外科

Volume 83, Issue 6, 2021
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特集【大腸癌肝転移の治療戦略の再考】
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1.大腸癌治療における肝転移の位置づけ
83巻6号(2021);View Description
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大腸癌治療における肝転移の位置づけは,年々変化している.大腸癌肝転移に対する手術適応は,かつては単発のみであったものの,時代とともに3 個まで,そして現在では個数にかかわらず残肝機能が保たれるまでに拡大されている.また,化学療法の発展とともに,診断時に切除不能と判断された肝転移が切除可能となる症例も認めるようになり,治療の選択肢も広がっている.本稿では,大腸癌治療における肝転移の位置づけの変遷について概略を述べる. -
2.JCOG0603 の企画から結果まで
83巻6号(2021);View Description
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大腸癌患者の約50%が経過中に肝転移を発症する.治癒と長期生存の可能性がある唯一の治療法が外科的切除であるが,5 年生存率は約40%,10 年生存率は約25%程度にとどまっており,肝切除後の残肝再発と肺再発の制御が必要である.現在のoxaliplatin含有補助化学療法レジメン(FOLFOX またはCAPOX)の推奨は,肝切除周術期のFOLFOX が全生存期間(OS)に影響しないものの,無増悪生存期間(PFS)の延長に効果がある可能性を示したEuropean Organization for Research and Treatmentof Cancer(EORTC)40983 試験の結果の外挿に基づいている.大腸癌肝転移切除後の補助化学療法として,mFOLFOX6 を投与される患者と,手術のみの患者を比較したJCOG0603 試験の結果,無病生存期間(DFS)はmFOLFOX6 を投与した患者で改善したものの,OS の改善は認められなかった.また,FOLFOX によるgrade 3 以上の好中球減少症が50%,四肢の知覚麻痺が10%,アナフィラキシーショックが4%の症例で生じ,そして術後補助化学療法群1 例で関連死亡が認められた.癌の治療目標は,生存期間を延長させるか生活の質(QOL)を改善させるかである.OS の延長とQOL の改善のどちらも満たせない可能性がある術後補助化学療法としてのmFOLFOX6 は,大腸癌肝転移切除後の患者においては有益ではないとの考えが現時点での結論である.大腸癌肝転移切除例に対する補助療法の至適投与法は確立しておらず,肝切除周術期の補助化学療法を正当化するエビデンスは依然としてないのが現状である. -
3.JCOG0603 の解釈と今後の展開―腫瘍内科的観点から
83巻6号(2021);View Description
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JCOG0603 試験の結果を客観的に評価すると,主要評価項目である無病生存期間(DFS)において術後補助化学療法(mFOLFOX6)群が手術単独群に優ったポジティブ試験であった.副次評価項目である全生存期間(OS)については,イベント数の観点からまだ評価できる時期ではなく,今後の長期追跡によって同程度のものになってくることが予想される.安全性を毀損していた1 回目の第Ⅱ相試験の集団を解析対象に組み入れたことで,研究グループによる解釈に歪みを認めるが,補助化学療法を推奨するプラクティスをかえる必要はない. -
4.JCOG0603 の解釈と今後の展開―大腸外科の立場から
83巻6号(2021);View Description
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JCOG0603 試験において,大腸癌の肝転移切除後におけるoxaliplatin 併用療法による術後補助化学療法は手術単独群に比較して無病生存期間(DFS)を改善するものの,全生存期間(OS)は同等以下である可能性が示された.再発後の予後は補助化学療法施行群で不良であり,肝転移切除後の症例にoxaliplatin 併用療法を一律に施行すべきではないと考えられる.同レジメンの有効性が高い症例群の抽出が望まれる. -
5.JCOG0603 の解釈と今後の展開―肝臓外科の立場から
83巻6号(2021);View Description
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JCOG0603 は,大腸癌肝転移切除後におけるアジュバント療法の優越性を検証したランダム化Ⅱ/Ⅲ相試験である.mFOLFOX6 によるアジュバント療法は,無病生存期間(DFS)を有意に延長するものの全生存期間(OS)の延長には寄与せず,その適応は慎重に検討すべきである.肝転移切除後の再発抑制は重要であるものの,治療法として再肝切除は有用であり,きたるべき再切除に備えて残肝機能と全身状態を温存することも肝要である. -
6.技術的切除不能肝転移に対するconversion 療法
83巻6号(2021);View Description
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切除不能大腸癌肝転移に対して化学療法を行い,腫瘍の縮小により肝切除を可能とすることをconversion 療法と呼ぶ.技術的切除不能肝転移に対する前向き臨床試験でのconversion 率は23~77%である.Conversion 肝切除が行われた症例の予後は,非切除例と比較して有意に良好であることから,肝外転移のない,もしくはコントロールされている症例においてはconversion 肝切除を行うことが治療の第一目標である.Conversion肝切除後の再発率は高率であるが,再発巣の切除を繰り返すことで長期生存が得られる. -
