外科
Volume 82, Issue 9, 2020
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特集【膵癌治療の最前線】
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- Ⅰ.総論
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1.最新の膵癌取扱い規約と膵癌診療ガイドライン
82巻9号(2020);View Description Hide Description2016 年7 月に膵癌取扱い規約が第7 版に,2019 年7 月に膵癌診療ガイドラインが2019 年版に改訂された1,2).膵癌取扱い規約第7 版では,標準的手術でR0 切除が可能かどうかの視点から切除可能性分類が導入され,この分類に基づいた細かな治療戦略が膵癌診療ガイドライン2019 年版で示されている.ガイドラインの普及と集学的治療の発達により膵癌の予後も少しずつ改善されており,今後もエビデンスレベルの高い大規模研究に基づいたガイドラインの改訂が望まれる. -
2.膵癌の術前画像検査
82巻9号(2020);View Description Hide Description膵癌治療はNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインや膵癌取扱い規約における切除可能性分類により方針が明確となり,大きな進歩を遂げている.治療法選択においてもっとも重要となるのは術前画像診断である.膵癌診療ガイドライン2019 により各種の画像診断法の特徴と役割が明確化され,その基本となるのは造影MDCT である.しかしながら,評価項目によってはMRI,超音波内視鏡(EUS),PET が有用であり,その特徴を理解して適切な診断法を組み合わせることが重要になる.本稿ではこれらの画像診断に関して実際の画像を示して概説する. - Ⅱ.各論
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1.切除企図膵癌に対する術前治療
82巻9号(2020);View Description Hide Description切除企図膵癌は,切除により根治が期待できる進行度であり,これまでの標準治療戦略は手術先行であった.切除された膵癌は術後補助療法の開発で治療成績が向上したが,切除企図膵癌全体の治療成績はいまだ満足いくものではない.本邦初の大規模比較試験Prep-02/JSAP05 試験の結果,術前化学療法の優越性が証明され,術前治療が標準治療戦略として位置づけられるようになった.今後は,術前・術後補助療法を適切に行うことで,切除企図膵癌全体の治療成績向上が期待できる. -
2.Borderline resectable 膵癌の治療
82巻9号(2020);View Description Hide DescriptionBorderline resectable(BR)膵癌は,外科切除を施行しても癌が遺残し予後不良となる可能性がある.そこでさまざまな術前補助化学(放射線)療法が導入され,術前療法導入によるR0 切除率の向上や予後の改善が報告されてきた.大規模なランダム化比較試験に基づいた術前補助療法のエビデンスはいまだ確立されていないが,術前化学療法と術前化学放射線療法のランダム化比較試験を含めたさまざまな試験が進行中で,結果の報告がまたれる. -
3.切除不能膵癌に対する conversion surgery
82巻9号(2020);View Description Hide Description局所進行切除不能膵癌における切除率は10~20%と低率で,一定期間の術前治療によっても病理学的リンパ節転移の陰性化率は低いが,R0 切除率は向上してきている.ハイボリュームセンターにおいても切除後の生存期間は22~59 ヵ月であり,第1 治療の後,病状進行を認めない厳選症例に第2 治療として根治切除を試み,安全性と生存期間に関するデータを蓄積する必要がある. -
4.膵癌に対するDP-CAR
82巻9号(2020);View Description Hide Description腹腔動脈合併尾側膵切除術(distal pancreatectomy with en-bloc celiacaxis resection:DP-CAR)の術式アプローチ,血行改変・再建について,集学的治療が発達した現在の症例選択ならびに手術手技アプローチの基本と変遷,長期予後について概説する. -
5.膵癌に対する膵全摘術―その有効性と課題
82巻9号(2020);View Description Hide Description膵全摘術は膵内分泌,外分泌機能の両方が障害されることにより,周術期死亡の発生や術後生活の質(QOL)の低下が危惧される.しかし,インスリン療法や膵消化酵素補充薬の進歩により,近年では安全に施行可能になりつつあり,膵癌に対してもその適応は広がっている.一方で,動脈合併切除例や進行癌症例では十分な予後の改善は認められず,その適応は慎重に判断すべきである. -
