科的切除が救命しうる唯一の治療法であるとのコンセンサスにいたり,今日,外科的切除への依存度は高い.一方,その治療法別の費用対効果を検討しようとすると,後ろ向きあるいは前向きの比較試験の実施がむずかしい状況にある疾患のため,治療法別でのデータがない.すなわち,切除可能例での化学療法単独症例群あるいは放射線単独治療症例群を対象としたエビデンスレベルIII以上の研究報告はきわめて少なく,たとえ存在してもその対象例の選択に厳密性が保たれていたかは必ずしも明確でないのが実状である.今日までの報告をみる限り,膵癌について切除,放射線治療,化学療法の3 治療法間で治療後成績を加味した診療別コストを比較することは,集学的治療が強く推奨されている今日,evidence-based medicine(EBM)の面からは分析困難と理解された.
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連載
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臨床と研究
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臨床経験
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症例
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Imatinib 投与およびドレナージ術が有効であった腹膜播種を伴う悪性gastrointestinal stromal tumor の1 例
71巻5号(2009);View Description
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