外科

Volume 84, Issue 5, 2022
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特集【内視鏡手術からみえる新しい解剖学】
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- Ⅰ.上部消化管
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1.頸部縦隔鏡での上縦隔リンパ節郭清における局所解剖
84巻5号(2022);View Description
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近年の内視鏡外科技術の進歩に伴い,頸部アプローチによる低侵襲食道切除術が可能となった.左頸部アプローチでは,常に反回神経の走行に配慮した注意深い剝離と切離が求められる.神経モニタリングを用いることで,神経の機能温存に配慮した安全な食道剝離とリンパ節郭清が可能である.各ステップの手術解剖と要点について解説した. -
2.腹臥位胸腔鏡下食道切除術における局所解剖
84巻5号(2022);View Description
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食道とその周辺臓器の間隙には疎性結合織が存在しており,その層に有効な牽引を加えると泡状の剝離可能層として視認されるようになる.剝離可能層を展開して切離する手技は出血や解剖の誤認などが少なく,手術を平易にすすめられる利点がある.この剝離可能層を確保・維持するためには臓器表面に分布する細かな血管や神経枝などの微細な構造をランドマークとして温存しながら,そのすぐ外側に存在する疎性結合織層に対して適切な方向に牽引を加えていくことが肝要である. -
3.ロボット支援下縦隔アプローチ食道癌手術からみえる中縦隔解剖
84巻5号(2022);View Description
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右胸腔を経由しない縦隔アプローチ食道切除術では,頸部と腹部から食道をくり貫く必要がある.頸部からの縦隔鏡操作と腹部からのロボット操作・腹腔鏡操作で食道背側を連続させる際,膜状の段差,剝離層のずれを認識できることが多いが,この正体は食道背側の臓器鞘であると思われる. -
4.食道裂孔ヘルニア(胃食道逆流症)手術における必要な局所解剖学
84巻5号(2022);View Description
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胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)に対する標準的外科治療は腹腔鏡下噴門形成術である.外科治療の対象となる難治性GERD 症例では多くの場合,食道裂孔ヘルニア(hiatal hernia:HH)を併存している.従って,腹腔鏡下噴門形成術では,① 食道胃接合部(esophagogastric junction:EGJ)を解剖学的なもとの場所に戻し,開大した食道裂孔を縫縮すること(HH repair),② 下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)の再建(fundoplication)の両方を行う. -
5.鏡視下胃切除術における網囊の解剖
84巻5号(2022);View Description
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かつては網囊切除が盛んに行われていたため,網囊の局所解剖はより身近な存在であったが,現在では手術中に網囊の形態を意識する機会は減少しているかもしれない.しかし,胃癌の根治切除のコンセプトである胃間膜切除(MGE)において,胃間膜によって包まれた空間である網囊の形態を理解しておくことはランドマークとして非常に有用である.手術の「場の展開」や「癒着・癌の浸潤」により変形した網囊の形態を立体的にイメージし,どこを剝離すればいつもの空間にたどりつくかを見抜くには網囊の解剖を正確に理解しておくことが必要である.本稿では,内視鏡手術や発生学的な知見をふまえて,網囊の局所解剖を概説した. -
6.噴門側胃切除術における食道胃接合部・下縦隔の解剖
84巻5号(2022);View Description
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内視鏡手術の発展により,食道胃接合部および下縦隔の解剖の知識・理解が深まるとともに,手術手技が広く共有されるようになった.食道胃接合部の進行癌に対する噴門側胃切除術では,下縦隔リンパ節をen bloc に郭清することになるが,横隔食道膜や心臓下包といった食道胃接合部を取り巻く解剖の知識に基づいて,これまでのエビデンスから推奨される下縦隔リンパ節郭清を適切に行うことが求められる. -
7.膵上縁D2 郭清における膜構造