7.技術的切除可能肝転移に対する術前・術前後化学療法
83巻6号(2021);View Description
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切除可能肝転移の予後向上のため,術前化学療法および術前後化学療法が試みられているが,今までに行われたランダム化比較試験(RCT)では術前化学療法の切除単独および術後補助化学療法に対する優位性を示すエビデンスは確立されておらず,その施行は慎重に検討する必要がある.また,抗EGFR 抗体薬の使用に関してはより慎重になることが推奨される.切除可能境界病変に関しては,切除可能肝転移とは別にさらなる知見を積み重ねる必要がある. -
8.Disappearing liver metastasis の診断と対応
83巻6号(2021);View Description
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化学療法の進歩および画像診断精度の向上により,disappearing liver metastasis(DLM)が真の組織学的消失病巣である確率は向上した.コンバージョン手術(conversion therapy)の最大の目的である切除適応拡大をめざして,blind hepatectomy を回避してparenchyma-spearing 切除を応用しながらDLM を遺残させる肝切除は許容されうると考えられた. -
9.肝転移術後補助化学療法
83巻6号(2021);View Description
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切除可能大腸癌肝転移に対する術後補助化学療法について,本邦から手術治療単独を対照群とする二つのランダム化比較試験(RCT)の結果が報告され,ともに無再発生存を延長することが示された.切除+術後補助化学療法は再発抑制に有効な治療法である.後方視的解析でも術後補助化学療法の有用性は示されているが,海外のガイドラインでは周術期化学療法が推奨されていることが多く,一様ではない.近年のゲノム解析の進歩により,リキッドバイオプシーの有用性が報告されてきた.今後の癌個別化医療に関して重要な役割を担っていくと思われる. -
10.大腸癌肝転移に対するRFA の今後の位置づけ
83巻6号(2021);View Description
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大腸癌肝転移の治療には肝切除,全身化学療法,肝動注療法および熱凝固療法があるが,肝切除は根治切除可能な場合に推奨され,長期予後の改善が期待できる唯一の治療法である.熱凝固療法は,切除と比べて再発率が高く長期生存が不良という報告もあるため,ガイドライン上は肝切除の代替治療として推奨されていないものの,近年,肝切除や化学療法併用のラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation:RFA)の有用性を示す報告が散見され,大腸癌肝転移治療におけるエビデンスが構築されつつある. -
11.大腸癌肝転移に対する薬物療法の開発状況と今後の展望
83巻6号(2021);View Description
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大腸癌肝転移の治療として,現在までさまざまな殺細胞性抗悪性腫瘍薬および分子標的治療薬を用いた治療開発が行われてきた.しかし,大腸癌肝転移の治療成績はいまだ満足できるものではない.そこで,免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療戦略や,ctDNA を用いた周術期の個別化医療をめざした治療開発が現在すすめられており,今後も外科的治療と薬物療法を組み合わせた集学的治療のさらなる開発をすすめることで,予後の改善を期待したい.
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臨床経験
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腹腔鏡下虫垂切除術における一重結紮虫垂根部処理の検討
83巻6号(2021);View Description
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虫垂炎に対する虫垂根部処理は,開腹手術では虫垂根部の結紮と断端の埋没が行われてきた.Semm によりはじめて報告1)されて以来,腹腔鏡下虫垂切除術が広く普及するようになったが,根部処理の方法については意見が異なり,自動縫合器により切離する方法2)以外にも,断端を二重結紮する方法3)や体腔外で根部処理を行う方法4)などさまざまである.当院では現在,原則としてループ式結紮器(サージタイ:Covidien 社)により虫垂根部を一重結紮し,その末梢を超音波凝固切開装置(laparoscopic coagularing shears:LCS)で切離し,さらに断端の埋没は行わない方法を採っており,二重結紮や根部断端の埋没は不要としている.今回われわれは腹腔鏡下虫垂切除における虫垂根部処理について,ループ式結紮器による一重結紮のみで根部処理を行う方法と自動縫合器による方法を対象として,手術時間,術後在院日数,出血量,合併症,医療費について比較・検討を行ったので,その結果を報告する.
