外科
Volume 80, Issue 2, 2018
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特集【移植医療2018】
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- Ⅰ.総論
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1. 臓器移植の現状――世界の趨勢とわが国のなすべきこと
80巻2号(2018);View Description Hide Description日本の移植の現状を世界と比較した.なかでも,移植大国・米国とアジアの移植先進国・韓国の移植とその数ならびに成績について比較した.移植の成績については,米国のそれと比べて遜色なく,上回っている臓器もあるのであるが,こと臓器移植数については,米国:韓国:日本がちょうど100:10:1 となっており,日本の移植後進国ぶりが明らかである.臓器提供・臓器移植増加の啓発・支援について,北海道における取り組みを概説した. -
2.組織移植の現状と展望
80巻2号(2018);View Description Hide Description組織移植とは患者の救命や生活の質(QOL)の改善を目的に機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して心臓弁・血管,皮膚,骨,膵島,角膜や羊膜など,ヒ卜の組織を移植する医療である.本邦では日本組織移植学会によるガイドライン,認定制度のもとに発展してきた.近年,移植医療の進歩を背景に,従来の組織移植の範疇を越えたvascularized composite allograft,すなわち腕,顔面,子宮などの同種複合組織・器官移植が世界各地の施設で行われるようになっている. -
3.移植と免疫update
80巻2号(2018);View Description Hide Description免疫抑制療法は移植医療に必要不可欠であり,近年の移植成績の向上は外科医の技術的進歩もさることながら,免疫抑制療法の進歩により多くの部分を支えられているといっても過言ではない.拒絶反応は細胞性免疫と液性免疫の二つの機序によって生じ,これらの機序を解明し理解することは,治療を行ううえで非常に重要であるばかりではなく,新規免疫抑制療法の開発につながる.本稿では拒絶反応のメカニズムと免疫抑制療法について概説した. - Ⅱ.各論
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1.心臓移植の現状と展望
80巻2号(2018);View Description Hide Description2010 年7 月に改正臓器移植法が施行され,2011 年4 月の植込み型非拍動流補助人工心臓(IVAD)が保険償還され,わが国の心臓移植は大きく様変わりした.その結果,心臓移植件数は年間50 例を超えるようになり,小児の心臓移植も可能になったが,臓器提供件数の増加は移植希望者数の増加に追い付かず,移植までの待機期間は延長し,ついに1,050 日を超えた.しかし,心臓移植後の10 年生存率は90.4%で世界に類をみない好成績であり,今後もこの成績を維持できるような体制整備が必要である. -
2.肺移植の現状と展望
80巻2号(2018);View Description Hide Description日本では脳死移植法制定後に肺移植医療が始まり,現在国内9 施設で保険医療として実施されている.片肺移植・両肺移植・心肺移植および生体肺移植の4 術式がある.ドナー不足のため外国と比較すると移植数は少なく,生体肺移植の割合が多い一方,術後遠隔生存率は高い.慢性拒絶の克服が今後重要である.肺移植数発展のためドナー数の増加を期待するだけでなく,移植可能な肺の割合を増やすためのさまざまな方策を講じる必要がある. -
3.腎移植の現状と展望
80巻2号(2018);View Description Hide Description完全な腎代替療法は腎移植しかないが,年間1,600 例あまりの腎移植の約90%は生体腎移植である.2016 年の統計では,移植腎の5 年生着率は生体腎で94.5%,献腎で87.3%である.生体腎移植では夫婦間が43%,ABO 血液型不適合が33%,透析療法なしの腎移植が34%となっている.腎移植としては,亡くなった方から提供される献腎移植が望ましい.心停止下での提供も腎移植のみは可能であるが,脳死提供数の増加に伴い,心停止下の提供が減少している. -
4.小児生体肝移植の現状と展望
