外科
Volume 73, Issue 8, 2011
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特集【神経内分泌腫瘍(NET)のすべて】
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I.基礎:1.神経内分泌腫瘍(NET)の疫学と現状
73巻8号(2011);View Description Hide Description神経内分泌腫瘍(NET)の疫学,病態,治療などに関して,わが国では包括して討議される機会があまりなかった.2004 年に消化器神経内分泌腫瘍(GEP-NET)に関する診断・治療ならびに研究にかかわる最新情報の共有化,情報交換を図り,本領域における臨床・基礎での研究の発展に貢献することを目的にNeuroendocrine Tumor WorkshopJapan(NET Work Japan)が設立され,日本でGEP-NET の実態調査および疫学調査が施行された.2005 年1 年間の膵内分泌腫瘍(P-NET)の受療者数は2,845 例と推定され,機能性1,627 例,非機能性1,218 例であった.非機能性P-NET では悪性率および多発性内分泌腫瘍1 型(MEN1)の合併率において欧米と大きな差を認めた.一方,消化管神経内分泌腫瘍(GI-NET)の受療者数は4,406例と推定され,部位別では中腸が少なく後腸が多く,欧米と大きな差を認めた. -
I.基礎:2.神経内分泌腫瘍(NET)の分類
73巻8号(2011);View Description Hide Description神経内分泌腫瘍(NET)の分類で現在最新のものは,WHO 分類2010年版で提示された消化器NETの分類で,今後日常診療で広く用いられていくことが予想される.以前の2000 年版WHO 分類と比較すると,解剖学的進展範囲であるTNM 分類と病理組織学的分化度分類であるGrade 分類〔NET G1(carcinoid),NET G2,NEC〕が別々に提案された点が特徴である. -
I.基礎:3.遺伝性内分泌腫瘍症候群
73巻8号(2011);View Description Hide Description多発性内分泌腺腫症(multiple endocrine neoplasia:MEN)は,内分泌臓器を中心に過形成性病変や腫瘍性病変が多発する常染色体優性遺伝性疾患である.その臨床像から1 型(MEN1),2型(MEN2)に大別され,それぞれMEN1 遺伝子,RET 遺伝子が原因遺伝子である.その他に褐色細胞腫や膵神経内分泌腫瘍などを合併する常染色体優性遺伝性疾患として,von Hippel-Lindau病やneurofibromatosis type 1がある. -
II.診断:1.神経内分泌腫瘍(NET)の病理診断
73巻8号(2011);View Description Hide Description神経内分泌腫瘍(NET)の病理組織診断は以下の三つのステップを経ることが重要となる.第一には通常のHE 染色の病理組織所見で神経内分泌への分化を疑い,その後クロモグラニンA,シナプトフィジンの免疫組織化学で検索をすすめる.NET の診断がついた後に,その症例の生物学的悪性度を検討する必要がある.2010 年の新しいWHO 分類に準拠し現在はNETG1,G2,neuroendocrine carcinoma(NEC)G3と分類するが,この病理組織学的分類に際してもKi-67の免疫組織化学を行い,その標識率を算出することが肝要である.最後にNET の治療との関係で主にはG1,G2 例ではoctreotideの治療標的であるソマトスタチン受容体(SSTR)を検討する必要がある. -
II.診断:2.神経内分泌腫瘍(NET)の術前診断─画像
73巻8号(2011);View Description Hide Description膵原発神経内分泌腫瘍(NET)は比較的まれな腫瘍である.非機能性NET の診断はCT が主たる役割を担っているが,動脈相で強く造影される典型像を除き,その画像所見は多彩であり,しばしば鑑別診断が困難な場合がある.術前診断としては,質的診断および局所進行度の診断には造影CT を使用し,肝転移に関しては肝細胞特異性造影剤を用いた造影MRI が有用である. -
II.診断:3.膵神経内分泌腫瘍(NET)の術前診断─内視鏡
73巻8号(2011);View Description Hide Description局所観察能に優れる超音波内視鏡(EUS)は膵神経内分泌腫瘍(NET)に対する有用な画像検査法であり,さらに超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)で病理学的診断が行いうるという利点をもつ.2 cm 以上の膵NET 典型例では,US,CT を中心とした低侵襲性画像検査法でほぼ診断は可能であるが,小病変,嚢胞変性例に対してはEUSを要する.また,非典型的所見を呈する症例は悪性の可能性が高く,通常型膵癌との鑑別が問題となりEUS-FNA が有用である.膵NET の診断に際しては,多発の存在を念頭においてEUSによる全膵の観察を行うべきである. -
III.治療:1.消化管神経内分泌腫瘍(GI-NET)の局在診断と手術療法
73巻8号(2011);View Description Hide Description消化管神経内分泌腫瘍(GI-NET)は比較的まれな疾患であり,治療方針で迷うことが多い.原発巣の局在部位によって臨床的・病理学的特徴は多岐にわたっている.欧米からはいくつかの診療ガイドラインが示されているが,本邦でのガイドラインは現在作成段階であり,その手術適応・術式選択は既存のガイドラインを参考に行われている.代表的なGI-NETの分類および手術適応・術式選択を紹介する.本邦の実情に沿った独自の診療ガイドラインの早期作成が望まれる. -
