外科

Volume 84, Issue 9, 2022
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特集【原発性肝癌診療ガイドラインを読み解く】
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- Ⅰ.肝癌診療ガイドライン第5 版
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1.肝癌診療ガイドライン第5 版改訂のポイント
84巻9号(2022);View Description
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肝癌診療ガイドラインは,肝癌に特有の臨床状況に応じ診療を支援することを目的とし,第1 版が2005 年に発刊された.約4 年ごとに改訂を重ね,2021 年に第5 版が刊行された.今回の改訂は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下での作業となり,全22 回の会議のうち19 回はウェブ開催で行われた.肝癌診療ガイドライン第5 版改訂委員会は委員長・委員27 名,専門委員22 名,実務協力者23 名の計72名で構成された.今回の改訂の特徴として,腫瘍内科医が委員に新たに加わった点があげられる.第5 版のクリニカルクエスチョン(CQ)は計52 件であった.そのうち,改訂ありが6 件,新設が5 件,改訂なしまたは微修正が41 件であった.今回の改訂ではいくつかの大幅な変更がなされた.一つ目は薬物療法に関する項目である.第4 版刊行時(2017 年10 月)には,sorafenib tosilate,regorafenib hydrate の2 剤しか保険収載されていなかった.しかしながら,今回の改訂までに一次治療,二次治療でそれぞれ3レジメンずつ,計6 レジメンが保険収載されている.このような現状をふまえ,新たに「肝細胞癌薬物療法のアルゴリズム」が作成された.臨床支援として有用である治療アルゴリズムに関する記載の注意点として,推奨治療に優先順位をつけ,第2 位までをアルゴリズムに提示することとされた.腫瘍数3 個以下,腫瘍径3 cm 以内の条件での治療は,これまで① 切除,② 焼灼法の順に推奨されていたが,本邦からの最新のエビデンスに基づき,今回の改訂から切除・焼灼法ともに同等に推奨されると記載された.本稿のほか,後続の項をお読みいただき,原発性肝癌の診療ガイドラインについて理解を深めていただければ幸いである. -
2.肝癌診断アルゴリズム
84巻9号(2022);View Description
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本邦では高危険群を対象とした肝細胞癌サーベイランスが普及している.肝癌診療ガイドライン2021 年版では,サーベイランスの対象としてC 型肝硬変,B 型肝硬変を超高危険群とする点は依然かわらないものの,直接型抗ウイルス薬(DAA)の普及による持続的ウイルス陰性化(SVR)の増加を鑑み,これらを対象とした場合にAFP カットオフ値に関するクリニカルクエスチョン(CQ)を新設した.また,画像診断では,Gd-EOB-MRI に関するエビデンスの増加を勘案し,初回確認検査にGd-EOB-MRI を用いるか否かで2 バージョンのアルゴリズムを用意した. -
3.肝癌治療アルゴリズム
84巻9号(2022);View Description
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肝癌診療ガイドラインが改訂され,2021 年版(第5 版)が発行された.治療アルゴリズムにおける大きな改訂点は次の2 点,つまり① 3 cm 以内の単発肝細胞癌に対して,切除と焼灼療法が同等に推奨されるようになったこと,② 脈管侵襲陽性肝細胞癌に対する推奨治療について,前版では塞栓,切除,動注,分子標的薬と4 つの治療が併記されていたが,2021 年版では切除が第一選択,薬物療法が第二選択として推奨されることになったことである.塞栓療法,肝動注療法もその次の選択肢として弱く推奨されているが,治療アルゴリズム記載の原則に則って,アルゴリズム上には記載されないこととなった.そのほかの条件の治療推奨はほぼ前版の推奨が踏襲されている. -
4.肝細胞癌に対する手術
84巻9号(2022);View Description
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肝癌診療ガイドライン第5 版の第2 章「治療アルゴリズム」,第4 章「手術」における次のクリニカルクエスチョン(CQ)に対する変更点を概説した.CQ10「単発肝細胞癌に対し,推奨できる治療法は何か?」,CQ11「2,3 個肝細胞癌に対し,推奨できる治療法は何か?」,CQ15「脈管侵襲陽性肝細胞癌に対し,推奨できる治療法は何か?」,CQ19「肝切除はどのような患者に行うのが適切か?」,CQ22「腹腔鏡下肝切除の手術適応は?」,CQ23「肝切離を安全に行うための手術手技は何か?」,CQ24「肝切除の周術期管理として有用なものは何か?」,CQ26「肝細胞癌に対する肝移植の適応基準は何か?」. -
5.肝細胞癌に対する穿刺局所療法
84巻9号(2022);View Description
