外科
Volume 82, Issue 8, 2020
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特集【外科臨床に役立つ統計学】
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- Ⅰ.総論
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1.統計学概論
82巻8号(2020);View Description Hide Description医学における統計(学)の概要をまとめた.統計は記述統計と分析統計に分けることができるが,実態をわかりやすく提示する記述統計が基本であり,重要である.統計(学)と疫学は重なる部分も多いが,基本的には別物である.臨床研究を行う際には統計学や疫学の専門家の協力を計画段階から仰いだほうがよい.しかしこのような場合でも「丸投げ」ではなく,議論を行うためにはある程度の知識は必要である. -
2. 臨床研究におけるバイアスの考え方とその対処
82巻8号(2020);View Description Hide Description臨床研究を正しく計画し,正しく解釈するための第一歩は,“バイアス”を理解することである.“バイアス”とは真実の値からの系統的なズレのことをいう.典型的なバイアスは,① 選択バイアス,② 交絡バイアス,③ 情報バイアスである.臨床研究は,まさにバイアスとの戦いであり,研究デザインや解析でどのようなバイアスが生じる可能性があるのかを知ることで,バイアスに対する対処を講じることができる. -
3. 生存曲線の基本とハザード比の考え方
82巻8号(2020);View Description Hide Description本稿では,全生存期間や無増悪生存期間に代表されるイベントが生じるまでの時間,time-to-event データ解析について基礎から解説する.特にハザード比については詳細に説明する.化学療法が主流であった時代から免疫チェックポイント阻害薬に代表される癌免疫療法時代までのプライマリエンドポイント設定の変遷についても議論したい.また,癌免疫療法の治療効果を柔軟かつ的確に評価するための新しい解析手法についても説明する. - Ⅱ.各論
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1.「当科の過去 30 年の〇〇手術の分析」の落とし穴
82巻8号(2020);View Description Hide Description単施設の症例集積研究は若手医師が取り組むべき最初の臨床研究である.自施設の過去の治療結果を振り返り,明日からの手術に役立てるという作業が臨床医を臨床医たらしめているのであり,それをおろそかにする者に未来はない.アウトカムを分析するうえで,必ず考えなければならない三つの重要なポイントは,適応交絡,時代背景の変遷,恣意的な検定による第一種過誤である.研究限界を理解しつつも,データの観察眼・分析力を養うことで臨床研究から得られる気づきは大きくなる. -
2. 観察研究における治療効果の推定―患者背景の考え方
82巻8号(2020);View Description Hide Description各患者が日常診療として受けている治療のアウトカムをそのまま観察したデータでは,比較したい治療群間で患者背景の特徴が異なることはよくある.このような状況では,治療群間を直接比べてもその効果を適切に評価することができない.本稿では,観察研究において,患者背景の違いによって生じる交絡という問題に焦点をあて,その問題に対処する統計学的方法として,マッチング,層別解析,モデルを用いた解析,そして近年応用が増えている傾向スコアを用いた解析の考え方を紹介する. -
3.傾向スコアマッチング
82巻8号(2020);View Description Hide Description高名な統計家による講演などを聞きにいくと,しばしば「治療のランダム割付け」について熱く語られる.しかし,大学や研究機関などでわれわれが実際に携わる臨床研究は多くが観察研究であり,現実的な条件下ではランダム化比較試験を行うことができるような状況は限られている.一方で,近年,『The Journal of the American MedicalAssociation』(JAMA)誌などの一流医学雑誌では「傾向スコアマッチング」という方法が大流行している.何やらこの方法を使うと,観察研究のもとでも,あたかも治療のランダム割付けを行ったかのような「擬似ランダム化」による解析を行うことができるらしい.これはいったいどういうことなのであろうか.本稿では,最近のJAMA 誌の臨床研究を事例として,傾向スコアマッチングによる統計解析について平易に解説する. -
4. 交絡を除去する手段としての多変量解析
82巻8号(2020);View Description Hide Description臨床研究では,介入や曝露の有無がアウトカムに与える影響を推論(因果推論)する場面が多い.この種の研究は介入・曝露の間でアウトカムを比較することが主目的であるが,なんらかの方法を用いて交絡と呼ばれる問題に対処しなければならない.本稿では,研究計画段階でのランダム化が困難な観察研究を対象として,交絡とその基本的な調整法である層別解析・回帰分析について解説する. -
5. National Clinical Databaseから何が引き出せるか
82巻8号(2020);View Description Hide Descriptionわが国の外科手術の95%以上をカバーするNational Clinical Database は2011 年の登録開始から10 年目を迎え,巨大データベースとして成長を続けている.日本の外科手術の現状を余すところなく示し,さまざまな課題もみえてくる.豊富な症例数を含むためにあらゆる解析デザインによる検証が可能であり,リスクモデルの構築から国際間の比較もなされている.データの質や悉皆性を担保しながら,医療の質を改善していくために積極的な活用が望まれる. -
6. 多施設共同外科臨床試験の落とし穴
82巻8号(2020);View Description Hide Description薬物療法の開発が臨床試験を通じて行われてきたのと同様に,近年では手術手技の開発も臨床試験を経て行われることが多い.しかしながら,手術手技の評価を目的とした臨床試験特有の問題点も存在するため,注意が必要である.特に術者の習熟度が試験結果に大きな影響を及ぼしうるという点は,薬物療法の評価を目的とした臨床試験にはみられない特徴である.外科系臨床試験の課題(落とし穴)を十分理解したうえで,質の高い臨床試験を計画・実施することが,新たな手術術式開発につながると考える. -
7. 外科ランダム化比較試験の結果をどう解釈するか
82巻8号(2020);View Description Hide DescriptionJCOG0404 はcT3-4 大腸癌,JCOG0912 はcStageⅠ胃癌を対象に,開腹手術に対する腹腔鏡下手術の非劣性を調べた第Ⅲ相試験である.両試験ともに術者規定を設け,術中写真の提出義務化といった手術手技の品質管理を行い,1,000 例規模の症例数を予定登録期間内に集積したが,結果としてはJCOG0912 のみが非劣性を証明することができた.これは,JCOG0912 のほうが5 年ほど遅く実施されたこともあり,試験開始時にはすでに腹腔鏡下手術の技術の習熟がすすんでいたことと,JCOG0404 で学んだランダム化比較試験実施のノウハウを十分に活かすことができたことが大きいと考える. -
8. CONSORT 声明とEQUATOR ネットワーク
82巻8号(2020);View Description Hide Description1996 年に発行されたCONSORT 声明は, 報告ガイドライン(reportingguidelines:RG)の嚆矢となるものであった.それはランダム化比較試験(RCT)論文の原稿を編集部に提出する際に一緒に届けるチェックリストと被験者のフローチャートから成り立つものである.その後,各種研究デザイン,また各種介入などについてのRGが作成され400 種以上になる.外科領域のRCT で使うのが2017 CONSORT NPTExtension(CONSORT 非薬物介入版)である.その歴史的発展と使い方,各種RG へのリンクをもつEQUATOR Network を国際医学雑誌編集者会議(ICMJE)Recommendationsの動きとともに紹介した.
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