外科
Volume 82, Issue 6, 2020
Volumes & issues:
-
特集【消化器悪性腫瘍診療におけるガイドラインの功罪】
-
- Ⅰ.総論
-
1.ガイドラインの歴史とMinds
82巻6号(2020);View Description Hide Description日本では1999 年ごろからガイドライン作成が開始された1).ただし,このころはまだ臨床医療に「ガイドライン」という言葉はほとんど浸透しておらず,多くの場合は厚生労働省が科学研究を推し進めるというかたちで作成が推進された.このようにして完成した診療ガイドラインや質の高い医療情報を医療提供者,患者などの利用者に提供する「EBM データベースセンター」の担い手として,2002 年度から厚生労働科学研究費補助金事業として,財団法人日本医療機能評価機構において医療情報サービス事業(Minds事業)が開始された.Minds(Medical Information Network Distribution Service)事業は,現在は厚生労働省の委託事業「EBM(根拠に基づく医療)普及推進事業」として運営されている.診療ガイドラインや質の高い医療情報を,インターネットホームページを中心として医療提供者,患者,市民などの利用者により早く提供するとともに,セミナー・ワークショップ開催による普及啓発活動も行っている. -
2. ガイドラインの効果を測る―Quality Indicator による評価
82巻6号(2020);View Description Hide Description診療ガイドラインの目的の一つは標準診療に関する最新情報を第一線に届け,治療の意思決定を支援することにある.そのため効果があれば標準診療の実施率が上がると想定される.がん医療で使われているQuality Indicator(QI)は診療ガイドラインの推奨をもとにして標準診療を定義し,その実施率を測るものであるため,実質上,診療ガイドラインの効果を測る役割もはたしているといえる.QI を適切に解析すれば,ガイドラインの受容度や今後のクリニカルクエスチョン(CQ)の設定に役に立つと考えられる. -
3. Quality of adjusted life year(QALY)による評価
82巻6号(2020);View Description Hide Description質調整生存年(QALY)は,医療経済評価において,主観的健康状態の価値判断を含め,質と量をともに考慮した評価の柱の一つである.QALY の開発により,幅広く関連する結果を集約できるようになり,一連の介入の比較が可能となった.診療ガイドラインにおける医療経済評価の活用は世界的には導入がすすんでいるものの,国内での診療ガイドラインにおける利用は少ない.本稿ではQALY の基本的な特徴と測量方法,診療ガイドラインへの応用と課題を紹介する. - Ⅱ.各論
-
1. 食道癌診療におけるガイドラインの功罪
82巻6号(2020);View Description Hide Description食道癌診療におけるガイドラインは,2002 年から5 年ごとに改訂を重ね,2017 年に第4 版が刊行された.Minds によるAGREEⅡ評価では,全体評価は75%と高評価であったが,種々の改善を要する点が指摘された.また,日本食道学会自身による評価も行われた.日本食道学会では,これらの評価に基づいて,食道癌診療ガイドラインの功罪(功:有効性や質の向上,罪:解決しなければならない課題)について議論し,2022 年の次期改訂に向けた活動を開始している. -
2. 胃癌診療におけるガイドラインの功罪
82巻6号(2020);View Description Hide Description本邦初の悪性腫瘍ガイドラインとして作成された胃癌治療ガイドラインは,evidence-baced medicine(EBM)の手法が確立するに従い,従来の教科書形式からEBM 形式へその姿をかえてきた.ガイドラインは胃癌診療にかかわる臨床医の意識をかえ,内視鏡治療,外科手術,薬物療法のすべての分野において診療の均てん化に貢献している.しかしながら,最新のエビデンスに対する対応,アルゴリズムにあてはまらない患者の治療方針,司法の場での取り扱いなどは今後の検討課題である. -
3. 大腸癌診療におけるガイドラインの功罪
