外科
Volume 78, Issue 8, 2016
Volumes & issues:
-
特集 【消化器手術のための栄養】
-
- Ⅰ.総論
-
1.術前栄養アセスメント
78巻8号(2016);View Description Hide Description近年の消化器外科では,内視鏡下手術など低侵襲化の一方で,高齢や術前治療後などの高リスク患者に対する相対的な高度侵襲手術が増加した.術前の栄養状態改善は術後合併症の予防すなわち短期予後の向上に貢献し,癌患者では長期予後を向上させうることも明らかになってきた.既知の指標での術前栄養アセスメントに加えて,近年では体組成計が急速に普及し,除脂肪体重など重要な指標が容易に測定可能になった.これらの知見をふまえ,特に術前治療を行う癌患者では栄養アセスメントを適切に行い,必要な栄養管理介入を術前に行うことが予後向上のために肝要である. -
2.早期経腸・経口栄養の有用性
78巻8号(2016);View Description Hide Description早期経腸栄養が外科手術後や重症集中治療室(ICU)患者で安全に施行でき,かつ感染症をはじめとする合併症の低減や在院期間の短縮に有用であることは,1990 年代より数多く報告され,現在ではおおむねコンセンサスが得られている.一方,昨今の腹腔鏡手術の増加,fasttrack surgery・ERAS プロトコールの普及に伴い,外科手術後患者では早期経口栄養に対する関心も深まっている. -
3.周術期脂肪乳剤投与の意義
78巻8号(2016);View Description Hide Description栄養管理の基本は経腸栄養であることはいうまでもない.しかし消化器外科周術期には経口摂取が不十分なことも多く,静脈栄養を併用した効果的な栄養管理が必要となる.脂肪は重要なエネルギー基質であると同時に,生体の膜構造の維持に不可欠な栄養素であり,周術期には欠かせないものである.また『静脈経腸栄養ガイドライン(第3版)』においても,脂肪乳剤の投与が原則とされている.術後早期の脂肪乳剤投与による合併症も危惧されるが,投与速度に留意するなどの対策により安全に投与可能である. -
4.新たな周術期経口摂取管理のあり方
78巻8号(2016);View Description Hide Description周術期経口摂取に関する研究経緯を紹介し,今後の管理のあり方について考察する.術前飲水の安全性を独自に確認し,その後,術前絶飲食ガイドラインの推奨に従った.胃切除後の分割摂取指導は,負に働くと思われ中止が妥当と判断した.胃切除後2 日目からの食種を患者選択としたところ,段階的食事と比較して術後1 週間の経口摂取熱量が多く,術後1 ヵ月の体重減少率を軽減させた.個々の摂食意欲の尊重と適切な指導が重要と考える. -
5.管理栄養士からみた周術期栄養管理
78巻8号(2016);View Description Hide Description消化器癌の周術期は栄養障害をきたしやすく,きめ細やかな栄養管理が必要とされる.しかし,外科医は手術や診察で多忙であり,病棟に常駐することは困難である.そのため当院では,管理栄養士をそれぞれ担当の病棟に常駐させ,積極的に栄養管理を行うシステムを導入した.この取り組みは一定の効果が得られているが,周術期の栄養指導の有効性についてのエビデンスはまだとぼしい.そのため,管理栄養士は臨床業務と並行して臨床研究を実践し,患者に有益な栄養指導の方法を構築する必要がある. -
6.サルコペニアと癌悪液質
78巻8号(2016);View Description Hide Description筋肉量の減少を伴うサルコペニアと,サルコペニアが主要な臨床症状である癌悪液質は,ヨーロッパを中心にその定義や診断基準が統一された.サルコペニアは肝移植や消化器手術成績にも影響しており,当科での成績でも術前の握力低下群では術後在院日数が有意に延長していた.高齢者の術後嚥下障害発生についても,握力低下,筋量低下などで多くみられ,周術期におけるサルコペニア症例への介入の必要性が示された.癌悪液質はその段階により介入方法をかえるべきで,refractorycachexia では栄養介入は症状を悪化する可能性がある.それ以前の段階ではできるだけ早期に介入することが望ましく,主要原因である持続的な炎症の抑制,食欲増進効果などを期待した治療法が試みられている. - Ⅱ.各論
