外科

Volume 83, Issue 7, 2021
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特集【放置できない肛門部疾患の診断と治療】
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- Ⅰ.総論
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確実に処置すべき肛門周辺疾患の診断と治療の臨床大要
83巻7号(2021);View Description
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肛門周辺疾患は数個の症状と所見把握,観察診察の聴・視・触・鏡の基本「四診」技能を習得して診断する.症状と鑑別・除外疾患名,急・慢性,程度・分類,特殊病態のほか,まれでも知っておくべき疾病名を円盤形で示し配置した.他科関連病名,病態と,診断上放置してはいけない後遺症や術後重篤感染症などの重症容態は円盤図(図1)の外側に視覚化した.即対応すべき肛門周囲膿瘍の切開排膿術をはじめ,一般外科医に利すると考えられる主要項目を解説した. - Ⅱ.各論
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1.血栓性外痔核の診断と治療
83巻7号(2021);View Description
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血栓性外痔核はしばしば遭遇する疾患で,急性に発症し,肛門管外側の皮下に,外痔静脈叢のうっ血で生じた血栓により結節が形成される.ほとんどの症例は痔疾患軟膏や温浴などの保存的治療で軽快する.血栓性外痔核に対し外科的治療が必要であることはまれであるが,血栓が大きい場合,痛みが強い場合,出血している場合には血栓摘除または外痔核切除を考慮する. -
2.嵌頓痔核の診断と治療
83巻7号(2021);View Description
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嵌頓痔核は肛門に対する過度の負荷によって内・外痔核が急激に腫脹し,還納不能な脱肛となるもので,突然の発症と激痛を主訴として来院する.還納が可能か困難かを見極め,それに応じた処置で患者の苦痛を緩和させることを優先する.手術の時期は保存的治療後か緊急かのエビデンスがなく,局所の状態と患者背景を考慮して選択する.浮腫状に腫大した痔核に対する手術は術後合併症のリスクを伴うため十分な経験を要する. -
3.出血痔核の診断と治療
83巻7号(2021);View Description
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出血症状が顕著な出血痔核は,脱出を主症状とする痔核より頻度は少ないものの,遭遇した際には診断,治療方針の決定,全身状態の把握などの点で迅速性を求められる.出血痔核の診断方法,治療ストラテジーの考え方,手術手技の留意点,工夫について概説した. -
4.裂肛・肛門狭窄の診断と治療
83巻7号(2021);View Description
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裂肛は,肛門疾患の中では痔核,痔瘻に続くもっとも多い肛門疾患である.肛門痛と肛門出血をきたすよくみられる肛門疾患で,肛門の三大疾患と呼ばれている.裂肛は,肛門上皮に生じた亀裂,びらんであり,治療を行ううえで臨床像,形態学的所見,生理学的観察からその成因と病態を知ることがきわめて重要である.機械的な外傷に起因するものか,肛門括約筋の緊張によるものか,症候性によるものかの診断が必要になる.症候性の場合は基礎疾患の治療が第一である.裂肛治療は,まずは内科的・保存的治療が基本である.保存的治療が無効な場合に外科的治療の適応となる.外科的治療では,成因と病態に合った個々の症例に応じた選択が必要となる.裂肛の原因は体質的要因とライフスタイルに影響されるため,術後はしっかりとした生活習慣の指導を怠ってはならない. -
5.特発性直腸肛門痛
83巻7号(2021);View Description
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特発性直腸肛門痛は,検査や病理学的過程において鑑別することのできない直腸または肛門の痛みとされる.あまり目にすることのない疾患であるが,患者の生活の質(QOL)を低下させる.原因として神経因性や筋原性が唱えられているが,詳細は不明である.神経因性疼痛としての治療が効果があり,薬物療法や脛骨神経刺激療法,経肛門刺激療法などの電気治療が行われる. -
6.早期の治療が必要な痔瘻の診断と治療
83巻7号(2021);View Description
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痔瘻は肛門科診療を行う現場では日常的で数多い疾患である.肛門科専門病院である当院の,2020 年1 年間の初診患者10,423 名の内訳は痔核51.8%,裂肛13.5%,痔瘻13.1%であった.痔瘻の急性期である膿瘍期では,正確な診断と迅速な治療が求められる.そのためには,肛門周囲・直腸の解剖学的特徴および疾患の病態を正確に理解したうえで,切開排膿を主体とした外科的治療を適切な病期に行うことが重要である. -
7.肛門部皮膚疾患―Paget 病,皮膚真菌症など
83巻7号(2021);View Description
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日常診療において肛門周囲の掻痒感を訴える患者を診療する機会は多い.本稿では乳房外Paget 病と肛門部皮膚真菌症について概説する.乳房外Paget 病は高齢者の外陰部,腋窩,肛門周囲に好発する表皮内癌であり,不整形の紅斑やびらんを伴った湿疹病変を呈する.進行すると予後不良となるため,本疾患を疑って積極的に皮膚生検を行う.掻痒感を訴える患者で湿疹,肛門掻痒症として加療する際に肛門部皮膚真菌症も念頭におき,真菌検査を行って適切な治療を行うことが重要である. -
8.肛門悪性腫瘍の診断と治療― 痔瘻癌,肛門腺癌,扁平上皮癌,悪性黒色腫
83巻7号(2021);View Description
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痔瘻癌:難治性痔瘻の経過中に発生し,直腸肛門の狭窄症状,疼痛,硬結・腫瘤,コロイドなどを認める.手術が第一選択である.肛門腺癌:特異的症状に欠ける.Pagetoid spread 所見には注意する.手術が第一選択であったが,化学放射線治療の有効性が報告されている.扁平上皮癌:持続・増強する疼痛,腫瘤・硬結を認める.放射線感受性が高く,近年は化学放射線治療が第一選択である.悪性黒色腫:自他覚的に痔核や直腸ポリープと誤認されやすい.切除可能例には手術が第一選択であるが,転移再発例に対する分子標的治療薬や免疫療法も検討されている. -
9.肛門部性感染症(STD)の診断と治療
83巻7号(2021);View Description
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肛門部の性感染症(STD)は重要な感染源であり,放置してはならない.しかし梅毒の診断は必ずしも容易ではない.まずは疑って鑑別にあげるべきである.肛門ヘルペスが蔓延する理由は潜伏感染と再活性化であり,再発抑制治療が鍵となる.尖圭コンジローマの治療について単独では治癒率が60~90%,再発率が20~30%であるため,複数の治療法を組み合わせる必要がある.再発との闘いであり,根気よく治療に取り組まなければならない.
