外科
Volume 79, Issue 5, 2017
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特集【特集外科におけるcontroversy──誌上ディベート】
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1.リンパ節転移1 〜3個の場合の乳房切除後放射線治療──施行すべきか?:a)施行する
79巻5号(2017);View Description Hide Description2014年にEarly Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG)より1個から3個までのリンパ節転移陽性乳房切除後乳癌の放射線療法の有用性が公表された.このグループの患者に,報告どおりに放射線照射を追加すべきか否かが議論になっている.議論のポイントは,薬物療法などの今日の医療が進歩していると考えられること,特に日本では局所再発率がより低いのではないかと推定されること,あるいは放射線照射による合併症が増加することなどである.ただ,この研究をこれらの視点から批判的に吟味しても,術後放射線療法の有用性を否定しうるほどの要因は認めなかった.したがって,1個から3個までのリンパ節転移陽性乳房切除後乳癌に対して術後放射線療法は実施すべきと考える. -
1.リンパ節転移1 〜3個の場合の乳房切除後放射線治療──施行すべきか?:b)施行しない
79巻5号(2017);View Description Hide Description現在,腋窩リンパ節3個以下の乳房切除後胸壁照射(PMRT)についてのランダム化比較試験(SUPREMO)がBIG2─04としてグローバルで行われている.すなわちこの対象に対するPMRTの有効性・安全性は,海外でもまだ証明されていない.さらに手術による局所制御効果に関しては,明らかに体格の違う欧米人のデータをそのまま日本の現状に外挿することはできない.これらの根拠をもとに,この対象への乳房切除後放射線治療は施行しない立場で立論する. -
2.幽門側胃切除後の再建法── BillrothⅠ法かRoux-en Y法か?:a)BillrothⅠ法
79巻5号(2017);View Description Hide Description現行の胃癌治療ガイドラインでは,特定の再建法の推奨は行われていない.当施設では,生理的かつ簡便であるとの理由からBillroth Ⅰ法を第一選択としてきた.胆汁逆流や残胃炎の発生においてはRouxenY法に劣るものの,手術時間や術後体重減少ならびにさまざまな栄養・吸収障害においてはBillroth Ⅰ法が優れており,今後も引き続きBillroth Ⅰ法を標準再建法として考えたい. -
2.幽門側胃切除後の再建法── BillrothⅠ法かRoux-en Y法か?:b)Roux-en Y法
79巻5号(2017);View Description Hide Description幽門側胃切除後の再建法である Billroth (I B─I)法と Roux-en Y(RY)法に関して,RYの立場から記述した.RYは術後の逆流に強く,残胃炎,食道炎の少ない術式である.中上部の胃癌に対しては切除マージンのため残胃が小さくなるが,そのような症例に対しても対応可能である.今後増えてくるであろう,上部の胃癌,嚥下機能の低下した高齢者,腹圧の高い肥満症例などに適した術式であり汎用性の高さも大きな利点である.本術式を選択するうえでは十二指腸断端部の縫合不全を防ぐための埋没縫合,小腸間膜切開により形成されるY 吻合部の間隙とPetersen孔による内ヘルニア予防のための非吸収糸による縫合閉鎖が肝要である. -
3.直腸癌に対するアプローチ──腹腔鏡手術かロボット手術か?:a)腹腔鏡手術
79巻5号(2017);View Description Hide Description直腸癌に対する腹腔鏡手術では,狭く深い骨盤腔内において腹腔鏡の近接視・拡大視効果により微細な剝離層を明瞭に視認できる利点が大きい.一方,二次元モニターによる深部感覚欠如,ヒトの腹腔鏡操作による安定した術野保持の困難性,鉗子などの動作制限による視認部位の的確な操作困難や手の震えなどよる微細操作困難などが問題となる.ロボット手術では,腹腔鏡手術の問題点を克服できる利点があるものの,高コストで保険適用がなく,触覚がまったくないなどの問題点がある.われわれはロボット手術の利点をとり入れ,さらなる工夫を加えて腹腔鏡手術を進化させていくことが,最適な直腸癌手術の効率的な普及になると考えて実践している. -
