外科

Volume 72, Issue 1, 2010
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特集【門脈と脾臓のup date】
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I.門脈:1.門脈圧亢進症の診断と治療のガイドライン
72巻1号(2010);View Description
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門脈圧が亢進し,食道・胃静脈瘤,脾腫・脾機能亢進,腹水,肝性脳症などの諸症状をきたす主な基礎疾患のうち,肝硬変を除いた特発性門脈圧亢進症,肝外門脈閉塞症,Budd-Chiari 症候群の診断と治療のガイドラインについては,厚生労働省特定疾患門脈血行異常症調査研究班により3 疾患共通の重症度分類を含め「門脈血行異常症の診断と治療のガイドライン(2007年)」としてまとめられた.本稿ではその概要を解説する. -
I.門脈:2.門脈圧亢進症診断の最近の進歩
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門脈圧亢進症の画像診断として,CT 検査と超音波内視鏡検査(EUS)の進歩がめざましく,日常診療での有用性は高い.CT 検査はmulti-detector CT(MDCT)の普及により,3-D CT angiographyが可能になり,非侵襲的に門脈血行動態について詳細な情報が得られるようになった.EUS は細径プローブの普及,解像度の向上に加え,三次元表示やカラードプラ機能が可能となり,合理的な食道静脈瘤治療に貢献している. -
I.門脈:3.門脈圧亢進症に対する薬物療法── 食道静脈瘤を中心に
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門脈圧は門脈への流入血液量と門脈内の血管抵抗によって規定される.本邦における食道静脈瘤に対する治療法は,内視鏡治療がその中心となっており,欧米の薬物(非選択的βブロッカー)を中心とした治療とは大きく異なる.しかしながら,非選択的βブロッカーの予防効果が最近の大規模臨床試験により疑問を投げかけられているのも事実である.本稿では当科におけるアンジオテンシンIItype 1受容体拮抗薬(ARB)の成績に基づき,最近の食道静脈瘤治療における薬物療法の現状につき述べる. -
I.門脈:4.食道・胃静脈瘤に対する内視鏡的治療
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食道・胃静脈瘤に対する内視鏡的治療はわが国において,1980年代に内視鏡的硬化療法(EIS)が急速に普及し,1990年代になり内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)が普及した.食道静脈瘤の出血例については第一選択の治療法はEVL であり,第二選択はEIS である.また胃静脈瘤の出血例についてはシアノアクリレート化合物を使ったEISがほぼ第一選択の治療となっている. -
I.門脈:5.バルーン下逆行性経静脈的塞栓術
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経頚静脈的逆行性塞栓術(TJO)施行胃静脈瘤105 例の胃静脈瘤消失率は100%,再発率は0%であった.しかし,5 年累積TJO 後食道静脈瘤発生率はChild-Pugh Class A 10%,B 35%,C 73%と肝機能不良なほど高率となった(p<0.01).そこで,筆者らは胃静脈瘤に対するより進化した治療法として部分的脾動脈塞栓術(PSE)・TJO併用療法を考案した.2002 年11 月〜2006 年12 月にPSE・TJO 併用療法で治療した胃静脈瘤14 例(1群)とTJO 単独で治療した胃静脈瘤19例(2群)の治療成績について比較・検討した.胃静脈瘤消失率は1群100%,2 群100%であった.3 年累積生存率は1 群92%,2 群95%と有意差はなかった.TJO後累積食道静脈瘤発生率は1群で1年0%,2年9%,3 年9%,2 群で1 年27%,2 年45%,3 年45% と,1 群で有意に低率であった(p<0.05).胃静脈瘤に対するPSE・TJO併用療法はTJO単独に比べて,TJO後の食道静脈瘤発生を低率に抑える点で有用と思われた.PSE はTJO 後の門脈系うっ血の予防に貢献するものと思われた. -
I.門脈:6.食道・胃静脈瘤に対する外科治療の役割
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本邦では食道・胃静脈瘤出血に対して内視鏡治療を第一選択とすることが多いが,手術適応となる症例は少なくない.手術としては食道離断術やHassab手術,選択的シャント手術が行われる.手術療法はすでに確立されており,肝機能良好例では安全で治療効果が高くよい適応である.さらに,内視鏡治療や脾動脈塞栓術など手術療法以外の治療法が無効な症例には積極的に適応されるべきであり,その手技と原理に精通しておく必要がある. -
I.門脈:7.門脈圧亢進症合併肝癌の治療
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肝癌は背景に肝炎ウイルスによる慢性肝炎,肝硬変を高率に合併し,癌そのものに加えて肝実質細胞の脱落による肝機能障害や門脈圧亢進による食道・胃静脈瘤,脾腫による血小板減少が治療を阻む要因となっている.したがって治療に際しては背景疾患の評価と対策が重要となる.近年,肝予備能と癌の進展度に着目して国内外で治療ガイドラインが提唱されているが門脈圧亢進症に対する対策は示されていない.本稿では門脈圧亢進症合併肝癌の治療に特有な問題点に加えて最新の肝癌治療選択について述べる. -