84巻5号(2022);View Description
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胃癌手術における膵上縁の郭清は出血が起こりやすい部分である.しかし,膜を意識し,層を保つことにより出血は最小限に抑えることができる.左胃動脈右側では,膵前面の腹膜を切開し,outermost layer への到達後は,その層を維持しつつ,郭清を背側に向けて行う.また左胃動脈左側においては,Toldt fusion fascia を意識し,これを衝立状に利用しつつ,背側に向けて郭清を行うことが重要である. -
8.脾門部郭清における膵上縁~脾門の解剖
84巻5号(2022);View Description
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胃癌治療ガイドライン(第6 版)では,胃上部進行癌・大彎浸潤例において,脾門部郭清(±脾摘)を施行することが弱く推奨されている.脾門部の解剖は血管分岐を含め個体差が大きいため,術前3D-CT が有用である.手術手順としては,STEP 1:脾動静脈下枝を尾側から露出,STEP 2:上下枝分岐を目印に脾動脈本幹を近位側から遠位側に向けて露出,STEP 3:脾臓に沿って上行する脾動静脈上枝を露出(上極枝が存在する場合は同部位周囲も郭清)の順で行い,郭清の底部となるGerota 筋膜を意識すると再現性が高い郭清を行うことができる. -
9.幽門下領域の郭清における幽門下動静脈の解剖
84巻5号(2022);View Description
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幽門下動静脈は胃癌取扱い規約にも記載されており,一般的な解剖学的知識となりつつあるが,実際に血管走行を認識し,確実な血管処理を行うためには高度な技術が必要である.本稿では,幽門下動静脈領域の郭清手技における幽門下動静脈の解剖と,手術合併症を軽減するための手技上の工夫について述べた.幽門下動静脈領域の郭清を行う際の注意点は膵損傷と血管誤認であり,それらを防ぐために当教室では外側アプローチとtree vision(tree 展開)を行っている. -
10.肥満外科手術における機能的胃解剖
84巻5号(2022);View Description
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肥満外科手術であるスリーブ状胃切除術を施行すると,胃底部と胃体部の大部分が切除され,His 角や胃斜走筋線維も切断される.その結果,下部食道括約筋圧は低下し,胃内圧は上昇し,胃内容物は食道に逆流しやすくなる.さらに食物摂取による胃の弛緩運動がなくなり,胃の蠕動速度が速くなり,胃や小腸の摂取物の通過時間が短くなる.そのためグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)などのホルモンの分泌が増え,食欲を抑制し少量の食事摂取と相まって減量効果を現す. - Ⅱ.下部消化管
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1.腹腔鏡下結腸右半切除の際に必要な外科解剖
84巻5号(2022);View Description
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結腸癌手術は解剖学的剝離層に沿う手術が基本となるが,中枢側は非解剖学的な切離を行う必要がある.また,右側結腸の解剖はバリエーションが多く,術前から血管解剖を把握しておくことが重要であるが,それを認識できるような視野展開も手術を行ううえで重要である. -
2.蛍光色素でみる横行結腸のリンパ流
84巻5号(2022);View Description
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インドシアニングリーン(ICG)蛍光法により横行結腸のリンパ流観察が可能である.右側横行結腸のリンパ流は辺縁動脈沿いに横行結腸間膜中央に向かって流れ,中結腸動脈(MCA)の左枝からNo.223 リンパ節に流れることがあるため注意を要する.横行結腸中央部のリンパ流はMCA の左枝に沿ってNo.223 リンパ節に流入する.左側横行結腸のリンパ流は多彩であるが,副中結腸動脈(accessory middle colic artery:acc-MCA)が存在する場合はacc-MCA に沿って流れる.さらに,リンパ流の知見に基づく手術手技の工夫に関しても概説した. -
3.腹腔鏡下中央部横行結腸切除の際に必要な血管解剖
84巻5号(2022);View Description
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横行結腸中央部の癌に対する腹腔鏡下切除では,その血管分岐の複雑さから中枢側のD3 郭清の難易度が高い.その基本的解剖と主要血管の分岐バリエーションの知識をもったうえで,術前のCT による入念なシミュレーションが正確で安全な手術のために重要である. -
