外科
Volume 80, Issue 6, 2018
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特集【腹膜と腹水を究める―新しい考え方と治療法】
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1. 肝疾患における腹水(胸水)の発生機序とその対策
80巻6号(2018);View Description Hide Description慢性肝疾患の診察において,肝硬変に伴う腹水症例をしばしば経験する.以前はNa 排泄型の利尿薬が治療の中心であったが,水利尿薬であるtolvaptan が2015 年9 月に肝性腹水に適応になって以後,肝性腹水の治療が激変した.腹水治療のフローチャートが日本消化器病学会の肝硬変診療ガイドライン改訂第2 版に記載されている.本稿では,肝性腹水・胸水の発症機序やそのマネジメントなどについてガイドラインを中心に概説する. -
2. 悪性腹水(malignant ascites)の病態と対策
80巻6号(2018);View Description Hide Description悪性腹水は,広く癌患者に合併した腹水をさす病態である.悪性腹水の合併は癌患者にさまざまな苦痛をもたらすため,悪性腹水に伴う症状の緩和は癌患者の生活の質(QOL)の維持・向上のために重要である.悪性腹水に特異的かつ根本的な治療は困難である場合が多いが,腹水穿刺を中心としながら,利尿薬やオピオイド鎮痛薬の使用や輸液の調整を適切に行うことで症状緩和を図ることが可能である. -
3. 腹膜播種の最新診断法とその臨床応用
80巻6号(2018);View Description Hide Description腹膜播種は腹腔内臓器に発生した悪性腫瘍から癌細胞が腹腔内に遊離,腹膜に着床し,転移を形成した状態である.胃癌の場合,小結節型やび漫性浸潤型を呈することが多く画像診断にて初期病態を診断することは困難である.さらに,JCOG のREGATTA試験により非切除因子のある胃癌に対する胃切除先行の治療的意義が否定されたこともあり,治療前に腹膜播種診断を正確に行うことが求められている.よって,胃癌においては全身麻酔下審査腹腔鏡が普及してきているのが現状である.われわれは,審査腹腔鏡検査に5-aminolevulinic acid を用いた蛍光腹腔鏡検査を開発し,これを用いた進行胃癌の治療を行ってきたので,この方法と治療成績について解説する. -
4. 肝切除後腹水の病態と対策
80巻6号(2018);View Description Hide Description肝切除後腹水は,残肝が小さい場合や肝硬変など術後肝不全の病態と密接な関連性があるが,それに加えて腹腔内操作に伴うリンパ漏,胆汁漏などによる炎症,門脈血栓による門脈圧亢進などさまざまな原因により発生しうる複合的な病態である.腹水の治療の原則は利尿薬およびアルブミン製剤などの投与であるが,難治性の場合は腹腔ドレナージを考慮する必要がある.術前の綿密な肝予備能評価に加え,腹腔内操作に伴うリンパ漏に対しては手術手技の工夫,胆汁漏に伴う炎症や門脈血栓に対してはその原因の治療など,その病態の正確な理解と対処が肝切除後の腹水の治療には重要である. -
5. 肝移植後腹水の病態と対策
80巻6号(2018);View Description Hide Description腹水を伴う肝不全に対する肝移植術後,腹水は完全に消失する.しかし,術後早期に一時的に大量腹水を認めることがあり,厳密な輸液管理とともに,経過観察でよいか判断が必要である.原因として急性拒絶反応,門脈または肝静脈部吻合狭窄があれば迅速に治療する.術後3 ヵ月以降の腹水貯留の頻度は少ないが,なんらかの問題を抱えていると考えてよい.原因は,遅発性の門脈,肝静脈吻合狭窄や拒絶や原病の再発のことがあり,精査と治療を要する. -
6. 難治性腹水に対するDenver シャント
80巻6号(2018);View Description Hide DescriptionDenver シャントは腹腔と中心静脈の間にシャントをつくる手技で,大量の腹水をシリコンカテーテルを用いて直接大循環に戻し腹水を減少させる.手技は確立されており,ポンプチャンバーポケットの作成,腹腔へのカテーテル留置,皮下トンネル作成,静脈へのカテーテル留置に分けられる.多くの症例で腹水コントロールが可能であるが,播種性血管内凝固症候群(DIC)や心不全,シャントトラブルなどの偶発症も少なくなく,適応を考えて造設すべきである. -
7. 難治性腹水に対する腹水濾過濃縮再静注法(CART)
80巻6号(2018);View Description Hide Description腹水濾過濃縮再静注法(CART)は1981 年に難治性腹水治療法として承認されたが,副作用が多く効果にとぼしい治療とされて普及していない.2008 年,定圧・外圧濾過方式に濾過膜逆洗浄機能を有して処理速度が速く,腹水に機械的ストレスをかけないKM-CART システムの開発ならびに循環管理技術が確立され,安全に20ℓ以上の腹水ドレナージが可能になった.腹水の全量ドレナージ+KM-CART は,大量腹水患者の生活の質(QOL)改善と治療の再開につながり,予後の改善のために積極的に施行すべきと考える. -
8. 腹膜播種に対する腹腔内化学療法の基礎と臨床
80巻6号(2018);View Description Hide Description腹腔内に投与されたpaclitaxel は腹腔内に停留し,播種病変に直接浸透して抗腫瘍効果を発現する.胃癌腹膜播種に対し,S-1+paclitaxel 静脈投与・腹腔内投与併用療法の第Ⅰ相から第Ⅲ相臨床試験を行い,安全性を確認し有望な治療成績を得た.膵癌腹膜播種においても臨床試験がすすめられている.今後は新規バイオマーカーにより腹腔内に遊離癌細胞の検出感度を高め,腹膜播種再発の予防を目的とした腹腔内化学療法を行いたい. -
9. 腹膜転移に対する外科治療とHIPEC
80巻6号(2018);View Description Hide Description従来より,腹膜転移は肝転移や肺転移と異なり,切除困難でかつ化学療法も効きにくく,根治不能なきわめて予後不良な状態であるとされてきた.新規抗癌薬や分子標的薬剤の出現により成績は著明に改善しているが,いまだ予後不良である.近年,特に欧米において,腹膜転移に対する積極的外科治療すなわち完全減量切除+術中腹腔内温熱化学療法の安全性と有効性が報告されており,各国のガイドラインにも記載されつつある.しかしながら,術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)の真の上乗せ効果についてはいまだエビデンスは高くない.本稿では,主として腹膜偽粘液腫や大腸癌腹膜転移に対する外科治療とHIPEC について言及する.腹膜転移に対する化学療法は別稿を参照されたい. -
10.腹膜播種の病理
80巻6号(2018);View Description Hide Description腹膜播種の病理として腹膜播種の定義,機序,病理学的特徴,検索法,記載法の順に簡潔に説明する.定義では腹膜転移が正式名称であること,機序では主病変の深達度と不整合がありうること,病理学的特徴では組織型が変化しうること,検索法では迅速診断の限界,など注意すべき点を中心に触れ,最後に記載法について自験例からの提案を行った.
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