80巻2号(2018);View Description Hide Description胆道閉鎖症への治療として開始された本邦の小児生体肝移植は,開始から28年,症例数は2,900 例を超え標準的治療として定着した.胆道閉鎖症では思春期症例の移植後長期フォローアップが,肝芽腫ではアジュバンド化学療法の確立が治療成績に向上には重要である.小児における脳死肝移植が不十分なわが国においては,メープルシロップ尿症の摘出肝を用いた生体ドミノ肝移植や,オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症保因者ドナーによる生体肝移植は考慮する価値のある選択肢の一つである. -
5.成人生体肝移植の現状と展望
80巻2号(2018);View Description Hide Description本邦で生体肝移植が開始されてから約30 年,世界に先駆けて成人生体肝移植が開始され25 年が経過し,2016 年末までに累計8,825 例の生体肝移植が施行された.この間に生体肝移植は確立した治療となり,その成績は脳死肝移植のそれに勝るとも劣らない.成人生体肝移植の外科手技手的な面では安定した成績が収められるようになり,今後はC 型肝炎や原発性硬化性胆管炎など現病のグラフト再発,肝細胞癌に対する肝移植の適応拡大,移植後長期におけるde novo 癌などが話題となると思われる.本稿ではこれらについて概説する. -
6.小児脳死肝移植の現状と展望
80巻2号(2018);View Description Hide Description本邦における小児肝移植は,そのほとんどが生体ドナーからの部分肝臓の提供のうえに成り立っており,小児脳死肝移植は2015 年度までに43 例にとどまる.欧米諸国では条件のよい成人脳死ドナー肝臓を積極的に分割し,部分肝を小児レシピエントへと優先的に配分する方策がとられており,小児レシピエント待機期間中の死亡率が有意に改善された.脳死ドナーからの臓器提供数を増やすことが最優先事項であるが,脳死分割肝移植の推進は本邦における脳死肝移植医療の発展に必要であろう. -
7.成人脳死肝移植の現状と展望
80巻2号(2018);View Description Hide Description1999 年に本邦初の脳死肝移植が行われ,2017 年8 月の時点でこれまでに424例の脳死肝移植が行われた.本邦の脳死肝移植の現況を把握し,ドナーの少なさから鑑みたマージナルドナーの重要性について述べる.また脳死肝移植の手術手技の実際についても解説する.さらに,現在までに11 例施行されている肝腎同時移植についてふれ,最後に今後の脳死肝移植の展望を当院の取り組みをふまえ述べる. -
8.膵臓移植の現状と展望
80巻2号(2018);View Description Hide Description脳死膵臓移植は重症1 型糖尿病の根治療法として1960 年代に開始された.現在までに世界で40,000 例以上の臨床例があり,80%以上が膵・腎同時移植である.成績も年々向上し,現在は腎移植と同様良好である.また生体膵臓移植も実施され,好成績となっている.当施設では脳死,生体膵臓移植を行い良好な成績を得ているが,さらに低侵襲の膵島移植も実施しており,糖尿病患者の病態,ニーズに合わせた適応決定,選択が重要である. -
9.膵島移植の現状と展望
80巻2号(2018);View Description Hide Description膵島移植は,インスリン治療によっても血糖コントロールが不良で重症低血糖発作などをきたす1 型糖尿病などに対して死体ドナーから提供された膵臓より膵島を単離し,膵島のみを患者の門脈に注入するという低侵襲な移植療法である.欧米の一部では標準治療となっており,日本でも近い将来の標準治療化が期待される.また課題であるドナー不足や免疫抑制薬使用の解決のため,再生医療などの研究がすすんでいる. -
10.小腸移植の現状と展望
80巻2号(2018);View Description Hide Description静脈栄養を必要とする重症腸管不全は,難治な疾患群の一つである.治療は,自己腸管を最大限に活用し,肝障害・敗血症などの合併症を予防・軽減することが重要で,腸管リハビリテーションプログラムと呼ばれる包括的治療が行われる.小腸移植は,重症腸管不全症例に対する究極的治療法として確立されつつある.しかし成績は向上しているが十分とはいえない状況である.また,脳死移植症例も必ずしも増加傾向になく,肝小腸・多臓器移植も施行困難な状態が続いている.さらには,小腸移植は診療報酬請求が認められていないため経済的側面も喫緊の課題である.
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症例
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