4.腹腔鏡下結腸左半切除に必要な血管解剖と手術手技
84巻5号(2022);View Description
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左側横行結腸癌や下行結腸癌に対する腹腔鏡下結腸左半切除は症例数が少ないことや血管の分岐形態が多いことなどから,その手術手技の難易度が高いと考えられている.中結腸動静脈や下腸間膜動静脈からの分岐形態の理解とともに,術前CT で認識できないバリエーションを把握することは安全に手術をすすめるうえで非常に重要である.本稿では,腹腔鏡下結腸左半切除に必要な解剖と手術手技におけるポイントを述べた. -
5.腹腔鏡下で脾彎曲部授動を行う際に必要な局所解剖
84巻5号(2022);View Description
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脾彎曲部授動は,脾彎曲部に発生する結腸癌だけではなくS 状結腸癌や直腸癌でも行う,大腸外科医にとって大切な手技である.脾彎曲部では前腸系と中腸・後腸系の膜構造が複雑に癒合しているため,脾彎曲部授動の難易度は高い.癒合している膜構造は発生学的用語と臨床外科局所解剖学的用語が混在しているため,これを整理し理解することが重要である.頭側尾側混合アプローチ(pincer approach:横行結腸間膜挟み撃ち法)は,安全に脾彎曲部授動を行う際のアプローチとして有用であると考えている. -
6.左側結腸癌に対する腹腔鏡下大動脈周囲リンパ節郭清
84巻5号(2022);View Description
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大腸癌においても他癌と同様,リンパ節転移を伴わない症例に対する予防的な大動脈周囲リンパ節郭清(para-aortic lymph node dissection:PALND)は推奨されない.一方,転移・再発症例に対するPALND については,前向き比較試験の結果はないが,いくつかの後ろ向き研究で有効性が示されており,その適応に関する一定のコンセンサスは得られていないものの,症例を適切に選択することで予後改善に寄与しうる重要な術式である.本稿では,同時性大動脈周囲リンパ節転移を有する左側結腸癌症例に対する,腹腔鏡アプローチによるen bloc PALND に必要な解剖と手技の実際について解説した. -
7.自律神経温存の際に必要な直腸周囲神経の解剖
84巻5号(2022);View Description
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直腸癌手術においてもっとも重要なことは,根治性を担保しつつ機能を温存することである.下腹神経や骨盤神経叢,骨盤内臓神経などの自律神経損傷は術後の性機能障害および排尿障害をきたし生活の質(QOL)を著しく低下させるため,温存するために適切な剝離層を意識することが重要である.開腹手術の際には骨盤内自律神経は直視がむずかしかったが,内視鏡手術の時代が到来したことで術中に神経の走行が意識されることが多くなってきた.本稿では直腸癌術後の機能温存に直結する直腸周囲の自律神経の解剖について述べる. -
8.腹腔側からみた肛門周囲の膜と筋の構造
84巻5号(2022);View Description
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根治性や生活の質(QOL)をできる限り落とさない治療を行うためには,温存すべき自律神経と筋膜の構造への理解が必要不可欠である.発達する鏡視下手術と近年の肛門温存術式の進歩に伴い,肛門周囲の理解がより深まっており,術後の機能温存がより重要視されるようになっている.肛門管周囲の剝離層は不明瞭のことも多く,前壁の直腸尿道筋および後壁の肛門尾骨靱帯の存在を常に認識して手術を行うことが重要である. -
9.肛門側からみた直腸周囲の局所解剖
84巻5号(2022);View Description
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肛門からの鏡視下手術である経肛門的全直腸間膜切除(trans-anal TME:taTME)を正確に行うためには,新たな解剖学的知識と肛門側からの鏡視下の視野に慣熟することが必要である.特に,直腸と周囲臓器とを結合する平滑筋組織である直腸尿道筋, 深会陰横筋, 直腸腟筋, 直腸尾骨筋(rectococcygeal muscle)[hiatal ligament],肛門尾骨靱帯(anococcygeal ligament),直腸周囲の膜組織であるDenonvilliers筋膜と骨盤内筋膜(endopelvic fasica),直腸周囲の自律神経である骨盤内臓神経と神経血管束についての十分な理解が重要である. -
10.ロボット支援下側方郭清に必要な閉鎖腔の解剖