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肝癌診療ガイドラインの改訂作業に先立って穿刺局所療法におけるクリニカルクエスチョン(CQ)の追加を検討したものの,最終的には前版のCQ をそのまま引き継ぎ,推奨文もほぼ同じ記載となっている.ただし,本邦で実施されたSURF 試験の結果をふまえて,治療アルゴリズムでは「3 cm 以下・3 個以下」の腫瘍条件においてラジオ波焼灼療法(RFA)が肝切除と同列で推奨されることになった.かつてRFA と肝切除の間で治療の優劣が熱く議論された時代もあったが,その議論には一定の決着がついたものと思われる.一方,穿刺局所療法に残された課題として3 cm を超える肝細胞癌への適応拡大やマイクロ波焼灼療法(MWA)に関するエビデンスの集積,RFA デバイス間の治療比較,バルーン閉塞下の焼灼治療,精度の高い焼灼療法(precise ablation)に寄与するfusion imaging ガイドのさらなる発展などをあげることができ,本邦よりエビデンス構築に貢献する研究報告が今後も続くことを期待したい. -
6.肝細胞癌に対する肝動脈化学塞栓療法
84巻9号(2022);View Description
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肝動脈化学塞栓療法(TACE)に関しては,前版である肝癌診療ガイドライン第4 版で採用されていた6 項目のクリニカルクエスチョン(CQ)のうち,現状に即さない1 個のCQ が廃止され,残る5 個のCQ が今回の版にそのまま引き継がれた.今回の改訂における大きな変更点は,無増悪期間の延長がみられたことから,塞栓療法と分子標的治療薬の併用療法に関する推奨が前版の“推奨しない”から“行うことを考慮してもよい”という逆の推奨となった点である. -
7.肝細胞癌に対する薬物療法
84巻9号(2022);View Description
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肝細胞癌の薬物療法が進歩し,わが国では6 種の治療レジメンを用いることができるようになった.一次薬物療法は,免疫療法であるatezolizumab+bevacizumab併用療法が標準治療となり,薬物療法は大きく変化した.2021 年10 月に改訂された肝癌診療ガイドライン(改訂第5 版)では治療適応,一次・二次治療,肝動注化学療法,治療効果判定に対して推奨が示され,さらに薬物療法アルゴリズムが新たに提唱され,現在,薬物療法の治療選択の参考とされている. -
8.肝細胞癌に対する根治的放射線療法
84巻9号(2022);View Description
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近年,肝細胞癌に対して根治的な放射線治療が可能となってきた.肝癌診療ガイドラインには,体幹部定位放射線治療および粒子線治療(陽子線治療,重粒子線治療)についてクリニカルクエスチョン(CQ)が設けられ,いずれも高い局所効果と安全性を報告する文献がまとめられている.現在,標準療法とのランダム化比較試験(RCT)や傾向スコアによる比較が報告されるようになり,今後は肝細胞癌の一定の病態に対してこれらの放射線治療が標準治療の一つとなることが期待される. -
9.肝細胞癌に対する治療後の対応
84巻9号(2022);View Description
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肝癌診療ガイドライン2021 年版(第5 版)では,肝移植後のフォローアップに関するクリニカルクエスチョン(CQ)が追加され,「肝切除後・穿刺局所療法後」に関するCQ と「肝移植後」に関するCQ という二つの軸において,「治療後のサーベイランス」「再発予防」「再発治療」の三つの項目で説明されるかたちとなった.さらに,肝移植後の肝細胞癌再発症例に対するmammalian target of rapamycin(mTOR)阻害薬の有効性を示した報告の集積を受け,肝移植後の肝細胞癌再発予防ならびに再発後の治療においてmTOR 阻害薬の使用をさらに推奨するかたちとなった. - Ⅱ.肝内胆管癌診療ガイドライン2021年版
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1.肝内胆管癌診療ガイドライン2021 年版策定のポイント
84巻9号(2022);View Description
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肝内胆管癌の基本的事項に関するbackground statements(BS)と,診断および治療に関するclinical questions(CQ)およびclinical topics から構成される肝内胆管癌診療ガイドライン2021 年版が出版された.本ガイドラインではエビデンスとコンセンサスに基づき,肝内胆管癌のうち腫瘤形成型およびその優越型に対する基本となる情報,診断法と治療法を提示することを目的とした.エビデンスレベルはgrading of recommendationsassessment,development and evaluation(GRADE)システムの考え方を参考に,研究デザイン,その内容,質,バリアンスリスクを含めて評価後,推奨文と解析を作成し,推奨の程度を決定した.今後,新たなエビデンスの構築と蓄積により,より充実した内容となることが期待される.
