外科
Volume 78, Issue 1, 2016
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特集 【腹部良性疾患に対する外科治療の最前線】
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1.食道裂孔ヘルニア
78巻1号(2016);View Description Hide Description食道裂孔ヘルニアは,滑脱型ヘルニア(Ⅰ型),傍食道型ヘルニア(Ⅱ型),混合型ヘルニア(Ⅲ型),複合型ヘルニア(Ⅳ型)に分類される.逆流性食道炎を伴うことが比較的多く,上部消化管内視鏡検査のみで診断されることもしばしばあるが,ヘルニアの診断に関しては上部消化管造影がもっとも有用である.無症状例では経過観察してもよいが,内科的治療抵抗性で患者の生活の質(QOL)が低下している場合には,外科的治療を考慮する.また傍食道型ヘルニアでは,時に嵌頓や軸捻転,胃壁壊死や胃穿孔にいたった報告もあり緊急手術を要することがある. -
2.食道アカラシア
78巻1号(2016);View Description Hide Description内視鏡的筋層切開術(POEM)は,従来は外科手術(腹腔鏡下Heller─Dorなど)で行っていた筋層切開を経口内視鏡的に行うものである.筋層切開の長さや方向も自由に設定できることから,食道アカラシアのみならず,これまで決定的な治療法がなかった食道運動機能障害(びまん性食道攣縮,nutcracker esophagus,Jackhammer esophagusなど)においては,有用かつ唯一の治療法であると考えられる.筆者の施設ではこれまでに1, 000例以上に施行しており,成功率は,Eckerdt スコアが最終的に3以下あるいは改善度3 点以上を成功の基準とした場合は,97. 5 %であった.重篤な合併症をきたした症例は1例もない.また,POEM 後の胃食道逆流症(GERD)は,有症状のものは15 %,プロトンポンプ阻害薬(PPI)を内服した5 %もコントロール良好であった.Nissen手術を必要とするような重症のGERD はなかった.現在,POEMは先進医療として,厚生労働省に認定されている.今後,アカラシアおよび関連疾患に対する標準治療になると期待される. -
3.食道・胃静脈瘤
78巻1号(2016);View Description Hide Description食道・胃静脈瘤に対する手術療法には,直達手術とシャント手術がある.ほかに脾摘術,脾肺固着術,肝移植,Budd─Chiari 症候群に対する静脈再建術やバイパス手術などもある.手術療法は長年にわたる門脈血行動態研究に基づき理論的に工夫・改良され,長期成績は良好となった.現在では侵襲面から保存的療法の難治例に対する最終手段となっているが,難治例はより複雑な血行動態となっており,外科医は門脈血行動態のより深い理解が必要である. -
4.胃・十二指腸潰瘍穿孔
78巻1号(2016);View Description Hide Description胃・十二指腸潰瘍穿孔(perforated peptic ulcer:PPU)は消化器外科医が比較的多く遭遇する急性腹症の一つである.そのため,その疾患概念,診断と治療選択,治療方針,手術手技には十分に精通する必要がある.PPUは腹膜炎となり,消化器外科医が手術を中心として診療にあたることが多い.本稿では診断と治療選択にも触れ,代表的な術式である腹腔鏡下大網被覆術について解説する. -
5.胃粘膜下腫瘍
78巻1号(2016);View Description Hide Description胃粘膜下腫瘍は術前に組織学的診断が確定しないことが多いため消化器間質腫瘍(GIST)などの悪性腫瘍の可能性を念頭におく必要があり,腫瘍径の経時的変化に基づいて治療方針が決定される.Laparoscopyand endoscopy cooperative surgery(LECS)は内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)テクニックを用いることで胃切除範囲を最小限にとどめ,術後の胃の変形を防ぐことができる手術法であり,胃粘膜下腫瘍に対する低侵襲・機能温存手術として有用である. -
6.急性虫垂炎