84巻5号(2022);View Description
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直腸癌に対する側方郭清では,自律神経と血管の間に介在するリンパ節を郭清するが,骨盤内の解剖に基づいたメルクマールとなる「壁」を意識しながら,リンパ節をen bloc に郭清することができる.鏡視下手術は,拡大視により微細解剖が視認しやすい一方で,剝離層を認識するために大きな術野展開を行うことが手術のコツである.本稿では,側方郭清で主領域となる閉鎖腔の郭清に必要となる解剖学的なポイントについて述べた. -
11.腹腔鏡下骨盤内臓全摘出において処理が必要な腸骨動静脈の分岐形態
84巻5号(2022);View Description
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腹腔鏡下手術の普及に伴い,骨盤内の詳細解剖の重要性が再認識されてきた.骨盤内拡大手術を確実かつ安全に施行するには骨盤内解剖の習熟が必要である.これらの解剖を立体的に認識し,実際の術野にいかに投影するかがカギとなるが,そのためには,血管解剖のみならず,骨盤内解剖や重要なランドマークになりうるそのほかの解剖学的構造物の認識が必須である.本稿では,骨盤内拡大手術に必要な骨盤内解剖に関して概説した. - Ⅲ.肝胆膵
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1.腹腔鏡下肝切除における肝静脈周囲のLaennec 被膜とその応用術式
84巻5号(2022);View Description
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腹腔鏡手術は,拡大視効果と肝臓の尾側や背側からの視野を得ることができる特徴をもつ.近年,この拡大視効果と腹腔鏡特有の視野を活かした新しい肝臓の微細解剖として,Laennec 被膜が注目されている.また,主肝静脈はsegment/section 間を走行し,系統的肝切除において重要なランドマークとなるため,主肝静脈周囲のLaennec 被膜の理解とその露出方法はより安全な肝切除へとつながると考えている.本稿では,主肝静脈周囲のLaennec 被膜の実体とこれを利用した肝静脈への三つのアプローチ法のポイントを解説する. -
2.Inside-out transection による腹腔鏡下肝切除に必要な局所解剖
84巻5号(2022);View Description
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肝内Glisson は,肝門板より樹木の枝のように腹側に鋭角に枝分かれしており,末梢では隣り合った領域の枝が交差し結合する一方,根部周辺では太い枝がほとんどない領域が存在する.この特徴を生かしたGlisson 根部より領域間切離をスタートさせるinside-out transection は,従来法に比してさまざまな優位性があり,この方法に適した腹腔鏡手術のみならず開腹肝切除においても応用が期待される. -
3.腹腔鏡下蛍光イメージングでみる肝区域の解剖と肝実質温存手術への応用―低侵襲解剖学的肝切除に関する最新知見
84巻5号(2022);View Description
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低侵襲解剖学的肝切除(minimally invasive anatomical liver resection: MIALR)の安全な普及に向けて,2021 年2 月の第32 回日本肝胆膵外科学会学術集会においてprecision anatomy for minimally invasive HBP surgery, expert consensus meeting が開催され,The Tokyo 2020 terminology of liver anatomy and resections が発表された.本稿では,その要旨と,当院でのインドシアニングリーン(ICG)negative staining を用いたMIALR の実際について述べた. -
4.腹腔鏡下蛍光イメージングを用いた肝区域染色の工夫
84巻5号(2022);View Description
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インドシアニングリーン(ICG)蛍光法は3 次元的な肝区域境界を明瞭に描出し,術前シミュレーションに基づく手術計画を正確に実行するための術中ナビゲーションとして有用である.しかしながら,腹腔鏡手術環境において,開腹手術同様にICG 蛍光法を用いることは技術的難易度が高く,解決すべき課題を有する.本稿では,ICG 蛍光法を用いた腹腔鏡下肝区域イメージングについて,特に担癌門脈枝穿刺を簡便に施行するための工夫を中心に概説した. -
5.腹腔鏡下Glisson 一括処理に役立つLaennec 被膜の正しい理解
84巻5号(2022);View Description