3.直腸癌に対するアプローチ──腹腔鏡手術かロボット手術か?:b)ロボット手術
79巻5号(2017);View Description Hide Descriptionロボット手術は,鮮明な三次元ハイビジョン視野のもと,モーションスケーリングや手振れ補正機能を有した自由な多関節鉗子による,安定した鉗子操作を特徴とする.直腸癌手術は,局所再発や術後泌尿生殖器機能障害,合併症などいまだ多くの手術手技に起因する課題が存在する.ロボット手術は,従来の腹腔鏡手術では難度の高い直腸癌手術において,より正確な手術が実行可能となり,理想的な直腸癌手術に近づくための有用なモダリティである. -
4.残肝容量不足の解決法──門脈塞栓術かALPPSか?:a)門脈塞栓術
79巻5号(2017);View Description Hide Description拡大肝切除を安全に施行するための肝の血流改変手技の分野において,門脈塞栓術(PVE)とALPPSの有用性が国内外のさまざまな場で比較,議論されているが,門脈塞栓術が通常,一期的肝切除の前処置として用いられることが多いのに対し,ALPPSは二期的切除の亜型であり,これらを単純に「残肝容量不足の解決法」というくくりで議論することは困難である.本稿では両者の利点・欠点をふまえたうえで,これらを実臨床においてどのように位置づけ,どのように選択すべきであるか議論を行う. -
4.残肝容量不足の解決法──門脈塞栓術かALPPSか?:b)ALPPS
79巻5号(2017);View Description Hide Description大量肝切除の際の残存肝(FLR)容量の維持を目的としたALPPS手術の有用性を検証した.報告当初より明らかなようにALPPS では早期のFLR の増大が得られ,実測での容量増大のみならず,全肝に対するFLR比率の増大,あるいは再生速度(KGR)ともにALPPSでは優れていた.当初懸念されていた高い合併症率あるいは術死率も最近では劇的に改善されており,長期成績も門脈塞栓術併用による多段階手術とほぼ同等であった.以上より,進行例に対する安全な切除適応拡大のためにALPPS 手術は必須な手技と考えられた. -
5.肝門部領域癌の取り扱い──肝癌として扱うべきか胆管癌として扱うべきか:a)肝癌として
79巻5号(2017);View Description Hide Description現行の胆道癌取扱い規約第6版と原発性肝癌取扱い規約第6版では,肝外・肝内胆管の境界の定義が異なるため,両者に重複がみられており,統計をとるうえで混乱を生じる可能性がある.胆管上皮の蛋白発現プロファイルやそこから生じる腫瘍の形質は,胆管の太さや分枝レベルにより規定されていることを示す報告が近年多くみられており,胆管癌の記載はできる限り原発の胆管枝を同定,記載し,そこからの進展形式を推定することが望ましい.実臨床として(狭義の)肝門部胆管癌肝実質浸潤例と,肝内胆管癌肝門浸潤例の予後が同等であるのか,あるいは差異があるのかは今後さらに検討していく必要があり,識別法の確立とその基準に基づく多数例の集積,検討が必要である. -
5.肝門部領域癌の取り扱い──肝癌として扱うべきか胆管癌として扱うべきか:b)胆管癌として
79巻5号(2017);View Description Hide Description肝門部胆管癌は「肝門レベルでの胆管閉塞」という臨床徴候で特徴づけられ,肝内・肝外の胆管癌を含む疾患カテゴリーである.胆道癌取扱い規約第6 版において,肝門部「領域」胆管癌の新名称のもとに,従来の肝門部胆管癌のみならず腫瘤形成型肝内胆管癌(の一部)を含めると定義された.組織・病理発生論が考慮されていないという批判は存在するが,臨床的実用性を重視する観点からは妥当な定義である. -
6.膵癌手術における上腸間膜動脈神経叢──郭清すべきか?:a)郭清する
