Volume 84,
Issue 10,
2022
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特集【炎症性腸疾患治療における外科と内科の接点】
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外科 84巻10号, 1015-1021 (2022);
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Crohn 病(Crohn’s disease:CD)は,腹痛,発熱,下痢,体重減少,肛門周囲膿瘍や痔瘻を認め,生活の質(QOL)を低下させる疾患である.そのため,患者のQOL や長期予後を保つためには,適切な寛解導入とそれに続く維持療法が重要である.まずは病勢や病型の評価を適切に行い,基準薬である5-ASA とbudesonide,栄養療法で治療を開始する.難治性の場合には全身ステロイド投与を行い,ステロイド抵抗例や依存例と判断した場合には各種生物学的製剤の投与を検討する.
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外科 84巻10号, 1022-1028 (2022);
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Crohn 病は近年,本邦において増加傾向にある.Crohn 病は病態が経時的に進行する難治性の慢性炎症性疾患とされているが,薬物療法はこの十数年間で急速に進歩した.特に,2002 年に承認された抗TNFα抗体製剤であるinfliximab の登場と普及で治療のパラダイムシフトが起きた.さらにその後,抗α4β7 インテグリン抗体製剤や抗IL-12/23p40 抗体製剤など,作用機序が異なる生物学的製剤が使用可能となり,抗TNFα抗体への不応例や二次無効例にも適用されるような時代になった.一方,薬物療法のみならず,ダブルバルーン小腸内視鏡やカプセル内視鏡などのモダリティの普及により診断の精度や内視鏡治療の適応や質が向上した.治療目標は臨床症状の改善から内視鏡的粘膜治癒,そして長期予後の改善を重要視する治療ストラテジーへと変化している.本稿では,重症Crohn 病の内科的治療(内視鏡的バルーン拡張術を含む),外科的治療の適応,現状と治療の実際について概説する.
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外科 84巻10号, 1029-1036 (2022);
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Crohn 病の腸管病変の切除は,穿孔・大量出血や,内科治療で改善しない狭窄,瘻孔・膿瘍・癌などに対して施行する.本症に根治療法がないため,病変をすべて切除せず,小範囲切除や狭窄形成術を基本とし,可及的に腸管を温存する.人工肛門は閉鎖の可否なども考慮して造設する.吻合法などに特別な手技はないが,術後合併症を含めた長期経過や術後内科治療を考慮した術式選択が必要である.
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外科 84巻10号, 1037-1043 (2022);
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Crohn 病に合併する痔瘻の特徴を通常の痔瘻と比較して示した.その本質は腸管病変と同様の機序で肛門管,下部直腸に特異的潰瘍が発生し,感染や機械的刺激により脆弱な瘻管が不規則に進展して複雑な分岐をきたし,皮膚に開口すれば痔瘻となり前方臓器に穿通することもある.潰瘍の外側がリンパ浮腫をきたすと,腫大した外痔核様の浮腫性皮垂となる.また,潰瘍や瘻管が治癒機転で瘢痕化すると狭窄をきたすことになる.本邦で重用されているHughes 分類にかわって新しいコンセプトの分類を提示した.Crohn 病合併痔瘻の局所治療は単に「シートンを瘻管に挿入,留置」するのではなく,二次口部の十分なドレナージと瘻管内部の不良肉芽の掻把が必要である.
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外科 84巻10号, 1044-1048 (2022);
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Crohn 病の再手術率はいまだに高率であるが,近年の研究によって再発危険因子や各種治療薬の再発予防効果がより明確になってきている.また,画像検査モダリティの進歩や新規バイオマーカーの登場によって,より早期の段階で再発を診断できるようになってきている.再発リスクに応じた治療選択,適切なモニタリングによる早期の再発診断,および治療薬の適切な調整が,再手術の予防には重要である.
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外科 84巻10号, 1049-1053 (2022);
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潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)は腸管の慢性難治性疾患である.根治的な治療法はいまだ確立されておらず,すみやかな寛解導入療法と長期的な寛解維持が治療のポイントである.軽症~中等症の潰瘍性大腸炎において重要な薬剤はmesalazine であり,mesalazine を最適化することがポイントとなる.また,病変部位によっては局所療法を用いることも重要である.近年では複数の生物学的製剤が使用可能となっており,ステロイド抵抗例・依存例においては生物学的製剤などを組み合わせた寛解導入療法,寛解維持療法も選択肢となっている.
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外科 84巻10号, 1054-1059 (2022);
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重症潰瘍性大腸炎(UC)は現代においてもなお生命にかかわる重要な病態である.重症例の診療においては積極的な治療介入と短期での治療効果判定,機を逃さずに外科手術を決断する慎重な管理が重要である.薬物療法の第一選択はステロイド大量静注療法であり,ステロイド抵抗例ではinfliximab やtacrolimus hydrate などが推奨される.そのほかの新規薬剤については今後データの構築が期待される.
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外科 84巻10号, 1060-1064 (2022);
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潰瘍性大腸炎(UC)に対する内科的治療は最近10 年で大きく進歩してきた.内科的治療の進歩により,UC の手術例は高齢化しており,手術適応は癌/dysplasia 症例が急激に増加している.術式の選択にあたっては,手術適応,年齢,術後の生活の質(QOL)を考慮し,十分にインフォームド・コンセントを得たうえで決定しなければならない.UC に対する腹腔鏡手術の安全性はほぼ確立されているが,緊急手術については議論が必要なところである.