82巻6号(2020);View Description Hide Description大腸癌治療ガイドラインは,大腸癌の診療に従事する臨床医に広く普及し,必要不可欠なツールとして用いられている.推奨の明確化によってわかりやすくなる一方,ガイドラインによって治療選択肢が狭まると感じている医師が相当数いる.また,それを裏付けるように,ガイドラインが医療訴訟に判決に用いられる例が増加しつつあり,ガイドライン不遵守の場合には不利な判決を受ける可能性があり,不遵守には注意が必要である. -
4. 肝癌診療におけるガイドラインの功罪
82巻6号(2020);View Description Hide Description肝癌診療ガイドラインは,2005 年にevidence-based medicine の手法で策定され,4 年ごとに改訂されてきた.その中心ともいえる「治療アルゴリズム」は長い歴史をもつ本邦の肝癌治療の背景を反映し,策定以来肝癌の日常診療において広く使われてきた.海外のガイドラインに目を向けると,香港はじめアジアのガイドラインとは類似点が多いが,患者背景の異なる欧米のガイドラインとは異なる点が多い.本ガイドラインの提示の明確さは高く評価されているが,費用対効果への言及,ガイドライン実践のモニタリングについてはまだ不十分であると評価されている.引き続き今後の肝癌診療の発展に貢献し,患者から一般臨床医,肝臓専門医まで広く重要な診療のツールとしてさらに活用されるよう,そのつど改訂が加えられる予定である. -
5. 胆道癌診療におけるガイドラインの功罪
82巻6号(2020);View Description Hide Description胆道癌診療ガイドラインは2007 年に初版が,2014 年に改訂第2 版が上梓され,今回,2019 年6 月に改訂第3 版が出版された.5 年ぶりの改訂となるが,第3 版では2012~2017 年の6 年間の文献を網羅的に検索し,その結果に基づいてclinicalquestion(CQ)の解説文を更新・作成し,推奨度を決定した.胆道癌の領域は肝臓癌や膵臓癌に比べて臨床論文そのものが少なく,質の高いランダム化比較試験はほとんどない.したがって,小規模な改訂にとどまったことは否めない. -
6. 膵癌診療におけるガイドラインの功罪
82巻6号(2020);View Description Hide Description膵癌診療ガイドライン第5 版が2019 年7 月に出版された.本ガイドラインは2017 年11 月に第1 回目の改訂会議が行われ,以降2 年間の会議を経て作成された.本稿では本ガイドラインの策定方法および主な変更点,さらには利用にあたっての注意点を概説する. -
7. GIST 診療におけるガイドラインの功罪
82巻6号(2020);View Description Hide Description消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)は希少腫瘍の一つである.2008 年に本邦のGIST 診療ガイドライン初版が発刊されたものの,わが国独自のエビデンスは少なく,欧米諸国のエビデンスに基づくものが多い.しかし海外とは腫瘍背景や人種,医療事情が異なるため外挿するには留意が必要である.また希少腫瘍がゆえ,real world においてガイドラインがどの程度遵守されているかについては明らかでない.本稿では本邦のGIST ガイドラインの変遷と海外との差異,最近報告されたガイドラインの遵守について述べる. -
8. NET 診療におけるガイドラインの功罪
82巻6号(2020);View Description Hide Description膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドラインは近年の診断,治療のエビデンスの集積を反映して2019 年に第2 版が改訂された.欧米とは国情も異なり,保険適用が異なることから,本ガイドラインは本邦における診療の均てん化への貢献が期待される.実臨床に携わる関係者に実際に使用しやすいガイドラインをめざして作成されたが,多様性のある神経内分泌腫瘍ではガイドラインで対処しきれない症例がしばしばあること,また,頻度が多くない中での適切な活用といった点が問題である.今後GRADE システムを用いたエビデンスとコンセンサスの融合,モニタリングの施行など,さらに質の高いガイドラインをめざして改訂が続けられていく予定である.
-
症例
-
-