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症例
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異物による十二指腸穿孔に対して腹直筋鞘前葉を用いた被覆術を施行した1 例
83巻6号(2021);View Description
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異物による十二指腸穿孔は潰瘍穿孔と異なり保存的治療による治癒が期待できず,緊急手術が必要である.単純閉鎖に加えて付加手術を行ったほうがよいが,腹直筋鞘前葉を筋膜移植して修復した症例を今回経験したので報告する. -
術後補助化学療法を行った小腸腸間膜平滑筋肉腫の1 例
83巻6号(2021);View Description
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腸間膜腫瘍の多くは転移性で原発性腫瘍はまれとされ,平滑筋肉腫はさらに少ない1).KIT 蛋白の免疫染色による消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST) の診断が確立された1998 年以降,それまで平滑筋肉腫とされていたものの多くがGIST と判明し,平滑筋肉腫はさらにまれな疾患となった2).今回われわれは論文報告が10 例とまれな小腸腸間膜平滑筋肉腫に対して,切除後にAI[adriamycin (doxorubicin)+ifosfamide]療法を行い良好な経過を得た一例を報告する. -
経肛門的イレウス管挿入後に盲腸穿孔した閉塞性下行結腸癌の1 例
83巻6号(2021);View Description
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大腸癌において,約15~30%は大腸閉塞が,約1~10%は大腸穿孔が契機で発見され,大腸癌に関連する救急疾患のほぼ80%が大腸閉塞,残りの20%が穿孔である1).大腸癌閉塞ではS 状結腸癌がもっとも多く,75%で脾屈曲の遠位に腫瘍がある1).穿孔では,約70%が腫瘍部位に発生し,約30%が腫瘍部位の近位に発生すると報告されている1).口側穿孔は腸閉塞による間接的穿孔のため,汎発性腹膜炎を伴う遊離穿孔となることが多い1,2).閉塞性大腸癌に対する経肛門的イレウス管の術前減圧の有効性は多数報告されているが3,4),その一方で,穿孔を含めた合併症に関する報告も散見される2,5,6).大腸癌閉塞・穿孔は腹膜炎,敗血症という救急医学的な側面と,進行大腸癌という腫瘍学的な側面を考慮すべき病態であり7,8),臨床的重症度の評価と腫瘍学的評価を短時間で行い,治療を選択しなければならない.また,術後患者の生活の質(QOL)にも配慮する必要がある.しかしながら,大腸癌閉塞・穿孔に対して標準化された治療指針はなく,治療戦略は主治医の経験と判断に依存するとされている1,8).われわれは,下行結腸癌閉塞に対して経肛門的イレウス管挿入後早期に盲腸穿孔を起こした1 例に対して,左半結腸切除(D3 郭清),回盲部切除,一期的吻合を行ったので,その治療選択および経過について報告する. -
肝門部胆管内乳頭状腫瘍術後のPetersen’s hernia に対し腹腔鏡下整復を施行した1 例
83巻6号(2021);View Description
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近年,腹腔鏡手術の普及に伴いPetersen’s hernia の報告が増えているが,大半は胃切除後に発症し,胆道再建後の発症は非常にまれである.今回われわれは,肝門部胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)術後に発症したPetersen’s herniaに対し腹腔鏡下整復を施行した1 例を経験したので報告する. -
特発性血小板減少性紫斑病を合併した腹部大動脈瘤の1 例
83巻6号(2021);View Description
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特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併する症例の観血的治療では,出血の危険性があるため綿密な治療計画,周術期管理が必要である.ITP の治療では,出血症状がなければPLT3×104/μl 以上が目標とされているが,大手術に際しては,PLT 8×104/μl 以上が望ましい1).また,本邦においてはHelicobacter(H.) pylori 陽性ITP 例の約半数で除菌療法により血小板増加を示すとの報告が多くなされている1).
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書評
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