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臨床と研究
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膿瘍形成性虫垂炎に対する待機的腹腔鏡下虫垂切除術の検討
83巻7号(2021);View Description
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膿瘍形成を伴う虫垂炎は従来,緊急手術の適応とされていたが,近年では保存的治療後に待機的に虫垂切除術を行う報告がみられる1,2).当院では,膿瘍形成性虫垂炎に対する保存的治療の適応を定めた治療プロトコールを導入し,治療奏効例に対して待機的腹腔鏡下虫垂切除術を行っている.当院で膿瘍形成性虫垂炎に対して保存的治療を行った症例について,保存的治療プロトコールの有効性を評価し,非膿瘍形成例を対照として手術時間,術後在院日数,出血量,合併症についての比較・検討を行い,待機的虫垂切除術の妥当性を検討した.
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症例
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エクソン9 変異を伴う腸管外原発消化管間質腫瘍腹膜播種の1 例
83巻7号(2021);View Description
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消化管間質腫瘍(gastrointestinalstromal tumor:GIST)は消化管に発生する間葉系腫瘍として知られている.しかし近年,GIST と類似の病理学的特徴をもち消化管外を原発とする腸管外原発GIST(extragastrointestinalstromal tumor:E-GIST)の報告が散見される.今回,腹膜播種を伴うE-GIST に緊急手術を行い,その結果診断にいたったまれな症例を経験したので報告する. -
胃全摘後12 年目に発症した腸重積症の1 例
83巻7号(2021);View Description
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術後腸重積症は全腸重積症の数%を占め,その多くは胃切除後である.その中でも胃全摘後の腸重積症はまれな疾患である.今回われわれは,胃全摘後逆行性に空腸がY 脚へ重積した1 例を経験したので文献的考察を加えて報告する. -
腹腔鏡下手術を施行した左傍十二指腸ヘルニアの2 例
83巻7号(2021);View Description
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傍十二指腸ヘルニアは,Treitz靱帯周囲の腹膜間隙に腸管が嵌入する内ヘルニアの一つで,比較的まれな疾患である.治療としては手術が必要となることが多いが,近年は腹腔鏡下手術の報告が増えてきている.今回われわれは,左傍十二指腸ヘルニアに対し腹腔鏡下手術を施行した2 例を経験したので報告する. -
Indocyanine green(ICG)蛍光法を用いた腹腔鏡下肝S7/8 区域切除術の1 例
83巻7号(2021);View Description
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系統的肝切除は,術中の経門脈性転移の抑制や出血量の制御などの目的から1,2),特に肝細胞癌に対する切除方法として広く行われ,1985 年にMakuuchi らが報告した,術中エコーガイド下門脈穿刺による肝区域染色法により正確な系統的肝切除が可能となった3).2008 年には肝区域染色にindocyanine green(ICG)を用いる方法がAoki ら4)によって報告され,その後,腹腔鏡手術にも導入が試みられている.腹腔鏡下における系統的亜区域肝切除を正確に施行するうえで,鏡視下での穿刺手技は技術的な難度が高く,正確な亜区域の同定が大きな課題となっている5).今回われわれは,腹腔鏡操作での門脈穿刺にかわり腹腔内を生理食塩水で満たし経皮経肝的に穿刺を行うことで,気腹後であっても区域同定が容易に可能であった症例を経験したため報告する. -
十二指腸穿通をきたした胆囊仮性動脈瘤の1 例
83巻7号(2021);View Description
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胆囊仮性動脈瘤は胆囊炎に併発するまれな疾患で,胆道出血の原因の一つとされる.適切な治療法はまだ確立されておらず,胆囊摘出術や動脈塞栓術などの術式の選択や,その有効性に関してはいまだ議論の余地がある.今回われわれは緊急手術を施行し,十二指腸穿通を認めた胆囊仮性動脈瘤の1 例を経験したので報告する.
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