外科

Volume 83, Issue 12, 2021
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特集【消化管・膵神経内分泌腫瘍(NEN)の最新情報】
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- Ⅰ.総論
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1.消化管・膵NEN の疫学
83巻12号(2021);View Description
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消化管・膵神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)は,欧米と同様本邦でも増加が報告されている.本邦の2016 年の全国がん登録を用いた人口動態ベースでの解析では,消化管・膵NEN は10 万人あたり3.53 人と算定され依然として希少疾患であるが,原発巣分布が欧米とは異なりほかのアジア諸国と類似していること,また,原発巣により腫瘍の悪性度の分布が異なることが特徴である.今後,全国がん登録の経年的な解析とともに,日本神経内分泌腫瘍研究会で行われている登録事業による詳細な解析をすすめていくことが期待されている. -
2.消化管・膵NEN の画像診断
83巻12号(2021);View Description
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神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)における画像診断の役割は,① 腫瘍の検出,② 他の腫瘍との鑑別,③ ステージング,④ 治療効果判定・術後再発評価に分けられる.機能性NEN は非常に小さいことが多く,非機能性でも肝転移やリンパ節転移のみの原発不明腫瘍となりやすいため,他の腫瘍と比べると原発巣の検出が問題になりやすい.本稿ではいかにNEN を検出するかという点を強調しながら,用いられる画像検査と各部位におけるNEN の画像所見について解説する. -
3.消化管・膵NEN におけるバイオマーカー
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世界中で神経内分泌腫瘍(neuro endocrine neoplasm:NEN)の患者数は増加している.NEN は生物学的にヘテロで,1942 年以来,40 以上のモノアナライトが開発されたものの,感度,特異度,予測機能は低く,長期フォローに伴う累積放射線被曝のほか,検査や治療のコストを含む治療計画の設計が乳癌と異なり困難である1~6).最近,血中NEN 転写産物などの新しいテクノロジーを用いた,腫瘍活性,治療選択,効果判定,予後情報を提供するマルチアナライトが注目されている7,8). -
4.消化管-膵臓NEN の病理組織分類
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膵-消化管原発の神経内分泌腫瘍の病理組織分類はいくつかの変遷を経て新しい病型分類,世界保健機関(WHO) 2017/2019 としてある程度完成されたものになった.すなわちこれらの神経内分泌腫瘍を高分化と低分化に形態学的所見から分類し,前者を腫瘍の細胞増殖動態からG1,G2,G3 に細分化し,後者を形態所見から小細胞癌と大細胞癌に分類した.外分泌成分との混合腫瘍に関してはmixed neuroendocrine non-neuroendocrineneoplasm(MiNEN)という新しい疾患名が提唱された. -
5.消化器・膵神経内分泌腫瘍に対する薬物療法
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切除不能・再発膵・消化管神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)に対する薬物治療は,ソマトスタチンアナログ(SSA),分子標的治療薬,細胞傷害性抗悪性腫瘍薬,ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)に大きくカテゴリー化される.NEN に対する治療薬の選択としては悪性度・腫瘍量から,長期生存が期待できる場合には,治療強度のなるべく弱いものから単剤で開始し,その後,PRRT を含め逐次シークエンスしていくことが標準的である.一方,NET G3 やneuroendocrine carcinoma(NEC)に対してはより強力な治療レジメンが一次治療となることが一般的である.期待される治療としては,免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と血管新生阻害薬の併用療法や,遺伝子変異数(tumor mutation burden)高値に対するICI 治療,分子標的治療薬+ソマトスタチンアナログの併用療法などがある. -
6.消化管・膵NEN に対するペプチド受容体放射性核種療法
83巻12号(2021);View Description
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ペプチド受容体放射性核種療法(peptide receptor radinuclide therapy:PRRT)に使用されるLutetium (177Lu) oxodotreotide は,octreotide acetate LAR30 mg/月にて増悪を認めた中腸neuroendocrine tumor(NET)に対する有効性をoctreotide acetate LAR 60 mg/月と比較した第Ⅲ相試験で,有意に良好な無増悪生存期間(PFS)を示した.また中腸以外の膵・消化管NET に対する国内外の臨床試験の結果をもとに,Lutetium (177Lu) oxodotreotide は,膵・消化管をはじめとするすべてのNET に対して保険適用となった.しかしながら,その他の薬物療法との使い分けのほか,原発部位による治療効果の違いや長期的な副作用の発現頻度などの,疫学的にも欧米と異なる本邦のNEN 患者のデータは不足しており,本邦独自の臨床データの今後の集積が肝要と考えられる. -
7.膵・消化管神経内分泌腫瘍の診療ガイドライン
83巻12号(2021);View Description
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わが国において神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)の診断および治療の標準化をめざして,日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS)より2015 年にはじめて膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドラインが発刊された.その後,世界保健機関(WHO)分類の改訂,ソマトスタチン受容体シンチグラフィ(SRS)の登場,分子標的治療薬everolimus およびソマトスタチンアナログのlanreotide acetateの対象疾患への追加,非機能性膵NEN に対する手術適応の再検討など,NEN に関する多くの新たな動向があり,2019 年に第2 版に改訂され刊行された.NEN は希少腫瘍であるとともに,全身臓器に発生して多彩な臨床症状を呈する.NEN の診断および治療に関しては複数の診療科が連携した診療体制が必要である.また,NEN の診断には最終的に病理分類が重要であり,病理診断に基づいた薬物治療戦略の選択が必要となる.本稿では膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドライン改訂第2 版のポイントを総説する. - Ⅱ.各論