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腹腔鏡下系統的肝切除術は手技難度が高く,まだまだ標準的手術と呼べるほど普及はしていない.しかしながら,腹腔鏡手術は拡大視効果によってこれまで開腹手術ではあまり認識されていなかった微細な膜構造を認識できるメリットがある.系統的肝切除の手術術式にはGlisson 一括処理という手技があるが,安全・確実な腹腔鏡下Glisson 一括処理を行うためにLaennec 被膜の正確な肝臓解剖の理解が必須である.そこで本稿ではLaennec 被膜の組織学的な実態について解説した. -
6.腹腔鏡による肝後上区域の切除に必要な解剖学的メルクマール
84巻5号(2022);View Description
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肝後上区域に対する腹腔鏡下肝切除を安全に施行するためには,腹腔鏡のメリットを十分に生かしたアプローチ,腹腔鏡独自の視野での解剖の理解と手術手技の習熟が必要である.右葉の授動,肝後上区域Glisson 枝の確保,肝切離の際のトロカール位置や切離手順など,腹腔鏡下にそれぞれの解剖学的メルクマールを認識し,手順を定型化しておくことで,難易度の高い肝後上区域に対する腹腔鏡下肝切除が無理なく適応できる. -
7.尾側背側からみた脈管解剖:腹腔鏡下片肝切除のために
84巻5号(2022);View Description
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現在までにその複雑な脈管構造を含む肝の解剖は数多く研究されている.腹腔鏡下肝切除は主として尾側からの視野および操作によって手術をすすめることになり,開腹に比し特に背側領域の術野認識に優れている.この特性を理解したうえでの手技を習得し,経験を積み重ねることが重要である. -
8.腹腔鏡下系統的肝切除に役立つランドマーク
84巻5号(2022);View Description
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2016 年から多くの腹腔鏡下系統的肝切除術式が保険収載となり,徐々に標準化がすすんでいる.安全かつ正確な系統的肝切除を行うためには,ランドマークを認識しつつ肝切除を行うことが重要である.腹腔鏡下系統的肝切除におけるもっとも重要なメルクマールは肝静脈である.それに加えて,腹腔鏡視野特有のメルクマールが存在する.本稿では,腹腔鏡下肝左葉切除,腹腔鏡下肝右葉切除,腹腔鏡下肝S8 亜区域切除におけるランドマークについて概説した. -
9.腹腔鏡による授動に必要な肝支持組織の理解
84巻5号(2022);View Description
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肝支持組織の理解は,鏡視下手術・開腹手術を問わず,安全な肝切除を実施するために必須である.鏡視下手術の発達により,その視野の違い,鉗子の可動域などの観点から,支持組織の処理から肝授動にいたるまで,開腹手術の際とは異なるアプローチが用いられる場合もある.本稿では,解剖学的理解に基づいた鏡視下手術における支持組織の処理,肝授動の実際について,当科で2021 年より導入しているロボット支援下肝切除における手技も含めて紹介した. -
10.腹腔鏡の知見を応用した肝門部胆管癌手術(下大静脈周囲の処理)
84巻5号(2022);View Description
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肝門部胆管癌に対する根治術は開腹手術が主流であるが,腹腔鏡手術が定型化した再建を伴わない肝切除と手技に共通点があり,そこから得られる微細解剖情報を開腹(あるいは将来の腹腔鏡下)肝門部胆管癌手術に応用させることは十分に可能である.本稿では,肝門部胆管癌における大肝切除で必ず施行する手技である尾状葉の下大静脈からの剝離・脱転をテーマに,内視鏡手術および基礎肝臓解剖研究から得た知見を紹介する. -
11.腹腔鏡下胆摘において重要な解剖学的知見
84巻5号(2022);View Description
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腹腔鏡下胆囊摘出術(LC)は胆囊良性疾患における標準術式として確立された手術手技である.鏡視下手術症例の蓄積の中で高度炎症例にも手術適応が拡大され,困難症例においても標準術式となった.一方で,日本内視鏡外科学会のアンケートでは胆道損傷の合併症は依然として発生率0.4~0.5%で推移し,克服されてはいない1).多様な解剖形態の理解に基づいた安全な手術施行の取り組みが肝要であり本稿で提示した. -
12.ロボット支援胆道手術および腹腔鏡下胆道手術の経験から得られた肝十二指腸間膜の解剖
84巻5号(2022);View Description
