外科

Volume 83, Issue 9, 2021
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特集【COVID-19 下の外科診療】
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- Ⅰ.総論
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1.COVID-19 の現状と今後の対策
83巻9号(2021);View Description
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新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)は,severe acute respiratory coronavirus 2(SARS-CoV-2)が接触・飛沫を介して人体に侵入・感染することで発症する新興感染症である.SARS-CoV-2 の疫学や疾患病態は情報が蓄積されつつあるが,未解明の点も多い.COVID-19 の病態やウイルス学的特徴などの概要に加え,SARS-CoV-2 変異株,検査体制,感染拡大期の医療体制や治療薬・ワクチンなどのトピックについて解説する. -
2.外来診療の注意点
83巻9号(2021);View Description
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収束する見込みが依然みえないsevere acute respiratory syndrome coronavirus2(SARS-CoV-2 による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)蔓延下に,われわれ外科医は,治療を必要とする目の前の患者に適切に対応しつつ,医療従事者の安全を確保し,かつ院内感染の発生防止に努めなければならない.外来診療では標準予防策の徹底,サージカルマスクの着用と適切なタイミングでの手洗いやアルコールによる手指衛生を行うことが不可欠である.さらに,背景や生活環境も多彩で,時に病歴や生活歴の聴取が困難な患者に対応しなければならない救急外来では,加えてN95 マスクとゴーグルの着用が必要である.また,緊急手術となる患者は,1 時間以内に結果が出る迅速polymerase chain reaction(PCR)検査を行った後に手術室に入室するほうがよいが,状態がわるくPCR 検査の結果をまつ余裕のない患者には感染者と同等の対応で,陰圧手術室での,場合によっては陰圧の救急外来処置室での手術が必要となることもある. -
3.周術期管理にかかわる問題
83巻9号(2021);View Description
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに伴い,患者および医療スタッフの安全を確保する周術期管理対策が必要である.患者重症度,地域での感染状況,医療供給体制を考慮して手術適応を決定する.COVID-19 陽性あるいは疑い患者に対する手術時には,個人用防護服(PPE)着用などの感染対策やCOVID-19 による合併症への対策を含む多角的な対策が必要である.そのうえで,可能な限り従来の診療に近づけることが求められる. -
4.麻酔管理の問題
83巻9号(2021);View Description
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新型コロナウイルス(2019-nCoV)の感染拡大は,波を4 つ数えるにいたり長期化している.振り返ってみると,麻酔管理については第1 波が終わる2020 年5 月過ぎにはおおむね方針がまとまり,現時点では次の3 点が目標となっている.① 必要十分な感染対策のもと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)確定例/疑い症例の手術麻酔を安全に遂行すること.② 手術医療を継続しつつも,無症候感染者による感染をなくすこと.③ 感染力の強いインド由来のデルタ型変異株による第5 波に備えること.麻酔管理の問題を明らかにするべく,2020 年1 月に武漢市で2019-nCoV 感染が明らかとなってからの現場での+対応と混乱をまとめ,“with コロナ”での麻酔管理方針がまとまるまでの経緯を述べた. -
5.地域中核病院の取り組み
83巻9号(2021);View Description
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに対し,当院は地域中核病院として早期より外来および入院に対応している.院内クラスターの発生により外科の患者にも院内感染が生じてしまったが,病院をあげて感染対策に着実に取り組むことで通常診療も継続している.診療科を問わず密に協力し,繰り返し振り返ることで常にアップデートし,厳しすぎる程度の対策を強いリーダーシップのもとで採用し徹底させることが重要である. - Ⅱ.各論
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1.COVID-19 の乳癌診療への影響
83巻9号(2021);View Description
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は癌診療に大きな影響を与えている.乳癌診療に関しては,日本乳癌学会や日本乳癌検診学会が指針を公開している.日本乳癌学会の指針では,外来診療,画像診断,外科療法,放射線療法,薬物療法のそれぞれについて3 段階の緊急度に分類し,地域の状況に応じた対応を求めている.当院でも特に外科治療に関して大きな影響を受けており,当院における影響や経験を解説する. -
