外科
Volume 73, Issue 1, 2011
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特集【鏡視下手術─術中トラブル対処】
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1.甲状腺切除術
73巻1号(2011);View Description Hide Description甲状腺に対する内視鏡手術の目的は整容性にあり,頸部に手術創が残らない種々のアプローチ法が考案されてきた.当科では送気法を用いた腋窩乳輪アプローチによる完全内鏡視下甲状腺切除術を施行している.本術式は,安全かつ整容的にも優れた術式であるが,問題点として,離れた部位から狭い操作空間での手術操作が必要であることがあげられる.本稿では,良好な視野と操作性を得るための当科における手技と手術器具の工夫について概説する. -
2.副甲状腺切除術
73巻1号(2011);View Description Hide Description副甲状腺内視鏡手術の術中トラブルで特に注意を払うべきことは,粗暴な操作で病的副甲状腺組織の破砕による細胞や組織の術野への散布である.術野へのimplantation の危険性があり,あってはならないトラブルである.対処法としては,術中の愛護的な操作と閉創前の術野の十分な洗浄が重要である.その他周囲組織,重要血管,神経(特に反回神経)の損傷をきたさぬように解剖の理解とドライで明瞭な術野での手術操作も大切である. -
3.乳腺切除術
73巻1号(2011);View Description Hide Description乳癌内視鏡手術は,開始後15年経過した腫瘍学的にも外科手術としても安定した手技である.他臓器と同様に膜の解剖を理解することで,多くの術中トラブルを回避できる.血管損傷,術中出血,術後出血を生じやすい部位,大胸筋,前鋸筋損傷,皮弁熱傷を避けるポイント,出血への対処方法について詳述した. -
4.食道亜全摘術
73巻1号(2011);View Description Hide Description食道癌根治術は通常開胸下で行ってもリスクの高い手術である.これを胸腔鏡下で行うには縦隔解剖の理解と高い鏡視下手術の技術が必要である.術中トラブルは回避がもっとも重要である.このためには胸腔鏡手術は手段であって目的でないことを肝に銘じ,手術適応を遵守することが肝要である.拡大視野下で明らかとなる微細解剖に基づいて,解剖層に沿った剥離がもっとも安全である.癌浸潤のためにこの剥離層の保持が困難となった場合は胸腔鏡手術が遂行可能かもう一度評価する.重篤偶発症に際しては,まず出血のコントロール,換気確保などの生命維持に努め,複数の医師でビデオを確認し,偶発症の客観的評価を行う. -
5.幽門側胃切除術
73巻1号(2011);View Description Hide Description腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(LADG)は,安全かつ確実なリンパ節郭清と吻合手技が要求される難易度の高い腹腔鏡下手術である.特に術中偶発症として血管損傷,臓器損傷,再建時のトラブルには注意を払う必要がある.その成否は術者の技量のみならず,助手や腹腔鏡医とのチームワークにかかっていることはいうまでもない.術中偶発症を起こさないためにはまず術前から周到な準備を行っておく必要があり,解剖の把握,術野展開の工夫,エネルギーデバイスや鉗子の選択も術中偶発症予防における重要な要素である.また術中偶発症が生じたときもあわてずに内視鏡下手術の特長を生かした対処を行うべきである.癌の根治性を担保しつつ合併症を起こさない手術を行うためには術式の定型化を図ることが大切であり,かつ陥りやすい術中偶発症とその原因,発生時の対処法を習熟しておくことが肝要である.自分の技量を過信せず患者の安全を第一とすれば,特にLADG 導入当初は開腹移行を躊躇してはならない. -
6.胃全摘術
73巻1号(2011);View Description Hide Description日本内視鏡外科学会(JSES)の第10回アンケート調査結果によると,1994 年にわが国で始まった腹腔鏡下胃全摘術は2009 年には年間約1,100 例が行われるまでに成長してきた.しかしながら,その手技はまだ確立しているとはいいがたく,術中偶発症の発生頻度は2.7 %である.その内訳は出血,他臓器損傷,穿孔の順で多かった.いずれも,解剖学的誤認や手術機器の誤操作によることが多い.本稿では,脾臓温存の腹腔鏡下胃全摘における偶発症の予防とその対策について述べたい. -
