外科
Volume 84, Issue 2, 2022
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特集【胆道癌治療の最前線】
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- Ⅰ.総論
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1.胆道癌取扱い規約第7 版の改訂のポイント
84巻2号(2022);View Description Hide Description胆道癌取扱い規約が改訂され,前版同様最新のThe Union for InternationalCancer Control(UICC)のTNM 分類に全面的に準拠させた.大きな変更としてはT因子が浸潤の距離で分類されること(遠位胆管癌のみ),N 因子が転移リンパ節の個数で分類されること,世界保健機関(WHO)病理分類最新版に準拠したこと,領域横断的がん取扱い規約やゲノム研究用・診療用病理組織検体取扱い規程に対応したことなどがあげられる.そのほかは,現場の混乱を避けるため当規約前版からの変更を最小限にした. -
2.胆道癌診療ガイドラインの最新トピック
84巻2号(2022);View Description Hide Description胆道癌診療ガイドライン改訂第3 版が2019 年6 月に刊行された.その中から,胆道ドレナージの意義・方法・発熱時の対応,外科治療における血管合併切除・肝膵同時切除・術中胆管上皮内癌陽性例の扱い,胆道癌手術と実施施設,切除不能胆道癌に対するファーストライン・セカンドラインの薬物療法,術後補助化学療法について,重要と思われる点,ガイドラインに今後掲載されていくであろう最新のトピックについて取り上げ,概説した.
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column
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胆道癌に対するゲノム医療
84巻2号(2022);View Description Hide Description大規模なゲノム解析により,胆道癌におけるドライバー遺伝子が明らかとなり,FGFR2 融合遺伝子などの複数の有望な治療標的や免疫チェックポイント阻害薬について臨床開発がすすむことが期待される.その一方で,治療抵抗性変異の腫瘍内多様性も明らかとなり,ゲノム異常を検索して治療法を選択し,また経過中の経時的なモニタリングによって治療計画を最適化していく「ゲノム医療」が重要な鍵となるであろう.
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特集【胆道癌治療の最前線】
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- Ⅱ.各論
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1.内視鏡的逆行性胆管膵管造影を用いた胆管癌の進展度診断
84巻2号(2022);View Description Hide Description胆管癌に対しR0 切除をめざすためには正確な進展度診断が重要である.ダイナミックCT による壁肥厚診断をもとに術式および術前胆道ドレナージの戦略を立てる.内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)では,主病巣の確定診断と同時に,上流・下流の進展度診断を行う.上流に関しては,予定残肝へ進展がないことの確認が重要である.進展度診断には,管腔内超音波(IDUS)や胆道鏡などの画像診断と,狙撃生検による病理診断が用いられる.診断処置後は,予定残肝へドレナージを行う. -
2.放射線画像による胆道癌の診断とステージング
84巻2号(2022);View Description Hide Description胆道癌の画像診断においてはCT,MRI それぞれに特徴があり,CT は高い空間分解能を活かした局所進展診断に,MRI はMRCP による胆管像描出と高い組織コントラストに利点がある.一方で局所診断,ステージングの双方において画像診断の診断能はいまだ十分とはいえない.それぞれの画像法の特徴と注意点をよく理解して内視鏡や外科的アプローチと相補的に有効活用する必要がある. -
3.胆道癌の術前胆道ドレナージ治療
84巻2号(2022);View Description Hide Description遠位胆管癌においては,術前ドレナージを実施しない対応になる可能性があるが,現時点での本邦の取扱いは各施設の方針に委ねられている.肝門部領域胆管癌においては,広範囲肝切除術を施行した肝門部領域胆管癌での術後合併症による死亡率が5%前後と高率であり,主な死因が肝不全であることから,高度黄疸例には術前胆道ドレナージを行うことが推奨される.本邦における胆道癌診療ガイドラインでは,「黄疸患者に術前胆道ドレナージは行うべきか?」というクリニカルクエスチョン(CQ)に対して,「広範肝切除術(肝葉切除以上)を予定する胆道癌には,行うことを推奨する.推奨度1(レベルC)」との回答を行っている. -