III.治療:2.膵神経内分泌腫瘍(P-NET)の局在診断と手術療法
73巻8号(2011);View Description Hide Descriptionホルモン過剰分泌を示し,遠隔転移を起こしうる腫瘍の完全摘出のため術前の局在診断は重要である.膵神経内分泌腫瘍(P-NET)の局在診断には腹部超音波検査,dynamic CT,MRI,EUS,選択的動脈内カルシウム注入試験(SACI test)などが用いられており,画像診断の進歩により小病変の検出感度は向上してきている.散発性のP-NET に対しては,腫瘍核出術,脾温存膵体尾部切除術,脾臓摘出術を加えた膵体尾部切除術,膵頭十二指腸切除術やまれに十二指腸温存膵頭切除術などが症例に応じて選択される.悪性度の高いもの,リンパ節転移が疑われるものには予防的リンパ節郭清を考慮する.多発性内分泌腺腫症1 型(MEN1)に合併するP-NET に対しての手術のタイミング,術式に関してはcontroversialであるが,臓器機能の温存と根治性のバランスを考慮した術式を選択する. -
III.治療:3.神経内分泌腫瘍(NET)肝転移に対する治療
73巻8号(2011);View Description Hide Description神経内分泌腫瘍(NET)は高頻度に肝転移を生じ,肝転移のコントロールが患者予後を決定する大きな治療要因となる.NET 肝転移に対する第一の治療選択は肝切除であるが,発見時すでに多発転移を生じたり,肝外転移を伴ったりしている症例が多く,完全切除の達成率は高いとはいえず,また切除後の高い再発率が大きな問題点となっている.肝移植の適応となるケースは限定されるが,移植施行例では肝切除よりも再発のリスクは軽減される.切除不能例に対しては肝動脈化学塞栓療法,化学療法や内照射療法などが行われているが,最近になって有望な分子標的治療薬の治療成績が報告されており,今後外科治療と薬物治療を組み合わせた新たな治療のストラテジー開発への期待が高まっている. -
III.治療:4.神経内分泌腫瘍(NET)に対する化学療法
73巻8号(2011);View Description Hide Description高分化型の膵消化管系の神経内分泌腫瘍(NET)では,ほかの治療法でも進行性の症例で化学療法が検討される.膵NET ではstreptozocin含有レジメンなどが確立しているが,消化管NET では化学療法の効果は低く,その意義は確立していない.未分化型のNET は化学療法に感受性であり,肺小細胞癌に準じた治療がなされる.国内状況として,streptozocin の開発が検討されているほか,国内のNET 治療ガイドラインが作成されつつある. -
III.治療:5.神経内分泌腫瘍(NET)に対する分子標的治療
73巻8号(2011);View Description Hide Description消化器神経内分泌腫瘍(GEP─NET)は膵・消化管の神経内分泌細胞から発生する腫瘍である.一般に腫瘍細胞は異型が乏しく予後良好であることが多いが,肝臓など遠隔臓器に転移をきたす悪性度の高い腫瘍も存在する.進行・再発例で切除不能な場合,各種抗癌薬による化学療法が行われるが,近年さまざまな分子標的治療薬が開発・臨床応用され,神経内分泌腫瘍(NET)に対する有効性が報告されている.ソマトスタチンアナログ製剤のoctreotideは腫瘍の産生する各種ホルモンによる症候だけでなく抗腫瘍効果ももつとされ,大規模臨床研究により中腸原発のNET に対しその治療効果が示された.またmTOR 阻害薬everolimus やチロシンキナーゼ阻害薬sunitinib などさまざまな新規分子標的治療薬でその効果が報告されている.今後,これら分子標的治療薬がNETの集学的治療に応用され標準治療が確立されることが期待される. -
IV.その他:わが国の神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインの作成に向けて
73巻8号(2011);View Description Hide Description神経内分泌腫瘍(NET)はまれであるため,個々の症例に対する治療方針の決定に苦慮することが多い.欧米ではコンセンサスガイドラインやプラクティスガイドラインがすでに公表されている.海外のガイドラインを踏襲するのではなく,日本特有の医療環境を加味した診療ガイドラインの作成が必要である.最近,質の高いエビデンスの報告が増加しており,これに日本におけるコンセンサスを融合させ,利用価値の高い診療ガイドラインの作成が期待されている.
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連載/外科学の古典を読む[第8 回]
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臨床と研究
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臨床経験
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患者管理
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症例
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乳癌皮膚浸潤部にMohs chemosurgery 変法を施行しよりよいquality of lifeを得た3 例
73巻8号(2011);View Description Hide Description -
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