79巻5号(2017);View Description Hide Description膵頭部癌に対する標準手術と拡大手術を比較した5 本の無作為比較試験では,拡大手術の予後改善効果はない.これらの対象症例は,切除可能/門脈系への浸潤のみの切除可能境界(BR─PV)膵癌で,門脈合併切除率およびR0切除率はとも両群間で差はない.これはR0切除の重要性を示している.上腸間膜動脈や腹腔動脈に浸潤を認めるBR─A膵頭部癌に対しては,R0切除率の向上という観点からSMA神経叢の郭清が必要である. -
6.膵癌手術における上腸間膜動脈神経叢──郭清すべきか?:b)郭清しない
79巻5号(2017);View Description Hide Description従来,膵癌に対しては予後向上のためにSMA 神経叢郭清が当たり前とされてきたが,複数のランダム化比較試験(RCT)で予後向上に対するSMA神経叢郭清の意義は証明されておらず,難治性下痢などの術後合併症の頻度が高いことが指摘された.膵癌では手術適応と根治性と生活の質(QOL)のバランスに配慮した外科切除を選択し,化学療法や化学放射線療法などを加えた集学的治療を行い予後向上に努める必要がある. -
7.緊急止血術を要する外傷患者の術前CT──必要か?:a)必要
79巻5号(2017);View Description Hide DescriptionCTという地図は,ないよりあるほうがよい.しかし患者を移動できるか否かが,特にtransient responderで問題となる.筆者は積極的にCTを撮影しているが,無条件に移動しているわけではなく,安全に移動できる状態にする最大限の努力,すなわち体表出血に対する止血,呼吸管理,体温管理,輸血・輸液を短時間で行っている.本稿ではCTが有用であった代表例を紹介し,具体的に何に留意してどのような処置を行っているか,筆者の方針を紹介する. -
7.緊急止血術を要する外傷患者の術前CT──必要か?:b)不要
79巻5号(2017);View Description Hide Descriptionショックを呈する重症外傷患者におけるCT の位置づけは,いまだに不透明である.今回われわれはJapan Trauma Database を用いて,来院から2 時間以内にCT 検査ならびに緊急手術(開胸・開腹)を施行した重症外傷患者を解析し,CT 検査が“死のトンネル”になりうるかを統計学的に検討した.来院時に意識レベルGlasgow Coma Scale(GCS) 8 点以下または収縮期血圧90 mmHg 未満の外傷患者において,術前CT は高い死亡率と相関する. -
8.化学療法施行時の栄養管理──経腸栄養か中心静脈栄養か?:a)経腸栄養
79巻5号(2017);View Description Hide Description癌化学療法中の栄養管理の臨床的有用性は,これまで明らかにされていない.われわれは術前化学療法を施行する食道癌患者を対象とした臨床試験の結果より,以下の知見を得た.①化学療法中の経腸栄養による栄養管理は静脈栄養による栄養管理に比べて,血液毒性を抑制させる効果が高い,②経腸栄養剤の中でもω─3 richな経腸栄養剤のほうがω─3 poorな経腸栄養剤よりも化学療法による毒性発現(肝障害,粘膜障害)を抑制する効果が高い. -
8.化学療法施行時の栄養管理──経腸栄養か中心静脈栄養か?:b)中心静脈栄養
79巻5号(2017);View Description Hide Description化学療法時には多くの患者で経口摂取量が減少する.経口摂取量不足は栄養不良につながり,副作用の増強,化学療法の効果減弱につながり,予後の悪化に結びつく.このような場合には,経静脈的に栄養剤を補充投与することにより,脱水が改善され,腎機能もよくなり,栄養状態も保たれ,化学療法の継続も可能となり,予後の改善につながる.また,「無理に食べなくてもいい」という患者の安堵感につながり,余計な腹痛,下痢,嘔吐などが起こらない.化学療法時の栄養管理は中心静脈栄養を中心に考えていただきたい.
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外科医が知っておくべき pivotal study [第3回]:食道癌術前vs術後補助化学療法 JCOG9907
79巻5号(2017);View Description Hide Description -
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