2. COVID-19 流行期における開腹手術の注意点について
83巻9号(2021);View Description
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,無症候性の感染者が多く,いったん重症化すると入院が長期化し医療機関にとって大きな負担となる.このような特徴を有するCOVID-19 の流行期には,外科医療を担うわれわれは多くの要因を考慮しつつ診療を継続する必要がある.COVID-19 流行期において,外科医がもっとも注意すべきことは医療従事者への感染を遮断し院内感染を防止し,病院機能を維持することにある.開腹手術という感染伝搬を助長しやすい状況をいかに制御できるかは,外科医の正確な知識と院内ルールの徹底に委ねられる. -
3.腹腔鏡手術特有の問題
83巻9号(2021);View Description
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腹腔鏡手術は消化器外科において重要なアプローチとなっているが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対して腹腔内を高い気腹圧で膨らませて手術を行うため感染伝播のリスクを上昇させる危険が懸念されている.COVID-19 患者に対する腹腔鏡手術を行う際には,① できるだけサージカルスモークが少なくなるような手技やデバイスを用いること,② 発生したサージカルスモークがポートなどを通じて手術室内に広がらないように注意をすることなどの推奨がなされている. -
4. 内視鏡診療における特有の問題および対策
83巻9号(2021);View Description
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消化器内視鏡は,エアロゾル産生のリスクが高い手技であり,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大下における消化器内視鏡診療の際には,術者や介助者への感染,また,内視鏡を契機とした院内感染に十分に注意する必要がある.対策として重要なことは,患者の適切なトリアージ,確実な個人防護具(personal protective equipment:PPE)装着,そして内視鏡室の環境整備である.無症候性の患者が一定数存在していることを念頭におき,絶えず緊張感をもって内視鏡診療にあたらなくてはならない. -
5. 移植医療におけるCOVID-19 対策
83巻9号(2021);View Description
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2019 年末からの中国・武漢での報告後,瞬く間に世界中に拡散した新型コロナウイルス感染症(COVID-19) は, 現在も収束することなく拡大し続けている.COVID-19 は,移植医療のあり方に大きな影響をもたらし,世界中の多くの移植施設で,生命にかかわる臓器の移植を除き,生体移植を中心とした待機可能な移植は一時停止を余儀なくされた.ドナーからの伝播の可能性,院内感染の可能性,移植患者への感染対応など,さまざまな状況を想定し,院内のコンセンサスを得ることで,現状では多くの施設が移植医療の提供を再開した.しかし,安心・安全な移植医療を提供し続けるためには,COVID-19 以前とは異なる新しい移植医療の様式を実践していく必要がある.これまでに得られたCOVID-19 と移植医療に関する文献的報告をレビューし,“with コロナ”の移植医療のあり方とともに報告する. -
6.癌薬物療法にかかわる問題
83巻9号(2021);View Description
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2019 年末に発生したsevere acute respiratory coronavirus 2(SARSCoV-2)による新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)は,薬物療法を含む癌診療の場に大きな問題を引き起こしている.本邦では現在のところ3 回の大規模な感染流行を経験し,癌診療は幾度となくその危機を乗り越えてきた.いまだ終息の兆しはみえないものの,われわれは欧米とは異なる本邦特有の感染状況を見極めたうえで,癌薬物療法を継続的に,今までと遜色のない医療レベルで提供することが可能であった.
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臨床と研究
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救急外来における急性大動脈解離の早期診断に影響する因子の検討
83巻9号(2021);View Description
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急性大動脈解離(AAD)による死亡率は,無治療であれば発症後48 時間までに1 時間あたり1%増加すると報告されており1),迅速かつ的確な診断と適切な治療が必須である.したがって,心臓血管外科を有しない二次医療機関ではAADの診断と緊急手術の適応例を早急に選別して高次医療機関に転送する必要がある.しかしAAD の発症頻度は人口10 万人あたり2~6 人/年と比較的少なく2,3),しかも中には非典型的な症状を呈し診断までに長時間を要する症例も存在する.そこで,AAD の診断に影響する因子を検討することで救急外来における診断能向上を目的とした.