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外科 84巻10号, 1065-1070 (2022);
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潰瘍性大腸炎(UC)患者に大腸腺腫/dysplasia/癌を認めた場合は,病変が散発性(sporadic)腫瘍か潰瘍性大腸炎関連腫瘍(UCAN)かによって治療方針が異なるため,治療前に両者を鑑別することが重要である.散発性腫瘍の治療として内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)といった内視鏡による局所治療が選択されるようになってきている.しかし,散発性腫瘍とUCAN の術前診断は容易でないことも多く,切除検体の病理結果を詳細に検討する必要がある.また,治療後も定期的なフォローアップが必要である.
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外科 84巻10号, 1071-1077 (2022);
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炎症性腸疾患に対する内科的治療の進歩により手術を回避しながら長期に治療を継続できる症例が増加し,これに伴い慢性炎症を背景とした炎症性腸疾患関連癌で手術適応となる症例が増えている.潰瘍性大腸炎では欧米のガイドラインに準じてリスクに応じたサーベイランスがなされ,一定の効果をあげている.Crohn 病(Crohn’s disease:CD)では,わが国においては直腸肛門部癌が多いといった特性をふまえ,わが国独自のサーベイランスプログラムの確立がまたれる.
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連載
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外科医の私論
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外科 84巻10号, 1078-1078 (2022);
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症例
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外科 84巻10号, 1079-1083 (2022);
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虚血性心疾患に対する治療法として冠状動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting:CABG)は標準的な治療の一つとして定着している.バイパスグラフトとしては開存率が良好な動脈グラフトの使用頻度が高く,本邦では内胸動脈に次いで右胃大網動脈(right gastroepiploic artery:RGEA)が使用されることが多い1).欧米では開腹を要することなどから使用が普及しているとはいいがたいが,内胸動脈グラフトが届きにくい右冠状動脈領域へ最短距離で到達できることから,本邦では右冠状動脈領域に対する動脈グラフトとして用いられることが多い2).一方,グラフトの長期成績の向上に伴い,CABG後の上腹部手術症例も増加している.グラフト血管を損傷した場合,重篤な心合併症を引き起こす危険性があるため,十分な配慮が必要である.今回,われわれはRGEA を使用したCABG 後6 年目に発症した早期胃癌に対し,腹腔鏡下幽門側胃切除を施行した1 例を経験したので報告する.
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外科 84巻10号, 1084-1090 (2022);
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魚骨などの消化管異物はほとんどが自然排泄され,消化管穿孔が起こる頻度は1%以下とされている.しかしながら,まれに消化管穿孔や穿通を起こし,腹膜炎や腹腔内膿瘍を発症することが報告されている1).今回,抗菌薬による保存的加療が奏効し,3 ヵ月後に待機的腹腔鏡下手術(interval surgery)を行い,低侵襲に治療しえた症例を経験したので報告する.
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外科 84巻10号, 1091-1098 (2022);
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上腸間膜動脈症候群(superior mesenteric artery syndrome)[以下,SMA 症候群]は,十二指腸水平脚が上腸間膜動脈を含む腸間膜根部と腹部大動脈に挾まれ通過障害をきたす比較的まれな疾患である.基本的には保存的治療が第一選択であるが,保存的治療抵抗性の場合や再発症例は外科的治療が適応とされる.手術方法としては,近年,低侵襲な腹腔鏡下手術の報告が散見されさまざまな術式が報告されている.今回われわれは,SMA 症候群に対して腹腔鏡下十二指腸空腸吻合術を施行した1 例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
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外科 84巻10号, 1099-1103 (2022);
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アミロイドーシスとは,アミロイド蛋白が諸臓器に沈着することによって機能障害を引き起こす疾患の総称である1).また,消化管はアミロイド沈着の好発部位の一つである.今回,軟骨による小腸穿孔を契機に診断された消化管アミロイドーシスの1 例を経験したので報告する.
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外科 84巻10号, 1104-1107 (2022);
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虫垂切除後に虫垂癌と判明する例は,0.08%と比較的まれであるが1),goblet cell adenocarcinoma(GCA)と判明する例はさらにまれである.今回,われわれは虫垂切除後にGCA と判明した1 例を経験したので報告する.
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外科 84巻10号, 1108-1112 (2022);
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脳室腹腔シャント(ventriculoperitoneal shunt:VPS)は脳血管障害などによる水頭症に対し,広く行われている治療法である.大腸癌患者の増加に伴い,併存疾患を有する大腸癌患者の手術が増えており,VPS を有する大腸癌患者の手術も増えてくると予想される.近年,VPS 留置中の大腸癌患者に対する腹腔鏡下手術の報告が散見されるようになり,腹腔内圧上昇によるシャント機能不全や逆行性感染などのリスクの観点から,術前にシャントチューブを抜去し術後に再造設したり,気腹中にシャントチューブをクランプしたりするなど,さまざまな処置が報告されている.一方で,シャントチューブ無処置下での腹腔鏡下手術の報告もあり,周術期のシャントチューブに対する対策については一定の見解がない.今回われわれは,VPS を有する症例に対して,チューブクランプなどの処置を加えず,気腹圧,体位に注意することに加え,麻酔科医師との連携で,手術開始時と終了時にチューブ先端からの髄液流出を確認するという新たな対策をとることで安全に腹腔鏡下手術を実施できた1 例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.