Volume 83,
Issue 13,
2021
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特集【外科医が知るべき癌終末期医療の基礎と実践】
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Ⅰ.総論
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外科 83巻13号, 1353-1355 (2021);
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緩和医療・ケアの分野において外科医のはたす役割は大きい.外科と緩和医療・ケアには共通点が多く存在する.外科医の適性は緩和医療・ケアに通じるものがあり,特にチーム医療には好都合である.コミュニケーション能力は癌終末期患者・家族にとって重要であるばかりでなく,チーム医療を機能させるうえでも大切である.「和」を重んずる本邦の精神文化はチーム医療推進に適っている.
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Ⅱ.各論
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外科 83巻13号, 1356-1360 (2021);
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癌疼痛治療でもっとも重要なことは,痛みの評価である.痛みの原因によって治療の方向性が異なってくるからである.癌患者が訴える痛みには癌疼痛と非癌の痛みがあり,経時的に原因が変化することを念頭において継続的に評価する.そのうえで,原因に対する対応と疼痛治療を行う.軽度の痛みには非オピオイド鎮痛薬を,中等度以上の痛みには強オピオイドを使用し,オピオイドを十分増量しても適切な鎮痛が得られない場合には,鎮痛補助薬の併用や専門的緩和ケアサービスに早めに紹介する.
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外科 83巻13号, 1361-1367 (2021);
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鎮静とは,ほかの方法で緩和できない苦痛が終末期患者に生じたときに,鎮静薬を使用することをさす.鎮静は間欠鎮静と持続鎮静に分けられ,さらに後者には調節型鎮静と持続的深い鎮静(continuous deep sedation)がある.苦痛を緩和するために最小の鎮静を用いることが原則であり,調節型鎮静を優先して使用する.鎮静を行うことによる生命予後の短縮効果にはエビデンスがない.鎮静を適切に用いることで患者の苦痛の緩和に貢献することができる.
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外科 83巻13号, 1368-1371 (2021);
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癌終末期における末梢神経障害は,生活の質(QOL)を低下させる不快な症状で,多くの医療従事者は原因を「化学療法誘発性」に帰着しがちである.絶対的な原因を特定することはむずかしいことが多いが,治療経過や併存症,発症時期を把握して終末期医療を行う必要がある.「化学療法誘発性」以外を疑う所見が少しでもあれば,ほかの原因を検索する必要がある.本稿では,原因に主軸をおいて,終末期医療で経験する末梢神経障害をまとめた.
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外科 83巻13号, 1372-1379 (2021);
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呼吸困難は「呼吸するときの不快な感覚」と定義されており,癌患者の呼吸困難は,肺癌では特に頻度が高い難治性の症状である.原因の病態に対する直接の治療が可能であれば,まずそれを優先して行い,直接治療が困難な場合は緩和的な治療を選択する.緩和治療では,新しい酸素療法に加えて,薬物療法としてのオピオイド,抗不安薬,ステロイドが中心になる.近年,非薬物療法である送風療法の有用性が明らかになっており,総合的に組み合わせて対処することが重要である.
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外科 83巻13号, 1380-1389 (2021);
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癌終末期では,消化管閉塞による悪心・嘔吐・腹痛の頻度は高く,生活の質(QOL)を著しく阻害する.症状発現の早期から画像診断にて閉塞の評価を行い,患者の病期・病態・機能と,各種治療法適応の可能性,安全性から,最適な治療法を選択し加療すべきである.終末期も前期であるなら,侵襲的治療も含めて,消化管の機能維持や,減圧による症状緩和など,目的に応じた最適な治療を提供できなければならない.
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外科 83巻13号, 1390-1395 (2021);
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癌終末期における症状の中でも,腹部症状は生活の質(QOL)を著しく低下させる症状である.主な症状としては腹痛,悪心・嘔吐,腹部膨満,便秘,下痢など複数であり,原因も癌の進行,食事や運動の低下,薬剤の副作用など多岐にわたる.終末期であっても適切な診断,最適な薬物療法・非薬物療法を行うことでQOL を向上させることが期待できる.
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外科 83巻13号, 1396-1402 (2021);
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下部尿路障害は一般に「排尿障害」と呼ばれ,排尿時の不快な症状や排尿機能が損なわれていることの総称である.「尿が出過ぎて困る(頻尿)」と「尿が出なくて困る(排尿困難)」という正反対の状況が含まれ,さらに排尿時の痛みや失禁など多種多様な症状を伴う.癌終末期においては,さまざまな排尿障害が起こりうるが,排泄行為は人としての尊厳を保つ重要な要素であり,癌の終末期においても適切な診断・治療が必要と考えられる.終末期に起こりやすい排尿障害とその対応について概説する.