4.肝外胆管癌に対する手術術式と適応
84巻2号(2022);View Description Hide Description肝外胆管癌は,非治癒因子が存在しない限り根治切除をめざす.肝外胆管癌は肝門部領域胆管癌と遠位胆管癌に分類され,それぞれ尾状葉を伴う肝葉切除・肝外胆管切除術,膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy:PD)が標準術式となる.肝門部領域胆管癌に対する肝切除術式を決定する際はBismuth 分類が有用である.遠位胆管癌のPD の術式は,胃切除範囲や再建法にバリエーションがあり,上腸間膜動脈周囲リンパ節郭清はリンパ節の適正評価に有用である.これら肝外胆管癌の手術適応は癌遺残度の可能性,血管浸潤,リンパ節転移などの腫瘍因子を考慮したうえで決定する. -
5.進行度に応じた胆囊癌に対する至適術式
84巻2号(2022);View Description Hide Description胆囊癌に対する至適術式は進行度によって異なる.深達度においては,T1 症例にはリンパ節郭清を伴わない全層胆囊摘出術が,T2 症例には胆囊床切除と領域リンパ節郭清が選択される.T3 以深の症例には,浸潤範囲によっては右肝切除や膵頭十二指腸切除の対象となるが,合併症率が高く予後も不良なために慎重に適応する必要がある.T2以深症例のリンパ節郭清は,上膵頭後部リンパ節を含めた2 群領域郭清が標準的である.肝十二指腸間膜内のリンパ節郭清の効率化を目的としたいわゆる予防的肝外胆管切除の付加は推奨されない.肝切除範囲については,系統的なS4,5 切除や肝切除範囲の拡大が予後を改善するエビデンスは認められず,肝切除断端を陰性化しうる切除範囲で十分であると考えられる. -
6.十二指腸乳頭部癌に対する手術術式と適応
84巻2号(2022);View Description Hide Description現在,本邦の胆道癌診療ガイドラインでは,十二指腸乳頭部癌に対する標準手術は膵頭十二指腸切除であり,局所的乳頭部切除を行うことは推奨されていない.しかし実臨床では,乳頭部粘膜層にとどまりOddi 括約筋に達しないT1a(M)までの病変に対し,局所的乳頭部切除を許容している施設も多い.現在の診断技術でT1a(M)とT1a(OD)を正確に鑑別することは困難であるため,縮小手術である局所的乳頭部切除の適応は慎重に判断すべきである. -
7.胆道癌に対する腹腔鏡手術・ロボット手術
84巻2号(2022);View Description Hide Description胆道癌に対する手術術式は病変の部位や広がりにより多岐にわたる.遠位胆管癌・十二指腸乳頭部癌に対する腹腔鏡下もしくはロボット支援下膵頭十二指腸切除術は2020 年4 月から保険適用となった.一方,胆囊癌や肝門部領域胆管癌に対する鏡視下手術は保険収載されていない.胆囊癌に対する胆囊床切除や肝外胆管切除に肝十二指腸間膜リンパ節郭清を伴う胆囊摘出術は技術的には可能と思われ,保険収載が今後の課題である.難度が高い手術となるため安全な鏡視下手術の導入を心がけることが重要である. -
8.切除可能胆道癌に対する術前・術後補助療法
84巻2号(2022);View Description Hide Description胆道癌の唯一の根治的治療は外科切除であるが,術後再発は治癒を妨げる最大の要因である.再発を抑え生存率を改善する有効な補助療法の開発が不可欠である.BILCAP試験の結果により欧米では術後capecitabine 療法が標準に近いかたちで使用されているが,確定的なエビデンスはなく胆道癌の標準的補助療法は定まっていない.現在,術後補助療法,術前補助療法の第Ⅲ相試験が複数実施されており,重要な知見の発信が期待される. -
9.切除不能胆道癌に対する薬物療法とconversion surgery
84巻2号(2022);View Description Hide Description切除不能胆道癌に対する化学療法は,gemcitabine をベースにした多剤併用化学療法(gemcitabine+cisplatin,gemcitabine+S-1,gemcitabine+cisplatin+S-1)が標準治療とされている.さらに,近年は遺伝子パネル診断結果に基づいて有効な分子標的治療薬を探索する個別化治療も試みられている.診断時非切除とした胆道癌に対し,抗腫瘍療法後に根治切除を行うconversion surgery(CS)は,症例数が稀少であるためエビデンスはいまだ確立されていないが,長期生存例も報告されるようになってきた. -
10.肝門部領域胆管癌術後合併症の対処法
84巻2号(2022);View Description Hide Description肝門部領域胆管癌は,切除のみが根治をめざせる唯一の治療法であるものの,肝外胆管切除を伴う片葉切除以上の肝切除術を基本術式としており,高侵襲手術となる.そのため術後合併症の発生そのものをなくすことは不可能であるが,発生した合併症を重篤化させず致死的なものにしないことが重要であり,術前からのリスク管理,術中の丁寧な操作,術後の合併症の早期発見・早期対応が必要となる.