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連載
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- 外科医の私論
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特集【原発性肝癌診療ガイドラインを読み解く】
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- Ⅱ.肝内胆管癌診療ガイドライン2021年版
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2.肝内胆管癌治療アルゴリズム
84巻9号(2022);View Description
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2021 年に初めて出版された肝内胆管癌診療ガイドラインの中に,肝内胆管癌の治療アルゴリズムが記載された.肝細胞癌の治療アルゴリズムを一部踏襲し,肝予備能,遠隔転移の有無,領域リンパ節転移の有無,腫瘍数の4 因子をもとに設定されている.領域リンパ節転移がなく,単発の場合,切除のもっともよい適応となる.領域リンパ節転移あるいは多発のいずれかの因子が認められる場合,その程度に応じて個別に切除あるいは薬物療法が選択される.領域リンパ節転移と多発の両因子が認められる場合は薬物療法が選択される.肝癌取扱い規約の進行度分類との整合性の検証や,近年の薬物療法や術後補助化学療法の追記が,今後の展開として考えられる. -
3.肝内胆管癌の診断
84巻9号(2022);View Description
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2020 年に発刊された肝内胆管癌診療ガイドラインには,画像診断に関して4 つのクリニカルクエスチョン(CQ)が記載されている.ポイントは,腹部超音波検査,CT,MRI が診断に有用な画像検査であること,T 因子の診断には造影CT,gadoliniumethoxybenzyl diethylenetriamine pentaacetic acid(Gd-EOB-DTPA)造影MRI が有用であること,リンパ節転移の診断にはCT,MRI,FDG-PET が有用であること,肺転移の診断にはCT が,骨転移の診断には骨シンチグラフィやFDG-PET が有用であることである. -
4.肝内胆管癌に対する手術
84巻9号(2022);View Description
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肝内胆管癌診療ガイドライン(2021 年度版)が発刊され,肝内胆管癌の治療アルゴリズムが作成された.肝内胆管癌の最適な手術適応は,単発かつリンパ節転移陰性であり,これらの術後生存率は良好である(5 年生存率約60%).一方,多発(肝内転移)かつリンパ節転移陽性の術後5 年生存は見込めず,手術非適応である.単発かつリンパ節転移陽性や多発(肝内転移)かつリンパ節転移陰性の術後5 年生存率は約30%であり,手術適応ボーダーラインである.根治手術後には補助化学療法が推奨された.術前化学療法や,新しく保険適用となった分子標的治療薬は新たな治療として期待される. -
5.肝内胆管癌に対する薬物治療
84巻9号(2022);View Description
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胆道癌は難治癌の一つであり,集学的治療により,その予後の改善が期待される領域である.一方で,膵癌化学療法と比較して,胆道癌に対する抗悪性腫瘍薬化学療法の開発は遅れており,本邦で保険承認されている抗悪性腫瘍薬は非常に少ない.近年,日本から胆道癌に対する化学療法についての大きなエビデンスが相次いで報告され,日常診療に変化が訪れている.
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症例
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胸膜癒着術で治癒を認めた食道癌術後両側気胸の1 例
84巻9号(2022);View Description
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縦隔胸膜損傷に起因する胸腔間交通が存在する場合,片側の気胸が対側に及び,両側同時性気胸を発症する.食道癌術後の胸腔間交通によると考えられる両側同時性気胸に対し,自己血による胸膜癒着術を行うことで治療できた症例を経験したので報告する. -
日帰り手術を施行した白線ヘルニアの1 例
84巻9号(2022);View Description
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白線ヘルニアは腹壁ヘルニアの一つで,白線の腱膜組織の間隙から腹腔内臓器や腹膜前脂肪組織が脱出するヘルニアであり,本邦では比較的まれな疾患である.今回われわれは,白線ヘルニアの日帰り手術を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
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