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症例
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クラミジア感染が契機となった小腸閉塞の1 例
83巻9号(2021);View Description
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クラミジア感染症は,性行為によりChlamydia trachomatis が子宮頸管腺細胞に感染し,子宮頸管炎を引き起こす性感染症の一つである.今回われわれは,クラミジア感染症により形成された腹腔内索状物が腸閉塞の原因となった1 例を経験したので文献的考察を加えて報告する. -
鼠径ヘルニア手術3 年後に発症した遅発性メッシュ感染の1 例
83巻9号(2021);View Description
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メッシュを用いた鼠径ヘルニア根治手術は簡便であり術後疼痛が少なく,かつ再発率が低く今日では標準術式となっている.しかしメッシュの感染は重篤な術後合併症であり,ひとたび感染が発生すると治療は難渋する.メッシュの感染は術後数日~1 年以内に発生することが一般的であり,数年経って発症する症例は少ない.今回われわれは,鼠径ヘルニア術後3 年を経過後に発症した遅発性メッシュ感染の1 例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する. -
左傍十二指腸ヘルニアと術前診断し腹腔鏡下修復術を施行した1 例
83巻9号(2021);View Description
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傍十二指腸ヘルニアはTreitz 靱帯周囲の腹膜窩に腸管が陥入して起こる内ヘルニアである.比較的まれな疾患であるが,近年ではCT で術前診断され,腹腔鏡下手術が行われる報告例が増えてきている.今回われわれは術前診断し,待機的に腹腔鏡下修復術を施行した左傍十二指腸ヘルニアの1 例を経験したので報告する. -
腹腔鏡下直腸切断術後に発症した続発性会陰ヘルニアに対して腹腔鏡下修復術を施行した2 例
83巻9号(2021);View Description
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会陰ヘルニアは比較的まれな疾患であり,原発性と続発性に分類されている.今回われわれは腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術後に発症した続発性会陰ヘルニアに対して腹腔鏡下に修復した2 例を経験したので文献的考察を加えて報告する. -
腹腔鏡下Hartmann reversal 術後に発生した外側大腿皮神経障害の1 例
83巻9号(2021);View Description
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外側大腿皮神経障害はmeralgiaparesthetica(知覚異常性大腿神経痛)とも呼ばれ,一側の大腿前面から外側に知覚鈍麻がみられ,大腿の運動や知覚過敏な部分を圧迫することで痛みや知覚障害を伴った異常知覚を呈する症状をさすものである1).術後合併症として外側大腿皮神経障害が発生した報告は,整形外科領域では散見されるが2,3),消化管術後にこのような症状が生じることはきわめてまれである.今回,腹腔鏡下大腸手術後に発症した外側大腿皮神経障害の1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する. -
Rocuronium bromide アレルギーに筋弛緩薬を用いず肝後区域切除を施行した1 例
83巻9号(2021);View Description
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本邦における周術期のアナフィラキシーの発生頻度は約4 万件に1 件と報告されている1).その原因薬剤は筋弛緩薬,ラテックス,抗菌薬の順に多い1).筋弛緩薬,特にvecroniumbromide やrocuronium bromide によるアナフィラキシーの報告は散見されるが,肝切除術においてrocuronium bromide/vecronium bromideを使用せずに手術を完遂した報告は非常に少ない.今回はrocuronium bromide アレルギーと診断した肝硬変を伴う肝細胞癌患者に,rocuroniumbromide/vecronium bromide を使用せずに肝切除術を施行した1 例を経験したため報告する. -
主膵管拡張と限局性狭窄を認め内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(ENPD)チューブ留置下複数回膵液細胞診で診断しえた膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)の1 例
83巻9号(2021);View Description
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膵上皮内腫瘍性病変(pancreaticintraepithelial neoplasia:PanIN)は膵癌の前癌病変として知られており,low-grade からhighgradeまで進行し,膵癌へ移行すると考えられている1).膵癌は早期の段階での自覚症状が現れにくく,進行癌として発見されることが多いうえ,生命予後もきわめてわるいことから,いかに早期発見するかが重要である2).今回,主膵管の拡張と限局性狭窄を認めたことから内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(endoscopicnasal pancreatic drainage:ENPD)チューブ留置下で複数回膵液細胞診(serial pancreatic-juiceaspiration cytologic examination:SPACE) を施行し,診断しえたPanIN の1 切除例を経験したため,PanIN の分子病理学的知見とSPACEの特徴について文献的考察を加え報告する. -
摘出時に播種性血管内凝固症候群を発症しダメージコントロール後救命しえた骨盤内chronic expanding hematoma の1 例
83巻9号(2021);View Description
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Chronic expanding hematoma(CEH)は整形外科領域などで古くから知られていた1)が,Reid ら2)が臨床病理学的に検討を加えた.CEH は,密な線維結合織からなる被膜におおわれ,月単位・年単位で出血を繰り返して増大する慢性血腫と定義されている.今回筆者らは,骨盤内を占拠するCEH を摘出したが,術中に播種性血管内凝固症候群(DIC)をきたし,ダメージコントロール後止血を行って救命しえた症例を経験した.CEH は,本例のように水腎症をきたしたり,胆管を圧迫して肝障害の原因になったりした症例3)も報告され,隣接臓器の合併切除が必要になることもある.本例のような骨盤内を占拠する巨大CEH では摘出そのものが技術的にむずかしく,リスクが高い.また,悪性化の報告もあるため,CEH は血腫といえども診断がついた時点で積極的に手術すべきと考えられたので報告する.
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