-
1.食道癌の周術期栄養管理
78巻8号(2016);View Description Hide Description食道癌患者は,初診時から栄養不良を呈している症例も少なくなく,積極的な周術期栄養管理が必要である.経腸栄養を基本として,術前療法から手術,術後にかけて継続した管理を行う.栄養投与だけでなく,手術侵襲の軽減や早期離床,絶食期間の短縮など術後回復強化プログラム(ERAS)の要素も重要となる.術後は早期に経腸栄養を開始するが,経口摂取と併用することで急激な体重減少を予防する.管理栄養士による指導も有用であり,適宜行うことが望ましい. -
2.胃外科における周術期栄養管理
78巻8号(2016);View Description Hide Description栄養不良は合併症や予後に悪影響を及ぼすことが明らかになり,周術期栄養管理の重要性は増している.われわれはenhanced recoveryafter surgery(ERAS)の概念を胃周術期管理に導入し,術前から積極的に栄養療法を開始し,早期回復に努めている.また絶飲食をゼロにし,合併症が危惧される症例においては早期経腸栄養を行う.術式の工夫で術後栄養状態や生活の質(QOL)が大きくかわる可能性もある.術後は栄養サポートチーム(NST)や管理栄養士が介入し,退院後も見据えた栄養療法の指導を行う. -
3.肝胆膵外科における周術期栄養管理
78巻8号(2016);View Description Hide Description肝胆膵外科においては,肝切除,胆道再建,膵切除,肝移植など,周術期栄養管理を要する手術が多い.栄養管理の両輪は,正確な栄養評価と適切な栄養療法であり,術前に正しく栄養状態を評価し,個々の栄養状態に応じて適切に周術期栄養管理を行うことが,術後成績の改善につながる.そのためには,管理栄養士やリハビリテーションスタッフ,看護師などによるチーム医療が重要である. -
4.外科治療における成分栄養
78巻8号(2016);View Description Hide Description成分栄養剤(elemental diet:ED)は,吸収性に優れ残渣が少ない利点があり,外科治療でも絶食期間を最低限にする栄養管理法として活用できる.具体的には,bacterial translocation の予防を目的とした長期間絶食後の経腸栄養の導入や,残渣や消化液を減らしたい縫合不全や膵液瘻などの術後合併症などがEDのよい適応となりうる. -
5.周術期immunonutritionの意義
78巻8号(2016);View Description Hide DescriptionImmunonutritionとは,通常の食事や栄養剤にも含まれているアルギニンやグルタミン,ω-3 系脂肪酸などの免疫栄養素を,単独あるいは組み合わせて薬理量投与することによって,生体の免疫能調節作用を期待する栄養療法である.アルギニンとω-3系脂肪酸を強化したタイプの栄養製剤は,特にimmune-enhancing dietsと呼ばれ,周術期の投与で,術後感染性合併症の予防,在院日数短縮効果が数多く報告されてきた.このタイプの栄養剤は,アルギニンのもつ強力な免疫細胞賦活作用のために,過剰な炎症反応がすでに生じている急性肺障害患者など重症敗血症患者では,さらなる炎症反応の増悪が生じる危険性が指摘された.しかし,待機手術患者ではそのような危険性はほとんどなく,術後感染性合併症発生率が高い栄養状態がわるい患者,大侵襲手術患者への投与が推奨されることにかわりはない.近年は,過剰な炎症反応の制御を目的としたタイプの栄養製剤,単独の免疫栄養素投与の効果が,さまざまな病態で検証されている.
-
臨床経験
-
-
-
手術手技
-
-
-
症例
-
-
-
書評
-
-