6.膵癌手術における上腸間膜動脈周囲の処理
82巻9号(2020);View Description Hide Description膵癌郭清でもっとも重要とされる上腸間膜動脈周囲(SMA)の処理を行ううえで,重要な視点が二つある.それは,動脈およびその枝処理をどの視野展開で行うかと,上腸間膜静脈およびその枝をいかに扱うかである.病変の主座や進展範囲を術前画像で十分に把握して,症例ごとに郭清の仕方を調整する必要はあるが,「こうすればきれいに安全に郭清できる」というベースの方法論は,まだ確立されていない.本稿では,当院での膵頭十二指腸切除中のSMA 周囲郭清の手技を中心に,上記二つの視点から,どのような症例に対しても安全かつ正確に郭清を行うためのポイントを解説する. -
7.膵頭十二指腸切除における各種膵管再建法
82巻9号(2020);View Description Hide Description膵頭十二指腸切除後の膵管再建法は,膵と吻合する臓器,膵管吻合の有無,膵実質の密着法,膵管吻合の実施タイミングにより分類され,各施設で創意工夫がなされている.各種吻合法を比較するランダム化比較試験や,それに基づくメタアナリシスも多数行われてきたが,現時点で各吻合法に優劣をつけることは困難である.そのため,各施設がそれぞれ習熟した方法で再建を行ってその結果を発信するとともに,技術を継承してゆくことが重要である. -
8.膵癌に対する内視鏡外科手術
82巻9号(2020);View Description Hide Description内視鏡外科膵切除術は腹腔鏡手術およびロボット支援下手術ともに,本年4 月より保険適用が拡大されたが,現状では膵癌に対する有用性を示す医学的データは少ない.また,特に膵頭十二指腸切除術における内視鏡外科手術は高度な技術を要するため,安全性や根治性を確保した手術方法やアプローチの開発および教育システムの構築が重要である.今後,膵癌治療における内視鏡外科膵切除術の位置づけに関して,十分な議論が必要である. -
9.術後膵液瘻の予防と治療
82巻9号(2020);View Description Hide Description膵頭十二指腸切除術における術後合併症として,膵液瘻やそれに伴う仮性動脈瘤は時に致死的な状態を引き起こす重篤な合併症の一つであるが,これに対する標準的な対策はいまだ確立していない.当教室では術後膵液瘻の予防策として,Blumgart 変法を用いた再建や肝円索・ネオベールによる胃十二指腸動脈断端の保護を採用している.また膵液瘻対策として,早期ドレーン交換を行っているため,これらについて概説する. -
10.膵切除後胃排泄遅延の対策― 膵頭十二指腸切除後の消化管再建法
82巻9号(2020);View Description Hide Description膵頭十二指腸切除術(PD)は,膵頭部腫瘍,遠位部胆管腫瘍,十二指腸腫瘍などに対する術式で,消化器外科分野では高い技術を要する高難度手術である.また,技術と周術期管理の進歩した現在においても術後合併症は高率であり,その対策が患者の予後に大きく影響している.胃排泄遅延症(delayed gastric emptying:DGE)は,PD 術後の重要な合併症の一つである.DGE は直接死にいたる合併症ではないが,食事摂取不良のため患者の生活の質(QOL)を著しく低下させ,入院期間を延長させうる.さらにDGE は術後予防的抗癌薬投与開始を遅らせ,予後にも関連する合併症である.DGE の原因,予防法や治療法は,これまでさまざまな報告がされており,われわれの対策法を示すとともに解説する. -
11.膵癌の周術期栄養管理
82巻9号(2020);View Description Hide Description膵癌患者の周術期の栄養は,術前,術直後,経口摂取開始後のほぼ三つの時期に分けられ,炎症反応の修飾,免疫能の補強などを介して,術後合併症の発生予防や癌再発抑制につながると考えられる.術前に可能な限り栄養状態を改善保持することが重要で,生命予後に改善につながることが示されている.また,膵癌術後には胃内容排出遅延,耐糖能異常などをできる限り回避して,術後早期の栄養療法によって全身状態を保持して,補助化学療法を完遂することが膵癌術後予後改善の重要な因子である.
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臨床経験
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症例
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腹腔鏡補助下低位前方切除術後に発症した左下腿well leg compartment syndrome の1 例
82巻9号(2020);View Description Hide Description
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