I.門脈:8.異所性静脈瘤の診断と治療
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異所性静脈瘤の多くは背景に門脈圧亢進症を有しており,比較的まれな疾患とされるが,近年の内視鏡診断,画像診断の発達により,報告例は増加している.本邦における十二指腸静脈瘤の多くは遠肝性血流を有し,下行脚,水平脚に頻度が高い.内視鏡的治療はcyanoacrylate系組織接着剤を用いた硬化療法が有効である.本邦における直腸静脈瘤出血例の約80 %は食道静脈瘤治療歴を有しており,このような症例では定期的な下部消化管内視鏡検査が望まれる.小腸静脈瘤出血例の約80 %は腹部手術の既往を有するため,腹部手術歴のある門脈圧亢進症患者の消化管出血では,小腸静脈瘤出血を念頭におく必要がある. -
I.門脈:9.生体肝移植と門脈圧亢進症
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門脈圧亢進症に対する肝移植の良好な成績が報告されてきた.肝移植後,種々の原因疾患で亢進していた門脈圧はグラフト肝の高いコンプライアンスにより低下する.本邦における肝移植はそのほとんどが,生体部分肝移植であるが,部分肝ゆえに生じる過小グラフトでは,門脈圧の低下が十分に得られない場合もある.本稿では,わが国における門脈圧亢進症に対する生体肝移植の現状,技術的側面について,自験例も紹介しながら文献的考察をまとめた. -
II.脾臓:1.脾臓の構造と機能
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脾臓は門脈系に介在する末梢最大のリンパ装置であるが,血液濾過装置としても機能している.その構造は,細網組織を骨格とする枠組みの中に白脾髄,周辺帯,赤脾髄が形成されている.ヒト脾臓では,周辺帯,赤脾髄で動脈末端は開放性に終わっている.その特異な微小循環形態は脾臓のもつ血液濾過・浄化作用と密接にかかわっている. -
II.脾臓:1.脾臓の構造と機能
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脾臓は門脈系に介在する末梢最大のリンパ装置であるが,血液濾過装置としても機能している.その構造は,細網組織を骨格とする枠組みの中に白脾髄,周辺帯,赤脾髄が形成されている.ヒト脾臓では,周辺帯,赤脾髄で動脈末端は開放性に終わっている.その特異な微小循環形態は脾臓のもつ血液濾過・浄化作用と密接にかかわっている. -
II.脾臓:2.肝硬変に対する脾摘の意義と注意点
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脾摘を施行した肝硬変の134例について脾摘の意義および注意点を検討した.術後肝機能, 食道静脈は有意に改善した.術後interferon(IFN)治療の完遂率は80.5 %,sustained virological response(SVR)はgenotype1 43.5 %,2 90.0 %であった.肝細胞癌合併例では全例肝細胞癌治療・再発治療が施行でき,5年生存率は29 %であった.Danaparoid sodium 併用の抗凝固療法では門脈血栓は8.1 %に改善したが,脾重量1,000 g以上の症例では抗凝固療法中止後の門脈血栓にも注意が必要である.脾摘前後で細菌感染の頻度に有意差はなかったが,脾重量1,000 g以上,術後門脈血栓,IFN投与中の好中球数減少は術後細菌感染のリスクファクターであった. -
II.脾臓:3.脾摘は肝機能を改善するか
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脾摘は肝機能を改善するか.これを理解するために,本稿では肝切除や成人生体肝移植後肝障害のメカニズムについて述べ,またそれぞれの肝障害における脾摘の肝機能改善効果の基礎データを含めて報告した.肝切除後の肝障害は,門脈圧亢進によってもたらされる,過剰なshear stressからくる肝障害と,常にエンドトキシンや経口抗原にさらされている肝の環境下と肝の特異的免疫機構における過剰免疫による肝障害の二つのメカニズムがあり,相互の影響が複雑に関係している.脾摘は,過剰なshear stress や過剰な免疫を緩和する働きがあり,臨床的にも総じて肝機能を改善する働きがある.しかし感染や脾静脈血栓などの脾摘による合併症の問題もあり,脾摘の決断は慎重に行う必要がある. -
II.脾臓:4.部分脾動脈塞栓術か脾摘か
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部分脾動脈塞栓術(PSE)と脾摘の功罪について述べる.PSEでは血管造影剤過敏症例とChild-Pugh Score 13 点以上,脾摘ではChild-Pugh Score 10 点以上(Child-Pugh Class C)を原則適応外としている.合併症は,PSE では左側腹部痛77.6 %,発熱94.8 %,腹水貯留5.2 %,左胸水貯留3.4 %,脾膿瘍1.7 %であった.脾摘では重症感染症がまれに起こるため術後にPneumococcal vaccine投与が必要である.時に門脈血栓が出現するが,近年は術後抗凝固療法により減少しつつある.両方法とも汎血球減少症,食道・胃静脈瘤,肝性脳症に対し有効であるが,脾摘のほうが効果は確実である.しかしPSE は低侵襲で,全身状態に合わせて梗塞範囲を加減でき,しかも後日追加治療が可能である.また脾の一部を温存できる.門脈圧亢進症に対する脾温存の是非が解明されていない現在,治療成績も両者遜色ないことから患者の希望や各施設の特色から判断して治療法を選択すべきである.
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