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外科 83巻13号, 1403-1407 (2021);
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終末期医療において尿路感染症,膀胱部痛,血尿,陰部浮腫は患者の生活の質(QOL)を損なう症状の一つである.しかし終末期医療の患者に対してこれらの症状に特化した臨床研究や治験はほとんどみられない.その中で2016 年に日本緩和医療学会が中心となり,がん患者の泌尿器症状の緩和に関するガイドラインが発刊された.尿路感染症,膀胱部痛,血尿,陰部浮腫の各症状への対応について同ガイドラインを中心にまとめた.
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外科 83巻13号, 1408-1412 (2021);
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終末期(エンドオブライフ)の輸液は,脱水などの苦痛症状の緩和または輸液による悪化がないことを目標に,10%以下の糖質濃度で,1,000 ml/日から「輸液を施行しない」の間で,投与方法も含め,患者の状態に合わせ調整していく.点滴を減量することへの患者・家族の不安などの感情へのサポートや死のプロセスにおける教育も重要である.この時期の悪液質に対する非経口栄養療法の適応の根拠は十分得られていない.
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症例
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外科 83巻13号, 1413-1418 (2021);
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デスモイド腫瘍(desmoid-typefibromatosis)は深部軟部組織に発生し,線維芽細胞の増殖からなるまれな腫瘍である.遠隔転移はしないが局所再発を繰り返すことがあり,他臓器に浸潤した場合は致命的になりうる.本稿では,他臓器合併切除を要した腸間膜デスモイド腫瘍の2 例を提示し病理学的知見をふまえて報告する.
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外科 83巻13号, 1419-1422 (2021);
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総腸間膜症は腸回転異常症の一型で,小腸と結腸が共通の遊離腸間膜を有し可動性を呈している状態である1).今回,われわれは総腸間膜症に起因すると考えられた盲腸軸捻転解除術後にS 状結腸軸捻転症を発症し手術施行した症例を経験したので報告する.
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外科 83巻13号, 1423-1429 (2021);
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大腸悪性リンパ腫は消化管原発腫瘍の中でも頻度の低い疾患であり,大腸癌との鑑別を要する疾患として知られているが,同一腫瘍内における悪性リンパ腫と腺癌の衝突はまれである.今回,S 状結腸において悪性リンパ腫と腺癌との衝突腫瘍を認めた1 例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
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外科 83巻13号, 1430-1433 (2021);
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Spigelian ヘルニアは半月状線と腹直筋外縁との間のSpigelian 腱膜に発生するまれなヘルニアで,全腹壁ヘルニアの2%前後と報告されている1).今回われわれは腹腔鏡下に両側Spigelian ヘルニアと診断し治療を行った1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
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外科 83巻13号, 1434-1438 (2021);
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成人の横隔膜ヘルニアは比較的まれな疾患であるが,Morgagni 孔ヘルニアはさらにその1~3%であるといわれている1).近年,内視鏡手術の普及に伴い,本疾患に対する腹腔鏡下修復術の報告が散見されるが,実際の手技に関しては,使用するメッシュやその固定方法などについてさまざまな報告がなされている.本稿では,Larrey 孔ヘルニアを合併したMorgagni 孔ヘルニアを腹腔鏡下に修復した1 例を経験したので報告する.
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外科 83巻13号, 1439-1443 (2021);
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近年,中心静脈栄養カテーテル抜去に伴う合併症が認知されてきている.特に空気塞栓症は脳梗塞,右心不全など重篤かつ致命的な経過をたどることもあり注目されている.われわれは,中心静脈栄養カテーテル抜去に伴い空気塞栓症をきたしたがすみやかに回復した1 例を経験したので報告する
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外科 83巻13号, 1444-1450 (2021);
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人工股関節全置換術では,最終的なインプラント挿入前に,トライアルヘッドと呼ばれる同一形状のテスト用インプラントを用いて人工股関節の安定性を確認する.まれな合併症として術中トライアルヘッドの迷入があり,摘出例また非摘出経過観察例が報告されている.今回われわれは骨盤深部へのトライアルヘッド迷入から6 年後,腹腔鏡下に摘出術を行った1 例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.