外科
Volume 80, Issue 1, 2018
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特集【進行消化器癌のconversion surgery】
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- Ⅰ.総論
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1.外科医の立場から
80巻1号(2018);View Description Hide Description進行消化器癌(Stage Ⅳ消化器癌)に対する標準治療は化学療法であるが,薬物療法の発展とともに著効例が散見されるようになり,化学療法後の根治をめざした手術(conversion surgery)の報告が増えている.術前治療のレジメン,手術にconvert する判断基準,手術を行うタイミングと術式,術後治療の必要性やレジメンなどの解決すべき問題点は多いが,conversion surgery により飛躍的に予後が改善するStage Ⅳ消化器癌患者が存在することは確かである.日常診療において抗癌薬治療と手術に携わるsurgical oncologist として,将来,conversion surgery の効果を最大限に発揮できるStage Ⅳ消化器癌の条件を求めていく必要があると考える. -
2.腫瘍内科医の立場から
80巻1号(2018);View Description Hide Description切除不能の進行癌症例に化学療法が奏効し治癒切除が可能と判断され,外科的治療が行われることをconversion surgery と呼び,大腸癌肝転移例では良好な長期予後が報告されている.胃癌においてはコンセンサスは得られていないが,非治癒因子が切除可能となり,R0 手術をめざせる症例では予後改善が期待されている.しかし,適切な対象症例の選択など多くの課題が残されており,治療開始時から腫瘍専門医と外科医が最大限の協力体制で取り組み,最適な切除のタイミングを図っていくことが必要である.今後,conversion surgery に対するresectability の確立,有効な新規薬剤やレジメン開発により,多くの治癒症例が得られることが期待される. - Ⅱ.各論
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1.食道癌:1)局所進行癌
80巻1号(2018);View Description Hide Description食道癌領域のconversion surgery を明確に定義したものは現時点ではなく,「切除不能と判断された食道癌病巣(原発巣,転移リンパ節)が外科以外の治療法によりdown-staging が得られ切除可能と判断した際に,その時点で外科的切除を選択した場合に施行される手術」と定義した.その対象の大前提である切除不能局所進行食道癌の標準治療の限界からさらなる治療戦略の模索の中で生まれた概念であると考えている. -
2.胃癌:1)肝転移
80巻1号(2018);View Description Hide Description胃癌肝転移に対する治療の原則は化学療法であるが,単発例や少数個の比較的小さな転移に対し切除後,長期予後の報告も認められる.このような症例に対するconversion surgeryの意義が注目されているが,前向き試験などのエビデンスがとぼしい.現在,胃癌肝転移を対象とした前向き試験が進行中で今後の展開が期待される. -
2.胃癌:2)腹膜播種
80巻1号(2018);View Description Hide Description近年,化学療法・分子標的薬の治療成績向上により,根治切除不能の進行癌が根治切除可能となる症例を経験するようになり,胃癌でもconversion surgery という概念が導入された.一方,腹膜播種や腹腔洗浄細胞診陽性を伴う胃癌はきわめて予後不良であり,全身化学療法のみでは予後延長効果には限界がある.腹膜播種例に対してもconversion surgery による予後向上が期待されるが,まだそのエビデンスはとぼしく,今後,その意義について前向きに臨床研究を通して検討する必要がある. -
2.胃癌:3)高度遠隔リンパ節転移
80巻1号(2018);View Description Hide Description癌薬物療法の進歩により,胃癌を含む固形癌でも時に著効例がみられるようになった.遠隔転移(遠隔リンパ節転移も含む)を有する胃癌では薬物療法が第一選択となるが,著効した場合に根治的切除が可能と判断して行う手術をconversion surgery と呼び,昨今その報告例が増え,有用性が示唆されている.これは術前補助化学療法とその後の外科的切除による治療とは分けて考えるべき治療戦略である.本稿ではその現状と具体例を提示する. -
3.大腸癌:1)肝転移
80巻1号(2018);View Description Hide Description抗癌薬の奏効により切除不能例が切除可能となるconversion surgery は,大腸では一般的なものとなってきている.残肝体積不足や腫瘍学的悪条件の克服のため,工夫が重ねられてきたが,disappearing tumor への対応や化学療法に対する肝障害,予後良好となる症例の選別など課題はまだ多い.今後は,RAS やBRAF,HER2,MSI などのバイオマーカーの位置づけが確立されることで,より戦略的な化学療法との組み合わせが行われ,個別化治療がすすむと考えられる. -
3.大腸癌:2)肺転移
80巻1号(2018);View Description Hide Description大腸癌肺転移は発見時に適応基準を満たせば良好な肺転移切除成績が得られる.しかし発見時には切除適応がないが,その後の化学療法により適応にconvert した症例への肺転移切除の検討はとぼしく,切除の意義はいまだ不明確である.Conversion 切除はそれまでの治療経過,予後因子,予定術式,周術期リスクなどから慎重な適応検討が必要である.腫瘍内科と呼吸器外科の連携で症例を蓄積し,エビデンスを構築する必要がある. -
3.大腸癌:3)局所進行直腸癌
80巻1号(2018);View Description Hide Description局所進行直腸癌においてcircumferential radial margin( CRM)の確保はもっとも重要な局所根治因子であり,周囲臓器,骨盤壁への広範な浸潤を認める腫瘍は,根治切除が困難である.これに対し,術前化学放射線療法または放射線療法,さらに全身化学療法を含めた術前治療を行うことで,腫瘍が縮小し根治切除へ持ち込める場合がある.手術はしばしば周囲臓器合併切除を伴う高度侵襲手術となり,術後合併症発生率も高い.予後を考慮すると,全身化学療法を術前に行う戦略が妥当である. -
4.膵臓癌:1)切除不能膵癌
80巻1号(2018);View Description Hide Description切除不能膵癌は,他癌腫と異なり局所進行ならびに遠隔転移の二つの非治癒因子が存在する.診断時に画像上切除不能膵癌と診断され,化学(放射線)療法などの集学的治療によって腫瘍が縮小し全身状態が良好な患者に対して施行された手術をconversion surgery と呼び,高い病理学的根治切除率(およそ80%)ならびにリンパ節転移陰性率(およそ80%)を通じて,切除可能膵癌とほぼ同等の治療成績が報告されてきた.局所進行膵癌の17~36%,遠隔転移の5%以下が相当し,その予後は25~56 ヵ月と良好であるものの,20~30%の患者に切除後半年以内に再発することが指摘されている.今後,conversion surgery の恩恵を享受できる患者を選別するために,最適な集学的治療のレジメン,治療期間,術後補助治療など臨床的課題に対する回答を求める臨床試験の遂行が重要である.
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連載
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症例
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Upside down stomach を呈した食道裂孔ヘルニアに対して腹腔鏡下食道裂孔メッシュ修復術を施行した1 例
80巻1号(2018);View Description Hide Description -
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