7.結腸切除術
73巻1号(2011);View Description Hide Description結腸切除術,特に右半結腸切除術における腹腔鏡下手術(LAC)の術中トラブルとその対処法について述べる.ポート挿入時には出血に注意し,腹壁に対して垂直に挿入する.鏡視下操作時には出血や腸管損傷などに留意し,常に術野をdryに保つことが必要である.吻合時は腸管浮腫を最小限にするため器械吻合を使用し,交叉点の補強をすることが肝要である.これらの点につき,当科でのデバイスの選択も例にあげながら解説してゆく. -
8.低位前方切除術
73巻1号(2011);View Description Hide Description腹腔鏡下低位前方切除術(Lap-LAR)は,大腸での腹腔鏡下手術における基本操作の集大成といえる.安全な手術の鍵は,術者のhand-eye coordination,助手とのcooperation,camerawork,laparoscopic anatomy の把握である.われわれの行っているLap-LAR は, 1.内側アプローチ, 2.外側アプローチ, 3.直腸周囲の剥離, 4.直腸間膜の処理, 5.腸管の切除・吻合の5つのステップに分けられる.このように定型化された手術では,手術時間の短縮に固執することなく,術者と助手のコミュニケーションを行い,解剖や層の確認作業に十分な時間をかけることが重要である.また,各ステップにおけるピットフォールの把握とその回避,剥離や切離などの基本手技の積み重ねが,安全な手術の成功へとつながる.したがって本法の安全な普及には,手術機材を含め施設における術式の定型化と教育が重要と考える. -
9.肝切除術
73巻1号(2011);View Description Hide Description腹腔鏡下肝切除において留意する主な術中トラブルは出血,他臓器損傷,ガス塞栓である.本術式においてトラブルの発生は致死的ともなりうるため,その対処だけではなく発生させないことも重要となる.手術手技と可能性のあるトラブルを熟知し行うことが重要である. -
10.胆嚢摘出術
73巻1号(2011);View Description Hide Description腹腔鏡下胆嚢摘出術中に起こりうるトラブルとして,腹腔内癒着,出血,胆道損傷,その他,細かな操作上のトラブルと対処法について解説する.原則的なことのみあげる.何が起こりうるかを知るためにも解剖の知識が欠かせない.腸管の癒着剥離は無理をしない.出血の際に電気メスで焼きすぎると遅発性の穿孔がありうる.クリッピングによる止血は深くかけすぎない.胆嚢管露出は胆嚢頸部の壁に沿って始めるという大原則を守る限り不要な動脈,胆道損傷は起こらない.胆道損傷の対応は縫合形成かチューブやステントを用いた胆管温存法が原則であり,消化管吻合は最終選択肢である. -
11.膵尾側切除術
73巻1号(2011);View Description Hide Description鏡視下膵切除,特に尾側膵切除において術中遭遇するトラブルあるいは難局として,術野の展開がわるい,予期せぬ出血,膵実質のステイプリング困難などがあげられる.術野の展開は患者の体位変換やリトラクターによって対処する.出血に対しては圧迫,アルゴンビームコアギュレータ(ABC),クリッピング,縫合結紮などで適宜対応するが,ベッセル・シーラーを用いた丁寧な脈管処理を行うことにより,出血を未然に防ぐ手術が要求される.膵実質のステイプリングはもっとも重要なポイントで,出血や術後膵液瘻を予防するためには時間をかけたステイプラーの閉鎖がコツである.またトラブルの対処に窮した場合は,躊躇なくすみやかに用手補助鏡視下手術(hand-assisted laparoscopic surgery:HALS)あるいは開腹手術に変更することが肝要である.
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新連載/外科学の古典を読む[第1回]
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