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1.食道・胃NEN 外科治療の現状と問題点
83巻12号(2021);View Description
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食道neuroendocrine neoplasia(NEN)はほとんどが低分化な神経内分泌癌(neuroendocrine carcinoma:NEC) であり神経内分泌腫瘍(neuroendocrinetumor:NET)はまれである.NEC において切除可能な局所病変に対しては手術が行われるが,進行度と全身状態を考慮して手術適応を判断する.胃NEN では高ガストリン血症の有無に基づくNET のRindi 分類および世界保健機関(WHO)の組織grade 分類に応じて治療方針を判断する.食道・胃ともにNEC に対する手術では補助化学療法の併用が推奨される.本稿では日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS)ガイドライン第2 版のコンセプトに基づき,最近の文献を加えて食道・胃NEN に対する外科治療の現状と問題点を概説した. -
2.小腸・大腸NEN の外科治療の現状と問題点
83巻12号(2021);View Description
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本邦では中腸由来の消化管である小腸神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)や結腸NEN は少なく,後腸由来の消化管である直腸NEN が多い.また,腫瘍径1 cm 未満で粘膜下にとどまるNEN に対しては内視鏡的切除術が行われることが多い.一方,小腸・大腸NEN はリンパ節転移や遠隔転移の頻度が高いことがわかっているので,リンパ節転移のリスク因子を評価したうえで,外科手術の適応を正確に判断することが肝要である.また内視鏡的切除術が行われた症例においても,病理診断の結果にリンパ節転移のリスク因子があれば追加手術を行うことが重要である. -
3.膵NEN 外科治療の現状と問題点
83巻12号(2021);View Description
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膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine neoplasm:PanNEN)のうち膵neuroendocrine tumor(NET)は非機能性・機能性にかかわらず根治やホルモン制御が期待できるため,切除可能病変に対しては基本的に切除が推奨されている.しかし,近年では非機能性膵NET で悪性度の低い小さな腫瘍は経過観察も選択肢の一つとなった.一方で膵neuroendocrine carcinoma(NEC)の切除意義は明確ではない.膵NET は腫瘍局在,進行度,産生ホルモンで術式が異なり,詳細な術前診断と病態に応じた適切な術式選択が重要である. -
4.NEN 肝転移に対する外科治療の現状と問題点
83巻12号(2021);View Description
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神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)に対する治療は高分化型neuroendocrine tumor(NET)と低分化型neuroendocrine carcinoma(NEC)に分けて考える必要があり,現状でNEC 肝転移に対する切除の意義は乏しいと考えられる.NET 肝転移に対する肝切除のエビデンスは多く蓄積されているが,前向き研究のデータは少なく,かつ非切除療法との比較は十分に行われていない.さまざまな画像診断技術に基づいた,また近年飛躍的に進歩した非切除療法[薬物療法,ペプチド受容体放射性核種療法(peptide receptor radionuclide therapy:PRRT)]と外科切除の組み合わせによる新たな集学的治療戦略の構築が求められている.
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特集【消化管・膵神経内分泌腫瘍(NEN)の最新情報】
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- Ⅱ.各論
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5.NEN 肝転移に対するインターベンショナルラジオロジー
83巻12号(2021);View Description
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神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET)は進行が比較的緩徐であることや血流が豊富な腫瘍であることから,肝転移巣に対して以前より肝動脈(化学)塞栓療法[transarterial(chemo)embolization:TA(C)E]などのインターベンショナルラジオロジー(IVR)による局所療法が広く用いられてきた.近年さまざまな薬物療法が登場したことで,IVR を行う機会は減少したものの,切除・IVR・薬物療法を組み合わせた集学的治療が予後の改善には非常に重要と考えられる.
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症例
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孤立性上腸間膜動脈解離を伴う虚血性腸炎に対してインドシアニングリーン蛍光法で腸管温存を行えた1 例
83巻12号(2021);View Description
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孤立性上腸間膜動脈解離(isolatedsuperior mesenteric artery dissection:ISMAD)は剖検例で0.01%とまれな疾患である1).近年,画像診断の進歩により増加傾向にある.血管内治療や保存的加療で救命することがあるが,腸管壊死にいたることもあり手術加療が必要になることがある.今回インドシアニングリーン(ICG)蛍光法を使用し腸管切除を回避することができた症例を経験したので若干の文献考察を加え報告する. -
胆嚢捻転症の2例
83巻12号(2021);View Description
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胆囊捻転症は,頻度は少ないが胆囊動脈の血流が途絶することで穿孔などもきたし致命的となりうるため,緊急手術を要する.胆囊捻転症は保存的加療では治癒しないため早期診断および手術を施行する必要がある.本疾患の診断はむずかしいが超音波検査やCT などの画像検査が有用であるとされ,1 例はCT にて術前診断しえた.当院で経験した胆囊捻転症の2 例を若干の文献学的考察を加えて報告する.
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書評
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