外科
Volume 78, Issue 5, 2016
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特集 【医療ビッグデータと外科】
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- Ⅰ.医療ビッグデータ総論
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1.医療におけるビッグデータ総論
78巻5号(2016);View Description Hide Description近年,健康や医療の分野においてもビッグデータへの関心が急速に高まりつつある.本稿ではヘルスケア領域ではレセプトや診断群分類(DPC),症例登録のデータベースの整備と活用,ライフサイエンス領域ではゲノム疫学の発展の現状を紹介する.さらに健康と医療に関するビッグデータ関連の動向,特にビッグデータと個々の事例の関係,ビッグデータの構成要素となる個人に由来する多様な情報の保護と活用の調和など,今後の可能性と課題を概観したい. -
2.NCD設立の経緯と現状
78巻5号(2016);View Description Hide DescriptionNational Clinical Database(NCD)は日本外科学会を中心とした本邦の外科系10学会が協力して,外科手術データをレジストリー形式で収集活用する目的で2010年に発足した.その前身となったのは心臓血管外科領域における日本心臓血管外科手術データベース(JapanCardiovascular Surgery Database:JCVSD)であった.本稿ではこのJCVSD とNCD の設立に関する経緯を中心に述べてみたい. -
3.DPCデータを用いた外科臨床研究
78巻5号(2016);View Description Hide Description診断群分類(Diagnosis Procedure Combination:DPC)データ調査研究班は,研究目的でのDPCデータの収集・分析事業を実施している.年間症例数は700万人を上回る.本稿では,DPCデータを用いた外科臨床研究の実例として,①腹腔鏡下および開腹幽門側胃切除術の早期アウトカム比較,②ベッド数あたり医師数・看護師数と手術成績について解説する.医療ビッグデータ研究は臨床医学,疫学,統計学などの学際研究であり,多くの研究者が共同参加する研究体制の構築が必須である. -
4.がん登録等の推進に関する法律に基づく全国がん登録データベース
78巻5号(2016);View Description Hide Descriptionがん登録等の推進に関する法律(以下,がん登録推進法)が2016年1月に施行された.同法は,法律名に「登録」を冠し,法令内に「データベース」を含む医療分野初の法律である.全国がん登録データベースには,1 年間で85万件を超える情報が保存されると推計され,医療領域における大規模データが誕生する.また,同法は単なる統計の作成にとどまらず,登録された情報の十分な活用について明記された特別な法律である.全国がん登録データベースでは,2016年に診断された癌の罹患の情報について2018年12月までに審査・整理され,癌対策の企画立案や調査研究のための情報の利用と提供の開始が予定されている.一方で,全国がん登録情報は,癌の罹患,診療,転帰などに関する情報が特に適正なとり扱いが求められる情報であるとして,国民が納得するかたちで厳格に保護されなければならないことを理解して活用する必要がある. -
5.医療ビッグデータの活用と個人情報保護は両立するのか?
78巻5号(2016);View Description Hide Descriptionわが国は医療の情報化自体は先進的であったし,現在でも情報システムの導入率という観点では世界の最高水準にある.しかし,情報化の目的は,事務処理の合理化が主体であり,情報を公益目的に利用する二次利用の面においては遅れていたといわざるをえない.しかし最近になって,わが国にも大規模な医療情報データベースが構築されるようになったが,それに伴い,公益利用とプライバシー保護の対立的な問題が顕在化してきた.たとえば高齢者の医療確保に関する法律に基づいて作成されたレセプトおよび特定健診・保健指導のデータベースは,一般的な公益利用に関して根拠法には記載がないために,利用に際して厳格な匿名化が求められ,安全管理に関する要求も厳しく,公益研究にとって使いやすいデータベースとはいえない.一般に,公益目的の研究を行う研究者がプライバシーの侵害を意図的に行う可能性はないと考えられるが,法的な要求自体が曖昧であるために,研究が促進されない可能性もある.医学は診療情報の公益利用なしには発展はありえないので,明確で研究者にとっても患者にとってもわかりやすい法制度の整備が強く望まれる.改正個人情報保護法が2015年9月に成立したが,政令や指針の整備は2017年と思われる法の実施までに議論される.臨床研究に携わる者はこれらの議論を注視すべきであるし,必要な場合は適切な提言を行うべきと考えられる. -
6.外科における医療ビッグデータ活用の世界的趨勢とわが国における展望
78巻5号(2016);View Description Hide Descriptionビッグデータの活用は,医療においても活発である.国が主導する診断群分類(Diagnosis Procedure Combination:DPC)やNational Database(NDB)以外に,「保健医療2035 提言書」では,National Clinical Database(NCD)などの医療現場主導の取り組みによる臨床データベースの充実を積極的に支援することが明示されており,関連学会などのみで活動されていた事業に国レベルで注力されている.これまで独立して実施されてきたデータベース事業を横断的に活用することで,より強固なエビデンスを創出することが可能であり,それらを整備することが今後の日本における課題となる. - Ⅱ.外科ビッグデータの活用各論
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1.日本心臓血管外科手術データベース(JCVSD)について
78巻5号(2016);View Description Hide Description日本心臓血管外科手術データベースは2001 年よりインターネット上でデータ収集を開始,その後全国規模のデータベースへと発展した.2013年からは専門医制度との連携も開始された.また,サイトビジットによる入力の質の担保が行われ,その質はきわめて高く,データを利用した重要な論文が数多く日本から世界へ向けて発信されている.医療の質の向上,国民の福祉への貢献のために,その役割はますます重要性を増してきている. -
2.消化管外科領域におけるNCDデータの活用
78巻5号(2016);View Description Hide Description日常診療のデータは膨大に生み出されているが,われわれの目に触れるのは臨床治験などのごく限られたデータ解析か,個人のまとめた小規模の臨床データのみである.埋もれている圧倒的な量のデータを集積し,公開し,自由に利用できる状況がつくり出されれば,より信頼のおける情報が得られる.これが医療におけるビッグデータ活用の基本的なイメージであろうか.今回,National Clinical Database(NCD)の開始初年度に登録された,直腸の低位前方切除術のデータをまとめる機会に恵まれたので,その状況と,医療における今後のビッグデータの利用について報告する. -
3.膵領域におけるビッグデータの活用── NCD(National Clinical Database)からみたわが国の現状と今後の展望
78巻5号(2016);View Description Hide Description2011年1月〜12月にNational Clinical Database(NCD)に1, 167 施設から登録された膵頭十二指腸切除術8, 575例のリスクモデルを検討した本研究は,「日本のデータベースを使った日本の30 日・在院死亡率をはじめて明らかにした洗練された論文で,膵癌のリスクを層別化するすばらしい研究である」と諸外国から賞賛された.術後30日死亡率1. 2 %,在院死亡率2. 8 %と,諸外国に比較し遜色なく,優れていた.本検討はさらに膵頭十二指腸切除術の質を高める材料になると考えられる. -
4.肝胆膵外科領域におけるDPCデータの活用
78巻5号(2016);View Description Hide Description日本では診断群分類(Diagnostic Procedure Combination:DPC)に基づくDPCデータベースが2003年に導入され,全国1, 400以上の病院で採用されている.近年,DPCデータを用いた臨床研究が報告されるようになり,その特徴は多施設から収集された大規模データであることと,全国規模の統計解析が可能ということである.本稿ではDPCデータを用いて行われた肝切除術と膵頭十二指腸切除術の術後成績についての報告を紹介する.
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