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肝十二指腸間膜は胆道手術の要諦であり,その理解は重要であるが,低侵襲手術独特の視野に慣れが必要である.また,解剖学的変異が多く,各術式で要点となる解剖が異なる.胆摘術は胆管・動脈の走行に,総胆管截石術は胆囊管の合流形態にも注意が必要である.先天性胆道拡張症手術は変異が多く,拡張胆管の影響も考慮しなければならない.近年,胆囊癌疑診例に対する手術も増えているが,さらなる症例集積がまたれる. -
13.後腹膜先行アプローチによる腹腔鏡下先天性胆道拡張症手術に必要な解剖理解
84巻5号(2022);View Description
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腹腔鏡下先天性胆道拡張症手術は,術後の遺残膵内胆管の発癌リスクを考慮すると,膵内胆管の完全切除が望ましい.しかし膵実質内の背側寄りを走行する膵内胆管の完全切除は,腹側からのアプローチでの腹腔鏡下手術では困難である.後腹膜先行アプローチ(Retlap)を導入することにより良好な視野での膵内胆管切除が可能となった.本稿では,Retlap による背側からの膵内胆管周囲の拡大視によって得られた新しい解剖学的知見を述べた. -
14.腹腔鏡の視点から理解する膵頭神経叢の解剖と手術への応用
84巻5号(2022);View Description
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膵頭神経叢は膵頭部癌における局所進展度を考えるうえで重要な因子の一つであるが,その解剖は神経・線維・血管・脂肪が含まれる複雑な構造である.膵頭部癌の根治をめざすにあたり,安全で確実なR0 切除を達成できるアプローチ法が求められる.われわれは膵頭部領域の神経線維組織(nerve fibrous tissues:NFT)に着目し,NFT と上腸間膜動脈神経叢(PLsma)をランドマークとした膵頭十二指腸切除を行っている.その手術手技,治療成績について報告した. -
15.低侵襲膵手術で認識すべき上腸間膜動脈周囲の局所解剖
84巻5号(2022);View Description
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腹腔鏡下手術は低侵襲性と整容性に優れ,近年の発展がめざましい.膵頭十二指腸切除においても2016 年に保険収載され,2020 年に適用拡大され,内視鏡手術支援機器の使用(ロボット支援下手術)も保険収載された.しかし,鉗子の動作制限や視野制限,ロボット支援下手術での触覚情報の欠如のため,上腹部の主要脈管構造の事前把握や,確実なアプローチはきわめて重要となる.特に上腸間膜動脈(SMA)・上腸間膜静脈(SMV)の分枝は複雑な立体走行で変異も多い.特に変異が多いのは下膵十二指腸動脈(IPDA)と下膵十二指腸静脈(IPDV)であり,IPDA は第1 空腸動脈(J1A)から分岐し,その後前膵十二指腸動脈(AIPDA)と後下膵十二指腸動脈(PIPDA)に分かれる分岐形態がもっとも多く,IPDV はSMV の背側を走行して,第1 空腸静脈(J1V)に流入する形態がもっとも多い.また後膵動脈の一部はSMA から直接分岐して,下膵動脈となる.SMA・SMV 周囲のこのように複雑な血管構造を単純化し,効率よい視野展開を行い,確実な脈管処理と郭清を可能にする方法についても紹介した. -
16.腹腔鏡下膵体尾部切除で後腹膜一括郭清を行う際に必要な局所解剖
84巻5号(2022);View Description
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十分なリンパ節郭清・後方マージン確保を可能とする後腹膜一括郭清を伴う腹腔鏡下膵体尾部切除術(Lap-RAMPS)は,本邦では膵体尾部癌に対する基本術式になりつつある.① 総肝動脈・左胃動脈の神経叢外層をメルクマールとした脾動脈根部確保,② 尾側から腎静脈・副腎静脈を,頭側から横隔膜脚・下横隔動脈をメルクマールとした後方郭清,③ 上腸間膜動脈神経叢周囲の郭清の三つのほか,区画ごとの要所を意識して適切な郭清ラインをいかに保つかが肝要である. -
17.ロボット支援手術に応用可能な膵体尾部の動静脈解剖認識
84巻5号(2022);View Description
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鏡視下手術で得られる拡大視効果を活用するためには,基本的な解剖構造をあらかじめ理解しておくことが重要である.膵体尾部切除術においては,脾動静脈およびそれらの分枝の構造と腫瘍との位置関係を立体的に把握する必要があり,術前画像に基づく3D 構築が有用である.ロボット支援手術では,コンソール内に3D 画像を投影することで,術中蛍光イメージングと併用した手術ナビゲーションとして活用できる可能性がある.
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