78巻1号(2016);View Description Hide Description急性虫垂炎は腹部救急疾患の中で頻度の高い疾患で,外科的切除が治療の中心となる.一方,低侵襲性や安全性,コストなどを意識した治療オプションも検討されてきている.本稿では急性虫垂炎に対する外科治療について,標準治療と対比して,腹腔鏡下手術,単孔式内視鏡手術,経管腔的内視鏡手術(NOTES),内視鏡治療,待期的手術,日帰り手術といった外科治療の最前線を紹介する. -
7.炎症性腸疾患──内科的治療と外科的治療
78巻1号(2016);View Description Hide Description炎症性腸疾患の内科治療の進歩は急速で手術適応,薬剤の手術に及ぼす影響,術後治療を常に見直す必要がある.潰瘍性大腸炎(UC)では5─ASA 製剤の効果の最大化が図られ,血球成分除去療法,抗TNF─α抗体,tacrolimusが保険適用となり難治例に用いられている.Crohn病(CD)では抗TNF─α抗体が治療を大きく向上させた一方,小腸内視鏡下狭窄部拡張術が可能となった.手術の基本術式はかわらないものの腹腔鏡下手術の導入,CDの腸切除後吻合法の工夫が行われている.UC術後は回腸囊炎が特徴的合併症で,CD 術後は以前より厳格な管理で再燃を防止することが求められる. -
8.胆石・総胆管結石症
78巻1号(2016);View Description Hide Description腹腔鏡下胆囊摘出術(LC)は,整容性に優れ,創痛軽減,早期退院などの利点があるため,胆囊結石症に対する標準術式となっている.総胆管結石症の治療は,内視鏡による総胆管結石摘出術が行われている.胆囊結石合併例では二期的に胆囊摘出術の適応となるが,一期的に総胆管結石摘出術(+胆囊摘出術)を行う施設もある.本稿では,reducedport surgery(RPS)を含めた最新の外科治療について詳述する. -
9.胆道良性狭窄
78巻1号(2016);View Description Hide Description胆道良性狭窄の原因には炎症性疾患によるものと,術中,術後合併症の結果として生じる狭窄に大別される.治療は内視鏡手技を中心とした内科的治療が原則となるが,難治例では外科的治療を必要とする症例もあり,適切な治療が行われないと重篤な状態に陥り,不幸な転帰をたどる症例もある.本稿では外科的治療として狭窄部胆管切除・胆道再建術,その際に教室で行っている工夫と当科で経験した磁石圧迫吻合術について概説する. -
10.膵胆管合流異常
78巻1号(2016);View Description Hide Description膵胆管合流異常症は胆汁と膵液が双方へ逆流することでさまざまな病態を引き起こす疾患で,胆管の拡張を伴う先天性胆道拡張症と伴わない非拡張型に分類される.成人例で先天性胆道拡張症の21. 6 %,非拡張型の42. 4 %と高率に胆道癌を合併するため,診断されれば予防的外科手術が必要であり,それぞれ囊腫切除術+分流手術,胆囊摘出術を施行する.膵胆管合流異常症に高頻度で合併する先天性胆道拡張症は若年女性に多いという疾患特性がある.そのため同疾患に対する手術はより低侵襲で,整容面に優れた鏡視下手術が今後発展すると考えられる.しかし,胆管消化管吻合術など難易度の高い手技も含まれるため,臨床前の十分なトレーニングが必要である.また,術後の癌発症の可能性も否定できないため,長期にわたる経過観察が必要である. -
11.鼠径・腹壁瘢痕ヘルニア
78巻1号(2016);View Description Hide Description鼠径部・腹壁瘢痕ヘルニアは,手術以外に根治することができない日常診療でよく遭遇する良性疾患である.さまざまな術式があり施設ごと,術者ごとに得意とする術式が異なるのが通常である.術式にはそれぞれ長所・短所があり,患者背景や既往,初発・再発などにより総合的に判断し,術式を選択することが必要である.一般的に重篤な合併症はほとんどないが,特有の合併症が存在することも事実であるため,事前の十分な説明と適切な術式を選択することが必要である.
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臨床と研究
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臨床経験
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症例
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