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臨床経験
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日本内視鏡外科学会技術認定医(へルニア領域)取得を境に後進教育に注力したら,合格者の手術周辺の環境には何が起こったのか?
84巻2号(2022);View Description Hide Description日本内視鏡外科学会(JSES)の技術認定医資格は後進を指導するに足りる力量を有する外科医を選定する資格である.同資格取得に対する外科医の意欲は高く,近年,消化器/一般外科のヘルニア領域でもその技術的な情報開示がすすんでいる1~4).しかし,技術認定合格を機に合格者たる外科医はさらなる手術の進化・高難度化をすすめる反面,後進教育を行うというジレンマに直面する5).Solo-surgery の腹腔鏡下鼠径部ヘルニア根治術では,助手の関与が乏しくその技術習得がむずかしい.後進教育を主体とした場合,合格者の手術手技や周囲環境の精度管理は十分可能なのか.本研究では,同認定資格取得後の後進教育を主体とした環境下での,資格取得前後における合格者の手術手技および関連因子の変化について,後方視的に検討することを目的とした.
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症例
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術前化学療法施行後,腹腔鏡下胃局所切除で噴門を温存しえた胃巨大消化管間質腫瘍の1 例
84巻2号(2022);View Description Hide Description消化管間質腫瘍(gastrointestinalstromal tumor:GIST)は消化管・腸管膜に発生する腫瘍である.GIST 診療ガイドライン(第3 版)によると,GIST に対する治療の第一選択は外科的完全切除である1).しかし,腫瘍のサイズが大きいもの,また腫瘍の局在によっては,拡大手術や術式の選択に制限が生じる可能性がある.近年,これらを回避するためにimatinib による術前補助療法が有効であるとの報告を多数認める2~8).今回,われわれは術前imatinib 療法が奏効し噴門側胃切除を回避し,腹腔鏡下胃局所切除を施行した胃巨大GIST の1 例を経験した.文献的考察を加えて報告する. -
リンパ行性直腸転移をきたした上行結腸癌の1 例
84巻2号(2022);View Description Hide Description大腸癌の転移様式は,リンパ行性転移や血行性転移および隣接臓器や腸間膜への直接浸潤,腹膜播種が従来から報告されており,大腸癌の術後同臓器再発様式では吻合部再発が一般的である.今回われわれは,上行結腸癌のリンパ行性直腸転移と考えられる症例を経験したので報告する. -
興味深い経過をたどった膀胱上窩ヘルニアの1 例
84巻2号(2022);View Description Hide Description膀胱上窩ヘルニアは膀胱横ひだ,正中臍ひだ,内側臍ひだに囲まれた膀胱上窩にヘルニア門を有するヘルニアで,進展方向により内膀胱上窩ヘルニアと外膀胱上窩ヘルニアに分類される.今回,われわれは内膀胱上窩ヘルニアの手術後,外膀胱上窩ヘルニアを生じた症例を経験した.本例の興味深い経過,腹腔鏡の有用性,治療方針について,文献的考察を加え報告する.
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